希望と孤独の狭間で…   作:B.delta

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鍵無は倒れて床に這いつくばっていた。
一瞬飛んだ意識を呼び戻し、最後の力を振り絞ってスマホに手を伸ばした。

そして近所の病院に瞬間移動した後、完全に意識は消えた。

“鍵無彗仁”は追いかけられていた影に捕まった。

そして………ってしまった。

闇よりも深い影に…



耳郎のスマホには鍵無から

『Danke schön. Auf Wiedersehen.
Schließlich Ich liebe dich für immer. 』

というメッセージが残された。




第二章  Einsamkeit
───幕間の物語───


翌朝、

 

「えー、本日の片付けが終わったら話があります。」

 

どんな話か見当もつかないが、文化祭ムードのさめないA組はあまり気に留めていない。

 

彼らは文化祭の余韻に浸りながら片付けを行った。

昨日では話きれなかった思い出を語らい、あの輝くステージについて感想を言い合っていた。

 

 

そして片付けが終わり相澤先生が口を開く。

 

「今日鍵無いないが、あいつは入院中だ。理由は知らないが、昨日の夜中に病院の入り口で倒れていたらしい。手術は成功したそうだが…」

 

その言葉にクラスは戦慄した。

確かに朝からいなかったとは思ったが、寮の部屋にもいないし電話も繋がらない、メッセージも既読がつかないで軽く心配していた。

鍵無ならきっと大丈夫だと思っていた。

 

「まァ、逝く可能性が高いらしい。」

 

クラス全員の顔が引きつる。

インターン組、特に緑谷ははサー・ナイトアイのときのことが思い出された。

喪うのか…、そう考えてしまう。

 

相澤先生が話を続けた。

 

「詳しい事情は何もわからん、信じてやれ。」

 

その後、今後の話がされた。

 

相澤先生の話を聞きながら、耳郎は鍵無と過ごしたいつもとは違うあの晩のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

───それは鍵無が無理のしすぎでAバンドに説教されたあとのこと、

いつものように2人きりで彼の部屋で話をしていた時…

 

 

『ごめん。こんなに心配させていたとは思わなかった。』

 

「自分を変に過小評価してるのとかほんとバカだよね!」

 

『バカって…』

 

「事実だからいーじゃん!」

 

仲睦まじく笑い合う2人、

 

「あのさ、今日はもうちょっと話さない?たまには作業なしでさ!」

 

『いいね!』

 

普段は耳郎がノートを書き、鍵無は難しそうな本を読んでいた。

 

そういうのも安心できて好きだが、耳郎は鍵無と話している時間が1番好きだった。

それは鍵無も同じだった。

 

耳郎は最近、そんな彼に思っていることがあった。

 

「最近、前以上に無理してない?」

 

『その話、さっき終わった気がするよ?』

 

確かにAバンドでのお説教の後だった。

でも耳郎はここで聞き出さないと後悔する気がした。

 

「なんかもっと大事なこと隠してる。そんな気がする。」

 

鍵無は耳郎の勘の鋭さに内心驚いた。ただこれまでも隠し事はあっけなくバレていた。

単純に鍵無は隠し事が下手なのだ…

 

そして彼女の聞きたいことは、これまで幾度となく考えることが辛くて切り捨てた仮説のことなのだろうと悟った。

 

『きっとある。でも俺自身、それに確信もなければ認める覚悟もない』

 

「何系の話?」

 

『うーん、秘密?』

 

「鍵無って秘密多すぎ」

 

仕方はない部分はあるが、鍵無には盲点が多かった。

秘密とか言ってカッコつけてるだけで実は彼もよくわかってない。

 

そして今の彼自身に昔の彼がまだ秘密事を隠していると思うと、鍵無は知りたい反面これ以上ヒーローを目指す志に記憶という凶器で傷をつけられ続けるのは苦しいと感じた。

 

それを恋人になら少しは吐露しても良いかなと思った。

 

『響香の為に頑張って覚悟を決めるよ。先に言っとくけど、どんな俺でも響香のことは愛してる』

 

「高校生で愛とか重すぎ…」

 

耳郎はこの時素直に受け入れれば良かったと自分の照れ隠しを後悔した。

今思えば鍵無は悲しみに溢れた顔をしていた。

しかし彼はそれを隠して笑顔を貼り付けて話は続いた。

 

『まあそうなんだけどさ、もしもこの先、仮に俺が敵になってしまっても再び記憶を失っても絶対に響香だけは守る自信がある』

 

