この素晴らしい街に祝福を   作:ぶたはこ

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2話

 めぐみんの引き抜き騒動の翌日、俺達はギルドに向かって歩いていた。理由は当然、勘違いロリ野郎との気の乗らない話し合いのためである。

 

「しかし、話し合いだけならば別に装備を整える事も無かったのではないか?」

 

 ダクネスの言うとおり、俺は弓に刀とその他アイテムも万全だ。他の三人にしたって元々装備品が少ないアクアやついでに爆裂散歩に行く気のめぐみんはさておき、ダクネスにはしっかり鎧を着こんで貰っている。

 

「いやまぁ、折角ギルド行くんだし。たまにはクエスト受けてもいいかなってな…」

「おお!?まさかカズマからそんな言葉が出るとは思わなかった。最近は金に不自由が無いからわざわざ危険な事をする必要は無いと、ソファーにしがみつくのが常だったというのに」

 

 あんまりなダクネスの物言いだが、事実なので何も言い返せない。でも実際行く必要は無いんだよ。無いんだけどさ…。

 

「わかった!あんまりにもサボりすぎてたから、私たちに愛想尽かされるかも…なんて不安になったんでしょ」

「あり得ますね、引き抜きの話にも一番動揺していましたし。自分以上に良い冒険者が居たら本当に移ってしまうかもと、危機感を抱き始めたのかもしれません」

 

 アクアとめぐみんも煽るように言ってくるが、相手にしないように歩を進める。

 ただの気まぐれだ。俺は他人からの評価や評判なんかに左右される男ではない。

 

「…ん?」

 

 ねーねーとしつこく絡んでくるアクアを無視して歩いていると、何か変な音が聞こえたような気がした。

 

「どうした?」

 

 急に足を止めた俺にダクネスが尋ねてきた。

 他の二人も俺を見つめて、俺の説明を待っている。

 

「いや…そこの路地からなんか聞こえたような」

 

 俺は音がした気がした路地へ近寄り、そーっと覗き込む。

 

「…うう」

「ダストっ!?」

 

 そこには壁にもたれて座り込むダストが居た。

 その顔は目も当てられないほどに腫れていて、咳込みながら呼吸をする姿が痛々しい。

 

「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 すぐに駆け寄り声をかける。しかしその有様は触るのもためらってしまうほどだ。

 

「カズマ…か?」

 

 目も辺りも真っ赤に腫れている…きっと目が開けられないのだろう。

 俺の声に何か答えようとしているみたいだが、ほとんど声になっていない。 

 

「アクア!ヒールだ、早く回復を!」

 

 言って後ろを振り向くと、皆が駆け寄ってきていた。皆ダストの姿を見て、思わず息を呑んでいる。

 

「わ、わかったわ!『ヒール!』」

 

 すぐに我に返ったアクアの手が光った。

 その光はダストの全身を包み込むと。

 

「お、おおお!?」

 

 ダストの傷がビデオの逆回しのようにあっという間に治っていく。

 ダストは信じられないという顔で、自身の体を見たり触ったりして確認している。

 

「どう?まだ痛むところはあるかしら?」

「いや、ぜんっぜん!すげぇ!こんな回復速度のヒール初めてだ!」

 

 実を言うと、俺はアクアがヒールをかけている場面を見る機会はあんまり無い。大体俺が即死して、戻ったときには回復は終わっているからだ。しかし、ダストの驚き様を見るに本当に回復の腕はピカイチのようだな。

 

「どうよ!私の回復魔法の凄さがわかったでしょ?伊達に毎回えらい死に方をしてるカズマを完璧に治してるん訳じゃ無いんだから!ねぇねぇ見直した?見直した?」

 

 アクアはうざったい程にドヤ顔で踏ん反り返っている。

 もっと褒めろというアピールなんだろうが、逆効果でしかないぞそれ。特に何もしなけりゃ、素直に褒めてやるのもたまには良いと思うんだけど。

 

「それで、ダストはなんでこんなところでボコボコにされてたんだ?」

「ちょっと、褒めなさいよ崇めなさいよ。ご褒美に後でシュワシュワおごってあげるーとか、なんかあってもいいんじゃない?」

 

