夜のソラ [完結]   作:ちびっこ

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初めましての方もお久しぶりの方も……ども、ちびっこです。

全8話+おまけです。
書き上がってるので連続更新です。
最終話とおまけは同じ日に投稿する予定です。気をつけて。
投稿時間は作者の気分。
あらすじの注意には目を通しましょう。
この作品を書いた経緯などは活動報告にて。

相変わらず文の初めに空白ないです。嫌いな人ごめんなさい。
少々殺伐としてますが、読み終わった時には私らしい作品と思います。
尚、私の作品なので恋愛要素ありです。
とても読みにくい作品だと思いますが、間違ってない限り直すつもりはありません。私も書きにくかったです。

では最後に私の合言葉を。
『無理と思えばすぐUターン!ストレスが溜まるだけですよ!』


第1話

痛い、痛い、辛い。

 

「あああああ!!!」

 

自分の声なのに、遠く感じる。

 

このまま、わたしは死ぬのかもしれない。死んじゃったら、もう見れなくなるんだ。せっかく夢が見れるようになったのに。わたしじゃない、わたしに似た人の話。面白くて楽しかったのに。

 

ああ。

 

いきたかった、生きたかった、行きたかった。わたしだって……!!

 

ずるい、ズルイ、狡いよ!!

 

どうしてわたしは違うの……?

 

わたしは彼とどこが違うの……?

 

どうしてわたしはここに居るの……?

 

……そっか。そういうことだったんだ。

 

にくい、ニクイ……憎い!!

 

腐ってる、こんな世界消えちゃえばいいんだ!!!

 

「まずい、何が起きてる!?」

「死なせるな、こいつだけは死なせるな!」

 

何かが変わっていく。ああ、でも制御できないね。

 

『何やってんだ。死ぬ気でやれ』

 

もう無理だと諦めかけた時、ふと頭に浮かんだ。

 

こんな姿を見られちゃリボーンに怒られちゃうのかなぁ……?もう少し、もう少しだけ……。

 

「うぁあああああ!」

 

わたしの中の何かが訴える。わたしじゃだめだ。でもわたしじゃなくて、彼なら……。

 

 

 

「ふぅ。なんとか落ち着いたな」

「ああ。一時はどうなるかと思った」

 

はぁはぁと肩で息をしながらも、オレは周りを見渡す。白衣を着た男達がいて、手術台、それに拘束具。……どう考えても真っ黒じゃん!

 

「流石、わしの娘じゃ、よくやった!」

 

どちら様ですか?オレ、こんな太ったおっさん知らない。……それなのに、知ってる。

 

「父様……?」

「そうじゃ、そうじゃ。すぐに外してやるからの」

 

……ああ、違う。オレが違うと言ってる。こんな酷い奴、父親なんかじゃない。

 

拘束具を外された瞬間、流れるようにオレの手は近くにあったメスに手を伸ばし、父親の目に突き刺した。周りが騒ぎ出したから、見慣れない色の炎を使って左手を飛ばし首に斬りつける。もちろん父様と呼んでいた奴の首も。

 

「……何してんだろ、オレ」

 

幾度となく、オレは死体は見てきたつもりだし、自らの手で殺したこともある。けど、こんなに心を動かさず殺したのは初めてだ。

 

「そうだ、子ども」

 

他に子どもがいたことを思い出す。でも記憶が曖昧で場所がわからない。あ、でもオレの超直感がこの隣の部屋と訴える。

 

死ぬ気の炎で身体を強化して、壁を殴る。ガラガラと崩れると、なぜか見覚えのある白衣をきた大人達が見えた。……抑えられないや。

 

せめて苦しまずに逝ってほしいというオレの意思で、さっきと同じように左手で持ったメスで首をかききる。……うん、静かになったよ。

 

「……えっと、大丈夫?」

「クッ、クフフフ」

 

相変わらず変な笑い方だな。……って、なんで!?

 

「あなたも一緒に来ますか?」

「行くわけないだろ」

 

思わずオレはいつものように返した。オレの言葉に驚いているよ。コイツのそんな顔、珍しいななんて思う。

 

って、そうじゃない。オレがチビなのも、性別が……多分女なのも、さっきまで気にしてなかった。死ぬ気の炎や超直感がつかえた時点で気付けって話だけど、本当に何も疑問に思ってなかった。ちょっと前世の記憶が蘇ったぐらいにしか思ってなかった。だって、コイツみたいな奴……輪廻をまわったっていう骸がいたし。

 

「……そうですか。では僕達は行きます」

「あ、ちょっと待って」

 

オレが引き止めると骸は警戒した。そういや、骸から見たら今のオレはよくわかんない存在なんだろうな。特別待遇だったのもあって、直接話したことはなかったけど、存在は絶対知っているはずだから。……あれ?そんなことなんで知ってんだろ。まぁ今はいいや。

 

「多分、大丈夫?」

 

なんで疑問形なんだろうね。口にしたオレでさえ変だと思ったんだから、聞いていたコイツはもっと変に聞こえたんだろうね。笑ってるよ。……まぁおかげで近づけたんだけど。

 

「逃げないで。痛みはないと思う」

「……わかりました」

 

骸の右眼に左手をそえて、微かに残ってる本来の炎を絞り出す。ん?本来の炎?

 

とにかく今のオレでは骸の右目に宿るドス黒いものを全部飛ばすことは出来ない。けど、少しは効果はあるはず。……骸、お前は一人じゃないんだぞ。

 

「わっ、るい、もう、むり、だ」

 

超直感が訴える。もうオレはこの色の炎を出すことは出来ないって。オレの炎が……なんて、ちょっと感傷に浸りながら、オレの身体は無理したのか崩れ落ちていく。けど、その前に骸がオレを支えた。

 

「……あなたは、いったい」

 

なんだろうね。オレは沢田綱吉だけど、この子は誰だろう?

