A組のメンバーはルークの過去を知ったことは本人には言わない事にした。
それからルークは口調がほんの少し丁寧になっただけで、性格や表情も変わりがないように見えた。きっと相澤先生から話を聞かなければ、感情がないなんてまず気づかない。本当に計算高く演技がされていた。
授業も訓練も言われたこと以上を完璧にこなし、放課後にはクラスメイトに内緒でプロヒーローになる為の講習を受ける…
ルークは一言で言えば「機械」
悲しい事に、これ以上似合う言葉はなかった。
そんな生活の中でルークに一本の電話が来た。
相手はエッジショットだった。
話を聞けば、サイドキックとして再び雇うとのことだった。前の様な潜入以上に危険が伴うこともあると説明されたが、ルークは二つ返事で快諾した。
どうやら学校には話が通ってるようで、ヒーロービルボードチャートが発表されるあたりから活動は始まるらしい。
そんなルークだったが、耳郎の前では少し違った。
機械から少しだけ人間に戻るような兆しがあったのだ。
それは耳郎には純粋な笑顔を見せていたということ。
どうやら耳郎と一緒にいれば、少しだけ感情が戻ってくるようだった。(しかし、当の本人はそれを感情だとは認知できていない)
それについて耳郎は素直に嬉しかった。周りは愛だとか色々言っていてだいぶ恥ずかしくはあったが、自分が彼の特別なんだと再認識できて幸せに感じていた。
感情が少し戻る理由を聞いた時、ルークは『俺のカケラを響香に渡したから』と説明したが、この話もまた耳郎を幸せにした。
耳郎は心を預けるとは言われたが、まず心なんて誰にも見えないので、あの時は切れない絆だよみたいなことだと思っていた。リアルに心を預けられたのか、実は他のことを指しているのかわからないが、もしそうなのだとしたらめっちゃロックだと思っている。
そして耳郎は文化祭の時にルークの部屋によく行っていたので文化祭が終わっても部屋に行くことが習慣化していた。
「今日も来ちゃった」
そう言って耳郎がルークの部屋に入ればいつも通りヘッドフォンをして作業している彼がいた。耳郎はほぼ専用となった座布団に腰掛ける。
ルークは耳郎が来たのに気がついてどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら作業を中断した。
『いつでも来てくれて良いよ』
そう言ってルークも座布団に座った。
今日は向かい合って座っているが、これが寄り添いあっていても背中合わせでも手を握るのがあたりまえになっていた。
ルークが耳郎に微かに感じれたことを質問したり、音楽の話をするのが2人の時間の使い方である。
『俺ね、響香とこうしていると、胸のあたりが締め付けられるんだ。これは何故だろう?』
「苦しくはないの?」
『苦しい…?
それが息ができないとかそういう時に、もがいている人の抱く感情なら、違うよ』
「苦しいの解釈は一応合ってる。
そんで、えーっと、胸が締め付けれられんのはね、、ル、ルークがウチに、こ、こ、こ……」
耳郎は「恋してるから」と言いたいのだが、恥ずかしくて全然言えない。好きとか愛してるとかより言いやすいと思ったが、全くそんなことはなく、言おうと思えば思うほど顔が赤らむだけであった。
「ごめん!今回はムリ!恥ずくてこれ以上は言えない!」
『そうか…』
「(ちょっとガックリしてんの見て、かぁいいって思うって、ウチ思ったよりベタ惚れだったりして…)」
耳郎の顔があまりにも真っ赤で俯いてしまっているので、ルークは考えなしに顎クイをしてその顔を上げさせたもんだからもう大変!
そのままルークは耳郎の顔が陰るくらいまで自身の顔を近づけた。
耳郎のジャックは揺れに揺れ、口もあわあわと、目は瞬きができずに泳ぎまくっている。
『俺は響香への愛情を自覚した…』
そう言うルークの目には涙が浮かんでいた。そしてその涙は瞬きと共にこぼれ落ち、耳郎の頬をつたった。
「いきなりどした?なんで泣いてんの?」
『わからない』
これは嘘だった。
耳郎は普段のルークだったなら嘘をつくのが下手なので見破れたのだろうが、生憎今はあまり表情が変わることがなく、演技上手になってしまったので見破れなかった。
ルークは弱音を吐きたいのを我慢してわからないと言うことにしたのだ。本当はものすごく苦しくて息ができなくなりそうなくらい追い込まれていた。
プロヒーローの免許を取るために奮起する一方で、憎ましい過去を持ち、“先生”の命令次第では仲間に歯向かわないといけないことがルークには言語化できないほどの罪悪感として押し寄せていたのだ。
耳郎といると感情が戻るため、ルークはこうした一抹の苦しみに向き合わなくてはいけない。
でも、ルークは目を瞑った。今の幸せを感じるので精一杯だったところもある。それを噛み締めて涙を流したのだ。
だがこの時のルークは、これが心の傷を広げることになるなんて思ってもみなかっただろう…
「変なの、しょーがないからなでなでしてあげよっか?泣き虫オオカミさん?」
耳郎は揶揄ったのだが、ルークが期待の眼差しを向けてくるので笑いが止まらなかった。耳郎とルークの距離は依然として近い。耳郎は目の前に造形の良い顔があるせいで高鳴る胸の鼓動を抑えられず、それを笑いで誤魔化していた。
「冗談だって!
