川内さんとバレンタイン   作:ハッソ

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後編

「ハート形が多いよな、チョコって」

「かわいいじゃん、ハートマーク。

 女の子はかわいいものが好きなんだよ、提督。」

「勉強になるなぁ」

 

 

駆逐艦達が協力して作ったらしいチョコは完成度が高く、バリエーションに富んでいた。

ただ溶かして固めただけではなく、中にナッツやジャムが入っていたり、何かのキャラクターを模していたり。

中にはやっぱり子供らしく崩れた形の上にカラフルなトッピングが山盛りだったりするので、千差万別だが。

このカラフルは睦月型?いや子供っぽさと張り切り方からして暁辺りかもしれない。

 

「すごいな。これなんて店で売っててもおかしくないんじゃないか」

「提督、もう何年目だと思ってるの?みんな慣れたもんだよ」

「そうか・・・それもそうか」

 

俺もすっかり鎮守府でバレンタインを迎える事に慣れてしまった。

最初の方はバレンタインの風習が浸透していなくて、初期艦である電ちゃんに泣きついていたのが懐かしい。

今や艦娘達はバレンタインが近くなれば姦しく和気あいあいとチョコを作るのが自然だ。

基本的に艦娘同士で贈りあってる事が多い。女子高で友チョコが盛り上がるのと似た感じだろう。

社交性と親愛を高めるイベントなわけだ。

川内さんなんて山ほど貰う。主に駆逐艦の子達に人気だ。

 

一方、俺はあんまり貰えない。

これは決して俺がハブにされてるとか、嫌われてるとかではない。

・・・ないのだ。

バレンタインが周知され始めた三年目などは艦娘のみんなからたくさんチョコが貰えた。

モテ期というよりは娘からチョコを貰うお父さんかお爺ちゃんみたいな感動だったが、とにかくたくさん貰えて喜んだ。俺があまりに素直に喜ぶので艦娘達も仕方ないなぁとくれたらしい。

だが、その数が問題だった。鎮守府に在籍する艦娘は年々増え続けている。

今や百を軽く通り越して久しい。そんな艦娘達から日ごろの感謝を込めてチョコを送られるとどうなるか。

 

具体的には執務室がチョコに沈んだ。

 

俺は幸せの絶頂だったが、この事件を持ってバレンタイン自粛令が出されてしまったのだった。

以降は艦娘一同としてみんなを代表して一つだけくれるようになった。

自粛であって禁止ではないので、嬉しい事にくれる娘も居る。

電ちゃんとか榛名とか。意外なところでは天龍もくれる。

意外と義理堅いやつなのだ。

 

川内さんからは貰ったことはない。

毎年、川内型一同より、という形で貰っているのだが、川内さん個人からは貰ったことがない。

 

「せ、川内さんはくれたりしないの?」

 

声は震えなかった、はずだ。

何度も唾を飲みこんで、何とか発した声だった。

川内さんは「あー」と何か考えるように目線を上に向けた。

それから俺を見て笑った。

にっこりとかじゃなく、ふっって感じの笑い方だ。

鼻で笑われた。

これは駄目そうだ。

 

「仕方ないなぁ」

 

思わず立ち上がりそうになるのを必死に抑えた。

いやいやいや、さっきも考えたじゃん。毎年通りの川内型一同よりだよ。

神通さんがメインに作っているらしい手作りチョコカップケーキだよ。

今年も味わっていただくよ。いくら恒例行事とは言え、感謝を忘れちゃいけないよ。

がっかりするなよ、俺。

 

「はい、これあげる。」

 

川内さんが差し出してきたのはトッポだった。

 

がっかりした。

手作りじゃなくなった・・・。

「美味しいよねこれ」

「ソウデスネ」

心を喪った俺がトッポを受け取ると、川内さんは更に袋を取り出した。

「はい、これがいつものね」

チョコカップケーキである。毎年頂ける美味しい手作りお菓子だ。

袋を締めるリボンにはメッセージがつけてあり、『川内型一同より♡』と書いてある。

丸々した字は多分那珂ちゃんだ。

 

ん?あれ?これがいつものってことは。

こっちのポッキーは・・・

 

「じゃあ、私今日の任務書類受け取りに行ってくるね」

 

川内さんはそそくさと立ち上がって、執務室から出て行ってしまう。

 

「おー・・・」

珍しい。川内さんが照れていた。

何となしに手元に残ったポッキーの箱を見る。

どう見ても市販品だ。

市販品だが、いつもと違う。

「食べるのもったいないかも・・・」

賞味期限とかいつまでだろう、と確認しようとして裏を向ける。

そこに書いてあったものに思わず顔が赤くなる。

文字ではないし、川内さんも何も言わなかった。

これがどういう意味かなんて分からない。

 

今日は世界にありふれたマークだ。

 

『かわいいじゃん、ハートマーク。

 女の子はかわいいものが好きなんだよ、提督』

 

 

「くっそー・・・・やられた。」

 

二月中旬、バレンタイン。

俺は執務室で一人、ポッキーの箱を前に苦悩した。




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