無能少女マジだるなのは   作:ポイテーロ

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天才少年はフィジカルなの?

『――こちらをご覧ください。まるで大型トラックが衝突したかのように――――』

 

 

 

 

 海鳴臨海公園

 

 海に隣接しているこの公園は自然に溢れ子供達がピーチクパーチク遊び回る遊具も充実しており、平日昼間にも関わらず噂好きな子連れの奥様方が寄り集まって旦那の悪口やご近所のプライベート暴露に吟じている。

 ジョギングコースとしても不自由することがなく、若者からご老人まで色とりどりの趣ある公園である。これは非常にどうでも良い情報であるが、お手軽なデートスポットや家族サービスの場としても定番らしい。

 そんな平和な臨海公園も今は報道陣やら野次馬やらで騒々しい。

 整備され、ゴミ一つ落ちていなかった石畳には、ところどころに穴が開き、まるで雷が落ちたかのように焼き焦げている場所もある。子供達が日々領土を巡って争いを繰り広げていた数々の遊具はネジ曲がり、緑の茂った木々も数十本がなぎ倒されている。

 

「嘆かわしい」

 

 生前、毎日嗜んでいた酒と煙草を禁じられた私にとって、この臨海公園でぬぼーっと海を眺めるのは数少ない娯楽であったのだ。許すまじ

 これら全て昨夜の内に破壊し尽くされたらしく、更に困った事に臨海公園だけではなく、藤見町全域に渡ってこの様な破壊工作が行われている。よって聖小からここまでの旅路も此処と似たような状況であり、町全体がざわめいている。平穏静寂を愛する私としては頭痛の痛い事である。

 未だ原因不明で犯人の想像もつかないが、犯人がいるのなら直ぐ様名乗りでるがいい。この穴ボコ町を誰の血税を持ってして修復するのか。まあ女児たる私には関係の無い話ではあるが。

 一方それなりに特需もある。

 日本中からハイエナの如く他人の不幸に飢えた連中が集まっているこの現状、取材のついでとばかりに海鳴の有名店を紹介した結果、普段から人の多い喫茶翠屋には更に人が溢れかえっている。

 普段は学校帰りに翠屋で身内特権、金要らずの放課後ティータイムと洒落込む私だが、今日は流石に無理であろうと英断し此処臨海公園で野次馬の野次馬をしているのであるが――

 

「で、何故貴様がここに居る、日向」

 

 私の眼前に仁王立ち、無愛想な面を此方に寄越す男児の名は日向小太郎。どこぞのパチモン臭い名前で天才蹴球少年。以下割愛。

 

「それはこっちの台詞だ。HRで寄り道をするなと通達があったはずだが」

「いかにも。で、あるが、するなと言われればするは常世の道理であろう」

「お前な……」

 全く、若い身空でお固い奴だ。くどくどとしつこい日向少年の説教を受け流しつつ、私がよっこらせとベンチに腰を降ろすと彼奴も私の隣に腰掛けた。おい、なぜ座る。とっとと帰って糞して寝るがいい。

 

「食うか?」

 

 なにやらゴソゴソと鞄を漁り出したかと思えば、私の謙虚な胃腸と鼻腔を刺激する湯気昇り立つ球形。差し出されたのは所謂たこ焼きという関西を代表する和風ファストフードである。

 

「これは……海鳴珍だこのフリスクたこ焼き(8個入り280円)ではないか! 私に寄り道どうたら言いながら買い食いとは……浅ましいぞ日向小太郎!」

 

「食わんのか?」

「食うが」

 

 ひょいぱくっと熱々のたこ焼きをワイルドに鷲掴み口腔へと放り込む。頬張った瞬間に穴という穴から湧き上がる爽快感、なんだか冷や汗が噴き出して止まらない。

 

「はふっはふ……うむ、やはり無類の味わいであるなこれは」

「……そうか? なぜ人気なんだろうな…………俺にはさっぱり分からんが」

「子供には分からんさ」

「お前も子供だろうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギ、ギ、ギ、と地獄の底から響くが如く鉄腕が唸りを上げ、装填された白い弾丸を射出する。

 

――笑止、その程度で私が怯むものか

 

 瞬時に飛来する弾丸の軌道を予測、計算式を脳裏に弾き出し、手にした超重量の鉄塊を以ってして迎え撃つ。

 

へにょーん

 