 流石に無視して話を進めることは出来ないか…まあ実際役には立ったことだし。つーかそういうことをわざわざ要求してくんな。プラスに傾いた評価を一気に逆転させる事に関しては天才だなコイツ。

 

「わかったわかった。クエスト前だからシュワシュワはだめだけど、昼飯はアクアの分を一品多めに頼んでやる」

「やった!」

 

 チョロイな。しかしダストのあの傷がおかず一品か…そりゃあ冒険者稼業なんて怪我は日常的な物だし、その怪我も今みたく魔法とかで治るのは早いけど。あれだけの怪我にも関わらず扱いが軽すぎるような気がしてならない。俺以外は一回だけとはいえ、寿命や病気以外なら生き返れるし。

 

「いやーまいったまいった!いつも通り駆け出しの冒険者にちょっかい出してたらそいつがえらい強くてさ、もう成すすべも無くぼっこぼこ。中堅冒険者としては、ルーキーにされるがままってのは情けないもんだぜ」

 

 ダストは立ち上がって、服についた土やらをはたきながら事情を話している。

 …あまりの自業自得っぷりに心配したのが損に思えてきた。

 

「お前という奴は…いい加減そんなマネはやめろ。私の立場からすればあまり見過ごす訳には行かないのだぞ」

 

 一時は領主代行を務め、現領主の娘のダクネスは街での問題事には敏感だ。

 駆け出しの街と言われるここアクセルは、他の街よりも冒険初心者が多い。悪評が広まるのはできるだけ避けたいところだろう。

 

「へん、右も左も分からない新人に世間の厳しさってのを教えてやってるだけだよ。誰も彼も新人だからって甘やかしてちゃ、いざって時に苦労するぜ?あ、助けて貰ったところで悪いんだけど金貸してくんね?さっき絡んでたのも、教育費ってことで飯でも奢って貰おうって考えだったんだけどさ」

「清々しいほどのクズですね、というか仲間に頼めばいいのではないですか?」

 

 先ほどから静かだっためぐみんからの鋭い指摘だ。

 実際ダストはとあるパーティーに属している。以前ダスト以外のメンバーと一緒にクエストに行ったことがある身としては、中々気さくで良い連中だったはずだが。

 

「それがリーンのやつが厳しくてな。自分が貸したりしないどころか、他二人にも金貸すなって言い含めてんだ」

「なんか問題でもあったのか?パーティー内での金の管理ってそれぞれだけど」

 

 ちなみに俺達の基本は山分けだ。クエストや魔王軍幹部相手の報酬は等分。しかし俺がバニルに売ったりして得た個人の儲けは俺だけの物と、パーティーで動いたかどうかで決めている。

 

「最初は共通で考えてたんだが、俺がガンガン使い込んじまってな。で、別々に管理しようと山分けにしたらあっという間にすっからかん。あとはまぁ…リーンとテイラーとキースは勿論、他にも色んな所で借金が…」

「ただの自業自得ではないか!素行も悪ければ金の管理もできんのか!」

 

 あまりのダメっぷりにダクネスが切れた。

 というかダクネスって、金遣いが荒くて『生活費をその体で稼いで来い!』とか言うぐうたら人間が好みじゃなかったっけ?意外とダストと相性いいんじゃないか?

 

「ダクネス、お前ダメ人間が好みなんだろ?こいつピッタリじゃないのか?」

「確かに、自堕落だったり浪費家だったりとダクネスの好みに当てはまりますね」

「お前って俺みたいなのがタイプだったのか!?なんだよー早く言ってくれれば良かったのに」

 

 ダストは期待に満ちた目でダクネスに手を差し出した。…両手を揃えて頂戴のポーズである。ある意味すげぇなコイツ。

 

「いや、コイツは無いな。ダメ人間であることはまぎれも無い事実だが、私の琴線には届かないダメさだ。正直嫌悪しかない」

「んだとコラァ!」

 

 真顔で答えるダクネス。だからその基準がまったくもって理解できないんだっての――――。

 

 ――――ギルドまでの道。俺とダストが並んで先行し、他の三人は後をついて来ている。

 

「へへっ、悪いなカズマ」

「気にするな、その代わり例のアレ…頼んだぜ」

「おう任せとけ」

 