 

「うーん……ソラ。うん、オレのことはソラって呼んで」

「そういう意味ではありません」

 

やれやれって顔をしてるんだろうな。オレ、今骸に支えられてるから見れないんだけど、なんとなくわかる。でも……。

 

「それでいいんだよ」

「……そうですか。では、僕は……六道骸としましょうか」

「ん」

 

返事できたかなと思いながら、限界だったオレは眠りに落ちた。

 

●●●●●●●●●●

 

 

次に目をあけると、オレはベッドの上だった。っていっても、埃っぽかったけど。多分、空き家だな。

 

「……ったく、オレのことまでみる余裕なんてないだろうに」

 

枕元に置かれた札束をみて、思わずツッコミする。もちろん返事はない。オレは一緒に行かないって言ったから。

 

ラッキー、水出るじゃん。なんて呟きながら、シャワーを浴びにいく。井戸水でも繋がってるんだろうなー、あいつ気が利きすぎて怖い、冷てぇとかブツブツいいながら現実逃避する。いやだってさ、オレの身体、女だったんだよ!わかってたけど、わかってたけど!

 

何も考えてなかったから、素っ裸でいることになった。オレ、相変わらずすっげーバカ。野生に戻った気分、自然乾燥って……。

 

「とにかくオレん家、行くかなぁ」

 

今ボンゴレに行くのは怖い。そうなると、やっぱオレん家なわけで。一般人の家に行っても何も出ない気がするけど、多分あたり。超直感って便利だよね、ボンゴレの関係者から逃れられないってことだけど。

 

……それにどう見ても、オレなんだよなぁ。

 

オレの顔なのに女の身体だったんだよ……。骸とも同じぐらいの歳だったし、やっぱオレって沢田綱吉なのかな。でもなぁ、なんつーか骸には名乗っちゃダメだろうなぁと思ってソラって言っちゃったし。

 

「あー、わっかんねぇ」

 

ボリボリと爆発頭をかく。髪が長い分、まだましだけどね。ぴょんぴょん跳ねてるだけで。

 

「うーん、うん。ちょっとは変装しよう」

 

スパルタの中になんで女装があるんだよ!とかいろいろ思ってたけど、やっぱあいつはオレの天使だったよ。歩き方とか仕草とか細かいところですっげー助かる気がする。

 

日本でも目立たないような服にかえて、メシくったらさっさと移動しよう。骸にこんな感謝したことないかもと思いながら、オレは行動にうつした。

 

ってことで、やってきたよ。オレの家。もちろん炎をつかっての移動。見慣れない黒だけど、使って思ったのはすっげー便利の一言。あんま使いすぎると目をつけられそうだけど。いや、もしかしたらもうつけられてるかもね。夜の炎だからねぇ……。

 

「ツッ君〜〜、ご飯できたわよー」

「はーい」

 

……はい、ちっこいオレが居ました。意味わかんねぇ!!

 

「……母さん」

 

ポトっと流れ落ちるのは、なんでだろうね。相変わらずクソ親父はいないけど、2人でも幸せそうに過ごしていた。

 

電柱の頂上で暗闇に紛れてオレはしばらく2人の話し声を聞いていたけど、いつまでもここに居るべきじゃない。調べることがあるしね。

 

……いってきます。

 

この後、オレはいろいろと調べた。この時代はそこまでパソコンの普及が進んでなくて助かった。使うことは出来たけど、入江君みたいに詳しいわけじゃなかったから。後、ヒバリさんがまだ小さくて助かった。人目を忍んで探ってるけど、病院とか侵入してたからいつかバレただろうし。

 

調べた結果、オレは死んでいたことがわかった。ボンゴレに全部消されてるかもって思ったけど、1つだけ書類が残っていたんだ。双子でこの子……うーん、わたしにしよう。わたしは死産だったって。まぁでもこうしてオレは生きてるわけで、どこからかマフィアの手が伸びたんだろうね。

 

「なんて名前だったんだろうなぁ」

 

クソ親父しっかりしろよとか、母さんと……変な感じだけどオレまで被害がいかなくて良かったよ、とか。後からはいろいろ浮かんだんだけど、最初に思ったのはコレだった。……死産だったからさ、名前がどこにも書いてないんだ。やっぱ歴史上の人物に寄せてるのかな。それとも綱吉に寄せるかな。もしかしたら女だから母さんが考えていたかもしれない。

 

「オレは誰なんだろうね……」

 

オレはオレじゃなくて、わたしは名無し。この炎のことを考えると、今さら戻るわけにもいかない。……オレん家なのに、屋根の上で2人の声を聞きながら過ごすしかなかった。

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

特に何もやることもなくて、けど家からは離れる気はならなくて、ただ意味もなく並盛をうろうろする。いや、意味はあるかな。明らかにガラの悪そうな人の財布からはお金とってるし。もちろん変装はしている。といってもそこまで過剰にはしてないけど。たまに女の格好もするけど、基本ボーイッシュ。かわりに髪は伸ばしてる。後は伊達メガネと偽ボクロぐらい。案外これで問題ない。子どもの世界は狭いしね。

 

……なんて思ってた時期もありました。クソ親父め。

 

明らかにテンションが高くなった母さんに気付いたオレは、父さんが帰ってくることがわかった。もちろんオレは海外へ逃げた。超直感のことを抜きにしても、近くで隠れているのは無理。暇だったオレは嫌な予感もしないし、ボンゴレへ遊びにいった。

 

何してるって思うかもしれないけど、あそこはオレの庭みたいなもんだし。まぁ9代目は気付いてるかもしれないけど、わざわざ見にくることはないね。オレもそうだったけど、よくあることだから見に行ってたらキリがないんだよ。誰か来たぐらいならイコール、途中で罠にかかってるか、誰かに見つかってるってことだから。別にオレはお邪魔しただけで、ボンゴレに不利になるようなことはしないから絶対大袈裟に超直感の反応はさせていない。断言できるね。

 

それでも顔をみられちゃまずいから、オレは買った仮面をつけたり、手袋とか、まぁかなり怪しい格好していた。……それはいいんだよ、別に。期間限定みたいなもんだと思ってたから。

 

父さんがいつごろ帰るとかわかんないから、どうしよっかなーと思ってたんだ。調べたりまですると9代目の超直感に引っかかるからさ。これを機に家から離れるっていうのも1つの考えだったし。

 

けど、オレの超直感が反応したんだ。慌ててオレは並盛に帰った。一瞬だからやっぱ便利。すると……なんと母さんとオレを狙った殺し屋とご対面。まじふざけんなって思ったよ。もちろん殺した。

 

