文化祭準備が始まり、俺は慌ただしい日々を送った。
途中、エリちゃんという子が来ていたが、なんだか暗い表情をしていたのが気になる。
あとで緑谷に話を聞けば、笑顔を知らない子だということが分かった。
文化祭で笑顔になってほしい…
俺は殺る気で練習しているAバンドのメンバーの練習を手伝いつつも、俺のバンドのサプライズ出演の準備をしてきた。A組が知らされていなかった「ミスコン」の存在を俺は知っていた。といえばどこにサプライズで出るかはわかるだろう。
俺はこれまでずーっと忙しい日々を送ってきたが、なんやかんやでバンド活動は一切休止しておらず、学校生活とバンド活動の二足の草鞋をはいて上手くやってきたのだ。
Aバンドはサポートがいる意味を感じないくらい素晴らしくなっていった。俺は時々仮免補講で爆豪がいないので代わりにドラムを叩くくらいにしか手伝うことは少ない。やはり全ては響香の存在が大きい。メンバーにノートを書いて、練習で的確にアドバイスをして…、ものすごく頼れるバンドリーダーだ。
俺はその姿に魅了され、もう何度目かわからないが惚れ直すのだ。
そして練習の日々はあっという間に過ぎていく。
文化祭前夜、
皆と夜遅くまでステージで確認をする。ダンスの確認などをしている間、音響の確認や、演出に伴うコードの絡みを考慮しコードの長さを変えて調節する。特に上鳴の空中ギターのところは注意して確認する。
そして最終確認を通しでやっていく、俺はそれを後ろからしっかり見ていた。当日俺はAバンドの近くのスピーカーの後ろに隠れて、音響トラブルに対応する係だ。余程のことがない限りトラブルなんて起きないと思うが…、
ちょうど通しが終わったところで、ハウンドドッグ先生が体育館に怒って入って来たので皆で急いで寮に戻った。
寮に戻って共有スペースで皆と過ごす。
「「寝れねー!!」」
「しずかに!寝てる人もいるから!」
上鳴と峰田が叫んで芦戸に注意される。まあ、もうそろそろ0時になるが、とうとう明日なのだと思うと目が冴えてしまうことは仕方がないだろう。
「皆、盛り上がってくれるだろうか…」
「そういうのは考えない方がいいよ。」
『なんか飯田らしくない、気張っていこう!』
「うん、恥ずかしがったりおっかなびっくりやんのが一番良くない。
舞台に上がったらあとは全力で楽しむ!」
弱気になっていた飯田に響香と共に声をかける。
「おまえめっちゃ照れ照れだったじゃねえか!」
「あれはまた違う話でしょ」
上鳴が響香にテンション高めに指摘してくる。
『もう一ヶ月前か、懐かしい…』
「なに?感慨にふけって、老いた?」
『うわっ、心外!』
しみじみしてたら響香に笑われて、つられて俺も大笑いした。
すると道具の点検をしていた緑谷と青山がロープのほつれに気がついたようだ。八百万は寝てしまったようだが…
「僕 朝イチで買ってくるよ。気付かなかったの僕だし…
朝練もあるし、ついでに買いたいものもあるし」
「いやいや俺ら10時からだぞ、店ってだいたい9時からじゃん」
「雄英から15分くらいのところにあるホームセンター、あそこなら朝8時からやってるんだよ」
「けっこーギリじゃん」
『俺も行く』
「え!言ってくれれば僕が買うよ!」
『ありがとう緑谷、でも自分の目で見たいんだ。』
「そっか!わかったよ」
俺は緑谷と明日の待ち合わせをした。
すると芦戸がソファーから立ち、
「そろそろガチで寝なきゃ」
と言えば、皆も立ち上がる。そして切島が拳を合わせて声を上げた。
「そんじゃ…、また明日やると思うけど…
夜更かし組!!一足お先に…
絶対成功させるぞ!!」
『「「「「オーーー!!」」」」』
そして俺は響香に手紙を渡して部屋に戻った。ギターの確認をしてチューニングし直して、準備はほぼ終了!
