無能少女マジだるなのは   作:ポイテーロ

4 / 7
妖怪!? もうひとりの高町さんなの!

 日向小太郎の朝は早い。

 

仄暗い空に朝日が昇る前には既に起床を終え、トレーニン前にはお堂で少しだけ手を合わせる事も忘れない。特に信仰心があるわけでも無いが、寺の息子だから一応やっておくか、といった適当な理由である。

 

「おはよう、小太郎」

 

 そんな小太郎に声を掛けたのは法衣を纏った2mは軽く超えるであろう大柄の和尚。小太郎の父、日向安次である。

 今時の坊さんにしては珍しく質素剛健名僧知識を地で行くと評判のその姿は、小太郎の級友である某根暗少女曰く『坊主を超えた坊主をさらに超えた超坊主』であるらしい。

 もっとも世間の評判など父の本質を知る彼からすれば一笑に付すレベルの話であるが。

 

「行ってくる」

 

「気をつけてな」

 

 毎朝恒例の父息子の短いやりとりを交わすと、未だ完全に覚めやらぬ肉体を解すようにゆっくりと走り出した。

 

 

 新春早朝の心地いい風を受けながら公園近くの交差点まで差し掛かると、前方を走る見知った二人の姿を目に捉える。

 

「おはようございます。恭也さん、美由希さん」

 

 すぐさま速度を上げ並走すると、見知った二人――高町恭也とその妹である美由希に朝の挨拶をする。これもまた、毎朝恒例の事である。

 

「おはよーコタローくん」

 

「今日も早いな」

 

 二人も小太郎に挨拶を返すと、それが合図であるかのようにさらに速度を上げた。もはや外から見れば完全に短距離走並の速度であるのだが、三人は全く息を乱す様子はなくそれどころか笑顔で談笑を交わす始末。

 犬の散歩をしていた初老の男女がその弾丸ライナーに擦れ違うも、その顔に驚きはない。これもまた毎朝恒例の風景であり海鳴ではさほど珍しい光景ではないからだ。いやはや慣れというものは恐ろしい。

 

「父さんから聞いたよ、大変だったらしいな? 昨日の試合」

 

 勢い良く風を切りながら先頭を走る恭也が小太郎へと話し掛ける。小太郎と同じく普段は表情をあまり変えない恭也だが、珍しく美由希と共に気不味気に苦笑していた。

 

「はい、チームの立て直しにはしばらく掛かりそうです」

 

「あはは…ごめんね? またなのはが……」

 

「いえ、もう慣れましたから」

 

 話題に上がったのは先日行われた少年サッカークラブの試合である。

 いつもの様に和気藹々と平和に行われた子供たちの試合は、とある一人の少女の登場によってミンチの如く叩き潰された。

 正々堂々安全安心だった少年達の試合競技は突然として罵詈雑言飛び交う地獄の戦場と化し、純粋無垢な少年達(とりわけ翠屋サイド)の心に深い爪痕を残してしまった。

 若くして心に根深い闇を植え付けられてしまったチーム一同の今後を想像し、小太郎は深く息を零した。

 

 八熱地獄を作り上げ、邪悪な女神のように高笑いをしていた件の少女、高町なのは。翠屋FCの監督高町士郎の娘であり、恭也達の妹でもある。

 高町夫妻の娘だけあって可愛らしい天使の如き容貌をしている筈だったのだが、何を間違ったのかこの世の光を一片も宿さない昏い眼差しと滲み出る陰鬱な雰囲気によって非常に残念な有様になっていた。

 

 小太郎から見た高町なのはという少女は、とにもかくにも地に足がついていない。

 世間ではなく、世界という次元で決定的に何かがズレている。台風の目のようにごちゃまぜの暴風に包まれ全てを寄せ付けない。人も、人でない何かも。或いは運命すらも。

 己以外の存在が誰よりもよく視える日向小太郎にとって、高町なのはという存在は初めて出会った理外の理、非常に興味を惹かれる理解不能の黒い箱であった。 

 

 特上寿司かと思ったらマスタードを大量にぶち込んだカルフォニアロールだったでござる。とは小太郎の友人、後藤くんの談である。

 

 

 

 

 