それから殺し屋が度々やってくるようになった。家がバレたみたいだけど、クソ親父は気づいていない。殺し屋達はオレがここを守ってると知れ渡ったのか、回数は減ったからまだ良かったけど。でもたまに来るから、オレはその怪しい格好でウロウロするハメに……。

 

しばらくしてから、オレがここに居るから9代目とクソ親父の超直感に引っかからないことに気付いた。オレはやっぱりバカでした。一番悪いのはもちろんクソ親父ね。

 

ちなみに死体処理は復讐者がしてくれる。夜の炎を使って捨てていたら、回収してくれるようになった。多分あんまりオレに夜の炎を使って欲しくないんだろうね。

 

それでだよ。そんな怪しい格好でいると、ヒバリさんに探されるよね。……いや、これはオレがバカなんだけど。

 

お兄さんが京子ちゃんを人質にとられてボコられてたからさ。そんなの見ちゃったら、助けるしかないじゃん。イラっとはしたけど、もちろん殺してはない。オレもその分別はついてる。そこからの情報でヒバリさんが気にしてたっぽい。オレがそのことを知ったのはかなりたってからだけど。

 

完全に興味をもったのは、オレがその格好でヒバリさんの前に出たから。……はい、オレが悪かったです!

 

でもさ、でもさ、あの人絶対体調崩してたんだって!だから気絶させて家に運んじゃった。……そう、気絶させて運んじゃった☆

 

怖い怖い、超怖い。めっちゃ探されています。現在進行形です。けど、裏の世界を知らないヒバリさんに見つかるわけがなくて。これでもオレ、マフィアのボスだったからね。そして現役のヒットマンです。オレってやるじゃんって思っていたら、監視カメラの数がどんどん増えていって笑えなくなった。まじあの人なに、凄く怖いんだけど。

 

おかげで夜の炎をつかった早着替えを覚えたよ。会うたびに復讐者になんとも言えないような目で見られてる気がする。や、目は見えないんだけどさ。それに怒られないし、オレは使うのをやめないよ。

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

時々困ってる人を助けたり、体調の悪いヒバリさんを寝かしつけたり、監視カメラ増やされたり、ヒットマンしていると、いつの間にかオレが中学一年生になっていた。つまり羽のない天使がやってきます。……絶対オレの存在バレるし、屋根の上で寝ることは出来なくなる。それはとっても悲しい。

 

必死に考えた結果、隠さないことにした。どうせバレるし怪しまれるんだったら、いつものように寝てみた。

 

「ちゃおっス」

 

オレはチラっとリボーンを見るだけで、返事はかえさない。そういや、オレが最後に声を出したのはいつだっけ。

 

「おめー、何もんだ?」

 

少し悩んで地声で話す。声の変え方はリボーンに習って出来たけど、多分こいつは気付くだろうし。

 

「……さぁ。一応、ソラって名乗ってるよ」

「そうか」

 

それだけ言ってリボーンはオレん家へ入っていった。それからフラっとオレを見に行ってることにも気付いてるだろうけど、リボーンからは特に何もない。獄寺君をふっかけてくるかなって思ってたのに、ちょっと拍子抜けした。

 

夏休みに入ったぐらいに、リボーンが来て初めて殺し屋がやってきた。いつものようにサクッとメスで首を斬って戻ろうとしたら、オレをリボーンが見ていた。特に声をかけることもなく、復讐者に死体を渡して、いつものようにオレは屋根で寝る。ただリボーンが来たとバレたのか、殺し屋の来る回数が少し増えた。ちゃんと殺してるのに情報が漏れてるってことはボンゴレ内部に裏切り者が居るんだろうね。

 

あまりにも来るからか、またリボーンがオレに声をかけてきた。

 

「おい。ソラ、いつからだ」

「えっと、彼が小学2年生ぐらいだったかな。詳しく覚えてないや、ごめん」

「……おめーが謝ることじゃねぇぞ」

 

すっげー変なの。リボーンがオレを庇ったよ。それぐらい覚えとけって、いつもは蹴っていたのにね。実際、家の中にいるオレは蹴られている。

 

「ああでも、最近は特別。オレがいるって知れ渡ってるたみたいで、月に一回ぐらいだったから」

 

ピクリってリボーンが反応した。オレと同じ考えなんだろうね。9代目にちゃんと対応するように伝えといてねって心の中でお願いする。声に出さないのは、リボーンはちゃんと動くと知ってるから。

 

「……ソラはなんでここを守ってんだ?」

「あったかいから?」

「そうか。情報提供助かったぞ。ちゃおちゃお」

 

この日から、毎日ちょっとずつリボーンと話すようになった。雨の日も来たのはびっくりした。リボーンからすれば、雨の日でもオレがいることの方が驚いたらしいけど。

 

夏休みが終わったころ、ついに接触したのか、ヒバリさんのことも聞かれるようになった。たいていは家の中にいるオレの話だけど。

 

オレ自身のことはあまり聞かない。会話の流れで聞くこともあるけど、基本オレが話せることはあまりない。隠してるというより、ここに居座ってるぐらいの話しかないから。

 

最近はもっぱら母さんがサイフをすられた事件の話。知ったその日のうちにオレが捕まえて、近くにいた風紀委員に突き出したから。ヒバリさんがオレのこと知ってるよね?ってめっちゃリボーンに聞いてくるんだってさ。家にいるオレも被害うけてるみたい。だからなのか、リボーンが言ったんだ。

 

「ツナと会ってみるか?」

「わざわざいいよ」

 

いつかは聞かれると思っていたのもあって、動揺もせずにあっさりと断った。だってなぁ、オレと会ってもなぁ。

 

「それにさ、いつかどこかのタイミングで会うでしょ」

「それもそうか。おめー、ツナには本気で隠す気ねぇみてぇだしな」

 

そうそう、と軽く頷く。裏の世界を知らない母さんには気をつけて動いてるけどね。

 

「ツナのファミリーにならねーか?」

「……ここの家族になら、なりたいかな」

「ふむ」

 

暗くなるとほぼ間違いなく屋根にいるオレは事情を全部知っていると、リボーンはわかっている。だから聞いてきたんだろうけど、オレは仲間や部下じゃなくて、家族になりたいんだよね。

 