あとは明日、ホームセンターでjokersの仮面のゴムが切れたのでその換えを買えば本当に終わる。
そして翌日、
とうとう来た、文化祭。
とりあえず緑谷とホームセンターに行く。
『遅かったな、』
「ごめん!ちょっとあって…、 行こ!」
『そうだね』
俺は緑谷と走ってホームセンターに向かいお互い目当てのものを買う。
緑谷の買いたい物は他にもあるらしく、逸れると面倒だから一緒に店を巡ってあげた。
雄英への帰り道、
2人で走っていると緑谷が誰かとぶつかった。
「気をつけたまえよ」
「すいません!」
こんな何ともない住宅街に、こんな口調の人っているか…?無駄に変装してるし、なんか怪しすぎる。
「ゴールドティップスインペリアルの余韻が損なわれるところだったじゃァないか、
さァ行こう、ラ…ハニー」
「ハニー!!?ええ私はハニー!!」
行ってしまったが、なんだ?あの人たち…
『さっきのは八百万が淹れてたやつか?』
「うん、多分ね、あの家喫茶店かなんかなのかな…、わかんないな…」
『そうだね…、俺、多分さっきの人に会わなければ空き家だと思い続けてた…』
すると結構怪しい人が振り返った!手を広げて近づいて来る!なんだこの人!?
「ゴールドティップスインペリアルが“何か”と知らなければその発想には至らぬワケだが…、
君、わかる人間かね!?幼いのに素晴らしい!」
「あの…僕はそんなに…」
『友が淹れてくれた』
「そうです、だから知ってるだけで…」
緑谷が何かに勘づいたようだ。
「ホホウ、そんな高貴な友が───…、
いい友人を持っているね」
「ハイ…、人には…、恵まれて…」
『良い友』
怪しい人はなにも言わずそのまま去っていく、
「待ってください。
ルーティーンってやつですか…?」
緑谷、やはり何か知ってるのか!場に緊張の空気が流れる。
「なんのことかな?」
「動画見ました」
「ラブラバ、カメラを回せ」
「雄英に手ェ出すな!」
ちょ、いきなりなにが起きようとしてるんだ?
「察しの良い少年だ」
「この子たちたしか………」
とりあえず雄英が危ないのはわかった。今日まで皆が作り上げてきたものを無碍にはさせない!!響香のためにも!
『緑谷、俺が相手する、加勢を呼べ!』
「でも!」
『この場を考えればそれが妥当だ!!出し物には俺がいなくても差し障りないんだ!頼む、行け!』
俺は荷物を押しつけて力強く叫んだ。
「わかった。お願い!」
そして緑谷は走って行った。
20〜30分、時間を稼ぐ!
「ラブラバ!予定変更だ、これより何があろうともカメラを止めるな!」
「もちろんよ、ジェントル!」
フーン、ジェントルという名前か、脳内に情報が流れてきてだいたい把握した。ラブラバも同じく。
…歪んだ情熱か、悲しい人だ。
過去を切り捨てられなかったか…
「でもでも!戦うの!?ここで!?
果たして得策───…
なのかしら!!?」
「諸君!!
これより始まる怪傑浪漫!!目眩からず見届けよ。
私は救世たる義賊の紳士、
ジェントル・クリミナル!!
予定がズレた!只今いつもの窮地にて手短に行こう、
今回は「雄英!!入ってみた!!」」
『やらせない!』
ジェントルの“個性”は“エラスティシティ”。つまり「弾性」
だがそんなもの、俺には効くわけがない!
「な、そこには張ったはず!」
俺は迷わず殴りかかる。しかしトランポリンを張って飛ばれてしまった。
「私にはこのヒゲと魂に懸けた想いがあるのだ!
邪魔はしないでもらいたい!」
あー、飛ぶのかよ、仕方ない、
『鬼神化、夜叉!』
夜叉は天夜叉、虚空夜叉、地夜叉の三種あるのだが、地夜叉以外は飛べる。まあ何にせよ飛べる!
『ジュエルストーム!』
個性の同時使用は正直キツいがやるしかない。
鋭い宝石たちはジェントルの背中に刺さる。
「宝石かっ…!しかし止めるには如かず!
私は!!めげっ!!ない!!」
『無駄なこと言ってる暇はない。』
俺はさっきの瞬間に一気に間合いを詰めて、殴りかかった。
『俺はこの目と耳を懸けてる。
しかし、何を懸けても、皆想いは等しい!』
「そいつは失敬!」
そのまま近くの建設現場の鉄骨に打ちつける。
ラブラバという人は置いてきたがまあ大丈夫だろう。
俺は建設現場の鉄骨に引っかかったジェントルを見て、鬼神化を解いた。
『鉄骨に引っかかったか…、ジェントル、雄英は諦めてもらう。』
「アハハハハハ!
