希望と孤独の狭間で…   作:B.delta

34 / 37
第30話  起動

ルークは警察署にいた。

これまで雄英の事件の時には必ず見かける塚内という警官に会いにきたのだ。

 

『はじめまして。

雄英高校1-A、鍵無彗仁改めルーク・J・ハンターと言います。

 

あなたたちにとって幸か不幸かわかりませんが、記憶が戻りましたので10年前の船の時間を動かしにきました』

 

「じゅ、10年前!

君はあの時の、少年か…?ちょっと失礼…」

 

塚内は戸惑った。

すぐさま電話をかける。

 

あの事件は表と裏の顔を持っている。

 

表は世間一般が知ってる、乗組員全員が心配停止で見つかった迷宮入りほぼ確定の超難事件。

 

裏の顔、

それは5歳前後の記憶喪失の少年による個性事故。

 

調査が進むにつれ「時間が止まっている」という事実が発覚した。本来なら隠す必要はなかったのだが、それを偽りの報道をするしかなかったのには理由がある。

 

それをしたと思われる少年の“個性”は時間を操る類のものじゃなかったからだ。

 

“個性”まで完全に忘れてしまっていた。

少年の“個性”は岩を出したり鍵をかけたりと、一言で言えば「ロック」だった。

だが違う“個性”が発現するなど普通は起きることはない。

 

とても幼い子だが、大きな危険を孕んだ存在だった。

 

だから警察はヒーローたちに子守を頼んだのだ。

ドイツ語しか話せないが、無理を言ってお願いした。

 

それは正解だった。

 

船からは敵連合の情報がたくさん出てきた。

そこに少年は最凶の兵器だと書かれていたのだ。

それが手中にほぼ無力状態でいることは奇跡だった。

 

肝心な情報があったと思われる部屋はすっからかんになってたのでそこは残念だが、それでも大きな収穫に変わりはない。

それによりオールマイトと共に、オール・フォー・ワンを寸前まで追い詰められたのだ。

 

 

塚内は悔しさを噛み締めた。

 

「聞いてくれ、目覚めてしまったんだ。

今からの予定を開けてくれ。

 

あの時、囚われのオール・フォー・ワンはとても余裕そうな顔をしていたのはこうなることが分かっていたからか…

彼が目覚めるように布石は打たれていたようだね、悔しいけどアイツの方が一枚上手だったということかな…

 

狙いは君だけじゃなかった。

彼を目覚めさせるためでもあったみたいだ。

 

これはピンチだよ、オールマイト…

詳しくは後で話す」

 

電話を切って、ルークのところへ戻る塚内だったが、その足取りは重い。

塚内が黙って考え込んでいると、ルークが声をかけた。

 

『あのー?塚内さん?』

 

「あっ、すまないね、船の所まで行こうか。

ごめん、1時間くらい時間もらっていいかな?」

 

『全然いいですよ!』

 

ルークは今は良い子に見える。

でも塚内は長年警察をやっていた勘で分かった。

 

“信じてはいけない。コイツは兵器だ”

 

ルークをロビーに座らせ、関係者全員に電話をかける。

オールマイトにも電話をかけ直した。

 

緊急事態だと…

 

そしてこれからオールマイトと担任のイレイザーヘッドが来てくれることになった。

 

 

 

 

そして1時間経過、

 

「じゃあ行こうか」

 

『ありがとうございます!』

 

ルークは純粋な笑顔を向ける。

しかし塚内はそれが不気味に思えてたまらなかった。

 

2人で世間話をしながら車を走らせる。

 

道中、オールマイトと相澤先生が乗ってきて4人で船が置いてあるところへ行った。

 

 

 

 

 

『あぁ、懐かしい形!

ここに人は乗ってるんですか?』

 

ルークは船を見て目を輝かせながら聞いた。

 

「いや、乗っていた人たちはさすがにいないよ」

 

『そうですか…、その人たちの時間も動きますよ?』

 

「電話させてくれ…」

 

『はい!どーぞ!』

 

塚内とルークの会話を見ていたオールマイトとイレイザーヘッドは、彼の今後について考えていた。しかし思ったよりも明るい人格で少し安堵した。これで惨忍かつ冷酷な性格だったら救いようがないからだ。

 

 

「これで大丈夫、じゃあお願いするよ」

 

『一瞬ですよ?』

 

そう言って指を鳴らした。終わり。

 

『指鳴らすのってカッコいいですよね!