 俺とダストはガッっとこぶしを付き合わせる。

 漢同士の固い約束により、ダストにはギルドについたら飯を奢ることになった。ダストの腹を満たす代わりに、俺は心が満たされる。まさにwinwinの関係だ。

 

「ふむ、あれが男の友情というものなのでしょうか?少々理解できないところはありますが、少し羨ましく思えてしまいますね」

「私たちとも気の置けない関係を築いているように思えるが、やはりそこは男女の壁というものがあるのだろうな」

「そんなに美しいものかしら?なんか不穏な雰囲気が見え隠れしてるんだけど」

 

 聞こえるか聞こえないかという感じで女性陣の会話が聞こえてくる。

 こんな時だけ無駄に鋭いアクアは、世の中知らないほうが良い事があるということを知って欲しい。はたから見れば困ってる悪友に渋々ながらも飯を奢るという、どっかの青春ドラマみたいなワンシーンなのだから。

 

「じゃ、俺はお先に」

 

 ギルドに着くなり、ダストは食事カウンターへと歩いていく。

 それを軽く手を挙げ見送ると、まず本来の目的を果たすためギルド内を見渡す。チート持ちの日本人がアクセルに留まる理由なんて普通は無い。俺以外に日本人顔が居るならば、目立つしすぐ見つかるはずだが…

 

「めぐみんちゃん!待ってたよ!」

 

 周りを気にしない大声を張り上げたのは予想通りの背格好の男だった。

 年齢的には俺の少し上みたいだけど…コイツ相手に敬語とか考えたく無いな。事前情報の時点で残念なのは分かってたけど、先頭に立っていた俺を完全スルーして真っ先にめぐみんに声をかけやがったぞ。

 

「この人達が今のパーティーメンバー?そこの男はともかく、そっちの女の子二人も美人じゃん!どう?ソイツなんて捨てて三人とも俺と一緒に王都へ行こうよ」

 

 本当に周りの目ってもんを考えて欲しい。そんな大声で手を振りながら近づいてくんなよ。

 アクアはミツルギの奴を引き合いに出していたけど、こんなのと比べたらミツルギが可哀想に思えてくるぞ。なんというか…まとう雰囲気から喋り方、態度、表情その他もろもろに至るまで全てが不快に思えてくる。これはよくめぐみんも切れなかったと、褒めたくなるレベルだ。

 

「もう話はついてるんだよね?じゃあ高難度のクエストでもなんでも受けてきなよ。まずは僕の実力を見せてあげるからさ!あ、お前はとっとと消えてくれよ、邪魔邪魔」

 

 奴は俺に向けてシッシッと手を振った。

 もう怒りよりも、同じ日本人として情けなさがこみ上げてくる。

 

「俺はパーティーのリーダーのサトウカズマだ。めぐみんから話は聞いているから、代表して俺が答えよう。悪いが、話し合いの結果めぐみんも含めメンバー全員移籍の意思は無いんだ。もしパーティーメンバーの募集がしたければ他を当たってくれないか?」

 

 怒りを抑え、出来る限り丁寧に対応してやる。

 こういう手合いは感情的になった時点でこちらの負けだ。ネトゲでたまに会う、地雷相手に培った会話術で丁重にお断りしよう。

 

「サトウカズマ…?ふーん、そういうことね。あんたもチート持ちってことか」

 

 目に見えて不機嫌な視線で俺を上から下まで観察してくる。

 俺はあえてフルネームで自己紹介をした。同じ日本人の転生者なら、名前を聞いた時点で気付くと考えたからだ。

 

「その割には弱そうだな。お前は何を貰って来たんだよ?」

「さてね、ある意味切り札ともいえる物だし。そうやすやすと教えられないな」

 

 こんな質問にはまともに答えてやる義理も無い。こっちとしては警戒さえしてくれれば目的達成だからな。俺が自身と同じくらいの力を持っていると錯覚してくれれば、こいつもうかつに手を出しては来ないだろうという作戦である。

 しかしコイツは、俺の答えにますます不機嫌になったようだ。

 あーあー…コイツそういう手合いか、自分の意見が通らないと駄々こねる奴。ネトゲの時ギルドに同じのが居やがったよ、粘着してきてうっとうしかった。

 