必ず企画を成功させる!その覚悟がある!紳士は動じたりしないのさ!」
『紳士か何かは、興味ない。雄英に何をするつもりか述べろ』
「フッ、敵連合のような輩と一緒くたに考えないでいただきたい。攫ったり刺したりしy…『何をするのか聞いてる。しないことは聞いてない』
「私たちは君たちの文化祭に侵入するという企画をやりたいだけ…、見逃したまえ、少年」
『断る、警報が鳴れば、文化祭は中止になってしまう。
皆の努力の結晶を身勝手で奪うな』
「警報センサーは無効化する算段だが?」
『侵入には変わりない。
見逃すわけがないだろ?犯罪者』
「平行線だ。
紅茶の余韻が残る間に眠ってもらおう雄英生!」
するとジェントルは周りの鉄骨に弾性を持たせて縦横無尽に飛び回る。
『残念だが見切っている。』
俺は横をかすめた瞬間に思い切り蹴飛ばした。
「おっと、なかなかやるな、まあ私の話を聞きたまえ。
私の“個性”は私の意思では解除できない。」
『知っている』
「おや、素晴らしい。
では尋常ではない弾みを残しながら硬さを取り戻していく鉄骨のボルトを全て外した場合。
このままだと鉄骨が崩れてしまうよ。実に危険だ。」
そういうことか、本当に厄介な人だ…
『鬼神化…羅刹!』
「雄英生は、崩れる鉄骨を無視できない」
俺は素早く鉄骨の下に回り込み、鉄骨を支えた。
下に人がいたのか、この自称紳士はずいぶんと人が悪いようだ。
俺はとっさのことで羅刹になったが、本来、羅刹は破壊と滅亡に関わる鬼だ…、足は速いし力も強いが、この状況だと鉄骨を破壊してしまいそうだ。
『時間稼ぎのつもりか?』
するとジェントルはこっちを見て笑ったあと、追いついたラブラバと共にクレーンを曲げた力を利用して飛んでしまった。
俺は鉄骨を破壊してしまう前に、今立ってる鉄骨の上に持ってるのを置いた。そしてそれが落ちないように鍵をかける。人が再び触れば動くくらいの簡単なロックだ。
ここまで鬼神化するとは思ってなかった。
しかし、俺は俺の“個性”でやっていくと決めたんだ。視覚、聴覚を一時的に失おうとも、俺はやらなければならない。
“Plus Ultra!”
そろそろ緑谷は先生に伝えた頃だろうか?
まあ、もういい…
『鬼神化、夜叉』
俺は飛んでジェントルに追いつく、ちょうど地面に着地したくらいだ。
『企画倒れだ!諦めろっ!』
俺はそのまま地面に叩きつける。
『俺の個性を使えば、直ぐにでも無力化して連行できた。
しかし嘘か本当か分からなかったからやなかった。
これは俺の誤算だった。ここまでしぶといとは思わなかった。』
俺は鬼神化を解き、連行しようと檻を出そうとしたとき…
「愛してるわ」
とラブラバが呟いた。
「ありがとう、ラブラバ」
しまった!ラブラバの個性は“愛”!
俺の檻の内側は強化型の個性を無効化できない。
そして強化された人間の個性も同様に無効化できない。
つまりバインドができない!!
これはピンチだ…
「悪いな少年」
…相当な力じゃないか!
取り押さえていたのに抜け出されてしまった。
これはさっきまでとは明らかに比べものにならない強さだ。
完全に油断した!
「こういうところはいつもカットしているんだ。
しばらく眠っていてくれたまえ」
「ごめんね、鍵無彗仁くん。必ず最後に愛は勝つのよ」
腕が振り下ろされたのがわかる。
『俺が勝つ、皆への愛は誰にも負けない!』
俺はチョップを避けた。
『ごめん、響香、君の音は聞けないな…
……鬼神化、獄卒阿傍』
「そんな……!!」
『俺の真の“個性”は「地獄」。
…愛なんて最も似合わない場だ。できれば招待したくはないんだ。もう諦めてくれ!!』
俺はジェントルを弾き飛ばす。
「ジェントル、
ごめんなさいごめんなさい!!
