「むう、飛竜とは面倒な⋯⋯」
「おいおい、ブレスで通れねえってどうするんだよ?」
篝火まで戻ってきた私達は、既にここに戻ってきていた二人に先程の飛竜の事を話した。二人とも、やはり飛竜の恐ろしさは分かっている様でその話を聞くと焦った様な声色になる。
「なあ、竜狩りっていうくらいだから何か手はねえのか?」
「ふむ⋯⋯斧が届かない以上、竜狩りの大弓で攻撃する手もあるのだが⋯⋯恐らく手痛い反撃を喰らうだろう」
本当なら斧で攻撃したいのだが、相手は建物の屋根の上だ。降りてもこないだろうし、雷の奇跡もある程度近付かないといけない。厄介な場所にいるものだ。
「あの⋯⋯」
「ん? どうした、修道女」
「竜がブレスを吐く間に走り抜けるのは、駄目なんですか?」
ふむ⋯⋯確かに竜はブレスを何度も即座に吐く事は少ない。あったとしてもそれは類い稀な場合だろう。
「⋯⋯なる程、ブレスが再び吐かれるまでの時間に走り抜けるか。あの距離なら全速力で走れば抜ける事も出来るだろう」
「んじゃあ、それでいくか?」
「では貴様らにこれを渡しておこう」
そう言って呪い師が取り出したのは小さな箱に入った赤い玉だった。
「これは『赤虫の丸薬』。これを飲む事で炎への防御力を高める事が出来るぞ。いつの間にか持っていた物でな、恐らく生前に持ってたものだろう」
「む、虫を食うのかよ⋯⋯」
「ちょ、ちょっとそれは⋯⋯」
虫、という単語に反応した監視者と修道女は引いた様な声を出す。炎の防御力を高めるか⋯⋯。
「ふむ⋯⋯」
私は箱に入っている丸薬を一つ取ると口に運んで飲み込む。口に入れた瞬間、なんとも言えない⋯⋯少し辛みのある味が広がった。
そして飲み込んだと同時に体に赤いオーラの様なものが纏わり付く。これは効果が出ていると考えて良いのだろうか?
「おまっ! マジで飲みやがった!」
「良く飲み込めますね⋯⋯」
「だが飲まなければブレスで焼き殺されるかもしれんぞ? 生きたいのなら我慢して飲め」
修道女と監視者は一つずつ丸薬を取ると、嫌そうな表情をしながら口に入れる。そして二人にも赤いオーラが現れた。
「うげぇ⋯⋯まっず⋯⋯」
「これは⋯⋯何にも喩えがたい味ですね⋯⋯」
「うむ、では吾輩も戴こう」
そうして丸薬を飲み込んだ私達は再び飛竜がいる場所までやってくる。
「よし、まずは私がブレスを誘発させよう。貴公らは一応これを持って待っていてくれ」
「おう、任せな⋯⋯って、重っ! 何だこの盾!」
「こ、これ⋯⋯二人で持ってやっとの重さですよ!? これを片手で扱うなんて⋯⋯」
私は三人に保険として盾を預ける。だがどうやら彼らには重すぎた様で、修道女と監視者の二人で持ってやっと構えている。
「ああ、すまないな。少しだけ我慢していてくれ」
そう言って私は通路の先に出る。すると飛竜が反応し、私に向かってブレスを吐いてくる。
それを見た私は全速力で三人の元に走り、ブレスを回避した。そして盾を返してもらうと
「走れ!」
叫び、未だ地面が燃えている通路を全速力で駆ける。飛竜はもう一度ブレスを吐こうとするが、タメが長い。あれならここを抜ける事が出来るだろう。
「⋯⋯あっ!」
「修道女!」
だが、あと少しで通路を抜けるというところで修道女が転ぶ。どうやらブレスによって焼かれた亡者の死体に足を引っ掛けた様だ。
「くっ⋯⋯」
「修道女、立て! 早く!」
「おいアンタら! ブレスが来ちまうぞ!」
監視者の声を聞いて顔を上げると、そこにはブレスを吐こうとする飛竜の姿があった。私は修道女を抱え込み、盾を構える。