 走りながらポツポツと他愛も無い雑談を交わしていた三人だが、しばらくして小太郎やなのはの通う聖小が見えてくると、先頭を走っていた恭也が速度を落として鋭い視線を小太郎と美由希に投げ掛けた。 

 二人も意を得たりと速度を落とし、人気の無い歩道を歩き始める。今までの和やかな雰囲気は既に消え去っており、三人の周囲には微かな朝靄と共に張り詰めた空気が漂い始めた。

 

「例の件、俺達も色々と調べてみたが全く手掛かりが掴めなかった」

 

「…そう、ですか」

 

「亡くなった人の死因もバラバラ、現場もあれだけ破壊されてるにも関わらず髪の毛一本すら残ってないんだよねー」

 

 恭也達が切り出したのは、ここしばらく海鳴を騒がせる不可思議な事件。

 数日前を境に街中の様々な場所が破壊され、数人の死傷者も出ている。これだけの大事件にも関わらず未だ情報が錯綜し、警察の必死な捜査も虚しく明確な犯人の目処も立たないまさしく怪奇事件である。

 マスメディアは嬉々として連日連夜と海鳴中を周り、全国に向けて面白可笑しく事件の詳細について騒ぎ立てていた。

 

「小太郎、この事件どう見る……いや、どう『視』える」

 

 鋭い刀のような切れ長の瞳に複雑な感情を含ませ、恭也は小太郎へと問い掛けた。

 

「恐らく……死傷者を出したのは人間ではありませんね」

 

「確信は?」

 

「葬儀の際、仏に残った残滓を確認しました」

 

「…そうか」

 

「殺人事件じゃない事を喜んでいいのやら…微妙な感じだね」

 

 小太郎の確信を乗せた言葉に恭也と美由希は複雑な表情を浮かべた。

 

 

 

 日向小太郎は『普通』ではない類の人間である。

 

 それは同年代の子供たちに比べて背が高いだとか知能や身体能力が優れているだとかそう言う一般的な意味での事ではない。

 人から外れた所謂『異常者』

 小太郎は己の有様をそう認識している。

 最も、彼の父はそれを否定する。

『少しだけ人より多くの『理』が視えるだけなのだ。お前自身はなんら外れた存在じゃあない』

 その言葉の通り、小太郎の瞳は様々なモノを映し出す。それは他人の年齢体重、才能や性格などの本質や心の内の思考であったり、数キロ先の光景や少し先の未来であったり、はたまた全裸で走り回る小さいオッサンや電柱の横に俯き佇む女の姿であったりと、その両眼は節操なく様々な非日常を捉えてしまう。

 父、安次に聞かされた話によれば、小太郎が物心つく以前に他界した母親も小太郎に類似した力を持っていたという。

『古くから脈々と続く日向という一族の血によって稀に発現する異能がどうたらこうたら』

これ以上詳しい事は拙僧も知らね、まあ気にすんな、と鼻をほじりながら言い放たれ小太郎少年がズッコケたのは言うまでもない。

 日向安次、良い意味でも悪い意味でも超弩級な男であった。

 兎にも角にも一見便利な力かと思えるが、日向小太郎にとってはただの厄介な呪いでしかない。なにせ日常だと思っていた世界が自分以外にとっての非日常であり、明確な異常なのだと気付かされたのは、誰よりも早く聡明な自我が芽生えた小太郎にとってはそう遅い話では無かったのだから。

 巨大な惑星が無数の衛生を引き付けるように大いなる力にはそれに伴ったナニカを惹きつける引力がある。常人に見えない存在が『視』えるのだから日向小太郎がその存在に『魅』られるのまた必然。幼い彼の周囲には常に厄災が伴った。

 寺から出れば彼の体には複数の小さいオッサンがキーキー叫びながら纏わり付き、後ろから憑いてくる血塗れの女は殺意と憎悪を宿した眼差しをもって彼の周囲に冷気と不調をもたらした。

 左を向けば何度も何度もマンションの屋上から飛び降り自殺を繰り返す若者の霊。

 右を向けばくっそ汚いオッサンの顔面を貼り付けた雑種犬が、それはもう嬉しそうに道行く女性に卑猥な言葉を吐いていた。

 一つ一つ挙げていけばキリがない程に日向小太郎の世界はこの世ならざる者たちによって黒く染まり、彼とその周囲にカタストロフを撒き散らす。

 当然、そんな気味が悪い存在に寄り付く人間がそうそういる筈もなく、彼を中心に悪い噂は絶えなかった。

 