愛が、足りなかった!!」
「君の想いが足りないなど、誰が証明できよう!
ジェントリーサンドイッチ!!」
上から押さえつけられるが、これくらいは耐えれる。
「サンドイッチは薄い程 上品とされる食べ物である…
幾重にも重ねるのは趣味じゃない。」
『とか言いつつも、枚数増やしてるだろう?』
この重さ、鬼じゃなければ潰れてるな…
「それでも成し遂げたい。中年の淡い夢だ。」
『俺は…、ジェントル、あなたの過去を知った。
同情はしない、正攻法を諦めたのはあなただ。
偉大になる方法を間違えたな。
最後の忠告だ。諦めろ!』
「フッ、少年…
歴史に!後世に!名を残す!
この先、いつも誰かが私の生き様に想いを馳せ憧憬する!
この夢もはや私一人のモノではない。
今日は偉業への第一歩、
諦めろと言われて諦められる程軽くはない!
君も雄英生なら夢に焦がれるこの想いおわかりいただけよう!」
俺は上にのしかかる物を全力で投げ飛ばした。
『そんなことで!
俺の仲間の想いを踏みにじるな!』
「それはそういうものだろう!」
ラブラバはさっきからずっと涙を流している。
「ジェントル!」
「芯が無いと嘲笑うがいい!!
それでも結構!!」
ジェントルが飛びかかってきた。俺はその拳を受け止める。
周りの木々は衝撃波で大きく揺れた。
『笑おうなど思ってない!』
「勝って!!ジェントルーー!!」
威力が増したようだが、ジェントルは武闘派じゃない。
残念だが強化はされても力がないのだ。鬼の力には遠く及ばない。
するとジェントルと目が合う。
「何の為にヒーローを志す!」
『人の想いに応えるのもそうだ。守りたいという理由もある。
…だが1番は!暗い過去を持っているからこそ!
皆の未来が明るく輝くために存在したいんだ!』
俺はジェントルを吹き飛ばす。
そして間合いを詰めた。
あぁ、緑谷が先生を連れてきたのがわかった。
『もう最後だ、ジェントル…
八寒地獄の八の地獄に落とす。
摩訶鉢特摩地獄、いやこう言うべきか…
………大紅蓮地獄』
獄卒だから耐えれる寒さだ。
常人なら寒さのあまり身体が紅く裂けてしまう。
すぐに地獄から解放したが、それでもひどい怪我なのに変わりはないだろう。ジェントルはボロボロなだけで命には別状なさそうなのが幸いだった。
『ジェントル、ありがとう』
そろそろ獄卒阿傍になるのも限界だ。
そこまで酷くキャパオーバーはしなそうだから、視力は10分失うくらいで済むはずだ。しかし聴力は3時間は戻らないだろう。
俺はジェントルをしっかり押さえて捕まえた状態で、鬼神化を解除した。
真っ暗な世界になった。
すると横からポカポカ殴られているのがわかる。
『俺を叩くのはラブラバ?そうか?
