ソードアートオンライン ~創造の鬼神~   作:ツバサをください

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 皆さんこんにちは。《ツバサをください》と言います。

 今回、ソードアートオンラインの小説を執筆しようと思い、この作品を執筆しました。

 駄文かと思われますが、楽しめていただければ幸いです。


アインクラッド編
第一話 デスゲームの幕開け


 ◇◆◇

 

 「……もうすぐか。」

 

 俺はそう呟く。此処はあるアパートの二階。一人で生活するには大きすぎる部屋の一室。

 現在、俺の他に此処に住む者はいない。その為、一部の部屋は使わないまま残っている。だが、先程まで誰かが生活していたかのように、テーブルや椅子が置かれている。

 時刻は現在十二時半を回ったところ。太陽が昇り、日の光が差し込む。

 俺は、ベッドに置かれているヘルメットらしきものに目をやる。ナーヴギア、従来のゲーム機とは異なり、自身がゲームの中に入れる夢の機械。

 最近ニュースでよく見る機械が何故、俺の手元にあるのかはわからない。どうやって両親がこれを入手したのかわからない。家にはそんなお金はないはずだ。

 

 『……創也(そうや)。お母さんはね、貴方には友達の一人や二人いてもいいと思うの。皆が皆、貴方を裏切ることはないわ。お母さんが断言してあげる。

 創也が今までのことから誰かを信じようとしないことは十分わかってる。だからまずは、これを使って友達を探してみようよ。きっと、貴方と友達になってくれる人が沢山見つかると思うわ。決して貴方を裏切らず、いじめない友達がね。』

 

 これを渡してくれた時の母親の言葉が脳裏をよぎる。母親と交わした会話はあれが最後になってしまった。父親とはあまり話すことはなかった。いつも夜遅くまで仕事をしていたからだ。ゆっくり話す時間なんてなかった。

 気が付くと時間は一時になろうとしていた。俺はナーヴギアを被り、ベッドに横になる。

 様々な感情が渦巻く。誰かを信用したとしても、また裏切られるかもしれないという不安。新たな世界でも孤独になってしまうことに対する恐怖。

 そして……この世界よりもマシな世界であるようにという小さな希望。

 ナーヴギアのデジタル時計が一時を指した。俺は、新たな世界へ向かう合言葉を唱える。

 

 「……リンク・スタート!」

 

 視界が一瞬真っ暗になったかと思えば、一気に白に染まった。そして眼前に浮かんだ文字は……

 

 《Welcome to Sword Art Online!》

 

 それが消えると、町並みが見えてきた。恐らく初期スポーン地点だろう。

 俺は誰も信じない。皆して俺の信用を裏切って距離をとったり、それを利用していじめてきたりする。それが繰り返され、俺は誰も信じられなくなった。

 母親の最期の言葉が真実かどうかはわからない。だが、この腐った世界では少なくとも嘘だ。だから俺は母親が勧めた世界へと向かう。その言葉の真偽を確かめる為にも。

 そうして俺は、新たな世界……仮想世界へとログインを果たした。

 

 

 ◇◆◇

 

 仮想世界にログインをしてから約一時間の時が流れた。俺は今、初期スポーン地点である『はじまりの街』を出てすぐの草原にいた。

 目の前にいるのは、青い色をしたイノシシみたいなもの。名は《フレンジーボア》だったか。突進しかしてこない、いわゆる雑魚モンスター。そいつを延々と狩り続けていた。

 

 「せいっ!」

 

 俺は初期の武器である《スモールソード》を突進が終わった青いイノシシにソードスキル《レイジスパイク》を叩き込んだ。

 《レイジスパイク》は片手剣の突進技。一瞬で距離を詰められるから、とても扱いやすい。

 イノシシのHPは一瞬でゼロになり、ポリゴン片を撒き散らして爆散した。

 この世界にはソードスキルというシステムがあるようで、特定の構えをすることで発動する。そしてそれなりの火力が出る。

 それと、この世界に来てから体が思った通りに動くようになった気がする。走る時の足が軽いし、バク宙もお手のもの。……もはや気のせいではないだろう。現実の俺だったら、頭から地面に突っ込みかねない。

 そんなことを考えながら、俺は気配を感じた後ろに即座に振り向いた。そして突進してきていた青いイノシシに同じく《レイジスパイク》を叩き込む。

 気配に敏感なのは喜ばしいことだが、やはり素直には喜べなかった。

 

 「いきなり話しかけてすまない。その戦い慣れているところを見ると、お前もベータテスターか?」

 

