深夜のバイパスに車は少なく、流れは緩やかだった。
時速五○キロと少し。僕はハンドルを握る。ワンボックスカーは一人で乗るには嫌に広い。
僕はバイパスを適当な位置で折り返し、ふと目についた横道に入り、また引き返し、分かりづらい交差点に肝を冷やし、たまに迷子になり、長い一本道では脳みそ半分考え事をして、そしてまた最初の場所に戻るころにはフルアルバム一枚分の時間が流れ三軒ものコンビニに訪れていた。
僕が買ったもの(肉まん、眠気覚ましのエナジー・ドリンク、ガム、ポテト・サラダにジャスミンティー)。流していた音楽(ジョーダン・ラカイの一番新しいアルバム、そして今は一つ昔のアルバムが流れ始めている)。
車はゆっくりと走り続けて着実に目的地へと向かった。辺りを走る車の数は更に減り、それと一緒に街灯や民家の明かりも少なくなっていった。
穏やかな時間。
やがて僕は霊園の入り口を抜けると車のスピードを落とし、ヘッドライトをハイビームに切り替えた。緩やかなカーブの一つ一つを曲がっていくのにつれて僕は道を誤っていないことを知る。ここに来るのはとても久しぶりだった。
空気の変化。死者の記憶。あの日の空模様。時の流れ。僕はもう子供ではない。
程なくして、遠くの方に墓石の連なりが見えた。
*
エンジンを切り、外に出るとそこには明かりの一つも存在しなかった。街の明かりはここまで届かず、静寂だけがあった。少しの風すら吹いていなかった。ここでは誰もが眠りについているのだ。
僕は深呼吸をしてから門に掛けられたチェーンを乗り越え砂利道を歩いた。空気は冷たく肌寒い。砂利がたてるさくさくとした小気味のいい音と一緒に、靴底を通して伝わる地面の感触を感じた。僕はその音とその感触を知っている。
そこにはたくさんの墓石があったので、その中から目当ての墓を見つけるのにはいくらか苦労することになった。僕は無数の名前の間をじぐざぐに歩き、その一つ一つをライトで照らし探した。砂利道を歩き続け、たまに枯れ草を踏み倒し、人々の名前とその人間が死んだ日付をつぶさに見た。一体ここには何人分の骨が埋まっているのだろう? 彼らはいつか確かに、皆生きていたはずなのだ。
少なくない時間をかけて一つの墓石を見つけ出し足を止めると、果てしない静寂が僕を包んだ。世界から全ての音が無くなってしまったのではないかと思うほどの静けさだった。死者の国があるのだとしたら、きっとこれくらいに静かに違いなかった。死者の国では誰も何も言わない、人の形も無く、あるのは静寂だけ。きっといい場所だ。
足元にはずいぶんと小さくなったあいつが埋まっている。もし僕が場所を間違えていたならば、ここにあいつの骨はない。でもそれはどうでもいいことだった。どうせここには誰もいない。
僕はしばらくの間立ち尽くし、空を眺めた。遠くの方できらきらと星が輝いていて、彼が死んだことを知らされた日の夜のことを思い出した。かすかな蒼みをたたえた夜空と、張り巡らされた電線に切り取られた星々。失われてしまった未来。
感情は驚くほどにフラットだった。僕は空を眺めるのをやめ、そしてここでするべきことが何も無いことを知った。彼は死ぬことを決め、それを完遂したのだ。既に彼は過去の人間であり、もう僕の人生に直接交わることもない。僕は自分自身の人生を歩まなければいけない。
僕はそのことに気づくと少しだけ、ほんの少しだけ笑って、それからつぶやいた。
なあ、俺はまだ生きてるぞ。
それ以上に言うことは無かった。僕はその言葉を確かめるみたいにしゃがみこんで、それから目をつぶった。
*
全てが終わった後で門を抜け、そして僕は一度だけ振り返る。
月明かりに照らされた墓石の連なりは、なんだか一つのかたまりみたいに見えた。