それと同時に飛竜がブレスを吐く。ここからでも分かる熱が私達へと迫った。
『灰よ。業火から身を守る盾を構え給え』
「っ!?」
そして炎が私達を飲み込もうとした時、声が聞こえる。私は自然と体が動き竜狩りの大盾をソウルの業で仕舞い、別の盾を権現した。
その瞬間、飛竜のブレスが私達を飲み込む。監視者と呪い師の叫び声が聞こえる。だがブレスの音であまり良く聞こえない。
暫くすると竜のブレスが止む。それを確認すると修道女を立たせ、二人の元に走った。
「ふぅ⋯⋯」
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
「ア、アンタら無事だったか!」
「ふむぅ⋯⋯竜のブレスを防ぐとは。む? 竜狩り、その盾は何だ?」
呪い師の言葉で修道女と監視者も私の盾を見る。今持っている盾は竜狩りの大盾ではなく、
「これは黒鉄の大盾だ。炎への防御力が非常に高くてな。咄嗟に出したがまさかブレスをも防ぐとはな⋯⋯」
「あ、あの、竜狩りさん!」
「ん?」
「さっきは助かりました! 本当にありがとうございます!」
「いや、別にいい。仲間を助けるのは当然の事だ」
さて、何とか飛竜地帯を抜けた訳だが⋯⋯そのまま階段を上がると少し開けた場所に出る。周りには死体が数体⋯⋯いや、死んだふりをしている亡者だな。取り敢えず処理するか。
そう思っていると前方の塔らしき建物から何者かが現れる。その者は上質そうな鎧に身を包み、片手剣と中盾を持っている。その騎士風の見た目からして、このロスリックの騎士だったのだろうか。
「⋯⋯騎士?」
そう呟いた瞬間、そのロスリック騎士は私達の元へと走り出し素早い攻撃を仕掛けてくる。
「ぐうっ!?」
強烈な一撃。咄嗟に盾で防御したが、それでも分かる一撃の重さ。これを喰らえば一溜まりもないだろう。
「貴公ら! この騎士を倒すぞ!」
私の声を聞いた三人はロスリック騎士を囲う様に動く。このロスリック騎士は動きは素早いが、亡者の様だ。囲まれているにも関わらず未だに私の方に向いている。
「攻撃は私が防ぐ! 隙を突いてこの騎士に攻撃してくれ!」
そう叫び、盾を変えると同時にロスリック騎士が動き出す。私は盾を大きく構えるとシールドバッシュを繰り出した。
ロスリック騎士はその衝撃波で吹き飛び、大きな隙を晒す。
「はぁああああ!」
修道女はその隙を見逃さず、倒れているロスリック騎士を大曲剣で
「いくぜぇ⋯⋯《ソウルの結晶槍》!」
「燃え尽きろ! 《苗床の残滓》!」
そして天高くかち上げられたロスリック騎士に、監視者と呪い師はそれぞれ魔術、呪術を器用に当てる。強力な魔法攻撃を喰らったその騎士は地面に落ちると同時にその動きを止めた。ソウルが入ってきたから倒したのだろう。
「ふぅ⋯⋯何とか倒したか。しかし凄まじい膂力だな、修道女」
「あ、いえ。私の力はそこまで高くないです。ただ⋯⋯この大曲剣を持つと自分でも信じられない強力な攻撃が繰り出せるんです」
「ほう⋯⋯」
一体何なのだろうか。もしや不死の能力か何かか? その武器の扱い方を即座に記憶する、といった様なものだろうか。
「まあ、良いか⋯⋯取り敢えず建物の中に入ろう」
ロスリック騎士を倒した私達は、騎士が出てきた建物の中に入る。ふむ、光が入っていないからかなり暗いな。
すると呪い師がどこから出したのか松明を灯す。火の光によって辺りが少し明るくなった。
「どうだ、これなら少しマシになったであろう?」
