BanG Dream! セレクト!音のクリスタル   作:水卵

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今回は一週間更新に成功。


2020/07/10
律希のバイト期間を修正。


第12話 チカラの意味 3/チカラの考え方

 夕方、睡眠を取ったことで復活した詩希はとあるライブハウスを訪れていた。訪れたライブハウスの名前は『CiRCLE』。以前香澄たち『Poppin'Party』のライブを見に来たことがあるライブハウスだ。また、とある縁があって何度か足を運んでいるライブハウスでもあり、店内に入れば顔見知りのスタッフが何名かいる。そのうちのひとり、月島まりなが詩希の姿を見ると笑顔で駆け寄ってきた。

 

「詩希くん、久しぶりだね」

「まりなさん、お久しぶりです」

「どう? 最近の調子は」

「まあ、色々頑張ってます。まりなさんの方はどうです?」

「同じかな。最近ここでライブするバンドが増えてきて、ちょっと大変かも」

 

 ちょうど受付で次回の予約をしている声が聞こえてきて、詩希はあたりに視線を向ける。ギターを背負った子や、バンドだと思われる団体が、以前訪れた時より増えているように感じた。

 

「増えてきてるみたいですね、バンド始める子たち。そう言えばこの前、鈴音が『もうすぐ大ガールズバンド時代が来るね』なんて言ってましたよ」

「香澄ちゃんたちの影響が大きいのかもね。あとは、『Pastel*Palettes』を見て興味を持った子もいるみたい」

 

 だから大変、とまりなは付け加えた。

 

「大変ですね」

「本当だよ〜。あーあ、律希くん戻ってきてくれないかな」

「あははは、聞いときますよ。また『CiRCLE』でバイトしないかって」

 

 先月頭まで、律希はここ『CiRCLE』でアルバイトをしていた。ちょうど律希がバンドに興味を持ち始めたことがきっかけで、その時ここを見つけたらしい。演奏する側ではなく裏方なのは、あくまで見る側としてバンドに興味を持ったことが理由らしい。

 その縁もあって、イベントTシャツやバンドの子たちの衣装などを『SONG』で作る機会があり、こうして面識のある間柄になったのだ。

 

「お願いね。うちはいつでも歓迎だから」

 

 律希の働きぶりはかなり評価がよく、辞めたあとでもうこうして戻ってきてくれることを期待しているのは兄として誇らしいことだ。

 

「それで、今日はどうしたの?」

「あ、そうでした。香澄ちゃんたち今日来てますか? ここで練習してるって聞いたんですけど」

「うーん、ちょっと待っててね」

 

 受付へと戻ったまりなは、手にとった予約リストを目で追い、

 

「今日は来てないみたい」

 

 と言った。

 

「そうですか。これから来るとか知ってますか?」

「うーん、予約の電話は受けてないかな。それに、香澄ちゃんたちは香澄ちゃんたちで練習場があるから、あまりCiRCLEにはこないんだよね」

「え? そうなんですか?」

「うん」

 

 これは予想外のことになってしまった。てっきりCiRCLEでいつも練習していると思っていた詩希はここへ来れば会えると思っていた。しかし、彼女たちはどうやら自分たちの練習場所を持っているようで、しかしそれがどこなのかわからない。

 とは言え、明日になれば鈴音が学校へ行くし、その際に確認してもらえばいいことだ。直接確認できないのは残念だが、練習場所がわからない以上どうしようもない。

 

「香澄ちゃんたちに用があったの?」

 

 と、まりなが聞いてきた。

 流石に正直に理由を言えるはずもなく、とっさに、

 

「次のライブいつなのかなって。前のライブが結構すごかったので、次もまた見たいなって思ってるんですけど、最近お店の方にあまり来てないので」

 

 と言った。

 理由としては真っ当なものだろう。まりなの方も納得といった表情を浮かべている。

 

「なるほど。もしかして、香澄ちゃんたちのファンになったのかな?」

「ええまあ、そんなところです」

「そっか。ポピパ のライブはすごいもんね。演奏技術はあまり高くないけど、見ていて楽しくなるっていうか、元気をもらえるライブだよね」

「はい。また少し元気をもらいたいなって」

「わかった。香澄ちゃんと会ったら伝えておくよ」

「ありがとうございます。それじゃ、今日はこれで失礼します」

「また来てね」

 

 軽く会釈をしてCiRCLEをあとにする詩希。目的を果たせなかったことに少しだけモヤッとしつつも、いないのであれば仕方がない。特にやることもないのでこのまま帰ろうとした時、後ろから「おーい」と声をかけられた。

 振り返ってみると、クロスバイクに跨がる律希の姿。その表情は今朝のときとは打って変わって晴れやかなものになっている。

 律希は詩希の隣にやってくると、クロスバイクから降りて詩希の隣を歩き始めた。

 

「兄貴じゃん、こんなところで何やってんの?」

「ちょっと香澄ちゃんと有咲ちゃんの様子が気になってな」

「あー、なるほど。それでCiRCLEに行ってきた、と」

「よくわかったな」

「バイトで通りまくった道だぞ? 周辺に何があるか記憶してるっての」

 

 コンコン、と右手で自分の頭を叩きながら得意げになる律希。しかし詩希が冷たくスルーすると、むすっとした表情に変わった。どうやら反応がお気に召さなかったらしい。

 そんな律希をスルーしたまま、

 

「まりなさんが言ってたぞ。戻ってきてくれいないかなーって」

 