 俺は声がした方に振り向いた。先程から気配はしていたので、たいした驚くことはなかった。

 そして、そこには二つの人影があった。

 一人は、ファンタジーの物語に出てきそうな勇者っぽい男。俺と年齢は同じぐらいだろうか。俺との距離が近いことから、彼が話しかけてきたのだろう。

 そしてもう一人は、日本の戦国時代から飛び出してきた若武者のような男。頭に悪趣味なバンダナを巻いている。年齢は……年上に見える。

 とはいえ此処では自分の顔や体格なんて自由に変えられるので、はっきりとはわからないが。

 因みに俺は……ほぼ現実と同じ姿と顔にしていた。俺じゃない体を動かすのは違和感があったし、例え姿を変えて受けいれられても意味がないと思ったからだ。

 だから名前……プレイヤーネームも《ソーヤ》にしている。

 

 「いいや、ベータテスターではないが。何か用か?」

 

 やはり両親以外の人と話す時は、どこかトゲがあるような感じになってしまう。今までのことから人間不信になってしまった俺からすれば、仕方がないものなのだが。

 そしてベータテスターか。確か、千人限定で先行プレイができるとかいうものだったはずだ。抽選倍率があり得ない程高かったことを覚えている。しかし、何故彼らはベータテスターを探しているのだろうか。

 すると俺の考えを見抜いたかのように、若武者の男が口を開いた。

 

 「いや、俺に戦い方を教えてほしくてさ。それで経験のあるベータテスターを探していたんだよ。武器はどう使うとか色々、教えてもらうためにな。」

 

 「そしてフィールドに出て教えていたら、近くに恐ろしいスピードで《フレンジーボア》を倒しているお前が目に入ってさ。こうして声をかけたという訳さ。」

 

 若武者の男に続いて、勇者っぽい男が答えてくれた。そして若武者の男が急に俺に頭を下げてきた。一体何事かと、俺は驚いた。

 

 「頼む、お前も俺に戦い方を教えてくれ!この世界を思いっきり楽しむ為に、女性にモテる為に!」

 

 「……わかったから顔を上げてくれ。こんなことで頭を下げるんじゃない。」

 

 最後に邪な願望が聞こえた気がするが、聞かなかったことにしておこう。

 そして俺は若武者の男の熱心な頼みに少し気圧され、その頼みを聞き入れることにした。

 その後、現実世界と同様にお互い自己紹介をすることになった。

 

 「俺はキリト。ベータテスターだ。よろしく。」

 

 「俺はクラインってモンだ。よろしくな!」

 

 「……ソーヤだ。」

 

 するといきなり目の前にウィンドウが表示された。そこに書かれていたのはフレンド申請だった。

 一瞬、《YES》のボタンを押そうか躊躇した。ここでフレンドになったのなら、彼らと深く関わることになるのではないか。そして彼らはまた、俺が信用し始めた頃に裏切るのではないか。そんな考えが渦巻く。

 俺は誰かを信じることはできない。裏切られることが怖い、また孤独に戻る時の傷を負いたくない。だから、誰も信じなくなった。

 だが母親の言葉もある。無下にすることもできない。フレンドになったとしても、そんなに深く関わらなければ大丈夫だと判断する。

 そして俺は《YES》のボタンを押した。

 

 「それで……何を教えて欲しいんだ?武器なら短剣(ダガー)以外ならそれなりに教えることができるが。」

 

 俺がクラインにそう問うと、キリトは口をあんぐりと開け、クラインは驚いた顔をした。……何か変なことを言っただろうか。

 俺は自分に合う武器を見つけようと《はじまりの街》にあった武器屋で短剣以外の武器を幾つか買った。短剣は……見たくもない。あの光景を、あの時の俺を思い出してしまう。

 それはさておき、フィールドに出てからはそれらの武器を試しながら延々と青いイノシシを狩っていた。結果、どの武器もそれなりに扱えるぐらいになった。

 

 「……お前、何でそんなに使えるんだ?武器はそれぞれ勝手が違うだろう?」

 

 「どの武器が合っているか試していたら、どれもまぁまぁ合っていた……みたいな感じだ。」

 

 「マジか……。」

 

