この素晴らしい街に祝福を   作:ぶたはこ

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エピローグ

 あれから数日、俺はいつも通りの生活を取り戻していた。

 といっても、完全に元通りという訳にはいかない。というかあんだけ恥ずかしい事をぶっちゃけて以前のままになんてなれるはずが無い。正直いまだに皆の顔をまともに直視できなかったりする。けど後悔をしている訳では無く、むしろスッキリした気分だ。あとはまぁ慣れるしかないんだろう。

 そんなある日、朝目覚めると窓にエリス教の紋章の入った封筒が窓に張り付いていた。中を見てみると、『会って話がしたい』というクリスことエリス様からのお誘い。あの時のお礼を改めてしたかったところなんで願ったりかなったりである。というわけで、今日は指定された場所である喫茶店に来た次第だ。

 

「…必死の抵抗を試みるも、そのままジャイアントトードに一飲みにされてしまいました。その後の女神の裁定では素行の悪さから転生の権利を剥奪、いまは地獄にて魂の浄化を行っている事でしょう」

「…そうですか」

 

 そこで聞かされたのは例の奴の顛末だった。

 

「カズマさんにとっては思い出したくない事でしょうが…知らせるべき事だと思いましたので」

 

 クリス…いやエリス様の顔が申し訳なさそうに曇る。

 今日のクリスは完全にエリス様モードであり、活発そうな見た目に反した口調のギャップがなんともいえない感じだ。

 

「いえ、教えて貰ってありがとうございます。確かに俺は知っておくべき事でした」

 

 あいつがどんな形でこの世界を去ったのかはさておき、地獄行きになったというのはちょっと驚いた。そうか…悪い事をして死んだ奴はそういう流れになる訳か。

 

「それと…あの時は場を収めて貰ってありがとうございました。おかげで俺は…最後の一線を越えずに済みました」

 

 周りの目が無ければ土下座して感謝するところだが、場所が場所なので深く頭を下げる。

 

「…いえ、こちらこそありがとうございます。カズマさんがあの人を抑えて下さったおかげで、ある程度自然を装って力を封じる事が出来たのですから。…むしろ私は謝らなくてはいけません、本来ならばカズマさんがあんなに傷つく必要は無かったのに」

 

 そう言ってエリス様はまたも表情を曇らせる。

 

「エリス様が謝る事じゃ無いですよ、俺は俺がやりたい事をやっただけですし…ん?本来は?」

「はい、私が持ち主の居なくなった神器を回収しているのは知っていますよね?それと同じく、授かった能力を間違った形で使っている転生者からその能力を奪うというのも私の役目なのです。あの人も少々悪い噂を耳にしていたので、確認をしようとしていた矢先にあんな事になってしまったのです」

「…いやほんと、エリス様って働き過ぎじゃないですか?」

 

 流石国教として崇められているだけあるなぁ…何故か宴会芸に磨きをかけようとしているうちの女神様も見習ってくれないものか。

 

「あっ!能力を奪うと言えば…アクア先輩の事は責めないであげて下さいね」

「えっ?」

 

 ちょうどアクアの事を考えていたのでちょっとびっくりする。アクアの事を責めるって何を?宴会芸の事じゃ…無いよな。

 

「ほら、アクア先輩は『能力を奪う事は出来ない』って言っていたでしょう?あれは先輩が『与える側の女神』だからなのです。なので本来は神器の能力を封印することなんて出来ないはずなのですが…何処でそんな権能を身につけたのやら…」

「ああ…あの時の」

 

 与える側の女神…か。エリス様の言う通りなら実際そうなんだろう。つまり、あの時俺がアクアに能力の封印が出来るか問いかけたのは俺の勘違いだったって事だ。神器の封印の件でてっきり似たような事が出来ると思い込んでしまっていた。エリス様は若干呆れ顔をしているけど、アクアが謎技術を持っている事は今に始まった事でも無いし。多分気まぐれか思い付きで習得でもしてたんだろう。

 

「別にアクアを責める気なんて無いですよ。あいつはあいつなりに頑張ってくれたんで。それを言うなら神器や能力代わりに俺が連れてきた事自体がイレギュラーだったでしょう」

 

 そのおかげか、俺は何度死んでも生き返れるなんてチートじみた事が出来るようになっている訳で。本当に、色んな意味であいつと一緒にこの世界に来れて運が良かったのかもしれない。

 

「今回の事…そりゃあ痛い思いもしたし辛い事もありました。けど、それだけじゃなくて良い事も沢山あったんです。実は先日ギルドに宴会の支払いに行ったんですけどね、あの時参加してた奴ら…自分が飲み食いした分以上の代金をギルドに渡してたんです」

「飲み食いした以上の…?」

「ええ…なんでも街を救ったお礼にとか言って、余った分は俺に渡すようにって置いてったらしいんですよ。俺の方こそ皆に救って貰ったのに…仕方ないから冒険者達の為になるよう使ってくれって、持って来た金も合わせて全額ギルドに寄付してやりましたよ」

 

 エリス様は俺の話を聞いて少し驚きの表情を見せた後、とても嬉しそうに微笑み始めた。

 

「ふふっ、それはそれは…カズマさんも街の冒険者も流石ですね」

 

 そんなエリス様の笑顔を見ていたら、俺も同じように笑い始めていた。なんというか、勝手に顔がにやけて仕方ない。

 

「…サトウカズマさん、一つお聞きしても良いですか?」

「なんでしょう?」

 

 エリス様は手を前に組み、目を閉じると。

 

「異世界から転生してきた貴方にとって、この世界は楽しさや喜びと同じくらい怒りや哀しさを感じる事があったでしょう。いつだったか…この世界からの転生を希望された事もありました。けど今同じ事を聞いたら、きっと別の答えが返ってくるんでしょうね。サトウカズマさん…この異世界という場所で、貴方は今幸せですか?」

 

 何かと思えばそんな事か。そりゃあ辛い事も、理不尽に思う事も、痛い思いも沢山してきた。けど、答えはもう一つしか無い。

 

「この素晴らしい世界で、一番の幸せ者だと思います」


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