 と言った。

 すると、律気がどこか気まづそうな表情になる。

 

「あー……ほら、そのー……また気が向いたらな」

「結構好き好んでたのに、なんで辞めたんだよ」

「俺なりの理由があんの」

 

 素っ気なく言うと、律希はクロスバイクを押したまま詩希を追い越す。

 

「それより、今の俺たちにはもっと重要なことがあるだろ?」

「重要なこと?」

 

 聞き返すと、律希は「わかってないな〜」と言った。

 その態度に、嫌な予感がした詩希。

 

「俺たち、『ウルトラマン』になったんだぜ? これから世界を守るためにどんどん戦わないとじゃん」

「…………」

「そのためにも、もっとウルトラマンの力を知り尽くさないと。あー、他にどんなことができるのかなー。水だけじゃなて、火とか風とか土とかあるしー……うーん、兄貴と俺で能力に違いが出るのか? それとも違いは出ないとか、気になる……って、兄貴?」

 

 案の定、詩希が予想した通りの言葉。朝の顔は一体どこへ消えたんだと問いたくなる気持ちを抑え一呼吸。

 立ち止まった詩希が気になったのか、こちらに振り返ったタイミングで口を開く。

 

「……お前な、『ウルトラマンの力』を軽率に考えすぎだ。言ったよな? この力はそう簡単に使っていいものじゃない。もっと慎重に考えないとって」

「でも、俺たちの手から『ウルトラマンの力』は消えてない。これって、まだ巨大生物が……んー、長えな。そうだ怪獣、うん、怪獣がまだ現れるってことだろ? ならこの力を使って戦うしかないじゃん」

「それはそうだけど、おれが言いたいのは考え方のことだ。そんな考え方でいたら必ず痛い目を見るぞ」

 

 律希の瞳を正面から見据えながら言う。

 

「ただでさえお前は好奇心の塊みたいな性格してるんだ。興味ばっかり優先して他のことが見えなくなる。もしそれで問題でも起こったらどうする? ウルトラマンの姿で起こったら、取り返しのつかないことになるかもしれないんだぞ?」

「……でも、力を知らなきゃ戦えないだろ。ただでさえウルトラマンに変身できる時間は限られてるんだ。慎重になりすぎて、逆に失敗したらどうすんだよ」

「それは……」

「兄貴のそれは慎重じゃなくて、臆病って言うんじゃないの?」

「な!? 違う! おれは臆病なんかじゃない!」

「どーだか! 今まで散々いろいろ諦めてきて、それって全部臆病だからだったんじゃない!!」

「……っ!?」

 

 詩希の瞳が揺れる。

 それは自分でもわかっている己の弱い部分。それを今、弟に真っ直ぐに言われて揺らいだのだ。否定したくても否定できないこと。

 唇を噛み締める兄の姿を見て、弟は勝ち誇った表情を──するわけがなかった。それは律希もわかっているからだ。今の言葉が兄にとってどう言ったことを意味するのか。

 気まずい空気が兄弟の間に流れる。

 先に動いたのは律希だった。クロスバイクに跨り、その場から走り去っていく。ひとり取り残された詩希。

 しかし、

 

『──次が来る! 戦って!』

 

 再び聞こえた女性の声に思考をそめられるのだった。

 

 

 

 

 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「……え?」

 

 最初にそれに気づいたのは香澄だった。

 

「香澄、どうしたの?」

 

 香澄の異変に沙綾が気づき、その視線を香澄が見ている方角へと向ける。

 すなわち空。

 

「何……あれ……」

 

 そこへ広がる光景に沙綾は疑問の声をあげた。たえもりみも、空に広がる光景にただただ疑問を感じるだけ。

 しかし、香澄と有咲だけがその光景の意味を理解している。

 

「嘘だろ……また……」

 

 有咲が震える声で呟く。

 空を見上げる少女たちの視界に映るのは()()()()()()()。そう、三日前、香澄と有咲が巻き込まれたあの時と同じ青黒い雲。それは、巨大生物出現の合図。

 

「……来るんだ」

「香澄ちゃん……?」

「来るって、何が来るの?」

 

 香澄が震える声で言う。

 脳裏にあの時の恐怖と絶望が呼び起こされる。

 

「あそこから来るんだよ! ドーン! って──」

 

 そして、香澄の声をかき消すかのように、絶望が落下してきた。

 轟音を立てて落下してきたそれは、五十メートルを誇る全身黒く、頭部に黄色い角が特徴の巨大生物。冬の空気に熱を与え、周囲の温度を急上昇させるほどの高体温の巨大生物は、雄叫びを上げ、周囲の建物を破壊し始める。

 まるで剣山のように見える背中が赤く発光すると、口から熱線を放つ。

 

「何……あれ……」

「あれが、香澄たちが言ってた巨大生物……?」

 

 驚きで固まる沙綾の横で、たえがふたりに問いかける。

 

「見た目は違う。けど、同じだ」

 

 有咲の目に映る巨大生物の姿は以前出現したものとは別個体だとわかる。しかし、破壊行動を行っているところを見ると、目的は同じなのだろう。

 あの時と同じで、このまま地獄へと変わる。

 だが、

 

「──きた」

 

 香澄の小さな呟きは、誰の耳にも届かない。

 しかし、光は全ての人の目に映る。

 青き輝きと共に、巨人が君臨。

 その巨人の名を、有咲は呟く。

 

「ウルトラマン、ブル……」

 

 今再び、巨人と巨大生物の激闘が始まった。

 

 

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