この素晴らしい街に祝福を   作:ぶたはこ

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1話

「うん、濃さはこんなもんでいいだろう」

 

 これでコイツはしばらく煮込むだけで大丈夫だ。多少文句が出るとすればアクアだろうけど、アイツは味の好みが濃すぎるんだよな。初めて会った時もポテチ食ってたし、ジャンクフードに毒されてる女神ってどうなんだ?

 さてと、残りはメインとその付け合わせだけなんだが…。

 

「めぐみんの奴遅いなぁ…」

 

 今日は俺が食事の当番日。前日のアクアが無駄に調味料を使ったせいで足りなくなった分をめぐみんにお使いに頼んだのだが、妙に時間がかかっている。

 まぁ、多少味が落ちるだけで問題無いと言えば無いのだが…料理スキルを使っている影響なのか、最近そういう細かい部分が気になって仕方ないのだ。

 少し前の自分ならば考えられない事だが、美味い料理を作り、それを食べた人が美味しいと言ってくれる事に快感を感じるようになってしまっている。

 ちなみに今日のメインの食材はカモネギ、美味しい上に経験値も豊富なまさに一石二鳥な高級食材である。

 

 ダクネスの奴は”冒険もしないで金に物を言わせてレベルを上げるなんて邪道だ!”なんて言っているが、俺はそこに反論を唱えたい。

 俺は元の世界においてそこそこのゲーマーであり、コンシューマーどころかMMOでも知る人ぞ知ると言われたほどの人物だった。

 チートや改造を使わず、あくまでそのゲームの仕様に則った稼ぎを編み出す事に置いては第一人者と言われても良かったほどである。実際ギルド内や掲示板でその方法を伝授したら皆目からウロコと言わんばかりに驚いていたからな。

 入念な準備と効率化『ボタンを押すだけの簡単なお仕事』までに純化されたレベル上げはまさに芸術と言っても過言ではないだろう。

 

 そして今の俺はまさにソレだ。銀行に預けてある潤沢な資金は利子と資産運用によって打ち出の小づち状態。その資金を使ってカモネギを始めとする高級食材を手に入れ自身の強化に充てる。

 悠々自適に過ごしているだけで、いざという時は頼れる冒険者の出来上がりという訳だ。…だってのに、これに関してはダクネスだけじゃなくめぐみんまで文句を言ってきたりする。

 そりゃあクエストに行けないんじゃモンスターにボコボコにされる事も、敵の群れに爆裂魔法をぶち込む事も出来ないんだから仕方ないが。その文句を俺にぶつけられても困るというものだ、だってそれ完璧にお前らの趣味じゃないか。

 まぁ…その自己強化とやらが料理スキルを始めとする”日々をより良く過ごすためのスキル”に費やしてる辺りは反論できないけどさ。だって攻撃スキル覚えたところで”冒険者”の俺だと威力はたかが知れてるし、だったらそういうスキルを取った方が後々の生活で役立つだろうしさ。

 ”俺と一緒ならぐうたらしても叱られない”なんて考えでぐうたらしている駄女神までとは言わないが、もうちょっと肩の力を抜いて欲しいもんだ。

 

「…ただいまです」

 

 と、そんなこと考えてたらめぐみんが帰ってきたみたいだ。

 

「遅かったなー、いつもの店に売ってなくて探し回ったりでもしてたのか?」

 

 軽口を叩きながら玄関に向かうと、そこには何故か元気の無さそうなめぐみんが買い物袋を下げたまま佇んでいる。

 

「お、おい。マジでなんかあったのか?」

 

 いつもと明らかに違う様子に戸惑ってしまう。

 これ、俺が買い物頼んだ事と関係無いよな?

 

「えっと、遅れてしまいすみません。買い物は問題無かったです。ただ…」

 

 めぐみんはふいっと目をそらし、言いにくそうにすると、

 

「帰り道に、冒険者の男性にナンパをされて…一緒のパーティーにならないかと引き抜きを受けてしまいました…」

 

 …え?

 

「ナンパ!?っていうか引き抜き!?」

 

 予想外?想定外?とにかく突然すぎて頭が付いていかない!

 

「…とりあえずこれがお使いの物です。詳しくは夕食の後、皆が揃っているときに説明しますので」

 

 買い物袋を押し付けると、めぐみんは足早に部屋に戻っていった。

 

「………」

 

 押し付けられた袋を抱えてしばらく立ち尽くす。

 嘘とか冗談って事は無いだろう、虚勢や勢いで口走る事はあっても雰囲気が全然違う。そんなに言いにくい事なのか?…まさか!全員が揃ってからっていうのはそういう事なのか?