「フラグ立てないでくんない?」

 

耳郎と鍵無は微笑み合い、距離を詰めて寄り添いあった。

鍵無は終始悲しみに溢れた顔に笑顔という仮面をつけ、耳郎にこれ以上の心配をかけないように努めていた。

 

鍵無はしばらくして真顔になり、話始めた。

 

『“個性”の効かないこの体、考えられることは3つある。』

 

耳郎は彼自身が個性が効かない理由をはっきり理解していないことに驚きだった。彼の右目が開いてから彼の記憶はだいぶ戻ったと思っていたからだ。

しかしどうやらそれは思い込みだったようだ…

 

『一つ目、“個性”の檻と同様に俺の体も“個性”が効かない可能性。実は俺が囚われてる的な感じ。でもこれはあまりにも矛盾が多すぎるから違うと思う』

 

耳郎は相槌を打ちつつ、真剣に彼の話を聞いていた。

 

『二つ目。“個性”を打ち消す“個性”が実は俺の中に眠っていて、それが無意識のうちに使用されているから効かないって可能性。

でもこの仮説だと黒霧のワープゲートも利用できないということになるから、ちょっとどうかなって思う』

 

耳郎は鍵無がUSJの襲撃の時ワープしていないことを思い出し、明らかな矛盾だと思った。

 

「USJの時ワープしてないよね?」

 

『あのあと会ったんだ』

 

「え?初耳なんだけど?」

 

『そりゃそうだ、初めて言うもん』

 

「え!!先生に言わないとダメでしょ!?」

 

『まあまあ、話の続きを聞いてよ』

 

鍵無はどうして大事なことをちゃんと話しておかないのか耳郎は甚だ疑問だった。しかしさらに質問しようとしたら咎められ話は再開された。

 

『三つ目……、』

 

鍵無の顔が隠しきれない不安に飲み込まれたことが見てとれる。

 

「大丈夫?震えてる…」

 

『大丈夫、うん、大丈夫だよ。』

 

「辛かったら話さなくてもいい」

 

耳郎は鍵無の手をそっと握った。彼の手はとても冷たかった。

鍵無は耳郎の行動で踏ん切りがついたのか、ポツポツ話し始めた。

 

『三つ目。

………俺自身が、存在していない可能性。』

 

「え?何言ってんの?冗談キツいって」

 

耳郎は笑ったが、初めて鍵無がつられて笑わなかった。

その瞳は哀愁に包まれていた。

 

『理由はいくつかあるんだけどね。

まず俺が俺の存在を認識した時だけ“個性”は効く。

俺は響香に心音流してこまれる時は、響香のジャックにドックンされてる俺を認識している。

俺の存在自体が意識の中で、基本的に許容しなければ“個性”は効かないんじゃなかなって思う。』

 

耳郎はこの説明には理解が出来なかった。

彼が教えるのが下手と言っていたのに納得できる。

“我思うゆえに我あり”デカルトの有名な言葉だが、つまりはそういうことなのだろうか?

 

「鍵無は生きてんだよね?」

 

『もちろんそのつもりさ、俺は自分が作り出された兵器じゃないって信じてる』

 

耳郎には鍵無の難しい事情は分からないが、彼が優しいことは知っている。

とても自慢の彼氏なのだ。

(ヤオモモにしか明かしてないが…)

 

「機械にこんな優しいやついないから…」

 

『そう言ってもらえてありがたいよ、

ごめん、俺っていっつも暗くしちゃうな。これじゃ彼氏失格だな、本当に最低だ…』

 

耳郎は鍵無の相変わらず自己評価の低さに少し腹が立ったので、思いっきり殴った。

好きな人のことを悪くいうのはそれが彼であっても許せなかった。

 

「そんなことない!ウチの大好きな人を悪く言わないで!」

 

『え…?』

 

「いつも自分のこと後回しでウチらのために頑張ってんじゃん!」

 

『そんなこと…「ある!」

 

鍵無の心の鍵を耳郎がこじ開けていく。

 

「誰かを傷つけないように繊細になってさ、それで自分だけずっと綱渡りしてんでしょ?