「ソラはどこにも所属してねぇだろ。なら、簡単に足洗えるぞ。裏稼業の時はずっと仮面つけてんだろ?」

「まぁね。でも無理無理。オレの弱点バレてるし」

「ツナはオレが鍛えるからいいとして、ママンのことはボンゴレが勢力をあげてちゃんと守るぞ」

 

すっげぇ魅力的な提案だけど、今更波風たててもなぁ。それに……。

 

「……やっぱ無理だよ。もしもの時、オレあの人の前でも殺してしまうだろうから」

 

オレの返事を聞いたリボーンは、何も言わずにポンっとオレの背を叩いた。……だよね、母さんの前でそれをやっちゃダメだよねぇ。オレはハハハ……と心の中で乾いた笑いをしていたんだけど、本当にそれを証明するような事件が起きた。

 

その日は初めてディーノさんがオレに会いに来た日だった。そんな日でも変わらずオレは暗くなると屋根の上にいた。ディーノさんが気付いても、リボーンが説明するだろうし。

 

「そーいや、ツナおまえファミリーはできたのか?」

「今んとこ獄寺と山本。あと候補がヒバリと笹川了平とソラだぞ」

「友達と先輩だから!後、ソラって誰だよ!?」

 

聞こえてきた大きなツッコミに思わずプッと笑う。にしても、オレに断られたからって名前出すなよな。

 

キャバッローネのボスであるディーノさんが家に泊まるのもあって、暗殺者は来ないだろうってオレはどこか油断していたんだと思う。

 

「きゃあああ!!」

 

母さん!?聞こえてきた悲鳴に反応し、オレは二階の窓から家に入る。階段から腰の抜けた母さんの姿がみえたオレは、すぐに母さんを背に庇ってメスを取り出した。

 

「やめろ!!ソラ!!」

 

リボーンの声に反応し、後一歩でメスを投げて仕留めようとしたオレの手が止まる。……エンツィオ?

 

「だれーー!?」

 

オレの声で我に返ったオレは、母さんに見られないように慌ててメスを隠す。オレが武器を直したのをみて、リボーンがエンツィオを眠らせていた。母さんは水を吸ったエンツィオに驚いて悲鳴をあげただけみたい。

 

「ちょ、リボーン、またお前の知り合いかよ!」

「……なんだツナ、知らなかったのか。並盛でヒーロー活動をしているソラだぞ」

 

リボーン、なんだよその設定。と頭の中では浮かんでるけど、オレは一ミリも動けなかった。

 

「この人がヒバリさんの探してる人ー!?」

「ん?そんな有名なのか?」

「あ、はい。確か不良とかに絡まれたりして困っている人のところに現れて、すぐに退治してくれて颯爽と去っていくって噂があって。京子ちゃんも会ったことがあるみたいで……。まぁオレはまだ助けてもらったことはないんですけど……いでーっ!!」

 

見なくてもわかる、オレをリボーンが蹴ったな。……まぁ断トツで助けてるもんな。

 

「こら、ツナ。失礼なことを言うんじゃないの。今、母さんを助けてくれたじゃない。ありがとうね、ソラちゃん」

 

声をかけられて、慌てて振り返る。勢いよく振り返ったものの、母さんの顔があんまり見れなくて、ただ頷くことしか出来なかった。

 

「せっかくだわ!握手してもらおうかしら!」

「あ、それならオレも……」

「ヒーローとかおめーの好きそうな憧れだもんな、ツナ」

「うわぁ!リボーンそういうこと本人の前で言うなよ!?恥ずかしいじゃん!」

「なるほど。だからツナが会ったことねーのに、ファミリー候補だったのか」

 

そうだよ、オレはヒーローになりたかったんだ。ヒーローみたいに。……正反対じゃないか。

 

「……すみません。オレ、手が汚れてるんで」

「あら、大丈夫よ。気にしないわ」

 

違う、そうじゃないんだ。母さんが思ってるような汚れじゃない。この汚れは……。

 

「本当に汚いんで、ごめんなさい!……か、帰ります!!お邪魔しました!!」

「あっ……」

 

オレがテンパった割には、まだマシだったと思う。ドジも踏まなかったし、死ぬ気の炎を使ったりしなかったから。

 

だから見逃してよ、リボーン。……まぁオレがどんなに願っても逃がさないよな、お前は。

 

「ぐずっ」

 

それでも公園の遊具の中に入って泣いてるオレの背を蹴ったりしないだけマシだよな。……なんだよ、明日槍でも降ってくるかもしれない。死角からハンカチをオレに差し伸べたら、さっさと遊具から出ていくなんて。てっきりオレの顔でも見ようとしていたのかと思ってたのに。

 

「女に優しくするのはオレのモットーだぞ」

 

……オレの性別、気付いていたんだな。なんて、軽口を叩ければいいのに、鼻をすするしか出来なくて。

 

結局、リボーンはオレが泣き止むまで遊具の外で待っていてくれた。

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

情けない逃げ方をしたのもあったし、ほんの昨日まで一切姿を見せなかったのに、次の日にオレを助けるハメになった。

 

普段はこれぐらいなら絶対助けないんだけど、超直感が反応してさ。多分オレが怪我したことで起きる不幸の連鎖だろうな、オレだし。その日の夜にリボーンに聞かれたから、不幸の連鎖の序章な気配がしたってそのまま答えたよ。納得されたのがちょっと悲しかった。

 

んで、さらに次の日にヒバリさんが体調不良で入院した。不幸の連鎖はこれだな。せっかく回避させてあげたのに、オレはリボーンの命令でお見舞いに行かされていた。起こしてしまって咬み殺されていたけど、助けなかったよ。オレがボロボロになりながならも帰った後、オレは寝ているヒバリさんの病室に侵入。そこまで顔色が悪くなさそうだったから、花瓶に一本花を増やしてそのまま退散した。

 

次の日、めっちゃキョロキョロ探してた。……監視カメラまた増やしてた。怖っ。

 

流石にもうしばらくオレとは顔を合わせることはないだろうと思っていたら、1ヶ月もしない内にみんな揃って遭難していた。仕方がないから、姿を見せるハメに。エンツィオは一度天日干しした時に念のためオレが回収して、肩にのせての道案内だった。

 