すまない、今の俺には視覚も聴覚もないんだ。
何か抗議していても、俺には届かない。』
そう述べたら殴られなくなった。今度は誰かに肩を叩かれる。
『誰でしょうか?俺は今、一時的に視覚も聴覚もありません。
本当に申し訳ありません。
もし緑谷なら一回、先生ならば二回肩を叩いて下さい。』
一回肩を叩かれた。
『緑谷か、これからyesは一回、noなら二回肩を叩いて。
俺は今、ジェントルを押さえている。立ってもいい?』
一回叩かれたので立った。
『ジェントルは怪我をしている。逃げる気がないなら回復させてあげたい。』
少し時間が空いて一回肩を叩かれたので、俺は地獄の涼風を吹かす。
先生もいるのか→yes
文化祭は中止されてしまったか→no
とりあえず文化祭に行きたい→yes
『そっか!A組のとこへ行きたい。
良ければ引っ張っていってほしい』
肩が一回叩かれてから、腕を掴まれて引っ張られる。
緑谷は段差が有れば腕を叩いてくれるので、スムーズにA組のところに着いた。多分…
『着いた?』
肩が一回叩かれた。
『そうか、ありがとう。
今は何分かわかる?俺の指を動かしてくれ』
まず最初に1本指が立てられた。そしておられてから手をギュッと握られる。0ということか…。
『9:10?』
一回肩を叩かれる。
『うん、ありがとう。あと2、3分すれば視力は戻るはず。それまで俺は立ってる。』
すると肩を二回叩かれ腕を引かれる、そして両肩を下に押される。
『座れと?』
そのままもう少し力を加えられたのでゆっくり腰を下ろした。
座ったくらいでちょうど目に光が入ってきた。
まだ暗いか明るいかしかわからないが、それから徐々に色が分かり始める。
しばらくすれば視力は完全に戻った。
思わぬことが起きたなぁ…
俺は、先に会場に荷物を持ってきて良かったと安心した。
そして俺は立ち上がって緑谷のところへ行く。
『すまなかった。迷惑をかけたね…。
まだ耳は聞こえないけど目は見えるようになった!』
緑谷は首を横に振ってから、グッドサインをした。
『ありがと!』
そして俺はAバンドのところへ行く。
どうやら緑谷が事情を話してくれたようで、八百万が大袈裟に口を動かしジェスチャーで何かを伝えてくれる。
『……?あ、あぁ、顔が汚れてるのか!』
すると一回うなずいてから、タオルと鏡を渡してくれる。
『ありがとう!』
顔をゴシゴシ拭いてから鏡で確認する。
『これで大丈夫だと思うんだけど、あと何かある?』
すると響香からTシャツを渡された。
『了解、着るね!』
そして着替えて時計を見ればもう9時35分になっていた。
あ、そういえば買ったやつどうなったんだろう?
『緑谷、買ったやつどうした?』
緑谷は待ってというジェスチャーをしてどこかに行って、袋を持って戻ってきた。
『ありがとう!
今日は助かってばっかりだ。あとで何か奢らせて!』
すると全力で遠慮してるのがわかる。
『遠慮しないでくれよ…、ま、今日じゃなくても良いからさ。
ダンス、頑張って!』
俺が笑顔で肩を叩けば、緑谷も笑顔でうなずいてくれた。
そして皆で円陣を組んで、
ついに本番が始まる。
幕が開いた。
俺には何も聞こえないが、爆豪が爆破してドラムを叩き始めたのが見えるので始まったんだろう。
少しのぞけば、皆の息のあったダンス、Aバンドが各々頑張って雄英全員を殺れる音を響かせている様子が見える。
順調に曲は進んでいく。
多分、サビに入った。
そして俺の予想通りならそろそろ響香がアレンジを加える。
今だ!
俺は全身をダイヤモンドに変えて、少しジャンプをする。そして色あざやかな宝石たちでステージから観客の方にかかる虹を作った。
きっと観客は爆発的に盛り上がっているんだろう。
俺はそっと着地をして、また音響機器の見張りに戻った。
この会場にはきっと多くの音が飛び交っているはずだ。
それを聞くことができないのは悲しいが、この文化祭を守れて本当に良かったと思う。
会場の空気が震えるくらいの盛り上がりで、きっとエリちゃんも笑顔になってくれただろう。
瞬く間にステージが終わってしまった。
俺はあの美しい空間を一生忘れはしない自信がある。
そして片付けが始まる。
俺は音響機材を急いで運んで、氷の片付けを若干手伝ったあと、ダッシュでミスコンの会場近くの人気のない所へ行く。
ここで仮面のゴムを交換して、その仮面をつけ、ファー付きのパーカーを着る。パーカーをかぶったところで仲間が来たようだ。
『ごめん!耳聞こえなくなった!本番前にギリ戻るかも!』
すると「大丈夫!いざって時はJackに合わせてあげる!」と書かれたメモをKingに渡された。
『ありがとう!じゃあ行こう!』
俺らはこっそりミスコンの控え室に入り、すでに持って来てある楽器たちを準備する。
あとは本番を待つだけ。
どうやら出番のようだ。
俺らはQueenの個性の“花”で、ステージから客席まで花吹雪が起きている間にステージにスタンバイした。
目を開いた観客は驚き、一気にヒートアップする。
『jokersです!いきなりですが!ヨロシクお願いします!』
そう叫んだ時に、少しだけ耳が聞こえるようになった。
ぼやぼやと聞こえるこの多くの歓声を浴びて、この場に立てる幸せに感謝しながら、ギターをかき鳴らす。
『俺らは雄英生だから安心してくれ!不審者じゃないぜ!