「ああ。感謝する、呪い師」
そして先に進もうとすると、左側の暗がりから軽装な亡者が飛び出してくる。私は盾でその一撃を防ぐと亡者を蹴り、大斧で叩き切る。
「ふぅ⋯⋯まさか暗がりに紛れて攻撃してくるとは」
動きも相当速く、武器も短剣だ。もしかしたらロスリックの刺客だったのかもしれない。
そして私達は塔の上に登る階段を見つけ、そこを登ると少し開けた場所の中央に篝火があった。
「む、篝火か」
「やりましたね。少し休憩していきましょう」
私達は篝火を灯し、囲むとそこに座る。今度はここを拠点として動く事にしよう。
「ふい~、ちょっと疲れたな。エストも補充したかった所だし、丁度良かったぜ」
「そんなにエストを消費するとは、何かあったのか?」
「ああ。吾輩達が向かった先だが、なんと人の膿が亡者から現れてな。近くにいた監視者が吹き飛ばされ、エストを消費したのだよ」
「まさか、人の膿が現れるなんて⋯⋯」
「俺も驚いちまったよ。呪い師が炎で動きを止めてくれたから良かったモンを⋯⋯」
そう監視者が言った瞬間、ゾワリと背筋が凍り付く様な感覚に襲われる。
『闇霊 騎士リッター に侵入されました』
『闇霊 北の戦士ノルデン に侵入されました』
その言葉が頭に響いた瞬間、私達はそれぞれ武器を持つ。
「一体何だ!?」
「闇霊!? 侵入者ですか!?」
「おいおい、ちょっと待てよ!」
闇霊、とは何だ? 二人に聞くとどうやら別世界から火の無い灰が私達を殺し『青ざめた舌』とやらを奪い取る為に侵入してくるらしい。
「貴様ら、一旦落ち着け! ここはそこの階段しか入り口は無い。そこに注意しておけば良いだろう!」
呪い師の言葉を聞いた私達は階段方面を警戒する。だが、そこで私はとある疑問を感じた。
「(わざわざ、相手が警戒している場所に殴り込んでくるだろうか? それに、もしも塔の上から侵入していたら⋯⋯)」
そう考えた瞬間、フッと辺りが暗くなる。何事かと見上げると、騎士装備の闇霊が剣を振り下ろしながら落下してきていた。
「っ! 避けろぉ!」
私の叫び声により修道女と呪い師が落下攻撃を回避する。しかし監視者だけが遅れ、攻撃を喰らってしまう。
「ガ、ハァッ!?」
「クッ⋯⋯! 監視者、少し待っていろ! 今回復を─────」
ダメージを喰らった監視者を回復させようとタリスマンを出すと、背後からドンッ! という音がする。今度は何だと振り向くと、北の戦士がバトルアクスを振り上げていた。
「ハァアアア!」
バトルアクスの攻撃が当たる直前、修道女が大曲剣を振り抜きそれを妨害する。私はその隙を突いて太陽の光の癒しを唱えた。
「っ⋯⋯悪い、竜狩り」
「気にするな。貴公ら、二対一で応戦しろ! 私と監視者は騎士リッターをやる! 修道女と呪い師は北の戦士ノルデンを頼む!」
「応よ! さっきの落下攻撃の礼をしてやるぜ!」
「分かりました! 行きますよ呪い師さん!」
「ぬぁははは! 無礼な闇霊に引導を渡してやろう!」
さて、騎士リッターはロングソードと騎士の盾、そして騎士装備の基本的な装備だ。ロングソードは平凡な剣だが、弱点が無いと言える。騎士の盾や騎士装備の性能もそれなりの物だ。注意しなけばならないだろう。
「どうりゃあああ!」
「おい、待て監視者!」
そんな事を考えていると監視者が突っ込んでいく。相手の実力はまだ未知数だ。こうして無闇に攻撃するのは⋯⋯。
監視者は私の制止の声が聞こえていないのか、そのまま大剣を振り回す。だがリッターは器用に回避し、そして監視者が飛び上がり大剣を振り下ろした瞬間⋯⋯