…あー、しょぼんとしないでよ!」
耳郎はこれはオオカミじゃなくて、忠犬だなと思った。
『…ナデナデ、してくれないのか?』
この一言で耳郎はKOされた。
ルークは多分甘えているつもりだ。
「え、冗談だって言ったじゃん!」
『響香、お願い。撫でてください…』
ルークはそのまま目を閉じてしまった。
これに困ったのはもちろん耳郎。だから意地悪する事にした。
「えー、じゃあいつからウチを好きになったか教えてくれたら撫でてあげよっかなぁ」
ルークはしぶしぶ目を開き耳郎に抱きついてから話し出した。
『夢の出来事だと思っていたから詳しくは思い出せないけど、俺は響香が学校生活が始まって話しかけてくれて好きになった。気がついたら意識しすぎて不思議だった。
でももしかしたら入試の時にすでに一目惚れとやらをしていたのかもしれない。
俺はあの後に響香のことを考えて曲を作ったほどだから…』
「もしかして No Point ?」
ルークは頷いた。
すると今度は耳郎が泣き出した。
『え、ごめんね、そんなに嫌だった?』
「はァ?バカ!逆に決まってんじゃん!
こんなに想われてて嬉しいだけ…
ウチ、入試でキーホルダー拾った時からあんたに惚れちゃってさ、救けてもらってもっと好きになっちゃってさ、jokersのライブの帰りに会ったとき直感でJackだって確信しちゃって…
柄じゃないけど運命だったらいいなとか、好きになって欲しいなとか考えちゃって…
で、実際は学校生活始まったらウチらと一線引いてて、うまく関わりたいのに冷たく接しちゃって……」
腕の中で胸に顔をうめながら話す耳郎が可愛すぎてルークはより強く抱きしめた。
「そんなに抱きしめられたら撫でれないじゃん、体格差考えてよね」
『撫でてくれるのか!?』
するとルークは少し耳郎から離れた。
耳郎は髪の毛をぐしゃぐしゃにする感じでちょっと雑に撫でたのだが、ルークは満足そうだった。
「オオカミにはなってくれないの?」
『オオカミは俺の友達の“個性”だったんだ。でも色々あって会えなくなっちゃったから、俺が代わりに使ってる。
まあ撫でられる為の“個性”ではないからなぁ…
うーん、今回だけだからね…』
ルークは仕方なく耳だけぴょこんと出して見せた。
「ありがと!」
耳郎は嬉しそうに撫で始めた。
2人の関係はこんな感じで、
あっという間に11月下旬。
八斎會の時に保護されたエリちゃんは、雄英で預かることになった。
相澤はルークとエリちゃんの境遇を比べてみて、少し似ているような気がした。
「おい、鍵無」
『なんでしょう?』
相澤は、ルークと呼ぶのに慣れず未だに鍵無と呼んでいるが、ルークはそれについてごく普通に許容していた。
「あの子の角は“個性”の放出口になっててな。まァ、一度縮んだが少しずつ伸びてきてるんだ。
そこでだ、暴走しそうになったら連絡するんで手をかしてほしい。まだ“ロック”でやっていくんだろ?」
ルークは少し考えてから返事をした。
『そうですね……
“無”を使って増強はしますがそのつもりです。
…つまりはエリちゃんを檻に入れれば良いんですね?