 買った武器を一通り試したが、《片手直剣》と《槍》が扱いやすかった。その為、どれを入れようか迷って空いていたスキルスロットには、その二つが収まっている。

 それから、クラインをキリトと一緒に戦い方を教えて数時間が経った。青いイノシシを狩り続けた結果、レベルが上がり、ファンファーレが鳴り響いた。

 俺は人差し指と中指を真っ直ぐ揃え、振り下ろした。メニューを開く動作だ。二人も近くの岩に腰かけたり、地面に座ったりしてメニューを開いている。

 黙々とアイテム整理等をしていると、クラインの頓狂な声がした。俺とキリトはクラインに目を向ける。そして……クラインは到底あり得ないであろうことを口にした。 

 

 「ありゃ?……ログアウトのボタンが無いぞ?」

 

 「「……は?」」

 

 俺とキリトはアイテム整理の手を止め、メニューの一番下に指を滑らした。

 そこにあったのは……ただの空白だった。ログアウトがあったはずの場所には何もなかった。

 

 「おーいGM!ログアウトさせてくれー!ピザの宅配があるんだー!」

 

 クラインが突然大声を出しながら両手を掲げる。俺はそれを横目で見てから、腕を組み、目を閉じる。何かを考える時に俺が一番集中できる姿勢だ。

 ログアウトのボタンがなくなったことの原因として一番に考えられるのは、バグだ。

 だが、それならば運営側は何故プレイヤー達に何の連絡もしない?もしや、まだ気づいていない?今さっきから起こり始めたバグか?いや、そんな偶然はそうそう起こる訳がない。

 別の原因としては、逆に運営側が意図的に消していることしか思い浮かばない。正直、あってほしくないことだが。運営側は、このゲームを自由に操ることができる。あり得ない話ではないだろう。

 もしそうならば何の為に?これだけ注目されているゲームソフトだ。異常が発生すれば一瞬で知れ渡ることになるはずだ。それに意図的なものだったとしても、プレイヤー達をこの世界に監禁して何の得があるのだろうか。

 結局、今は情報が少な過ぎる。明確な判断を下すことは不可能だ。

 結論が出た俺は目を開くことにした。視界に写るは先程と代わり映えのない草原。

 クラインが何か被っているものを取るような動作をしている。それを見たキリトが、どこか呆れたような様子で話していた。

 すると、彼らに青い光が立ち上っていくのが見えた。そしてその光が自分からも出ていることに気がついた瞬間、俺はクライン、キリトと一緒に《はじまりの街》の中央広場に転移していた。

 辺りが騒がしいと思って周囲を見渡せば、多くのプレイヤーがいた。彼らが皆、俺を見ているような錯覚を覚えた。俺は目眩と吐き気がして、その場にしゃがみこんだ。

 

 「おい、大丈夫か!?」

 

 キリトが直ぐ様気付いて、俺の背中をさする。誰かに背中をさすられるなんていつぶりだろうか。少なくとも、両親以外は初めてだろう。

 

 「……大丈夫だ。人混み酔いがしただけだ。問題はない。それと……ありがとう。」

 

 すんなりと感謝の言葉が出たことに俺は自分に驚きを隠せなかった。それも両親など親しい人ではなく、出会って数時間の人に向けたものだったから尚更だ。

 そんなことなど知らないキリトは「感謝されるほどでもねーよ」と照れを隠していた。

 少し落ち着いたので、周囲の声に耳を向ける。すると「これでログアウトできるのかな?」「GMはどうしたんだ!?」という声が聞こえた。

 どうやら、ログアウトボタンがなくなっているというバグと思われる現象はかなり深刻なものになっているようだ。

 

 「おい……あれはなんだ!?」

 

 広場にいる誰かが声をあげた。俺はそれにつられて上を見上げる。クラインやキリト、他のプレイヤーも同様だ。

 そこには深紅のローブを纏い、フードを深く被った巨大な人間らしきものがいた。下から見上げているので顔が見えるはずだが……なかった。完全な空洞になっており、フードの裏地が見えている。

 そして、低くて落ち着いた声が広場に響いた。

 

 『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私は茅場晶彦。この世界をコントロールできる唯一の人間である。』

 

 茅場晶彦……俺はその名前にどこか引っ掛かりを覚えた。俺の知る限りは、記憶にない人物だ。だが、何処かで聞いたことがあったかのように、その名前が引っ掛かる。

 

 「な……茅場晶彦……!?何故、彼がこんな真似をしたんだ……?」

 

 「キリト、彼を知っているのか?」

 

 「おい、逆に知らねーのか!?茅場晶彦……このゲームとナーヴギアを造った天才ゲームデザイナーにして、量子物理学者だよ!」

 