だから鳴らしただけで、別に鳴らさなくても時間は動きます!

 

まあ今は変化とかわからないでしょうけど、これから年々錆びるのを見て、時間の動きを感じていただけたらいいかと思います!』

 

「ハ、ハンター少年、」

 

オールマイトの声のかけ方は不正解だ。

一瞬でルークは人が変わったかの様に恐ろしい表情になり、ギロリとオールマイトを睨み、殺気が放たれる。

 

『ハンターって呼ばないで下さい』

 

「HAHAHA…それはすまなかった。

では改めてルーク少年!君はまだヒーローを目指しているんだよね?」

 

『はい』

 

「うん、じゃあ明日から放課後にプロヒーロー免許の取得のために、講習に行ってくるんだ!」

 

『はい!?』

 

ルークは固まった。

返事とも言えないヘンテコな声を出して目をパチパチさせている。

 

『いや、俺まだピカピカの一年生ですよ!?』

 

「決定事項だ」

 

『あ、相澤先生まで…』

 

教師2人に言われちゃ仕方がないのだ。

これにこの感じからして校長とかも推した可能性が高い。

 

『あー、分かりましたよ!

やりますよ、プロヒーロー免許とります!』

 

もうやけくそで叫んだルークに相澤先生がニヤリと笑う。

 

『(うわっ…、イヤな予感)』

 

「年末までにとれ」

 

『はぁぁあ!?』

 

ルークの空いた口が塞がらない。

 

「拒否権はない。死ぬ気でとれ」

 

『うー、やりますけど、条件2ついいですか?』

 

「聞いてやる」

 

『みんなには内緒でお願いします。

あとこれからオールフォーワンに会わせてくれたら絶対とります』

 

「一つ目はいいだろう、二つ目は…」

 

そう言って大人3人で話し合いを始める。

 

「塚内くん、何とか頼むよ!」

 

オールマイトの声だけ聞こえて来る。

 

「え!いいの!さすがだなぁ!」

 

オールマイトはわざとなんじゃないかって思うくらい分かりやすい。

ルークは苦笑いをしながらその光景を見ていた。

 

「じゃあ少年!このまま行こうか!」

 

『はい!』

 

そしてタルタロスへ向かう車内でルークはこれから先の大体の流れを説明された。

 

 

 

『うわぁ、やばぁい!』

 

今ルークがいるのは、センサーや監視カメラだらけのタルタロス刑務所。

 

「変なことはしてくれるなよ」

 

『分かってますよ、相澤先生』

 

すると言ったそばから走り出した。

 

「おい!なにしてんだ!」

 

『ここが面会するとこですよね?早く会いたくて走ってしまいました!』

 

その様子を見て塚内は確信した。

ルークはここに踏み入れた瞬間、構造をしっかりと把握できる化け物であると。

 

『お、やっぱり当たりですね!

Guten Tag Herr Lehrer!(先生、こんにちは!)

Lange nicht gesehen ! (お久しぶりです!)』

 

大人3人は驚いた。

いきなりドイツ語で話されては困ってしまうのは当然である。

 

「私は日本語でいいかな?」

 

『Natürlich!(もちろん!)』

 

「すまないけど、日本語で会話してもらってもいいかな?」

 

塚内が話しかけるが、ルークは分かっていないようだった。

 

「鍵無に何をした!」

 

相澤がすごい剣幕でオールフォーワンを見る。

 

「彼はルカだ。

さっきまで日本語を使っていたのは“個性”のお陰だよ、今は私の声しか理解できない。それが彼の仕様だからね、

ごめんね、ルカ、彼らはルカに話しかけたみたいだ。聞かなくていいんだよ」

 

『Ach so (なるほど)』

 

これは日本人には、「あっ、そう」と聞こえる。意味もほとんど一緒だ。

 

「ルーク少年、今日本語話したよね?」

 

オールマイトが聞くもルークは見向きもしない。

 

「言っただろう?話しかけても意味は無いんだよ。ルカの心は完全にこっちの物だからね」

 

『Ja. Das stimmt.(はい、その通りです)』

 