もちろん檻の感じが出ないように配慮いたしますよ』
「話が早くて助かる。そういうことだ。
もうすぐ来賓が来る、寮に戻れ」
『はい』
そして寮にて、
ドアが開いた瞬間に飯田が指示を出す。
「あ!!来たぞ皆!お出迎えだ!」
玄関に現れたのは…
「煌めく眼でロックオン!」
「猫の手 手助けやって来る!」
「どこからともなくやってくる」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!(オフver.)」」」」
「プッシーキャッツお久しぶりです!」
「元気そうねキティーたち!」
皆がプッシーキャッツに駆け寄って行った。
ルークも挨拶をしに行く。
『お久しぶりです』
「あ!ジン!最近よく話を聞くけど、頑張ってるわね!」
ルークはピクシーボムとラグドールと話し始める。
『えぇ、もっと強くなりたいので』
「インターンに来て欲しかったなぁ…」
ピクシーボムが嘆いていると、緑谷が話に入ってきた。
「ルーク君は職場体験先が、プッシーキャッツさんのところだったんだよね?」
『そうだよ、でもインターンの時は活動を見合わせていらしたから、他の方のところに行ったんだ』
「エッジショットさんのとこだからね、活躍も含めて流石としか言いようがないね」
マンダレイさんも話に加わってきた。
「え?ルーク君のインターン先って、忍者ヒーローエッジショットのところだったの!?」
『言っていなかったっけ…?』
「うん!すごいね、だから気配消すのとか
「ジンはNo.1ヒーローも遠い夢じゃないね!」
『いえ、そんな…』
「もー、謙虚!ホントいい男だわ、ツバつけとこ…」
ルークは全力で避けた!
『俺はヒーローを超越するんです。No.1さえ通過点にしますよ』
「前からそうだったけど、最近は
『そうですね、あとは精度だけです』
ピクシーボムの言うアレとは、秘密の特訓、すなわちプロヒーロー免許所得のための特別補講のことだ。相澤が様々なヒーローを呼んでルークを鍛えているのだ。
すると遠くでルークを呼ぶ声がした。
『あ、呼ばれてしまいました。肉球まんじゅういただきますね!』
そのあと雄英に来た理由を教えてもらったA組はオールマイトのいない下半期のヒーロービルボードチャートの結果にそれぞれの考えを巡らせる。
───そしてプッシーキャッツと洸汰くんがA組の寮を後にし、帰路につこうとした時だった。
『待って下さい!ラグドールさん!』
5人が振り返るとそこにはルークがいた。
「アチキに何かしら?」
『俺はあなたの“個性”を戻せます』
この発言に全員驚いた。この話は洸汰くんには聞かせない方が良いと判断した虎は洸汰くんを連れてその場から離れた。
そしてマンダレイが口を開く。
「ちょ、待ってよ、そんなの…「できんです」
「イレイザー!?」
長身のルークの後ろに隠れてた相澤が顔を出した。
『どうしますか?』
ルークはあくまで提案しかできない。感情を失って事の良し悪しが分からないので推奨することができないのだ。
「知っての通りコイツが提案すんのは異例のことです」
ルークの10年前の話はヒーロー業界では知らない人は少ない。
しかし、記憶が戻り兵器化施術が完了しているという事実を知る者はごく限られた人物だ。
プッシーキャッツはその僅かなヒーローの中に含まれていた。
「じゃあなんで提案してくれたの?」
『鍵無彗仁の恩返しです』
「これはラグドールさんの判断に任せます。それにアイツから“個性”が消えるわけじゃない」
ピクシーボムが素早くつっこんだ。
「それはどういうこと!?」
「鍵無、説明しろ」
『はい、俺はラグドールさんが“個性”を奪われたという事実を
無くそうと思えば無くせますが……
……手元が狂ってタルタロスから解放するかもしれませんね』
この発言はルークの心がまだ
だから誰も
『どうしますか?ラグドールさん?』
この時のルークの言い方には一切感情が込められておらず、冷たく言い放たれたという感覚に近い。
「アチキの“個性”戻して!」
『了解しました』
そしてルークは目を瞑り(意味はないが)指を鳴らした。
ゆっくりと目を開いてから、まだ分かっていないラグドールに告げた。
『戻りましたよ?ラグドールさんの“個性”。
じゃあ俺はやる事やったので戻ります。失礼しました』
そう言ってルークは呆気にとられているプッシーキャッツを置いて寮に戻って行った。
途中立ち止まって、
『俺がやったことは内緒にしてくださいね』
と、口の前に人差し指を立ててシーッとした姿は悲しいほど美しかった…
「アイツ、頑張って抗ってんだな…」
相澤の独り言は誰の耳にも入ることなく、風に溶けていったのだった。
>原作改変増えていきます。