「ぐおっ!?」
「何っ!?」
リッターが盾を振り、監視者の攻撃を
「させるかぁああああ!」
それを見た私は走り出し、大斧を振り下ろす。リッターは流石に盾で受けたくなかったのか攻撃を回避して距離を取った。
「す、すまねえ竜狩り⋯⋯」
「構わん。それと監視者、私に作戦がある」
「おっ、何だよ作戦って」
監視者に私の考えた作戦を耳打ちする。監視者は私の作戦に同意したのか、コクリと頷いた。
「オッケー。それで行くか」
「では、やるぞ」
「あいよ! 頼んだぜ竜狩り!」
私はまず鉄の加護の指輪を別の指輪に取り替えると斧を担ぎ盾を構えて騎士リッターに突進する。騎士リッターは盾を構えたまま動かない。攻撃を守り隙を突く堅実な戦闘スタイルと見た。
「ならば、その守りを崩す!」
私はリッターに近付くと奴が構えている盾を蹴る。奴は体勢を少し崩したが構えを解くには至らない⋯⋯だが、これで良い。
「今だ、監視者!」
「おう! 《ソウルの大剣》!」
私が屈むと同時に青白いソウルの大剣が頭の上を通っていく。その大剣はリッターの盾を弾き飛ばし、奴は大きな隙を作る。
《ソウルの大剣》
おもに魔術剣士のため開発された魔術
ソウルにより大剣を形作り、攻撃する
大剣の姿は一瞬であり、放たれることもないが
その威力は騎士の大剣にも勝るといい
純粋な魔術師も、ときにこれを切り札とする
そしてすぐさま立ち上がると、まず胴体に一撃。そして頭を鷲掴みにして頭部に叩き込む。そして地面に倒れた所に最後の追撃で斧を叩き落とした。
リッターは苦しむ様な素振りを見せると、そのまま赤い霧となって消えていく。どうやら、何とか倒せた様だ。
「うっわ、お前の致命の一撃威力高いな」
「ああ。この指輪を付けていたからな」
私が監視者に見せたのはスズメバチの指輪だ。これを付けると致命の一撃の威力を上げる事が出来る。
「っと、こんな事を話している暇はない。修道女達の元に行かなければ」
「修道女達なら下の階に行ったぜ。早く行こう」
監視者の言葉に頷くと、私と監視者は修道女達がいると言う下の階に向かった。
はいどーも、作者の蛸夜鬼の分身です。今回は修道女のステータスを公開します。
名称・修道女
素性・傭兵
誓約・ファランの番人
《
総 合・210
生命力・45
集中力・28
持久力・43
体 力・25
筋 力・30
技 量・18
理 力・50
信 仰・50
運 ・9
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《武器》
右手1・闇のハーラルド大曲剣
右手2・結晶の聖鈴
左手1・黒騎士の盾
左手2・呪術の送り火
サブ・闇の湿った手鎌(他にも沢山。今後も増えてく可能性有り)
《防具》
兜 ・修道女のフード
鎧 ・修道女のスカート
手甲・グンダの手甲
足甲・溶鉄の竜狩り足甲
《指輪》
・寵愛の指輪+3
・闇の奇手の指輪
・古老の指輪+2
・生命の指輪+3
《魔法》
1・黒炎
2・大回復
3・惜別の涙
《道具》
・エスト瓶
・エストの灰瓶
・花付き緑花草
・協会守りの薄刃
・雷壺
・紐付き黒火炎壺
・決闘の護符
・不死狩りの護符
・七色石
こんな感じですね。それと闇霊の名前の決め方は適当です。リッターはドイツ語で『騎士』という意味だし、ノルデンもドイツ語で『北』という意味です。深い意味はありません。
それでは今回はこの辺で。また今度お会いしましょう!