 

 台所から聞こえた噴きこぼれの音で現実に戻されるまで、俺はめぐみんの部屋の方向を向いて自問自答を繰り返していた。台所に戻った後はただひたすらに料理に取り掛かってはいたのだが、味見をしてもなんにも感じなかった気がする。

 夕食の時間になり、一足先にやってきたダクネスに手伝って貰って準備を終わらせる。その次にやってきたアクアに遅れる事数分、やはり浮かない表情をしているめぐみんがやってくる。全員揃ったところで食事が始まるが…俺は食事なんかよりもめぐみんの話の方が気になって仕方なかった。 

 

「カズマさーん、なんですかこの料理?こんな出来じゃ高級食材カモネギが可哀想じゃない。料理は運の良さに並んでカズマの数少ない良い所なんだから、頑張って貰わないと困るんですけどー」

 

 食べ始めてすぐ、アクアが俺を睨みながら難癖が飛ばしてきた。

 顔を上げてアクアをにらみ返すが、そんな事は百も承知だ。無視しようと思ったけど…なんかダクネスの方から視線を感じる。どうやらダクネスもアクアと同じ疑問を抱いたみたいだな。だからそんな事わかってるんだっつーの。

 

「文句言うなら食わなくてもいいぞ。お前がレベル上がったところで成長なんてしないんだし、スキルポイントも宴会芸なんて無駄なモンにつぎこむしな」

「はぁ?宴会芸が無駄ですって。馬鹿いってんじゃないわよ!言っておくけど、次取る宴会芸はマジで凄いんだからね!そんな事言うカズマには頼まれたって見せてあげないんだから!」

 

 アクアはプイっとほほを膨らませて拗ねているが構ってやる気はさらさら無い。

 俺は黙々と、ちょっと焦げたり味の均整が取れてない料理をかっ込んでいく。めぐみんも同じく黙々と食べていた。

 普段と違う、重苦しい雰囲気に我慢できなくなったのだろう。ダクネスはため息をついて一旦食器を置くと。

 

「カズマもめぐみんも一体どうしたのだ?二人とも様子がおかしいぞ。言いにくい事もかもしれないが、私でいいなら相談ぐらいいつでも乗る。遠慮をするな」

 

 声色から、本当に心配してくれているのは分かる。しかしそんなダクネスに対しても、俺はつっけんどんにしか対応出来なかった。

 

「別に…めぐみんがもしかしたら別のパーティーに行くかもしれないってだけだ」

「なっ!?本当かめぐみん!」

 

 ダクネスは俺の呟きに驚愕し、イスから立ち上がりめぐみんに向き直る。

 

「ちょ、違います!カズマ!私はさっきそんな事言っていないでしょう!」

「…ナンパされて引き抜きを持ちかけられたって、言ってたじゃないか」

「なななナンパ!?めぐみんをか!その男正気か!」

 

 ほんとにな、ダクネスの驚きももっともだ。

 というかこのパーティーの面々は、アクセルに居る限り異性から声を掛けられるなんてまずありえない。色々悪評が立ってるからな…俺も含めて。

 

「ダクネス!何故私をナンパするだけで正気を疑われるのですか!?」

 

 めぐみんが立ち上がってダクネスを睨みつける。

 そりゃあ勿論…と俺が考えていると。

 

「そりゃそうでしょうよ。めぐみんにちょっかい出すロリコンが、このアクセルの街に二人も居るとは思わなかったし」

 

 アクアが俺の方をチラリと見ながら言ってきやがった。

 

「おいアクア…二人って何だ、いったいいつの話を蒸し返してんだお前は」

「あらー?私は『二人』としか言ってないわよー、もしかして自覚がおありなのかしらねー…?」

 

 こいつ、よくもそこまで煽りを入れて来れたもんだな…グーで殴りたい!

