監視者がへたり込んでいる戦士に話し掛けたのを見ると、私達は通路の椅子に座っている老婆に話し掛けた。
「すまない、そこの老婦の方。少しよろしいだろうか」
「おお、これはこれは灰のお方。婆めはこの祭祀場の侍女」
「侍女さん、ですか」
「はいですじゃ。武器や防具、道具や魔法の類⋯⋯灰の方々の使命、そのために必要な諸々を、用立てますのじゃ」
「ほう。しかしタダではないのだろう? 一体どんな対価を支払うのだ、婆よ」
「もちろん、婆めも不死。只ではありませんがの。灰のお方、ソウルを奪いお持ち帰り下さいませ。それこそが、貴方様の生業ですじゃろう? イッヒッヒッ⋯⋯」
「あ、あはは⋯⋯」
祭祀場の侍女は少々気味の悪い笑い声を上げる。修道女はそれを見て顔を少し引き攣らせた。
「ふむ。それでは早速何か買わせて戴こう。何があるんだ」
侍女は足元に広がっている複数の商品を並べる。ダガーに、シミター⋯⋯金色の粉と魔法や奇跡のスクロール。他にも色々ある。
そんな中でも興味を持ったのは毒々しい色をした苔の塊と、どこかの鍵。そして⋯⋯
「⋯⋯これは?」
「それは『残り火』。英雄たちの内にある、火の無い灰たちが終に得られなかったものですじゃ」
「ふむ⋯⋯」
⋯⋯何故だろう。この残り火とやらに惹かれるのは。火の無い灰が得られなかった、というのが関係しているのだろうか。
「これを買おう。それとこの苔の塊と鍵もだ。これは何だ?」
「それは『毒紫の苔玉』。体内の毒の蓄積を減らし、解毒するもので、そしてこの鍵はあちらにある塔の鍵ですじゃ」
「成る程。では対価を支払おう」
「分かりました、ソウルを戴きますぞ」
侍女が私達に手を翳すと、身体から白い粒子⋯⋯ソウルが流れ出る。それは侍女の身体に吸い込まれ、ある程度の量が出ると侍女は手を降ろした。
「灰のお方、またソウルをお持ち下さいませ。アハハ⋯⋯ッ」
侍女から買い物をした私達はそこから離れ、次は通路一番奥の鍛冶職人に話し掛ける。
「ん? よう、新顔だな。俺は、この祭祀場の従僕、アンドレイ。見ての通り、武器を打つ鍛冶屋さ。あんた、薪の王を探すんだろう?」
「ああ」
「それは、簡単な旅じゃあない。きっと、強い武器が必要になる。だから、俺にあんたの武器を鍛えさせてくれ。俺は鍛冶屋。それだけが生きがいなのさ」
「分かった。だが、鍛えると言っても何かを持ってこなければならないのではないか?」
「ああ。武器を鍛えるやり方は、大きく2つある。単純な強化と、変質強化だ」
そう言ったアンドレイは三本のロングソードを取り出す。
「これは何にも手を加えてないロングソード。これは一度強化した物。そしてこっちは炎の貴石で変質させた物だ。強化の方は単純だ。武器の性質を変えずに、その武器を強くする」
アンドレイは無強化のロングソードを適当な鉄屑の棒に振り下ろす。鉄屑は傷付いたが、斬れるまでには至らない。
そして次は強化されたロングソード。それを鉄屑に振り下ろすと、鉄屑はスパンと綺麗に斬れた。
「そして変質強化は、武器の性質を変える、高度な鍛冶だ」
次にアンドレイは三本目のロングソードを振るう。すると火の粉が舞い、炎の力が付与されていると見て分かった。
「強化には楔石が、変質強化には貴石が、それぞれ素材として必要だが、そこから先は俺の鍛冶屋の仕事。遠慮なく任せてくれればいいさ。武器は戦友。厳しく鍛えれば、決してあんたを裏切らないぜ」
「成る程⋯⋯では楔石とやらが集まったら頼むことにしよう」
「ああ、あと1つ伝えておくことがあった。貴石による変質強化には、種火と呼ばれる鍛冶道具が必要なんだが、幾つかの特別な貴石はここにある種火じゃあ手に負えないんだ」