 

「む……」

 

 聖祥大付属小学校の校門前、小太郎は顔を顰めてを立ち止まると、校舎全体をゆっくりと見渡す。

 目を凝らした彼の眼に映る子供たちの学舎は、既に本来の明るい彩りを保っておらず黒い霧に覆われた校舎は不気味な瘴気を小太郎の足下に至るまで撒き散らしていた。

 

「どうだ?」

 

 小太郎に合わせて足を止めていた恭也が問い掛ける。

 

「…昨日よりも酷くなっています。これは…やはり怨念や邪気を増幅させているのか……?」

 

 校舎全体に漂う瘴気と何処か既視感のある得体の知れない力。少し前にはほんの違和感だったそれが日々強くなっていく事に危機感を抱いた小太郎は、数日前に父と自分の異能の秘密を知っている高町家の人間にこの異変の状況を相談していた。

 

「おばあちゃん、今日中には着くってさ」

 

「お師匠は…まあ壮健でしょうね」

 

「そりゃもうね、たまには電話ぐらいしろって怒ってたよ」

 

「それは怖い」

 

 恭也と美由希の曾祖母であり小太郎少年の恩師である女性の拗ねた顔が脳裏に浮かび思わず苦笑した。

 

 

 

 日向小太郎と高町家の繋がりは存外長く、それは彼の厄介な異能に起因する。

 常人の子供であれば耐え切れずに心を壊してしまっていたのであろう小太郎少年の秘めたる異能。常人の親ならば彼を恐れて見放してしまっていたかもしれない。

 しかし日向小太郎は幸か不幸か心の耐久性すらも常人を遥かに凌駕していたし、彼の父親であり海鳴において右に出る者はいない鋼の坊主こと日向安次も愛する息子を襲う現状にただ手をこまねく弱者ではなかった。

 日向安次という男は長年に渡って厳しい修行を乗り越えてきた徳高き坊主ではあるが、この世の理を乱すモノ達に干渉を及ぼす破邪の才には残念ながら恵まれていなかった。

 死に物狂いの修行によってやっと薄っすらとその存在を捉え、低級霊程度ならば問題なく祓えるようにはなったが息子の周りに渦巻く魑魅魍魎を全て祓う才と術は残念ながら持ち合わせてはいない。

 だがしかし、それで簡単に諦める安次ではない。

 自分に無いのならば持ち得る者に頼れば良い。そう思うやいなやその強靭で超人的な肉体でもって日本中を駆けに駆けた。

 

 血反吐を零しながら己の持つ裏世界のツテを辿り、霊媒師やら神父やら様々な人物を見つけては出会い頭になぜか喧嘩を吹っかけて己よりも強い豪傑を探して回った。

 祓うだけならば強力な霊的異能さえあればいいのではあるが、泣き喚く事もせず黙って耐え忍び日々焦燥していく息子の姿に煩悶していた彼にそんな事を考える余裕はなく、鍛え上げた剛腕でもって物理的に霊能者を殴っては投げ殴っては投げて警察に追われながらも走り抜けた。

 

『そこな暴走坊主! しばし待てぃ!』

 

 国内の目に付く霊能者をあらかた殴り尽くしたかと思った折、安次の前に立ち塞がる者が現れた。

 女だ。

 腰まで届く長い亜麻色の髪をゆらりと流す妙齢の女。

 纏う巫女服には肩口から引き千切ったように袖が無く、シミ一つ無い白く豊満な肉体を惜しげなく晒していた。

 

『おんしなにやら面白い事をしとるようだの』

 

 眼前の女から発せられる緊張感の無い軽やかな声音。

 だがその存在から沸き出す圧倒的な重圧は安次を硬直させ、強張った全身からは冷や汗が噴き出した。

 

『どれ、ちょいと儂も興じさせてはくれんかの』

 

 本能が告げる。この女は自分より強い、と。

 

『――――ッォオオオオオオオオ!』

 

 安次は無意識に口角を上げ、全身に活気を通し鋼鉄の如く艶めく筋肉をミチミチと漲らせる。

 

 ――戦闘準備完了、ここに来て最高の相手と巡り会った。全力全開で、こいつをぶん殴る――――

 