ミスコンを盛り上げるために登場したんだ!』
歓声が大きくなった。驚きが混ざった悲鳴も聞こえる。
『さっそく!
この場にピッタリな曲を披露しまーす!』
観客のテンションがもっと上がっていく。
『Are you ready?』
イェーーイ!!!という叫びが聞こえる。
『んじゃいくぞ!UA!
”君と恋、たまに星”』
これは俺らでは珍しいラブソングで、いつもゆるくて、たまにロマンチストなQueenが作った。
俺は耳が聞こえるようになったということを伝えるサインをあらかじめ作っていたので、そのサインをした。
そして曲が始まる。
会場の盛り上がりは加熱していく。
曲が終われば、会場の雰囲気はこれから始まる一大イベントに向けての期待でいっぱいになっていた。
『ありがとうございました!
それではミス雄英コンテスト!スタート!』
俺らはステージを降りて、関係者に挨拶をしてから、片付けを始めた。瞬間移動を使って、それぞれの寮の部屋に荷物を置く。そしてさっきのところで仮面を外しパーカーを脱いで、それも部屋に置いてからミスコンを眺めに行った。
A組の集団を見つけたので、その後ろにこっそり立つ。
ミスコン出場者はそれぞれの個性が出ていてとても良いと思う。
3年サポート科の絢爛崎さん?はまあド派手な機械が出てきたから圧巻を通り越して無にしかなれない。あとまつ毛がすごい!そして、えーっと、これってミスコンだよね…
そして波動さんのアピールが始まる。おぉ、これは美しい!神秘的な存在だ!妖精が舞っているような……、
そしてミスコンが終わった。
俺はC組のお化け屋敷に誘われたが、まだしっかり音が聞こえるわけではないので遠慮しておいた。小さな物音を聞き取れなくてはお化け屋敷特有の臨場感のようなものが薄れてしまう。それではしっかり楽しめないし、場合によってはつまらない。それは俺にとっても嫌だし、C組に申し訳ない。
だから俺は響香と八百万と一緒に文化祭を楽しむことにした。
『セメントスカップ…?』
「皆飲んでるね!」
「買ってみましょう!」
俺らはセメントスカップを買った。
「すっごいよくできてるね、このカップ!」
「大人気ですわね!」
『中身のドリンクが気になるな!飲もうぜ!』
さっそく飲んでみれば、ココナッツジュースだった。
『ココナッツだな』
「セメントス先生と全然カンケーない」
「本当に」
俺らは顔を見合わせて笑った。
『ゆっくり飲みたいよな…』
「あっちに階段あったよね?」
「確かありましたわ!行きましょう!」
俺らは人通りから少し離れた階段に腰をかけた。
今日は朝から色々あったが、こうやって少し静かな所に来るとさっきまでの出来事が一気に実感となって押し寄せる。
すると伸びをした響香が話を始めた。
「初めはウチにできるかなって少し不安だったけど……やってよかったな」
『そうだな』
「私は……少し残念ですわ」
「え」
響香は八百万の予想外の言葉に驚いたようだ。
「だって、一度、歌う耳郎さんを前から観てみたかったんです。できれば最前列で」
「えぇ?」
照れている響香のジャックが揺れているのがかぁいい。
「でも、ライトを浴びて歌う耳郎さんの後ろ姿とてもかっこよかった……だから、結局最高でしたわ!」
「もうヤメテ」
と頑張って照れ隠しをして八百万に肩を預ける響香を、俺は微笑ましい気持ちで見ていた。
『これで耳郎ファンができるのか…』
ふとそんなことを考えてしまった。
「そうですわね」
八百万はCMに出たから、ヤオヨロズー?というのがいる?らしい…?
俺はそういうのはあまり詳しくない。
『なんかフクザツだ。』
「鍵無の方がすでにいっぱいいるからね?」
『知らなかった。あとさほど興味もないんだよ。』
「ヒーローたる者、ファンの皆様から愛されることも必要ですわよ?」
『そうだけどさ…』
「こんなイケメン放っておくわけないっしょ…」
『うーん、響香がそう言うならそうなのかな…』
ん、待てよ。つい響香って言っちゃったぞ…
「あら?鍵無さんは耳郎さんのことを響香とお呼びに?」
やはり八百万さんは聞き流してくれませんよねぇ
『気分だよ、うん、気の昂りで呼びたくなっただけ』
「私の目は誤魔化せませんわ!」
なぜかプリプリしているのだが、何に気がついたのだろうか?