 しかし弾丸は無情にも予測した軌道を逸れ、通り過ぎた数瞬後に波打つ軌道を描いた鉄塊は重力に逆らう事無く地面へと振り落とされた。それに従って引き摺られた私の体も独楽のように回転する。

 無情、乾いた音が虚しく響く

 

「重いんじゃあ無いのか? そのバット」

カキーン      テッテレー

 

「はぁ……はぁ……これはっ、一番っ、軽いっ、ものだ!」

へにょーん

 

「……そうか」

カキーン      テッテレー

 

「何故、ここに、貴様がいる!」

へにょーん

 

「気にするな。偶然だ」 

カキーン      テッテレー

 

 また一閃、隣の打席から鳴り響く快音と、ホームランを告げる粗悪な音に私の眦から滂沱の涙が溢れ落ちた。中学軟式野球の世界において『夢幻長距離砲』『本番昼行灯』等と有名を馳せたこの私が、高々80km/hの軟式球になんと情けない有様か。常々痛感するがこの体は異常な程に愚鈍である。かの有名な眼鏡の少年の様に、両親の欠点ばかりを受け継いでしまったのではなかろうか。

 憤怒した私は未だ白球を吐き続ける機械人形をこれでもかと憎悪を込めて睥睨した後、戦略的撤退を図った。

「打たないのか?」

「打てないのだ球が遅すぎてな」

「振り遅れていたが」

「ふん、ストロボ効果を知らんのか。地球も超高速で自転している。矮小な存在には観測できないのだがな」

 息絶え絶えにへたり込んだ私に哀れみの視線を向ける日向少年。ええい、鬱陶しい

 蹴球少年の分際で野球もできるだと? 私は認めんぞ馬鹿野郎。貴様はゴールに向かって雷獣シュートでも放っていろ。そもそもバッティングと野球は別物なのである。私は投手のほうに才能があるのである。そう願いたい。

 

 海鳴駅から徒歩6分、路地裏にぽつんと佇むバッティングセンター花形。大層な名前の割りには寂れた店であるが、100円で50球という破格の値段であり、海鳴中の野球好きからは隠れた名所として知られている。

 かく言う私もここ一年程此処に通っているが、未だ快音は響かない。なにせ一年で一回足りとも掠りもしない有様であり、同情した店主が私だけに60球50円と破格の値引きを提唱する始末である。ここまで振って一掠りもしないのは女として生まれ変わったのが原因ではないかと私は睨んでいる。女に生まれ変わり、棒と球を喪失した私に野球の神は興味を無くしソッポを向いたのだ。だとすれば野球の神は女神であろうか、はたまた男色ホモのオッサンであろうか。想像はあまりしたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いのままバッティングセンター花形を飛び出した私の後を日向は当然のように付いてきた。

 しかしこの少年、今日は何故やたらと私に付き纏うのか。偶然と吹かしていたがそんな偶然があるものか。明らかに明確に私の後を付いてきている事は間違いない。

 何が狙いか。まさか、歳不相応な体格を持ったこの少年は同じく歳不相応な大人の色気を醸し出す私の美貌に当てられ、獣の如き劣情を以ってして私の幼き肢体を貪らんと虎視眈々目論んでいるのであろうか。だとすれば私のなんと罪深き事か。齢約10才にして既に毒婦の如く男を惑わす自分の才能が恐ろしい。

「何か勘違いをしている様だが…………三人、死んだそうだ」

「一体なんの話だ唐突に」

「昨日の事件の死傷者だ。重症者は五人、軽症が二人」

「その様な情報は聞かなかったが」

「家は寺だからな。葬式に……警察との繋がりもある。まあ明日には公表されるだろうが」

「……ふん、用心棒でも気取るつもりか貴様」

「俺はクラス委員長だからな。監督もお前の奇行を常々心配しているんだ」

「私は至って正常であるが」

「だと苦労はしないんだがな。俺も、大人も」

「ぬかせ」

 やはりこの男、オヤジ殿の差金であるらしい。文句の付け用のない善い父親ではあるのだが、些か過保護が過ぎる気がある。……その一因は私にあるのだが。

 

 時は今より約五年前に遡る。

 

 喫茶翠屋のマスターになる以前、高町士郎は持ち前の剣技を活かし、要人警護の職に就いていたらしい。

 しかしその経歴故の因果が起こした事件に巻き込まれ、生死を彷徨うほどの大怪我を負ったのだ。当時の高町家はそれらの看病や店の切り盛りに追われ、私に構う暇などあろう筈も無かった。そしてその時こそ、私が前世の記憶の完全に取り戻した時期でもある。