 もはや当初の目的など安次の頭には無く、獲物を定めた猛獣の如き形相で、唯、目の前の敵に勝つ為だけに思考のキャンパスを染め上げる。

 

『はは、善い好い。精々儂を楽しませろよ、坊や』

 

 女は眼前で荒ぶる猛獣を見据えると、心底嬉しそうに女神のような慈愛の笑みで両手を広げ、男を待ち構えた。

 

 

 

 ――いざ、尋常に――――――

 

        

 

 

 こうして唐突に切って落とされた馬鹿二人の死闘は熾烈を極め、山が一つ消し飛んだとか飛ばないとか。

 とにかく長い闘いだったので割愛する。

 結局女に敗れてしまった安次は当初の目的を思い出すと、事情を話して女に頭を下げた。

 その後なんやかんやあって女の弟子になった小太郎は無事に力を制御せしめ、ようやく日常へ小さな一歩を踏み出した。 

 ちなみに偶然かはたまた運命なのか、女の曾孫夫婦が同じ海鳴に住んでいる事が発覚したり、その夫婦が町内会で顔見知っていた喫茶翠屋の夫婦だったりと、とにかく色々あったのだが…これもまた長いので割愛する。

 

 日向小太郎の恩師匠にして高町桃子の祖母、高町なのはの曾祖母であるその人、名を、高町桃花という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たまには洋菓子もいいのぅ。『ケーキを食べればいいじゃない』とは西洋人もたまには良い事を宣う」

 

 テーブルを占領する色とりどりのケーキの皿に次々と手を伸ばし、ぱくぱくむしゃむしゃと戯けた言をほざく眼前の妖怪。

 相も変わらず歳不相応の節操の無さでもって私の視覚聴覚を汚染し、食事という魂のカタルシスを阻害する。胃液過多。

 

「アントワさんの事ならばブリオッシュだ。正確に言えばケーキではない」

 

「Qu'ils mangent de la brioche、言われんでも知っておるわ糞ガキ。ばーかばーか」

 

 この妖怪、やたらと良い発音である。

 というか咀嚼しながら大口を開けるな汚い。見よ、周囲の客がドン引きしているではないか。ただでさえ目立ってしようがないというのに。

 

「ま、桃子の菓子には及ばんがの」

 

 たのもー、と大声で店員にドリンクを要求する巫女服の女。

 いや、そもそも巫女服と形容していいのだろうか。

 なにせ本来袖がある筈の場所に袖が無い。

 肩口から引き裂いたように袖が紛失しているその有様を私は断じて認めない。

 袖を裂いていいのはヤムチャと波動使いの空手家だけだ、似非巫女め。

 

「では翠屋でよかったのでは? 態々正反対のこんな所まで足を運ぶ必要は」

 

「ばっかもん! …翠屋じゃ桃子がうるさいじゃろが。あの一々儂の行動に口を出す煩わしさはあれの母親にそっくりじゃ。くりそつじゃ」

 

「むしろ貴女が似るべきだ、オババよ」

 

 自己紹介が遅れた。

 私の名前は高町なのは☆

 9歳と少しの可憐な少女。

 否、可憐と言い難き枯れた少女である。

 前世の穢れた記憶によって魂がルフランされた哀れな少女であることは今更言うまい。

 そんなダウニーガールな私は今現在、学校終わりに突如として現れた変質者に誘拐された挙句、駅前の喫茶店で優雅とはとても言えない放課後ティータイムの真っ最中である。

 他者紹介が遅れた。

 私の対面、尋常ではない勢いで尋常ではない糖分を摂取しているこの非人間的人間、名を高町桃花(ももはな)。私の母、高町桃子の祖母であり、当然私の曾祖母という事になる。

 お気付きになっただろうか? 曾祖母である。

 腰まで届く艶のある亜麻色の髪に深海のような青い瞳。

 長い手足の目立つ引き締まった躰には、たわわと実った大きな果実が縦横に存在を主張している。

 少なくとも齢70は軽く超えているはずなのだが、その相貌は皺一つ無く整っている。女子高生と名乗ってもギリギリ騙せる容貌だ。

 もはやアンチエイジングとかそういうレベルの話じゃねぇ。 

 全世界の女性のため、今すぐにこの妖怪を解剖してホルマリン漬けにすべきだと提言したい。

 そして我が母桃子さんを仄かに思わせるその整った顔の造形が、私の体に流れる高町の血脈である事を確かに証明している。

 もっとも私以外の高町家の皆々様の言によれば、色濃く血を受け継いでいるのはこの私、高町なのはのらしい。遺憾である。

 