「あ!てめぇ!」

 

 突然の声にそちらを見ると、そこには定食の乗ったお盆を片手にダストが居た。

 

「あん?さっきのザコじゃん?…って、結構ボコったのに傷消えてるし」

「んだと!さっきは油断したがヤルかコラ!」

 

 突如始まった口論にギルド内の注目が集まる。

 ダストはお盆を近くのテーブルに置くと、こっちに早足で向かってきた。

 

「もしかして回復魔法ってやつで治してもらったの?いいね、僕って強いからかけて貰った事無いんだ。一度見てみたいからもう一度やられてくれない?」

「やれるもんならやってみろ!今度は容赦しねぇぞ!」

 

 一触即発な雰囲気にギルド内の緊張が高まる。ダストが他人に絡んでいるのはいつもの事なので、他の冒険者達は『いつものことか』と傍観していた。

 さっきのダストの惨状はこいつのせいだとしても、そのきっかけを作ったのはダストだから本来俺が口出しすることでは無い。けど…どうしても確認したい事ができてしまった。

 

「おいお前、もしかしてダストとの喧嘩に力を使ったのか?」

 

 俺達転生者は、こっちの世界に来るにあたって特別な物を持ってこれる。持つだけで強くなって大抵の敵は一撃なんていう魔剣や、使いようによってはあらゆる富を産むアイテム。

 それらは基本的に、この世界に来た転生者が”魔王軍を始めとするモンスター”相手に即戦力となるように与えられたものだ。だがこいつはそんな力を…。

 

「使ったよ、それがなに?」

 

 普通の人間相手に、躊躇なく使ったというのか。

 

「なんの文句があるんだよサトウカズマさんよ、貰った力を有効利用して何が悪い」

 

 ダストから俺に向き直ると、臆面も無く言い放ってくる。

 ギリっという音が聞こえた。無意識のうちに歯を食いしばっていたようだ。俺の怒りを感じ取ったのか、奴はニヤリと笑うと。

 

「僕と戦うかい、サトウカズマ?正直そこのザコは話にならなかったし、同じチート持ちなら少しは楽しめそうだ」

 

 雑魚呼ばわりされてダストは本気でキレているように見えた。

 しかし、すぐに飛び掛かったりしないのは実力差というものを理解しているからだろう。ダストだって馬鹿じゃない、それなりに長く冒険者稼業で食っていってるベテランだ。けどこのままあおられて我慢できるほど安いプライドを持っていない事も、それなりの付き合いでよく知っている。

 

「折角だから賭けをしようよ?僕が勝ったらめぐみんちゃんは貰っていくよ」

「ひっ…」

 

 俺の後ろでめぐみんの小さな悲鳴が聞こえた。

 ダスト、悪いがここは俺に任せてくれ。確かに煽られたのはお前だけどこれは俺達パーティーの問題でもあるんだ。

 それに…なんらかの反則的な強さを持っているコイツみたいな相手には、俺みたいな卑怯な手を容赦なく使えるような奴じゃないと太刀打ちできない。

 

「俺が勝ったら、ダストとめぐみんに土下座して謝って貰うぜ」

 

 俺は小さく『クリエイト・アース』を唱え、手に土を生成する。

 

「別にいいよ、負けるわけがないけ…」

「『ウィンドブレス!』」

 

 生成された土が奴の顔に目掛けて飛び散る。

 目を潰したらバインドで拘束して終わりだ。…だが、絶対に避けられようが無いかに思えた奇襲は。

 

「残像だ」

 

 撒き散らした土は奴を透けて飛んでいった。

 俺はとっさに声がしたほうの腕をガードのために上げる。その瞬間、腕に激痛が走った。

 

「一度言ってみたかったんだよねこれ」

「がはっ!」

「キャー!」

 

 その衝撃を受けきることはできず、俺はギルド内にある柱まで吹っ飛ばされた。

 周辺に置かれた物が派手に音を立てて、近くにいた冒険者からは悲鳴が上がる。

 

「ぐうぅ…」

 

 なんとか起き上がろうとするが、中々起き上がれない。俺を見下す奴の視線が忌々しい。

 