 高町士郎の怪我も奇跡的に回復し、店の様子もようやく落ち着きをみせホッとするも束の間、大いなる変身を遂げていた末の娘高町なのはの姿に、高町家一同は再び茫然自失となった。

 なにせ記憶が戻る前の高町なのはといえば、素直で明るい純真無垢天真爛漫を地で往く天使のような幼女であったのだ。

 それがどうした事か、蓋を開けてみれば純金が路傍の石ころに、虚ろな目をした悪魔の子へと変貌し、暗黒微笑を顔面に貼り付かせていたのである。

 その後、光翼を生やした女医から脇出し巫女、果ては狂気の神父まで連れてきては私を診せたのだが一向にもとの純天使へと戻る気配もなく、私は堕天の悪魔で有り続けた。

 高町夫婦はその原因が自分達にあると自戒し、腫れ物を触るが如く扱いをしばらく受けたのは未だ記憶に新しい。

 なにせその頃の私といえば、人間失格たる青年の記憶がヘドロのように流れ込んだ混乱で今より更に情緒不安定であり、度々わけのわからない奇行を繰り返し周囲を阿鼻叫喚に陥れる日々に暮れていた。そんなエクソシストな娘を我慢強く受け入れた偉大な高町家の面々に、私は感謝の念が絶えない。

「高町。お前は化生の類を信じるか?」

「また急に何を」

「……怪我を負った目撃者が言うには、犯人は黒い化物とのことだ。全員がそう証言している」

 日向少年の何時に無く複雑な感情が入り混じった目を見て、私はその言葉が冗談半分ではない事を覚った。

「……犯人は人間ではないということか」

「意外だな。信じるのか?」

「信じはしないが可能性としてな」

 以前の私ならば一笑に付したであろうが。なにせ私の様な頭脳はオッサン体は幼女の摩訶不思議妖怪変化もいるのだ。世の中何があるか一体全体わからない。

「他にも空飛ぶ少女を見た者もいる。金色の鎌を持って化物と戦っていたらしい」

「……そこまで行くと俄には信じ難いな。一体何処の萌え燃え魔法少女だ。」

「俺もそう思うがな……とにかく、おかしな情報が入り乱れて捜査が一向に進まないらしい。まあそんな訳でお前も気を付けろ」

「……ああ」

 無能な私であるが、ここままで親切心を持った少年の言葉に無視を決め込む程の恥知らずでは無い。

 しかしこの少年、聡明である。村きっての神童と謳われた私の小学3年時分ですらここまで成熟はしていなかったのだが。だが思えば聖小の生徒は私の知っている小学生像よりも些か大人びているような印象がある。やはり家庭環境の良さが育成の決め手なのだろうか。だとすれば世はやはり無情である。お受験のない一般家庭もしくは水準以下にある同年代の公立生徒達は、鼻水垂らしながらアヘアヘと駆け回っているのであろうか。私のような生まれついての下賤にはそちらの方が水に合うだろう。

 などと、相も変わらずくだらない事を考えながら帰路を歩く私達の左前方よりけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

 

「警察と……救急車か」

 

 数台のパトカーと一台の救急車が前方車両を押し退けるように凄まじい速度で進んで行った。あの方向は確か八束神社のある場所だ。とてつもなく長い石段に疲れ果て、父の背中で参拝を果たした屈辱の場所である。

 

「どうする。行くと言うのなら叩きのめしてでも連れ帰るが」

 

 先程の話もあり少しばかり興味が湧くが、ゴキブリの如く生き汚い私の中のリトル高町が「逃げるんだよォォォーーーーーッ」とガンガン警鐘を鳴らしていた。

 

「ほれ、サッサと帰るぞ少年」

 

「良い判断だ」

 

 

 

 

 

 

 後から父に聞いた話によれば、突如として現れた黒い大型犬が暴れ回り、少なくない怪我人が出たらしい。

 しかし雷鳴と共にその黒い大型犬も突如として消えてしまったとか。なんとも不思議な話である。やはり昨夜の出来事の関係しているのだろうか。

 この町で一体どんな事が起こっているのか私には想像もつかないが、警察なり魔法少女なりさっさと解決してほしいものである。

 

 

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