チャイムが響き少年少女は一斉に机の上の端末を思い思いの物に切り替える。
SNSやゲームに興じながら、HRに向けて帰り支度を始める者もいる。
クラスの中を彼ら彼女らの話声が埋める中、さんざん聞きなれた先生の声で重要な予定が聞こえる。それを多くの者が何かしらに残しながら、数分の後に解散となった。
生徒たちは部活動や自らの趣味のために教室を後にする。少年_神津練もまた、つまらなさそうにあくびを漏らしながら扉を過ぎた。
「練ー」
「…ん…紫蘭か」
扉のすぐ近くで待っていた少女_立上紫蘭の声に顔を上げる。
肩くらいまで伸びたまっすぐな髪。大人びた雰囲気に、クラスをまたいで男子の人気は高すぎるくらいだ。
外見も周りが知ってる人格も平凡_しいて言えばちょっと運動神経は中の上な俺がこんな高嶺の花とこんな親し気に話しているということに、周りの嫉妬がオーラとして目に見えそうなくらい高まるのも当然のことで。
「早く行こ―!!」
「おい待てよ!!」
紫蘭が手を引いていく先を正しく予想出来た者などいないだろう。
なにせそこは。
『来たぞぉおおお!!!今回の目玉の対戦!!アキレス対シングルアイ!!!』
ACという、青春とは程遠い兵器が鎬を削るアリーナなのだから。
戦争ではないとはいえ、兵器同士の戦いを見るデートをするものはかなりの少数派だろう。
「…アセンブルミスはないな…さて、いくとするか」
_付け加えるならデートでもない。
アキレスという名は、練のもう一つの名前なのだから。
かつて起きた国家解体戦争という戦火によって生まれた少年兵ともいえる彼は、皮肉にもそこで才能を開花させた。させてしまった。
彼は生まれつき戦うために生まれたといっていい遺伝子だった。それは精神面でも同様であり、戦いに悦びを見出す生き方を覚えてしまった彼は、高校の皆にバレないようにこうやってアリーナで欲望を満たすのだ。
ちなみに実戦で叩き上げられたと言っていい彼のアリーナ順位は12位。学業があるので余りアリーナに参加できず、ポイント制に切り替わってから順位が伸び悩んでいる。一応30位くらいまでなら上位陣とポイント争奪ができるので問題はない。それ以下になるとエキシビションマッチとして記録に残らなくなってしまうが。
「さて、今回は負けられんな」
今回はどちらかというと挑戦を受ける形になる。
相手のシングルアイはアリーナランク37位、上位に食い込み始めたので、その位置で狙えるレイヴンの中で最も順位の高い俺を選んだのだろう。
中盤で燻っていたレイヴンだが、自分に合った戦い方を見つけたのか一気に順位を上げている。
この勢いだと、新しいトップになるかもしれないと期待されている。
自分も4年ほど前に似たような経験はあるが、素直に通してやる義理はない。
◇
「今回は楽勝だったねぇ」
「相手の戦い方がはっきりしてるから対策が楽だったよ」
日の光などとっくに沈み切った帰り道。
今日の試合の振り返りをする少年少女はいつまでたっても別れずに同じ道を歩く。
ずっと談笑を続ける二人の道はどこまでも一緒で、やがて目的地すら同じだったこともわかる。
「まあ、賞金分美味しいもの食べたわけだけど」
「こういうのもたまにはいい。」
「本当に食べることには貪欲なんだから。」
同じ家に二人は帰りゆく。
帰るところを同じとするもの同士、唯一と言っていい関係に二人は満足しきっていた。