「あー、もう認めるよ…」
すると響香が諦めたように口を開いた。
『何のことか色々わからないよ?』
「前に女子トークでウチらが付き合ったのか聞かれてさ」
「その時、耳郎さんが少し嬉しそうな顔をして否定なさるので不思議だと思いましたわ!」
「ヤオモモ、できれば皆には内緒にして!」
『これはバレたということでよろしいんでしょうか?』
「そうですわ!」
さっきよりもプリプリ感が増した八百万がうなずく。
「いつからですの?」
『林間合宿の後くらいからな、まあ色々聞きたいんだろうけどよ、これ以上バラすと響香が湯気出すからさ、またいつかな』
「湯気…?何か冷たいものをお渡ししなくては!」
『そうじゃないさ、見ればわかる』
八百万が不思議そうに響香の顔を覗き込めば、さっきの八百万の賞賛の嵐にすでに赤面状態だったのが、さらに真っ赤になってジャックの先まで赤くなっているのを見て納得する。
『俺の彼女、クールでカッコいい反面すごい乙女だから、照れ隠しできなくなるとこうなるっぽい。』
「そうですのね!」
『じゃあそろそろ文化祭に戻ろうぜ!』
俺らは文化祭を見て回るのを再開した。
途中で上鳴、芦戸、葉隠、峰田と合流し気になったのでお化け屋敷の感想を聞いたら、4人とも一斉に半泣きしながら話し始めた。とりあえず怖かったことは伝わってきた。
そして適当に文化祭を楽しんでいたらあっという間に終わってしまった。
途中でエクトプラズム先生とさっきの出来事を話して、次からはもっと早く拘束しとくように注意された。まあ注意だけだったのが良かった。
寮に戻って、
今朝、緑谷が探していたのはりんご飴の材料だったことがわかった。エリちゃんにりんご飴を作ってあげたらしい。
そしてたこ焼き屋の店番をやった砂藤がそのお礼にもらった様々なフルーツで飴を作っていた。一口サイズのかわいいフルーツ飴は、どれも綺麗な光沢があって美味しそうだ。
峰田が下品なことを言って梅雨ちゃんに殴られたあと、平和に飴選びが始まった。本当にどれも美味しそうで決められない。
俺はなんとなくみかん飴を選んだ。強いて理由を言うなら、目の前にあったからだ。
そして飯田の「みんな、お疲れさまでした!」一言で、今日の文化祭のシメがされた。
余談だがこのシメの挨拶はtake2である。最初、飯田が「えー、本日の文化祭のために…」とは話し始めた時から予感はしていたが、出し物決めの時まで遡った話が展開され始めたときはシメに何時間かかるのか先が思いやられた。上鳴がつっこまなければ危なかった。
そして各々のフルーツ飴で乾杯をする。一名だけ唐辛子飴がいたが…。
みんな今日の文化祭の話でいっぱいだ。
どこの出し物が良かったとか、美味しかったとか、そういう話だ。
俺らの話は自然とミスコンの話になった。
「ミスコンは波動さんだったな!」
『来年は誰が輝くんだろな?』
「まあA組から出るのは八百万だな!」
「そーだぜ!ヤオヨ…『B組の拳藤といい勝負になるな』
俺は峰田の話を遮って上鳴に返事をした。
「それな!てかオープニングめっちゃイケてたよな!」
「あんま音楽詳しくねェ俺でも、jokersってバンド知ってたぜ!」
「筋トレしかやってなさそうな切島でも知ってるバンドメンバーが雄英生なんて驚きだぜ!顔バレしてほしー!」
『それは無いな!まあでもマジでビックリだよな!』
俺も全く知らないフリをして盛り上がる。
「俺めっちゃファンなんだよ!」
『上鳴チャラい!』
「それはかんけーねェよ!そーいや耳郎は俺以上のファンだぜ!」
「そうなのか!なぁ、耳郎!」
女子たちも女子たちで盛り上がっていたようで、瀬呂の声かけに全員がこっちを向く。
「ミスコンのオープニングでハマっちまったんだけどさ。jokersについて詳しく知ってるか?」
「ちょーどこっちもその話してたから、こっち来て!」