過去の影に追いかけられて、事実と記憶に振り回されて、ただでさえ苦しいのにウチらのこと優先で考えてくれてる。

どう考えてもムリしてんじゃん。

 

もっとウチを頼って…、もっと弱いとこ曝け出していいよ。

彗仁は皆を守る気なんだろし、誰にも守られる気ないんだろうけど、

心くらいはうちに預けてくんない?」

 

耳郎は想いを発散した。

鍵無の心の鍵が壊れるまであと少し…

 

『俺は……、』

 

鍵無は耳郎の言葉に、彼女はヒーローとしてだけではなく人として自分を救おうとしてくれるのがわかった。

 

「ウチはどんな彗仁でも嫌いになれない。

すっごい好き……

だから記憶がなくなったら思い出すまでそばにいてあげる。敵に堕ちそうになったら全力で止めたげる。」

 

『ありがと』

 

「…当たり前でしょ?」

 

鍵無の心の鍵は開いた。否、大破した。

鍵無は耳郎の前でなら素直になれる、少し弱くなれる、人間でいる夢を見れると思った。

 

『あ、あのさ、』

 

「いいよ、ゆっくりで」

 

耳郎は鍵無の頬を撫でる。

鍵無は深呼吸してから耳郎に心を預けた。

 

『俺は、怖いんだ……』

 

すると鍵無の瞳から自然と溢れた涙が頬をつたり、耳郎の指に流れた。

 

『俺は俺が持っていた感情を知らない。

でも最近ではそれがわかるんだ…

だからもし俺がルーク・ジェイル・ハンターに戻っても許して。』

 

鍵無の覚悟というのは、今の自分が消えることに対する覚悟だった。

 

「どう、して?」

 

耳郎はただ不安だった。

鍵無は耳郎の頭を撫でながら話を続けた。

 

『俺はここにヒーローを消しに来た処刑人だよ?

本来なら俺たちは交わることはなかったんだ。

響香と出会えたこと、俺は幸せだよ。』

 

鍵無はずっと過去から逃げていた。

林間合宿の時からずっと、真っ黒な自分から逃げていた。

しかし、それはもう限界に近かった。

文化祭で耳郎のステージを見るまでは追いつかれまいと必死にはなってもがいているのだ。

 

 

耳郎はその決意には気づかなかった。

 

「敵になんかなんないで、ずっと皆のヒーローでいて!」

 

……ごめん、今の俺は消えてしまうんだ

 

鍵無はこの一言をぐっと飲み込んだ。

 

『そうだね、ごめん、弱気になりすぎたね。俺はずっとヒーローでいるよ!

じゃあ俺の心は耳郎に預けるからよろしく!!』

 

「わかった!」

 

そして2人は穏やかな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───こんなことがあったのだ。

 

耳郎はもう一度スマホに届いたメッセージを見る。

日本語で書けよ、と心の中で批判した。

 

 

「…ぅさん!!耳郎さん!」

 

「あっ、ごめんヤオモモ、ボーッとしてた」

 

「今日は一緒に寮に戻りましょう!」

 

「うん、ありがと、あとさ、これ読める…?」

 

耳郎は八百万にスマホに届いた鍵無からのメッセージを見せた。

 

「ドイツ語、ですね、

えーっと、

『ありがとうございました。さようなら。

最後に私はあなたを永遠に愛してる。』でしょうか…」

 

「そっか、なんでドイツ語にしたんだろう?

ま、いっか!ありがとヤオモモ、帰ろ!」

 

このメッセージの真意を知るのはそう先の話ではない。

 

 

 

そして寮に戻り、鍵無のお見舞いの話になった。

意識がなくてもいいのなら明後日から行けるらしく、クラス全員で外出許可を取りお見舞いに行くことにした。




お見舞いの日、

耳郎は文化祭の前夜に鍵無からもらった手紙を読み返していた。
手紙には彼らしく優しい言葉でメッセージが綴られていた。

すると封筒の内側にも何かうっすら書かれているのに気づいた。

封筒を開いて読んでみると、『仮面の裏』とだけ書かれていた。
仮面といえば一つしか思い浮かばない。

耳郎は鍵無の部屋に向かった。

どこに仮面があるのかは教えてもらっていて知っていた。
ベッドの下の隠し収納のケースの中だ。

耳郎は緊張する手でダイアルロックを回し、ケースを開ける。

そこにはJackの仮面がいつも通り入っていた。
ゆっくりとひっくり返せば、メモが貼ってある。

『命令を』

たったのこれだけ、

「なんでいきなり初期の口数の少なさが戻ってくるかな…」

これには耳郎も呆れるしかない。

すると集合時間になりそうなので彼の部屋を後にした。


そしてクラスの全員で鍵無のお見舞いに行くのだった…
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