「不意打ちとか卑怯じゃない?恥ずかしくないの?」

「ハッ、チート能力をただの喧嘩に使う奴に言われたくないな。それに俺の卑怯は今に始まった事じゃない、今までもこうやって格上相手に勝ってきたんだ」

 

 ゆっくり立ち上がりつつ考えを巡らせる。

 卑怯と並んで策略は俺の武器だ。まずは奴の能力を知り、その対策を考えなくてはいけない。いまの残像はスキルか?そして今食らったのはパンチだ、ダストの傷も武器によるものじゃ無かった。めぐみんは軽装で武器は持っておらず、後衛職を募集していたと話していた。

 

「…武闘家、お前が貰った能力は格闘の能力だな」

 

 俺が出した答えに奴はニンマリと笑う。

 

「大正解、正確には常人を遥かに超える身体能力だよ。格闘家?そんな下位職業なわけないだろ、僕は上位職業のバトルマスターさ!」

 

 まずいな。恐らく素早さも早く、さっきの回避スキルもある。下手にバインドを放っても魔力の無駄になるだろう。それにただのパンチがとんでもない威力だ、近寄られたらまず勝てない。

 

「なんか企んでるね?さっきの奇襲といい、隠してる能力が関係あるのかな?」

 

 だが、奴は近寄ってこなかった。

 本当はそんなチート能力俺には無いが、警戒してくれる分にはありがたい。さっきの伏線で上手く勘違いしてくれているようだ、何とか隙をついて…。

 

「まあ、近寄らなくても問題ないけど」

 

 そう言って奴は俺に向けて拳を突き出す。

 

「がっ!?」

 

 それと同時に胸に衝撃が走る。なにしやがった!?

 

「『ソニック・ナックル』、離れた場所にパンチを飛ばすバトルマスターのスキルだよ」

 

 余裕のつもりか、突然の攻撃に戸惑う俺にご丁寧に解説してくれる。

 

「チート能力の強さは僕も知ってるからね、とりあえず弱らせて貰うよ!」

「ぐっ!がっ!ごふっ!」

 

 連続で飛んでくる奴の攻撃は、威力こそ素手での攻撃に劣るが十分な威力だ。なんとか避けたいところだが、俺は下手に動くことが出来なかった。

 

「あ、あああ…」

 

 俺の近くには、先ほど悲鳴を上げたであろう女の冒険者が座り込んでいる。いきなり俺が吹っ飛ばされて来たので逃げそこなってしまったのだろう。俺がもし避けたりすれば、奴の攻撃が周囲に及んでしまうかもしれない。

 

「どうしたんだい?避けないでガードしてるだけじゃないか!」

 

 くそっ!あいつ周りが目に入ってないのかよ!

 とにかく耐えることしかできない、腕や足で頭や急所をガードしつづけていると、

 

「ちっ魔力切れか、バトルマスターは最大魔力の低さが問題だな」

 

 残像に加え飛ぶ打撃を連発したのがあだになったな。これで一方的にやられるのだけは何とかなるかもしれない。とにかく立ち上がって何か牽制を…。

 

「もういいや、直接ボコボコにしてやるよ!」

「がはっ!」

 

 とんでもない衝撃に目がチカチカする、いまのは頬をぶん殴られたんだろうか。口の中に血の味が広がっていく。

 

「オラオラオラ!やられてばっかりじゃないか!お前の能力を使ってみろよ!」

 

 もう何がどうなっているのか分からない。顔、胸、腹と次々に痛みが走っていく。

 

「フィニッシュ!」

 

 アゴをかち上げられて俺の体が宙を舞う。こんなぶっとび方、格闘ゲームの中だけかと思ってた。

 

「ぐはっ!」

 

 俺の体は受身も取れず床に落ちてバウンドする。

 奴は追い討ちとばかりに素早く近寄ると、俺の頭を”ダンッ”と踏みつけてきた。なんとかして反撃をしてやりたいが…体が思うように動かない。体中が痛くて、どこが痛いのかが分からないくらいだ。

 せめてもの抵抗に、顔だけをなんとか動かして靴底ごしに奴の顔を睨みつける。そんな俺の視線を受けて、奴は醜悪な笑みを浮かべていた。

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