希望と孤独の狭間で…   作:B.delta

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相澤先生は話し出した。

全員それに聞き入って、外の氷の亀裂が大きくなっていることに気がつかないのだった。




第32話  過去

 

前までルーク・ジェイル・ハンターについては、4歳の誕生日に行方不明になったということしかはっきりと分かっていない状況だった。

 

本来なら両親が探したりするはずだが、とある事件をきっかけに精神を病んでしまっていて、支離滅裂なことを述べるだけになってしまった。だから誰も行方を知らず痕跡もない状態が長く続いた。

 

日本で保護された時にドイツに帰すのも考えたが、彼が記憶喪失であることや、行方不明だった期間に両親が他界してしまい他に親戚もいないという事実が重なり日本で養子に出されることになった。

 

個人情報はあった。だが、なにも明かさなかった。情報を明かして記憶と取り戻されると都合が悪いっていう大人のエゴに付き合わせた感じだ。

 

いきなり日本で生活しろってのは酷なことだったに違いない。小学生の時は独和辞典と国語辞典を泣きながら読んでいたそうだ。

アイツに苦労を強いるのは申し訳なかったが、どうしてもドイツには戻したくなかった。

我々ヒーローとしては、本当に記憶を取り戻して欲しくなかったんだ。

だからありとあらゆる可能性を避けさせ、ヒーローという道を選ばせた。

 

知っての通り、アイツは(ヴィラン)の人間だからな…

 

関係者を取り調べたら最初から(ヴィラン)になると言っていたそうだ。

その理由は分からないが、自らを“処刑人(Henker)”と名乗るほどだったらしい。

取り調べの中にはルークがヒーローに倒されるのが夢だという話もあった。

まァ、動機は全くわからないってことだ。

 

 

こっからは“個性”について話そう。

 

誰もが“個性”が発現した時は何かしら起こるだろう?例えば切島の目の上の傷とか、幼い時、知らず知らずのうちに“個性”を使ってしまうのは当然のことだ。

 

ここで思い出せ、ルークが発現させたのは「地獄」だ。

 

彼は近所の森を地獄に変えた。

ヒーローが駆けつけた時には力を抑えようとしているルークの姿が確認されているが、“個性”は酷い暴走状態で全く抑えがきいてない状況だった。

 

その後のアイツの様子を見た人によれば幼いルークは自らの行いに絶望しただ泣いていたらしい。

そしてそれが原因で両親は病んでしまった。祖父はそんな3人の様子を見て自ら命を絶ってしまった。

 

ルークは施設に入れられることになった。だがそこで何が起きたか不明ではあるが、性格が激変したらしい。

 

そこで(ヴィラン)に目をつけられた。

心が傷ついて弱っているところにつけ込まれた形だ。

 

(ヴィラン)の連中は、正常な判断のできない両親にサインさせルークを引き取った。そこでアイツの実験台としての生活は始まった。

 

まァ、本当は脳無にする為(他の理由)(ヴィラン)連合に連れ行かれたんだが、そこで「無」という“個性”に気がつかれたんだ。

 

知ってるかも知れんが、「無」は全ての存在を司る力だ。有限化、無限化、無効化、具現化など、時間や生物も操れる“個性”だ。

そして他の“個性”を限界無しに強化してしまう。「地獄」が暴走したのは、この相乗効果だったと考えられている。

 

そして発現者自身の様々なことを「無」にすることで、その強さは増していく。つまり自ら人間らしさを捨てるほど強くなれる悲しい“個性”だ。発現者を侵害するような“個性”は無効化されるしで、まァ、完全にイカれたチート個性ってわけだ。

 

…産まれた瞬間に心臓疾患を「無」にしたことからアイツの連鎖は始まった。

 

それからというと(ヴィラン)によって強制的に様々なことを「無」にされ、ほぼサイボーグに近い状態になったというわけだ。

最初に疲労感や欲望、痛覚など無くなると兵器として都合が良いもんが「無」にされた。毎回その施術の後は“個性”のグレードアップに対応するため、少し“個性”が滲み出る。それがさっきのやつだ。

 

10年前の出来事は知ってるかと思うが、それもこれが関わってる。

殺人事件と詐称したのは、これもルークが記憶を取り戻すトリガーにしないためだ。

 

兵器に作り変えられる過程でルークは感情だけ最後まで残されてた。

そんでちょーど施術後だったこともあり、怒りが沸点までいって個性事故が起こった。

とある船員に、たくさんの施術をされていたのにも関わらず「弱い」と言われたのが、相当頭にきたのだろう。

船もろとも時間を止めてしまった。

 

そしてこれは憶測だが、その時のキャパオーバーによって記憶を無くすのと引き換えに、これまでに無くしたものを取り戻したんだと思う。だから鍵無彗仁は記憶が戻れば戻るほど何かに目覚めていたが、それと同時に何かを失っていたようだ。

 

 

もうこれでわかんだろ?

ルーク・ジェイル・ハンターは最後まで残されてた感情を差し出した。

でもアイツは読書家だから、きっと物語を参考に考えて表情を作ったりするんだろう。

 

ヤツは相当計算高いぞ。

仲間であることに変わりはないが、少しだけ警戒していろ。

 

そんでお願いだ。アイツは強さにとりつかれすぎてる。

過去の自らの暴走によって大事なもんを失って、強くないと何も守れないって勘違いしてる。きっと守る為なら命だって捨てるだろう。

 

とんだ大バカ者だ。

 

だがな、アイツはヒーローに救ってもらえなかった人間だ。救いの手から零れ落ちて一人でここまで這い上がってきたんだ。

“個性”の発現したとき、(ヴィラン)に身を置いていたとき、日本に来て記憶を失ってから…

 

ヒーローは、ルークを恐れて温かい手を差し伸べてやれなかった。

 

だからアイツは大切なものが何か理解できないんだ。

強さ以上のもん、おまえらなら教えてやれる。

 

もう一度、もう一度アイツに……

 

 

──────…『もう一度何ですか?』

 

 




  

「…!?いや、もういい」

相澤先生が驚くのも当然だった。そこには氷漬けにされていたはずのルークの姿があるからだ。

『驚かせてしまいましたか、すみません』

そう言うルークの表情は、貼り付けたような笑顔が浮かんでいる。みんな、それが自然な笑顔に見えるので本当は作り笑いだと考えると気持ち悪くて仕方がないのだった。

『では俺は失礼…』

そのままルークの姿は階段の上に消えていった。

「すまんな、解散だ」

そのまま相澤先生は寮を出て行った。


共有スペースに残された20人は何を思うのだろうか…
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