そう言われて俺らはソファーを移動した。
「耳郎ってめっちゃファンだろ!雄英生って知ってたのか!」
「あー、初耳、高校生なのは知ってたけど。」
「ヤバくね!俺ら歴史的瞬間に立ち会えたよな!」
『おいおい、そこまでのことじゃないだろ…?』
「意外とヒーロー科にいたりして!」
葉隠の発言にはよく肝が冷える。
「俺は完全にJackのギターに惚れたぜ、俺にはあんなにカッコよく弾けねぇ!」
『練習すればあれくらいできるって!』
「無理無理!ありゃ厳しいって!」
jokersの話題からそれそうになっていたが、麗日が耳郎に質問して再び戻ってしまった。
「響香ちゃんは推しみたいなのおるん?」
「うーん、あんまそーゆーのないけど、やっぱJack?」
あ、嬉しい。
『どこが良いんだ?』
「お、鍵無が食いつくなんて珍しい!」
『そうか?』
「おまえ、推しとか恋愛とかキョーミなさそうじゃん!」
『え、俺ってそんな風に見える?』
「見える!」
上鳴や芦戸にズバッと言われた。
『マジか、俺のイメージって……
まぁ、さっきの質問は単純な興味だよ。俺もjokers好きだからさ。』
「jokers好きだったのか!じゃあ聞くわな!」
なんか一気に周りに納得されてこれもこれで微妙な気分だ。
「そんで耳郎がJack推しなのはなんでだ?」
「えっ?…Jackが書く歌詞が好き。」
「いいよな〜、“No Point”めっちゃ良くね?」
「なにそれ!聞かせて!」
『俺のスマホからでよければ流すよ?ライブ音源だけど。』
「それでいーよ!じゃあ聞こー!」
俺はたまたま3月のライブの時の映像をもらっていたのでそれを流す。
曲が終われば、瀬呂や切島が上鳴がこの曲を好きな理由が理解できたって顔で話し始めた。
「これを雄英生が作ったと思うと違う捉え方できるよな!」
「あー、わかる!」
「でもこれ聞く限りJackはヒーロー科ってこと?」
「そーだよな、これってヒーロー科の入試のヤツのことだろ?」
「多分な。スタートラインに一緒に並ぼうってところとか、受かったって確信ないと書けないぜ!これは男だぜ!」
『まあまあ、それくらいにしよう。本人がバラしたくないのに探すのはどうかと思うよ』
「それもそうだね!」
あっさりと話が終わったので逆にもう悟られたんじゃないか不安になる。
「そーいや、鍵無!ダンスもバンドもやらなかったことをファンクラブが残念がってたぞ!」
『ファンクラブってきっと女子の集団だろ?
なんで峰田が知ってるの?なんか怖いんだけど…』
「いや、有名な話だぜ!
雄英ビッグスリーを超えた、雄英ワントップって呼ばれ始めた存在の噂くらいすぐ耳に入るぜ!」
『マジで…?』
「イケメン、賢い、めっちゃ強い…、最強の三拍子揃ってんだろ!」
峰田が血の涙を流しながら唇を噛んでいる。
「SNSで、かぎガールっていう、ファンが急増中なの知らないのか!?」
『ごめん、全然知らない。』
上鳴がめっちゃ驚いてる。チャラいとこういうことも詳しいのか…
「俺なんて調べても全然ヒットしねぇよ…」
「ドーンマイ!」
「それは俺がいっつもかけられる言葉だぜ…」
なんか一気に2人テンションが下がった。
「これで彼女いたら、世間の女子は泣くぜ?ついでに俺も羨ましくて泣くぜ。」
とてもしょぼくれた上鳴が嘆く。
『ノーコメントで…、じゃあ俺は寝るよ。』
俺は逃げるようにソファを立った。
「え?ノーコメントって、絶対いるやつじゃん!」
後ろが騒がしいが気にしないで部屋に向かった。
明日は片付けだ。
少し寂しいが、ここからしっかり切り替えてまた勉強しなくては…。
部屋に戻ると、急に胸に違和感を感じる。
『…やっぱりそうか』
俺はそろそろ事実と向き合わなければならないようだ。
すると全身から力が抜け、意識を失った。