いろいろあってグダグタな引率だったけど、オレの相手はほとんどハルだった。オレにインタビューしたかったみたい。といってもね、身長や体重は計測してないから知らないし。ちゃんと答えたのって、名前と誕生日ぐらいだよ。オレと同じ誕生日だったから、みんなビックリしてた。

 

そういや、血液型も知らないんだよね。オレとオレはそっくりなのに性別が違う。ってことは二卵性。血液型も一緒とは限らない。というか、二卵性でよくここまで似たよね。不思議。

 

基本的な質問に答えれなかったけど、そこはハル。他にもグイグイと質問がきた。ご飯とかどうしてるのかって。口のところがあいてる仮面をするか、仮面をとって着替えて普通に出かけると答えれば驚かれた。いや、これ、暑いんだからね。夏とか拷問だから。

 

ふと思い出した、あの企画を。

 

オレがご飯や風呂へ入りに行く時とか、伊達メガネスタイルで動くんだけど、その状態でなぜか山本と話をした。その時の山本はすっげーアタフタしてた。オレだと思って声をかけちゃったみたい。せっかくだから、ご飯は山本のところの寿司にした。相変わらず美味しかったし、割引してくれた。ラッキー。

 

山本がその話をオレにしたみたいで、獄寺君が10代目と間違えるなんて!って怒ってたみたい。オレがリボーンにグチってたのを屋根の上で聞いたから、一周まわったなってちょっと笑った。

 

数日後、なんと今度は獄寺君と会った。会話はなかったけどね。なんせオレが不良に路地裏へ連れて行かれそうなところを見て、ダイナマイトを投げてきたから。もちろん逃げました。監視カメラがないところで良かったよ。いやまぁ、無い方へ誘導してたんだけどさ。その日の内に獄寺君はオレの家に突撃して、めっちゃ泣いていた。煙が晴れたらオレがいないから、心配と不安だったみたい。……ごめんね、獄寺君。

 

ちなみにこのスタイルの時に一番会うのは、お兄さん。あの人めっちゃ走ってて、よくすれ違う。だからなのか最初のころ、家にいる方のオレが女だと思っていた。お兄さんだからと流されたけど。だから山本の話を聞くまではリボーンすら気にならなかったのが笑える。

 

このスタイルでは会わないのはヒバリさんとランボ。ヒバリさんは野生の感が怖くてオレが徹底的に避けているから。ランボは会いそうになったら早着替えしてる。普通に話しそうだからね。たまに家まで送る。あいつの行動範囲が広くてたまにビビる。……なんで隣町で迷子になってるんだよってことがある。

 

あ、もちろん守護者の中で、だよ。オレとかリボーンは怖すぎだからね。絶対会いません。だから面白がってそっくりさんを探すゲームとか企画しないでほしかった。絶対に見つからないからね!……ずっと見つからないっていうのもまずいから、遠くの方で出没はしたり、獄寺君か山本の視界にチラッとうつったりはするけど。最終的に化粧をして目の印象とかもかえた。オレ何やってんだろって思ったからさぁ……。

 

「はひ。気付かれないんですか?」

 

って、思い出してる場合じゃなかった。

 

「オレが女と思われてないみたいだから、割といける」

「「「えー!?」」」

 

めっちゃ驚かれた。ディーノさんも驚くとは思ってなかったよ。……リボーン、おまえオレの性別隠してくれてたんだな。女に甘すぎだろ。

 

その日の夜、リボーンにオレがあそこまで答えるとは思わなかったと言われた。

 

「調べても意味ないし」

「ウソなのか?」

「多分あってるよ。オレ戸籍ないからさ。誕生日はたまたまわかっただけ。子どもの時、いろいろ調べたけど、これ以上わかんなかったんだ」

 

双子じゃなかったら、誕生日もわからなかったかもね。あの資料が偽物で双子じゃなかったら、誕生日も間違ってることになっちゃうのかな。いくらリボーンやヒバリさんが調べても、あの資料も正規のルートでもう処分されてるだろうしね。

 

って、そんなことより。

 

「……偽造しなくていいからな」

「あった方が便利だろ。ヒバリの方でもボンゴレの方でも用意出来っぞ」

「ボンゴレは嫌な予感しかしない。あっちはエンドレスのバトル付き、どっちもやだよ」

「ちぇ」

 

可愛く舌打ちしてもダメ。オレは引っかからないから。

 

●●●●●●●●●●

 

 

殺し屋は来たりするけど、何事もなく過ごしている。すると、天気のいい夜の日にリボーンがフゥ太を連れて屋根に登ってきた。ランキング星と交信させてオレのステータスを知りたいのね。フゥ太はつい危なっかしくて手を貸すと嬉しそうな顔をした。相変わらず人懐っこいなー。

 

まぁ最初の時以外はオレがマフィアを追っ払ってるのを知ってるのもあるんだろうけど。ちなみに最初の時はリボーンに止められたから。オレを鍛えさせるからって。可哀想なオレ。

 

「じゃ僕に任せて!」

 

ぶつぶつ呟くフゥ太をみて思った。……オレが降りればよかった。これ、瓦飛んでいかない?

 

「……うぅ」

 

急にうるうるし始めたフゥ太に驚いた。ランボじゃないのに、ついぶどう飴を食べさせてしまった。ビックリして止まったから正解だった。良かった良かった。

 

「で、どうしたんだ?」

「ソラ姉のこと、何も浮かばないよー!」

「偽名なのか?」

「いや、前に言ったじゃん。誕生日しかわからなかったって」

「僕のランキングは本人がその名前を自覚してるなら問題ないんだよ。この世界じゃ名前を捨てることも多いから。それに僕は本人が目の前にいれば、名前もわかるんだよ」

 

へぇ、そうなんだ。フゥ太のランキングは結構融通きくんだ。知らなかったや。

 

「なら、残念だけどオレは無理だよ。オレ、自分が誰なのか知りたくて、資料とか探し始めたから。戸籍もないから名前もない。オレが一番誰かわかってないんだ」

 

そして今もここから離れられないってことはまだ諦めてないってこと。だからソラって名前の自覚もない。

 

「ソラ姉……」

「おまえ、結構頑固だな」

「んなの、オレが一番わかってるっての」

「……ぷぷっ。ツナ兄みたいな反応」

 

リボーン、ナイス。オレのこと気にしてたフゥ太が、うまく切り替えられたみたいだ。

 