 

「アクア!ダクネス!いつまで私をロ…子供扱いするのですか!私はもう結婚もできる大人です!…というかカズマがここまで拗ねるのが結構予想外です。まったく、子供じゃないんですから」

「すすすすねてねーし!俺が何に拗ねてんだっつーの!最近自意識過剰が過ぎてるんじゃないのか!?子供に子供扱いされるのは心外だなぁ!」

 

 突然の指摘に思わずどもる。

 そんな俺に対しめぐみんはやれやれといった雰囲気を醸し出していた。

 

「この料理の失敗が何よりの証拠です。さっきの私の言い方では動揺するのは仕方ないにしても、もうちょっと素直になれないのですか?」

「えー、この料理の失敗でそういうことだったの?カズマさんってば純情すぎやしない?プークスクス」

 

 おっと、この発言には流石のカズマさんもカチンときちゃいましたよ。

 

「わかった!素直な気持ちが欲しければくれてやるよ!めぐみんがもし抜けたら代わりにゆんゆんに加入してもらおう、さぞまともなパーティーに成長するだろうなぁ!ついでにアクアもエリス教のプリーストとトレードだ!浪費家が居なくなればもっと楽に資金を運用できるんだよ!」

「なにおぅ!」「なんですってー!」

「待て待て落ち着け!」

 

 まさに一触即発の俺たちにダクネスが割って入る。

 

「論点がズレてるぞ、めぐみんが引き抜かれるかどうかの瀬戸際なのではないのか?もっと冷静になるんだ、なんでこうも話がすぐに脱線するんだ」

「「「………」」」

 

 とりあえず一旦落ち着いて考えてみよう。話が脱線した原因っていえば…。

 

「ダクネスのせいだな」

「ダクネスのせいですね」

「ダクネスのせいね」

 

 満場一致でジロリとダクネスを睨む俺達。

 

「お、お前ら…」

 

 そういうダクネスだが、睨まれ続けながらも徐々に頬が赤くなっていった。

 いや、そこでその反応はおかしいだろ。なんでこんな状況でもブレないんだお前は…――――。

 

 ――――俺たちは手早く夕食を済ませた後、洗い物は後回しにしてまずはめぐみんの話を聞くことにした。

 

「では説明します。その男と会ったのはつい先ほど、カズマから頼まれた買い物の帰り道でした。ちょうどギルド近くの道を通った時、妙に高いテンションで話しかけて来たかと思ったら有無を言わさず勧誘を始めて来たんです」

「ん…まぁアクセルならパーティーメンバー集めってのはそう珍しく無いけど、引き抜きって事は他に何か言われたのか?」

「…はい、すでに一緒に組んでいる人が居ると断ったのですが。『自分はこう見えて凄い強い。こんな街すぐ出て魔王討伐の最前線である王都に行けるくらい楽勝だ。ここで会った仲間なんて弱い奴らばっかりだろう?君結構俺の好みだし、楽させてあげるから一緒に行こう』と…、一方的に話すだけでこちらの事情はお構いなしでしたね」

「うわっ、魔剣の人をさらに痛くした感じの奴ねそいつ」

 

 言ってる内容が内容なだけに、めぐみんの顔は非常に申し訳無さそうな表情だ。

 しかもめぐみんが好みのタイプって…年齢はさておき、外見だけで判断するならそいつは間違いなくロリコンである。そしてアクアの感想が的を得すぎている。もしかしてだけどソイツって…。

 

「めぐみんに対して臆面の無くそんな事を言ってくるあたり、この街に来て間もないのかも知れないな。私達が魔王軍幹部を数名倒しているパーティーの一員だという事は、この街に住んでいる者ならばまず知っている事だろう」

 

 ダクネスはあえて魔王軍討伐の方を例として上げているが、実際はあおられたと勘違いされて暴れそうだと認識されている方が大きいだろう。

 しかし、そいつがこの街来て間もないというのは間違いなさそうだ。そいつが本当に日本からの転生者だとしたら見分ける方法は…。

 

「なぁ、そいつの外見ってどんな奴だった?」

「外見ですか?えーと…」

 

 めぐみんは目を閉じて、うーんと唸りながら思い出す。

 

「髪は黒で背はカズマと同じくらい…服装は軽装で武器らしきものは持っていませんでした。後は、その…顔立ちがカズマや魔剣の人と似通っていたような気がします」

「似ている…わけでは無いんだな?」

 

 というダクネスの問いかけに、めぐみんはそういえばと。

 

「はい。思えば王都やその近くに行ったときにも何人かそのような人を見かけていましたね。全員強そうな武器を持ってたりで、魔王軍相手に大活躍でした」

 

 一番活躍したのは私ですがね。と付けたしドヤっと胸を張るめぐみん。

 けど多分決まりだな、そのナンパ野朗は俺やミツルギと同じ転生者だ。しっかし異世界に来てもやっぱり日本人ってのは目立つもんなんだな。

 