「ルカは今からあそこに行っておいで、それから一度両親に顔を見せてあげなさい。」

 

『Ich verstehe.(わかりました)』

 

「ルカはヒーローに贈られたギフトだからね」

 

この時、見ていた3人は意味がわからなかった。ルークがヒーローへの贈り物というのは理解し難いのは至って当然である。

 

『Ja.Sehr schön.(はい、とても美しいです)』

 

「そう、とても美しいんだ。

ルカはこれまでの日々はどうだったかな?ヒーロー達がルカを恐れて嘘を吐き続けていた、作られた日常は?」

 

『Ich verstehe nicht.(わかりません)

Ich mochte diesen wunderbaren Traum.(俺はあの素敵な夢が好きでした)』

 

「そうか、ルカは素直で良い子だ。ではもう行きなさい。」

 

『Ja!Auf Wiedersehen!(はい!さようなら!)』

 

そのままルークは部屋を出てしまった。

 

オールフォーワンは不適に笑い話しかけた。

 

「ルカを頼むよ、オールマイト。

きっと君の秘密はずっと前から知っているだろうからね」

 

「言われなくても大丈夫だ」

 

そしてオールフォーワンを睨みつけ3人は部屋を出た。

 

廊下に出ればルークが待っていた。

 

『アイザワ、センセ』

 

「なんだ?」

 

『キョーカニ、ダメ、ダッタ、テ、ツタエテ、クダサイ』

 

流暢に日本語を話すルークはそこにいなかった。

 

『イクトコ、アリマス、サキ、カエッテクダサイ』

 

「何を言ってるんだ。お前はどうやってそこに行くんだ!」

 

『センセ、モウジカンダカラ、マタアシタ、ガッコウデネ』

 

そう言ってルークは消えた。

タルタロスのセンサーに引っかからずこの場からいなくなったのだ。

 

すると塚内に連絡が来た。

話を聞く塚内の瞳が揺らいだのを、オールマイトも相澤もわかった。

 

「最初から何のセンサーにも反応していなかったようだ」

 

「そんなことが!」

 

これは驚くしかない。

 

「彼はだいぶ計算高いね、本当ならコッチで監視したいけど…」

 

「あいつのことは立派なヒーローにしてみますよ」

 

相澤が自信ありげに答えた。

 

「そう言うと思ってたから任せるよ」

 

「塚内くん、ありがとう!」

 

大人3人はルークのことに憶測だらけの議論をしながらタルタロスを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───その頃のルーク、

 

『チャチャっと終わらせて下さい』

 

大量の機械に繋がれ、施術がされていた。

相当な痛みを伴うことがされているのに、何一つとして表情は変わらない。

 

「さすがだよ。これで完成だ!10年も待った!!

死柄木弔が究極の人間だとして、君は最凶の兵器だからね!ハハハハハ!」

 

 

ルークは強さの代わりに感情を差し出した。

希望になりたくて孤独になる道を選んだのだ。

 

少年は兵器と成り果ててしまった。

 

もうその瞳に光はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─── その晩、

 

耳郎は、昼間帰ってきた相澤に

「鍵無からダメだったと伝言だ」と言われルークが何を言いたかったのか理解した。

 

“抗おうとしたけど”ダメだった。

 

こういうことだ。

しかし耳郎は何故か悲しくも苦しくもなかった。

 

それは彼の心を預かっているという目には見えないけど、揺るぎない信頼関係があるからだ。

 

 

そして待ちに待った彼が帰ってきた。

文化祭の話とかもっとたくさんしたいし、それに聞きたいこともある。

 

「おかえり」

 

『ただいま』

 

たったこれだけの挨拶では普通なら何も分からないだろう。

でも耳郎は耳が良いこともあり違いに気づいた。でもそれはルークには伝えないでおいた。

 

「ルークが響香って呼ぶからみんなにバレちゃったじゃん…」

 

『ゴメンネ』

 

「ほら、ご飯食べよ?

待ってたからさ、できればルークの部屋で…

聞きたいことあるし、行こ!」

 

『???』

 

ルークは耳郎に手を引かれ、他の男子たち(特に峰田)から羨ましさのこもった視線を浴びなから階段を上った。

 




Herr=敬称(Mr)
Lehrer=先生
オリ主は「先生」を名前だと思ってる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告