窓までフゥ太を送ってあげれば、オレにめっちゃ驚かれた。……違うからな。最初に窓から連れてきたのはリボーンだからな。緊急事態は別だけど、オレは窓を出入り口にしません。ヒバリさんや骸と一緒の扱いにしないでよ、頼むから。……まぁ屋根はベッドにしてるけど。

 

オレの常識が……って頭を抱えたくなってると、リボーンが言った。

 

「ママンにつけてもらうのはどうだ?」

「……そりゃすっげー嬉しいけど、多分それは違うんだろうなぁ」

 

母さんのことだから、絶対亡くなった娘と同じ名前をオレにつけようとはしない。違う名前はいらないや。どっかで母さんが自ら話してくれたらいいんだけど。……無理矢理聞き出すなんて出来ないし、悲しませたくないから。

 

「オレ、彼女のこと大好きかも」

「今更か?」

「いや再確認」

「ママンは家族みんなを虜にできる良い女だからな」

「ははっ、確かに。お前も頭上がらなさそう」

「否定はしねーぞ」

 

声を落とすのも忘れて笑ってしまったら、もしかしてソラが屋根の上にいるのー!?ってオレが叫んでいた。いや、いい加減気付けよ。夜に居ない方が珍しいから。

 

生徒の実力不足に頭が痛いのか、リボーンは帽子を被り直していた。最低でもオレぐらいにはなるから、頑張って、先生。

 

●●●●●●●●●●

 

 

 

相変わらずオレの周りは破茶滅茶だけど、時間は過ぎていく。雪合戦なんかは第三者目線でみると、爆笑だった。危うく逃げ遅れるところだったぐらい、笑った。

 

花見の時はヒバリさんとの勝負を付かず離れずの距離で見ていたら、Dr.シャマルからウインクが飛んできた。……ついメスで空気を斬った。シャマルは笑ってたけど、ヒバリさんにも気付かせずに飛ばしてくる腕だけは凄いよ。

 

もちろんサクラクラ病にかかったヒバリさんは、オレ達から見えなくなったところで気絶させて家まで運んだ。体調不良なんだから、大人しく寝ましょうね。次の日のヒバリさんの機嫌は今までで見たことがないくらい悪かった。あー、怖い怖い。

 

そんな感じで懐かしくもあるし、新鮮な気持ちも感じながら過ごしていると風紀委員が襲われる事件が発生した。

 

今まで話したことも仮面をつけた顔すらまともに見せなかったオレだけど、この事件を耳にして初めてヒバリさんの前に出た。話すのも初めてだからちょっと緊張する。

 

「……嫌がらせかい?僕が忙しい時に姿を見せるなんて。ずっと君を咬み殺したいと思ってるのに」

「オレは犯人じゃないって言いにきた」

「そんなの言われなくてもわかってる、君バカなの」

 

……どうせオレはバカですよーだ。

 

「まぁちょうどいい、これは僕が買ったケンカだから。ヒーロー気取りかなんだか知らないけど、君は手を出さないでよ」

「……犯人、オレの知り合いな気がすると言っても?」

「へぇ。それは楽しめそうだね」

 

かける言葉間違ったよ。注意を促せただけ良かったって思うことにしよう。

 

 

次の日にはお兄さんがやられてオレが病院に行くころになるとリボーンがこの事件の狙いを突き止めた。調べごとがあるリボーンとオレは別行動。もちろんオレはオレについていくけどリボーンに呼び止められた。

 

「おめーは何か掴んでるのか?」

「うん、多分犯人知り合い」

「……だからまだ手を出さなかったのか」

「まぁいろいろあるんだよ」

「そうか」

 

ほんと女に甘いよな、オレから情報搾り取ったらいいのにね。聞かずに調べにいっちゃったよ。

 

オレを見つけた時には一緒にいる獄寺君が毒の針をくらってしまっていた。けど、オレは無防備なのに千種の手は止まっていた。……顔、忘れないでくれたんだ。

 

「男?……めんどい」

「か、帰ってく……?」

 

やっぱ千種は面倒くさがるけど頭いいよね。一度骸に報告しにいったみたいだ。……でもあいつは止まらないよな……。それにオレがあんなところに居た理由も気付く。まぁそれはいい。

 

問題は骸が一般人の振りをしてオレに接触しそうなこと。あなたがいると安心しますね、血の繋がったご兄妹が居ませんか?とか、胡散臭い顔でオレに質問しそう。つーか、絶対そうするよな。オレの名は出さずに聞き出すだろうし……。そしてオレがオレの存在を知っていても、知っていなくても、さらにどんな解答をしても、あいつがもっとマフィアを恨むのは変わらない気がする。

 

オレが出会ってしまうよりも先に、接触した方がいいのか?

 

こんな時にオレの超直感は何も反応してくれない。……ううん、多分最善の選択なんてないんだ。

 

「おい、ソラ!」

「……リボーン?」

「さっきから呼んでたんだぞ」

「ごめん、全然気付かなかった」

 

ここは並中か。ほぼ無意識に行動してたよ。そういえば、あの後すぐに山本が合流して獄寺君を運んでたかも。うっすら覚えてる。

 

「9代目の指令でツナが六道骸達を捕まえることになったぞ」

「……そう、だよな」

「ああ。流石に見逃せねぇ」

「うん、わかってる。大丈夫、わかってるよ」

「だからおめぇにはママンの警護を頼むぞ」

 

聞こえた言葉が信じられなくて、リボーンを直視する。いや、母さんの守りが必要なのはわかってる。オレの時は京子ちゃんとハルだったけど、母さんが人質になる可能性だってあったんだから。でもオレをリボーンが渦中から遠ざけようとするとは思わなかったんだ。

 

「おめーはボンゴレじゃねーんだ。この件に深入りする必要はねぇ。ママンをよろしく頼むぞ」

 

 

結局何も言い返せなかったオレはいつもの場所で母さんに危害が来ないように見張っていた。

 

「良かったら、お茶しない?」

「へ?えっ、えーーーー!?危ないですよ!?」

「あら、大丈夫よ。ちゃんと固定したもの」

 

いや、ほんと何してんの、母さん。梯子を使って屋根まで顔を出すなんて思ってもなかった。母さんが落ちないかハラハラしながら見届けた後、オレはなんでか知らないけどリビングでお茶をご馳走になってる。ちゃんと仮面は口元があいてるのに換えたよ。

 

「ふふ、驚いたかしら。実はリボーンちゃんから何度か話を聞いていたの。家の屋根に住み着いてる子が居るって」

「……えっと」

「あ、勘違いしないでね、怒ってるわけじゃないのよ。普段は夜にしかいないって聞いてはいたのだけど、今日はお昼から居るってリボーンちゃんが教えてくれてね。せっかくだからお茶でも誘おうと思ったのよ」

「そ、そうなんですか……」

 

あのやろう……!余計なこと喋りやがって……!