「種火⋯⋯」
「鍛冶屋としちゃあ情けない話が、こればっかりはどうしようもない。すまないが、あまり責めんでくれよ。こう見えて繊細なんだ。ハハ⋯⋯ウワッハハハ」
「ああ、分かった。その種火とやらを見つけたら持ってくる事にする」
私達はアンドレイと別れ、中央の広場に戻る事にする。監視者の方も話は終わった頃だろうか。
~監視者 side~
「さて、と⋯⋯」
取り敢えず竜狩り達と離れた俺は広場の階段でへたり込んでる男の隣に座る。
「誰だ⋯⋯」
「お前の同士、って言えば分かるか? 脱走野郎」
「っ⋯⋯そうか。お前も死に損ないになったのか⋯⋯フンッ⋯⋯フッフッ⋯⋯」
男は俺の姿を見ると諦めているかの様な笑みを浮かべる。
そう。こいつは俺と同じくファランの不死隊に所属し、そして不死隊の使命から脱走しやがった野郎だ。名前をホークウッド。
ホークウッドが脱走した理由は、古竜の高みを目指したからだ。竜の力を己の物とする、古竜の高みを。
「で? テメエは古竜の高みとやらを見つけたのか? 使命から逃げまでしやがって」
「黙りやがれ⋯⋯」
「⋯⋯結局見つからなかったんじゃねえか。それで今度は火の無い灰の使命から逃げやがんのか?」
「笑わせるな。死にきることすら出来なかった半端者に、火を継いだ英雄様をカビた玉座に連れ戻せなどと⋯⋯俺たちに何か出来るものかよ」
「チッ⋯⋯ああそうかよ。じゃあな、テメエと話す事は何もねえ。精々、そこでへたり込んでいやがれ」
「フンッ⋯⋯お前もいつか分かるさ⋯⋯」
俺はホークウッドに蔑んだ視線を向けると、玉座に座っている薪の王に話し掛ける。
「ああ、君が火の無き灰、王の探索者の一人だね」
「おう」
「私はクールラントのルドレス。信じられないかもしれないが⋯⋯かつて火を継いだ薪の王さ。その証拠に、未だこの体は燻りに焼かれている。壊れた体だ。近寄れば君にも見えるはずだよ」
そう言われてルドレスのおっさんの身体を見ると、確かに足が無くなっている。始まりの火に燃やされて無くなったんかな?
「ああ、それともう一つ話しておこう。薪の王となる前、私は『錬成』の研究者だった。ソウルからその特質を凝固させ取り出す⋯⋯かつてクールラントの名を貶めた、禁忌だよ」
「禁忌の業、ってか」
「ああ。だがそれは確かに、得難い力を得る業でもある。錬成炉の多くはクールラントに失われただろうが⋯⋯ここは、あらゆる呪いが流れ着く地だ。君がもし、どこかで錬成炉を見つけたら持ってきたまえよ」
「おう分かったぜ。おっと、そろそろアイツらが戻って来たな。じゃあ錬成炉とか言うやつ拾ったら持ってくるわ。じゃあな、ルドレスのおっさん」
「おっさ⋯⋯」
俺はルドレスのおっさんの玉座から飛び降りると竜狩り達と合流する事にした。
~竜狩り side~
「さて、それでは先に進む事にしよう」
私達は篝火を囲うと、その螺旋の剣に触れる。すると辺りの風景が揺らめき、それと同時に身体が軽くなっていく。
そして次に気付いた時は、祭祀場ではなく小さな一室だった。
「ここは⋯⋯」
「転送されたんじゃねえか?」
「その様ですね」
「むっ。あの扉から出れそうだぞ」
転送先にあった螺旋の剣の|模造品を眺め、そして呪い師の言う扉を開く。
扉の先には建物が広がっており、遙か遠くには城らしきものが見える。
─────ロスリックの高壁
頭に響く言葉を聞きながら少し進むと篝火を見付ける。あの篝火も灯しておこう。階段を降りた私は篝火に手をかざし、火を灯す。
「こんなすぐ近くに篝火があるとは」
「ここを拠点にして進みましょう。右と左、どちらにも道がありますがどうしますか?」