「おい、ちゃんと仕事してるみたいだぞ。お前の後任」

 

 他の二人には聞こえないようにボソっとアクア話しかける。

 

「いーえ、私の仕事っぷりに比べればまだまだね。だってカズマが来てから結構時間が経ってるのにようやく一人よ?あんまり知らない娘だったけど、もっとこの世界への転生の良さをアピールしてガンガン戦力送ってきて貰わないと」

 

 こいつの仕事っぷりねぇ…正直思い出したくも無いほど酷い物だったぞ。

 けどアクアの言うとおり、転生者が送り込まれるペースってこんなに間が開くものなんだろうか?結構な昔にデストロイヤーを作った奴もたしか転生者だったはずだけど…その割には俺の世界でたった数年前に流行ったゲームを再現して作ってたりしたし。もしかして、俺の世界とこの世界では時間に大幅なズレが起こっているのかも知れない。なんせ世界が違うんだ、そういう事もあるだろう。

 

「でも、めぐみんはしっかりと断ったのだろう?それなら話は終わりではないか?」

 

 おっと、ちょっと考えている内に話は進んでいるようだ。その辺のことは考えても仕方ないし保留にしておこう。そしてダクネスの疑問は俺も気になっていた事でもある。

 

「本当に、全然こっちの話を聞いてくれなかったのですよ。正直爆裂魔法で吹き飛ばしてやりたいところだったんですが…なんというか実力だけは本物のようでして隙が無かったんです。仕方ないので『今のメンバーと相談してから決めます』と言ったら、明日ギルドで会おうという約束を勝手にさせられまして。私だけではあの手の人物を相手に説得出来そうもありません…皆さんを巻き込むのは非常に心苦しいのですが、一緒に来て貰えないでしょうか?」

「分かった。私に任せておけ、その恥知らずにしっかり話をつけてやろう」

 

 真っ先に返事をしたのはダクネスだ。

 仲間想いなのは分かるけど、ぶっちゃけダクネスには向いてないな。説明を聞いてるだけでも胸糞悪い奴だし、ダクネスがそういう相手への沸点は低いのは今までの経験で分かってる。多分キレて滅茶苦茶になるのが関の山である。

 

「あの娘が送ってきたのがどんなのか、このアクア様が吟味してあげましょう。話以上のマヌケだったらエリスを通して文句言ってあげるわ」

 

 お前も黙っててくれると助かる、いつもは女神女神と叫んでも誰も信じないけど今回みたいな転生者が相手だと面倒な事になりかねない。そして無関係なエリス様を巻き込まないであげて欲しい。

 

「すみません…私がしっかり断れていれば、きっと…その、不快な思いをせずに済んだのに…」

 

 床に目を落としながら話すめぐみんはとても悲しげだ。

 どうやらめぐみんが一番気に病んでいたのは、俺たちとその男を会わせてしまう事みたいだな。恐らくだが、ここで言えないくらい…もしくは思い出したくも無い事も沢山言われてきたのかも知れない。だったら、なおさら一人で行かせるわけには行かない。

 

「気にするなって。さっきは売り言葉に買い言葉で酷いこと言っちまったけど、うちのパーティーにふさわしい魔法使いはめぐみんだけだよ。そんな勘違いヤローになんか死んでも渡したりするもんか」

 

 俺は肩を落とし、うつむいたままのめぐみんの頭をポンポンと撫でる。

 

「…カズマ」

 

 めぐみんは頬をほのかに染め、微かに潤ませた瞳で俺をじっと見上げてきた。…なんか、凄い恥ずかしいセリフを言ってしまったような気がする。

 

「ほぉ…そういえば以前私も似たようなことを言われた気がするな、なんだかんだ言って一番仲間想いなのはカズマなのではないか?」

「うんうん。そうよね、カズマはツンデレだからね。…ところでそういった類の事私言われたことないんだけどなー?」

 

 チラチラと催促するようにアクアが俺に目線を送ってくる。俺がアクアに向き直りじーっと顔を眺めていると、その顔は無駄に期待に満ちた表情へと変わっていった。

 そうかそうか、そういえばお前相手にはそんな事言った事無かったよな。俺はアクアにに対してさわやかな笑顔を向けながら。

 

「チェンジ」

「なんでよ!?チートなんかより私を連れてきて良かったとか!たまにはデレなさいよー!」

 

 お前相手にそんなこと…絶対にありえないだろう。

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