 

「何か悩み事でもあるのかしら」

「え……」

「あら、ごめんなさいね。うちのツナと同じような雰囲気をしていたから、なんとなくそう思っちゃったの」

 

母さんって超直感もってたっけ……?いや、本当に母さんといった通りで、オレに似てるから気付いたんだろうね。

 

「えっと、本当はオレ悩んでないんだと思います」

「あら?」

「自分の中ではもう答えは決まってるんです。けど、誰かに背中押されないと動けなくって」

 

昔はリボーンや友達に押されていたけど、今のオレにそんな人いないから。

 

「じゃ、おばさんが押してあげるわよ」

 

パンっと手を叩いて、いい提案だわと機嫌良さげな母さんにオレはついていけない。

 

「ほら、立って立って」

「は、はい……」

「ソラちゃんなら大丈夫よ、いってらっしゃい」

 

ポンっと背中を押されて、涙腺が一瞬で緩んだ。

 

「……いって、きます」

 

頑張ったけど、多分鼻声だっただろうなぁ。母さんは気付いてるだろうけど、笑って送り出してくれた。

 

外に出ると、Dr.シャマルが居た。

 

「おじさん、一仕事終えて疲れてるんだけどなぁ」

「はぁ……?」

「あいつからの伝言だ。もう残りの敵はあっちに全員いるから、離れてもかまわないってよ」

 

どこまで読んでるんだよ、あいつ。……敵わないなぁ。

 

「助かった、Dr.シャマル!」

「いつかその仮面の中、おじさんに見せてね」

 

またウインクされたけど、今回は斬ることはしなかった。にしても、仮面の中ねぇ……。

 

「もう見たことある顔だよ!」

 

え?そうなの?なんて言ってるシャマルに笑いながら、オレは急いで人気のないところへ向かった。今、骸とちゃんと会わないと、オレ……違う、わたしは多分後悔する。

 

 

死ぬ気の炎をつかって移動して黒曜ランドの建物に入ると、憑依弾を使われてちょうどオレが追い詰められてるところだった。

 

「ひぃ!って、痛くない……、ソラ!?」

 

オレが来て助かったって顔をしてるオレには悪いけど、オレは……ううん、わたしはオレの味方をしにきたわけじゃないんだよ。ただ敵ってわけでもないから、咄嗟に引っ張ってオレの後ろに隠したけど。

 

オレはわたしのためにここへ来たの。後ろにいるオレのためなら、来ないのが正解。

 

「骸、もうやめよ。犬も千種もすっげーボロボロじゃん!」

「え?知り合いなの?」

 

いや、ほんとオレちょっと黙ってて。

 

「……やめる必要なんてどこにありますか。腐った世の中です。僕が世界をかえてあげますよ」

「腐ってるのは否定しないよ!でももっと他のやり方だってあるし!」

「僕からすれば、あなたの方がよくわかりませんよ。どうしてマフィアなんかと一緒にいるのですか。まだ何もかも忘れて生きている方が理解できますよ。よりによってボンゴレと共にしてるとは……」

 

いや、それはお前だって気付いてるだろ。同じ顔をしてるのがいるんだから。

 

「……こいつは何も知らない。マフィアのことも一年ほど前にやっと知ったんだ。だから……」

「見逃せと?クフフ、やはりあなたはおかしな人だ。……あなたが一番許していないくせに」

 

ドキッと心臓がはねた。

 

「もう一つの人格を作って仮面で隠している、せいぜいそういうところでしょう」

 

……いい線いってるよ、ほんと。

 

わたしは多分オレよりボンゴレリングの適合者だった。本来なら過去から未来に継承されるものを、薬の影響なのか、わたしは未来の記憶と経験を継承した。けど、これも薬の影響か、それともわたしの未来が無かったのか、継承した内容は双子のオレの未来だった。

 

「それでも、そう望んだのは……わたしだよ」

 

世界への恨みも、マフィアへの恨みも、ボンゴレに対する恨みも、沢田綱吉の倫理観でおさえたかった。そうして出来たのはもう一人のわたし。

 

「だから……わたしはお前を止めるよ」

「残念です」

「やりたくないからやめない?」

「奇遇ですね、僕もです」

 

口ではそう言いつつ、わたし達は戦闘態勢に入る。

 

未来で培った沢田綱吉の記憶と経験、ボンゴレの血筋、薬の影響による身体能力の高さ、夜の炎をつかわなくても、今の骸じゃ絶対わたしには敵わない。憑依されている彼らの神経をマヒさせ、骸本人を引き摺り出すのは簡単だった。

 

「……久しぶり」

「ええ。お久しぶりです、ソラ」

「お前じゃわたしに勝てないよ。だから……」

「あなたもわかってるはず。僕を止めるには殺すしかありませんよ」

 

……骸、おまえ。

 

「あなたはあの時僕の手を取らなかった。そして僕は今あなたの手を取らない。それだけですよ」

「……バカだなぁ」

 

わたしは今まで出さなかった武器、メスを取り出す。ほんとバカだよ。わたしになら殺されてもいいなんて……。わたしにできることは苦しませずに殺してあげるだけだ。

 

「さよなら、骸」

 

血が舞った。けど、わたしが思っていた人物の血じゃなかった。わたしも骸も動きが止まる。

 

「ダメだよ、ソラ」

 

わたしが唖然としている間に、軽く抱きしめられてポンポンとオレはわたしの背を叩く。

 

「殺しちゃダメだよ」

 

……ああ、オレはそうだよな。

 

ふふっと笑いが出る。うん、オレだったら殺さないよな。

 

ズキっと頭が痛む。……ああ、思い出した。思い出したくないあの頃のことを。

 

痛くて、辛かったから、人体実験をやりたくないと泣いたわたしを父様は何度も殴って、教育だといってわたしを子ども達の部屋に入れた。わたしは殺してはいけないから、いつも部屋は綺麗なところだった。だからとにかく嫌だった、「父様、わたしが悪かったです。出してください」と何度も叫んだ。けど、うるさいと言われてまた殴られた。わたしは部屋の隅に逃げ込んだ。子ども達の目が怖かった。わたしは彼らをこんな環境に置いてる人物を父様と呼んでいたから。

 

そんなわたしの隣に誰か座ったんだ。わたしは怖がった、とても怖がった。けど、彼はわたしに何もしなかった。話しかけることもなかった、ただ側に居ただけ。でもわたしを見る子ども達の目が少し優しくなった。あれは……骸だった……?

