川内さんとバレンタイン   作:ハッソ

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前編

執務室の机の上に箱が置かれていた。

俺がいつも業務に使っている机だ。この箱は俺宛だと思っていいだろう。

可愛らしくラッピングされた箱にはチョコレート色のリボンが巻かれている。

 

俺は決して鈍感ではない。

ぶっちゃけ、これを見るまで「今日だ」と言う事を忘れていたが、ここ最近鎮守府のそこかしこから菓子作りの匂いがしていたのも知っている。

明石のお店にも菓子類が並んでいた。

 

二月中旬。

バレンタインデー。

 

箱はまだ手に取らず、頭を回す。

今日の秘書艦は軽巡洋艦、川内さん。

我が鎮守府では最も練度の高い艦娘だ。

時間はまだ早朝。勿論元々軍人として行動規範が出来ている艦娘達は俺なんかよりもっと早くに起きて鎮守府を稼働させ始めているが。

だが、朝早くから執務室にやってくるものは多くない。

その日の秘書艦くらいだろう。

 

箱を四方八方から眺めてみるが、手紙らしきものもついていなければ宛名も書かれていない。手に取って裏も見てみるが、なし。

どうも市販のものではなさそうだ。

手作りと言う事になる。

川内さんは夜戦ばかり印象に残るがあれで料理が上手い。

チョコ作成くらいならば難なく成し遂げるだろう。

女子力も高い。ラッピングも出来るはずだ。

勿論『出来る』と『する』はまるで違う。特に川内さんは滅多な事でもない限り、そういったことにやる気を見せることはない。

 

そんな川内さんがこのチョコレートを作ってくれたのだとしたら。

にやけそうになる顔面を片手で抑える。

 

期待と不安が交互に浮かんでは消える。

いや、川内さんじゃなくてもいいのだ。

誰のでもいい。チョコレートを貰えるというだけでとっても嬉しい。

だけど、もしかしたら。

どうしても考えてしまう。

もしかしたら、俺って川内さんに好かれ

 

「あれ?提督?」

 

後ろから急に声をかけられて、不必要なまでに驚いてしまう。

手元から弾き飛ばしそうになったチョコを慌ててキャッチする。

中身見てないけど、割れたりしてないよな?だ、大丈夫だよな?

振り返ると、やはり川内さんが執務室の入口に立っていた。

いつも通りのシノビ装束めいた赤の制服に、整った顔立ちは今朝は少し気だるげだ。

何故か片手には急須を持っている。お茶を淹れてきたらしい。

 

「きゅ、急に声をかけないでくれ川内さん」

「あー、ごめんごめん」

 

さっきまでとは別の意味で心臓がバクバクする。

何もやましいことをしていたわけでもないのに。

 

「今日はいつもより早起きなんだね」

言われてみるとそうかもしれない。特に理由があったわけではない。

強いて言うなら今朝は少し駆逐艦たちの声が元気だったからか。

「川内さんは昨日ちゃんと寝たのか?」

「ちゃんと寝たよ、今夜の夜戦のためにね」

道理でテンションが若干低い。今も大きなあくびを一つした。

これは昼頃にもうひと眠りしていそうだ。

「あ、そのチョコ・・・」

ぎくり。

川内さんが俺の手元の箱を見つけて、大きな目をぱちくりと見開いた。

 

さっと血が引いていくのを自分でも感じた。

先程、俺が早く来たのは計算外だと言っていた。

もしかして俺がこれを見つけてしまうのは川内さんにとって何か大きな間違いだったのではないだろうか。

考えたくはないが、例えばこのチョコは俺宛ではないとか。

うちの鎮守府で男と言えば俺か妖精さん達くらいだが、時折他鎮守府から知り合いの提督が来る事だってある。

どうしよう。これ○○提督さんに渡して、とか言われたら。

嫉妬と激情のあまり、友人を一人なくしてしまうだろう。

いや、だが。しかし。

苦悩の末に答えは出ない。出ないが、聞かなければならない。

このチョコが一体、誰宛のものなのかを。

 

「川内さん、そのこれって・・・」

「さっき駆逐艦の子達から貰ったの。二人で食べようよ」

 

「・・・・・そっすね」

 

「・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

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