「ほんに可愛げが欠片も無いのお前さんは。まるで白鳥が生んだ夜鷹じゃ、夜鷹」

 

「かわいい曾孫に随分と言ってくれる。顔立ちは貴女に似ているらしいのだ。自虐が過ぎるぞ夜鷹老人」

 

 しかし曾孫に向かって下級娼婦を揶揄する夜鷹とは何という老人か。まさか占い師として私の将来を暗示しているのか?馬鹿な、ふざけるな。だいたい夜鷹にだって愛嬌はある、天高く飛んで燃え盛る星にだってなれるのだ。

 

「はっ、儂はそんなヘドロみたいな目はしとらんわ。今だって現役じゃ、男にもモテモテじゃ!」

 

「へぇへぇ、ホスト通いも大概になされよ」

 

 なんとも程度の低い会話である。 

 だが私は彼女が嫌いではない。

 大雑把でいて裏表が無く唯我独尊を地でいく明朗快活な性格は、私が常に纏っている暗黒のマイナス似非イオンを和らげるような気がしないでもない。

 相対消滅という奴であろうか。

 ただ若干、いや、かなり扱いに困る人だ。もしかしたら私よりも変人じゃなかろうか。

 職業は自称占い師。確かに占い師のような胡散臭い風体である。この独創的な巫女服は荒ぶる感情の発露らしいが、よくわからん。

 

「で、何用があって私を掻っ攫ったのだ」

 

 感情の赴くままあちらこちらと世界中を飛び回っている風来坊の彼女はたまにこうしてふらっと顔を出す事がある。そんな時は大抵ロクなことがないと私の脳細胞は記憶し警告している。

 

「寂しいことを言うのぅ。かわいい孫たちの様子を見に来ただけじゃ」

 

 てへっ☆っとあざといポーズで舌を出すオババ改め、オバカ。

 

「笑止千万!悪霊退散!ええい、大人しく成仏しろ妖怪め!」

 

「クケケケケ」 

 

「あの、お客様……」

 

 

 

 

 騒ぎまくった挙句に店を叩き出された私たちは、二人揃ってぽてぽてと高町家本宅へと帰る次第となった。

 もうあの店にはしばらく入れまい。南無三。

 

「桃子さんに言いつけてやる」

 

「そんなに怒る事は無いだろうに。ほれ、飴ちゃん食うかえ?」

 

「いらぬ」

 

 ケタケタと笑いながら歩く巫女服のオババに当然の如く視線が集まる。向かい側の歩道では鼻の下を伸ばした青年がその彼女らしき女性に頭を引っ叩かれていた。

 腰まで揺れる艶やかな亜麻色の髪にシミ一つない白い肌、整った顔立ちにプルプル揺れるたわわな双球。

 通常より大きく開いた緋袴の横の切れ目からはむっちりとした太ももが、歩みに合わせてチラチラと垣間見える。

 仕方が無かろう、女児になった私でさえ思わずガン見する程だ。

 しかしこの視点からよく見ると…まさかこれは……パンツを履いてないのか? パンツが無いから恥ずかしくないもん的なあれなのか? 

 誰か警察を呼んで欲しい、猥褻物陳列罪で逮捕せよ。

 

「なーのーはー」

 

「ふぇえ!?」

 

 いつの間にかガバっと正面に回り込まれ、そのままオババに抱き締められた私は、思わず情けない女児のような声を出して足をジタバタとさせた。

 ええい不覚、この、何をする、くそっ、大きく柔らかい胸がぱふぱふと顔面を包んで、桃子さんに似た甘く良い匂いで…………くっ…殺せ。

 

「どれどれ、うむ、最近はちゃんと髪の手入れをしておるようだの」

 

「嗅ぐな」

 

 なにが楽しいのか全身を弄りくんかくんかと私の匂いを嗅ぐオババ。道端でひと目を憚らずイチャつくロリとババア、これが噂に聞くロリババアであろうか。

 

「う〜ん、マンダム」

 

「くっ……殺せ!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告