 

「っ、……わたし、骸を、殺したく、ない」

「うん。知ってたよ。……大丈夫、オレが止めてみせるよ」

 

光が覆う。レオンの羽化だ。何度もオレが世話になる毛糸の手袋が上から落ちてくる。わたしが知った未来では骸は何度も邪魔をしたはずなのに、特殊弾をリボーンに渡す時もオレの邪魔をしなかった。

 

いつのまにかオレはわたしから離れて、わたしはリボーンの側でグズグズと鼻をすすっていた。

 

「……わたし、ここに来た意味あったのかな」

「充分あっただろ。それにおめーだけじゃねーぞ」

 

そう言って、リボーンはオレと骸が戦ってる姿を見ていた。

 

 

わたしがつけた怪我があったから心配だったけど、オレは骸のどす黒いものを浄化してくれた。……それを出来なかった、今日もう一度試そうとしなかったわたしはオレとは違うんだなと思った。そして、わたしが作ったもう一人のわたしともまた違う。

 

骸が倒れて、犬から人体実験のモルモットだったとオレは知った。

 

「もしかして……ソラも……?」

「わたしはエストラーネオファミリーのボスの娘として育てられたから、骸達とはちょっと違うかな」

「……骸様は一緒だと言っていた」

 

千種の言葉に、わたしの隣に座ったのは骸であってると確信した。そして多分千種もわたしがなぜあそこに居たのか気付いている。

 

「ほんと、骸はお人好しというか、バカだよなぁ……」

「骸さんはバカじゃないびょん!」

 

ふふっと笑いながら、わたしは立ち上がり骸に近づく。犬と千種は止めなかった。そしてあの時のように骸の右眼に触れる。

 

「……ああ、よかった。ありがとう。わたしも骸についてるドス黒いものを取りたかったんだけど、無理だったんだ」

「ツナ、おめーに言ってんだぞ」

「えっ。あ、えっと……じゃぁ、どういたしまして?」

 

そこはもっと誇っていいと思うぞ、オレ。なんて心の中でツッコミしていると、復讐者がやってきて骸達の首に錠がかかる。

 

「……待って」

「ソラ、やめろ。おめーもよく知ってんだろ。マフィア界の掟の番人だ。逆らっておめーが捕まることをこいつらは望まねぇ」

 

犬と千種の眼を見て、わたしは伸ばそうとした手を下ろす。そして、その手をオレが掴んだ。

 

「大丈夫。また会えるよ」

「ツナ、そんな甘くねーぞ。下手すりゃ一生出れねぇことをこいつらはした」

「ゔっ、そうなんだ……。でも会える気がするんだけどなぁ」

 

……うん、そうだよね。知ってるよ、わたしもまた会えるって。これが最後じゃない。

 

「みんな、またね!」

 

今から裁かれるところに行く骸達にかける言葉じゃなけど、わたしはこの言葉を選んで見送ったんだ。

 

この後すぐにボンゴレの医療班が到着して、みんな病院に連れて行かれた。わたしは怪我をしてなかったから、いつものようにオレん家の屋根で眠った。

 

次の日、オレはオレとヒバリさんの見舞いにいった。獄寺君は無理とわかっていたけど、山本も厳しそうだったから行くのは諦めた。こっそり病室に入り2人が眠っている間に花を一本ずつ花瓶にいれて帰る。……監視カメラの数がまた増えた。オレの方はなんとなくオレからとわかって嬉しそうにしてたよ。

 

 

1ヶ月後、伊達メガネスタイルで出かけていると、すれ違った子どもから骸の気配がした。慌てて振り返ろうとしたけど聞こえた言葉で動きを止める。

 

「またお会いましょう」

 

今じゃないんだなって思ったから。後、犬と千種から聞いたのか、ちゃんと返事をかえしてくれて、オレの中のわたしは凄く喜んでいた。




キャラ設定

ソラ(わたし)
沢田綱吉と双子。
自分のことを『わたし』と呼び、作った人格は『もう一人のわたし』・『この子』と呼んだりする。
ツナのことは心の中では『オレ』と呼ぶが、本人には『君』と呼ぶ。
口調は捨てたので、作った人格とほぼ同じ。少し柔らかいかもしれない。
マフィアは大嫌い、もちろんボンゴレも大嫌い。この世界も嫌い。
狂ってる。けど、ギリギリでもう一人の人格を作ったので狂いきってはない。

ソラ(オレ)
沢田綱吉を模範しつつも、ソラ(わたし)が混ざり合って出来た人格。
自分のことを『オレ』と呼び、もう一つの人格を『わたし』・『この子』と呼んだりする。
ツナのことは心の中では『オレ』と呼ぶが、本人には『君』と呼ぶ。
マフィアは嫌い。ボンゴレも嫌い。世界までは嫌いじゃない。
わたしの最後の砦。基本こっちが表に出る。

というわけで、二重人格者です。
骸と出会ったことで、互いの存在を認識しました。
正確には今まで気付いてたけど、気付かないフリをしていただけ。
次回からはとっても読みにくいでしょう。

すぐさまボンゴレのところに行かなかったのは、わたしが暴走するとオレが判断したから。
あと、殺し屋が来てるのはエストラーネオファミリーの残党が情報を売ったから。
家光のせいではないけど、元々は彼のせいなので間違ってはない。
この設定のためにアンチ・ヘイトタグをつけた。もう一人不憫なキャラがいるけどね。

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