 キリトのやや興奮ぎみの説明を聞き、引っ掛かりが更に強くなる。どうやら彼……茅場晶彦の名を何処かで聞いたことがあるようだ。

 そんな俺の思考なんて知らずに茅場晶彦は、信じたくないような事実を突きつけ、俺達プレイヤーに絶望という名の爆弾を次々と投下し続けた。

 

 

 ◇◆◇

 

 『……それでは諸君らの健闘を祈る。』

 

 そう言い残して茅場晶彦と名乗る赤いローブを纏った巨大人間もどきが消え、約一万人のプレイヤーだけが残された。 

 あれほど騒がしかった広場は、一瞬で重苦しい静寂に包まれるものへと変わった。プレイヤー達は彼の言葉を理解することができないか、拒んでいるのだろう。

 要約すると、このアインクラッド第百層をクリアするまで自発的なログアウトが不可能。そしてこの世界で自分のHPがゼロになると……死ぬということだ。

 しかし俺にはその言葉がすんなりと理解ができていた。今までの十数年、『死』というものが他の人よりも身近にあったからかもしれない。

 俺は命を失いかけたことが何度かあった。それは他人によるものも、自分によるものもあった。最も近かったのは……あの日だろうか。

 

 「クライン、ソーヤ、ちょっとこっち来い。」

 

 そうして俺が昔を思い返していると、キリトに声をかけられて路地裏へと向かった。

 

 「……いいか、もし茅場が言っていたことが本当ならば、此処はもう一つの現実だ。生き残って此処から脱出するには、ひたすらに自分を強化しなければいけない。

 だから俺は次の街に行く。どうせすぐにこの近くのフィールドのモンスターは狩り尽くされる。そうなったらレベルアップが困難になる。

 三人なら俺もフォローができる……お前らも一緒に来い。」

 

 俺は、勇者っぽい顔から女とも受け取れる中性的な顔になってしまったキリトを見つめる。

 俺達プレイヤーは先程のチュートリアルで、茅場晶彦がもう一つの現実と認識させる為なのか、現実世界と同じ顔、身長にされた。いきなり周囲の男女比が変わったもんだから驚きを隠せなかった。

 

 「……俺はよぉ、元々この街で合流する仲間がいるんだ。そいつらを見捨てる真似は俺にはできねぇ。だからキリトよぅ……お前とは行けねぇ。」

 

 風貌だけでなく、顔までもが戦国武将と化したクラインがキリトの誘いを断る。彼はかなりの仲間思いのようだ。俺には彼が眩しく写った。

 

 「そうか……お前はどうだ、ソーヤ?俺と一緒に……来てくれるか?」

 

 キリトの目がクラインから俺に移る。だが、俺はもう答えを決めていた。特定の誰かと深く関われば、俺はまた裏切られる可能性がある。

 だから誰かと関わることはあっても……深くは関わらないし、信じない。あの日から俺は適当な理由をつけて、特定の誰かと深く関わることを避けてきた。

 

 「悪いが……俺も断る。どうせ付いていったってお前の足手まといになることは目に見えている。俺のせいでお前まで死んでしまっては意味がない。」

 

 「……わかった。それじゃあ、お別れだな。」

 

 キリトが俺とクラインに背を向ける。だがその背には、深い悲しみと後悔を押し潰そうと無理をしているように見えた。

 俺は、色々あって他人の感情などを読み取ることが得意になってしまった。その人の感情を読み取り、機嫌を損ねないように行動することでしか、生き残れないこともあったからだ。

 

 「……勘違いするな、キリト。お前は俺達を見捨てたわけじゃない。勝手に自分を自分で苦しめるな、それはいつかお前を殺すことになる。」

 

 「……キリト!俺は今のかわいい顔も好きだぜ!」

 

 俺とクラインからの言葉を受けたキリトは、数歩進んだところで振り返った。その顔には、少しぎこちない笑顔が浮かんでいた。

 

 「ソーヤ、ありがとな!おかげで気持ちが少し楽になった!クライン、お前はその野武士っぽい顔の方がよく似合うぜ!」

 

 そう言い返したキリトは、未だに多くのプレイヤーが動こうともしない《はじまりの街》から飛び出していった。彼はもう振り返ることはなかった。

 そして俺もクラインに別れを告げて、フィールドに出る為のゲートへと向かう。もう彼らと会うことはないだろう。

 俺は誰も信じないし、信じられたくもない。裏切られることがないように、誰かと深く関わらない。

 その事を自分自身で確認した俺は、デスゲームと化した世界のフィールドへと足を踏み入れた。


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