「ふむ⋯⋯今回も一度分かれるか。私は右に行こう。貴公らは?」
「じゃあ私は竜狩りさんに着いていきます」
「オッケー。じゃあ俺と呪い師は左の方に行くぜ」
「あい分かった。では貴様ら、道が続いていたら一度ここで合流するとしよう」
一度二人と分かれた私と修道女は右の亡者が大量に見える道へと向かう。ここの亡者は枝先が人間の様に変異した木に向かって何か祈っている様だ。
「⋯⋯あの木も、火が陰っているからなのだろうか」
「多分、そうでしょうね」
私は盾を構えながら階段を降りる。だがここの亡者達は私達に興味が無いのか、襲ってくる気配がない。
「ふむ⋯⋯ここの亡者達は襲ってこない様だ。警戒に越した事は無いが─────」
刹那、余所見をしていた私の耳に亡者の叫び声が聞こえる。振り向くとランタンを持った亡者が叫び、周りの亡者達が立ち上がる。
その手には折れた直剣を持っており、どうやら先程の叫び声で襲撃体勢に入った様だ。
「⋯⋯先程の言葉を撤回する。どうやら私達を襲う気の様だな」
「この量、少々時間が掛かりますね」
私達は襲い来る亡者へと武器を振り下ろす。ここの亡者達は防具を着ていない。故に斧の振り下ろし一回で簡単に倒せる。最初は数が多く手こずると思っていたが、予想外に早く終わった。
だが今回は防具や武器が充実していない亡者が多かったからだろう。この先、兵士亡者が多く出れば多少なりとも手こずる事になるだろう。
「良し、先に進もう」
亡者を掃討した私達は先に進む。ランタン持ちが出てきた階段の先は薄暗く、大量の物が置かれている。テーブルや椅子が置かれている辺り、ここは兵士の休憩所だったのだろうか。
その中にいるへたり込んでいた兵士亡者を一応殲滅すると、中にあった梯子を降りていく。
薄暗い部屋を抜けると塀に囲まれた通路に出る。目の前には既に槍を持った亡者とクロスボウを持った亡者がいる。
「修道女、貴公はクロスボウを頼む。私は槍をやろう」
「分かりました」
私達は走り出すと修道女はクロスボウ亡者を切り飛ばす。私は槍亡者に突っ込むが、どうやら気付かれてしまった様だ。ウッドシールドを構えられた。
「フンッ!」
私は盾を蹴り、体勢を崩した隙を見て致命の一撃を喰らわせた。
「ふぅ⋯⋯」
「終わりましたか。どうします? ここらで一度戻りますか?」
「⋯⋯いや、もう少しだけ進もう」
今一度盾を構えた私はすぐ近くにある階段を上る。そこは小さな広場となっていて、そこには多数の亡者が歩き回っていた。
「む⋯⋯先程よりも兵士亡者が多いな」
「それに見て下さい、あの長身の亡者。武器はグレートアクスの様ですよ?」
修道女の言葉で気付いたが、確かに長身の亡者が一体紛れている。これといった防具は着けていないものの、手に持っている鉄塊の様な斧は受ければただでは済まないだろう。
「ふむ⋯⋯しょうがない、上は止めて下に進む事に─────」
そう言った瞬間、空が暗くなる。何事かと空を見ると巨大な翼が空を覆っていた。これは⋯⋯まさか飛竜なのか!?
飛竜はその広場の先にある建物に着地すると雄叫びを上げ、口の端から炎を吹き出す。
「っ! 修道女、逃げるぞ!」
「えっ、わわっ!?」
私は修道女を担ぐと階段を降りる。そして次の瞬間、飛竜から炎のブレスが吐かれた。
ゴォオオオッ! という音と共に亡者達が焼かれていく。辺りに焦げた臭いが立ち込み、地面には炎が揺らめいている。
「ま、まさかアレは飛竜ですか!?」
「ああ。まさかこんな場所で出会う事になるとは。このまま進むのは危うい。一度篝火に戻るとしよう」
私はそう言うと飛竜から離れ、監視者と呪い師が待っているであろう篝火に戻る事にした。