ウルトラマンZ、毎回毎回面白すぎませんかね。
頭に声が響いてきたとき、律希はすぐに移動を開始した。さすがにさっきいたところでは、周りに人が多すぎてウルトラマンに変身するのに躊躇いが生まれたのだ。だから
コンクリートの壁を背に視線を上げてみれば、建物と建物の間から見える空が青黒い雲に覆われるのが見えた。そして雲から『ナニカ』が落下してくるのと同時に、律希はジャイロを構える。
光が律希を覆い、ジャイロにセットされていた水のクリスタルが力を解き放つ。
『ウルトラマンブル・アクア!』
水を纏いし紺碧の戦士、ウルトラマンブル・アクアがその地に降り立つ。
土砂を巻き上げながら登場したブルは下に向いていた顔を上げ、巨大生物──怪獣を見据える。腰を落とし、両拳を握り込んでファイティングポーズを取りながら、律希はバクバクと脈を打つ心臓をなんとか落ち着かせようとする。
心臓の鼓動がうるさいほどに聞こえる。それは再び怪獣を前にした緊張か、それともウルトラマンの力を使えることへの興奮か。
……わかっている。これはきっと後者だ。ウルトラマンの力を行使できるということに、自分は興奮している。今なら、朝練ではできない『ウルトラマンの力』を思う存分使うことができる。
「さーて、行きますか!」
声を上げ、ブルは駆け出す。両者の距離は等身大に置き換えると数十メートルほど。距離を縮めるために駆け出し、その勢いを利用して踏み込み空高くジャンプ。上空でキックの態勢を取ると、そのまま怪獣に向かって落下していく。
しかし、そんな大きな動きを怪獣が何も考えずに待ち構えるはずがない。怪獣は上空のブル目掛けて口から熱線を放つ。空中で回避する手段のないブルはそれに打ち落とされてしまう。
背中から叩き落とされるブル。受け身の取り方なんて、中学の時体育の授業で柔道があったときにしかやったことがない。だから咄嗟に受け身なんて取れるわけなく、背中から落下したせいで息が詰まった。
「つってぇー、あー、くそっ。さすがに隙がデカすぎか」
自分でも今の攻撃方法に隙がありすぎたと自覚している。空中に大きく飛んでジャンプキックなど、そう簡単に決まるものではない。
「さーて、どう攻めるか……」
落ち着け、と頭の片隅で自分に言い聞かせてみるが無理だ。ウルトラマンの力を早く使いたい、そのことばかり考えてしまい口角が上がっていく。
鼓動は相変わらず早い。
だが焦ってはいけない。まずは今の状況を整理して、能力を把握して、それから物事を考えるべきだ。
まず把握できるていること。今の姿は『水の力』を纏った形態である。体に感じる感覚から、それぞれの能力のバランスが取れている形態だと推測できる。どこも力む必要がなく、すごく自然に体を巡る力を感じ取ることができる。変なストレスがない、そんな感覚がするのだ。
この他にも、おそらく他の属性が使えるようになるであろうクリスタルが手元にあるが、それはまだ朝練でも使用していない力。まずはわかっている力から使っていくべきだろう。
(ま、それに今回の怪獣は『火』を使うっぽいし、この姿の方が有利だよな──って)
「あっぶねっ!?」
考えているうちに隙が生じていたのか、棒立ちのブル目掛けて熱戦が放たれる。ブルはとっさに倒れこむようにその身を投げ出し熱戦を回避。背後にあったビルが爆破され、地面にダイブしていたブルの背中に破片が散らばる。
「つっててて」と言いながら体を起こすブルだったが、すでに二撃目が発射準備に入っていることを視界の端で捉え、慌ててその場から再び体を投げ出す。
再度、さっきまでいたところが爆発。熱風を感じながら、無意識に働く防衛本能が頭を守るために両腕を動かす。両腕で頭を押さえながら、熱線が終わるのを待つ。
ちらり、と視線を怪獣に向けてみれば、熱線を吐き終わった怪獣は低く唸りながらブルの方を見ていた。やがて、それほど驚異のある存在ではないと認識したのだろう。視線をブルからはずし、周囲への破壊行動を再開する。
その姿に律希はカチンときた。
「んにゃろー、無視しやがって!」
すきだらけの背後に向かって掌を向ける。それにより放たれる水流──アクアジェットブラスト。今もてる力の全力で放たれたアクアジェットブラストは、怪獣の背中を打ち抜き、そのまま地面へダイブさせる。
「へっへーんだ。ざまーみろってんだ」
言葉が通じるかはわからない。だが、自然と挑発の言葉が口から出ていた。
「つーか、兄貴は何やってんだ?」
自分の頭に声が聞こえたと言うことは、きっと兄にも聞こえただろう。なのになぜウルトラマンとなってこの場に現れないのか。
兄の姿を探そうと視線を左右させていると、怪獣が起き上がる。
「ま、とにかく、今はこっちに集中だよな」
来ないなら来ないで自分が対応するしかない。
起き上がった怪獣は、ブルに怒りの視線を向けてきた。当然だ。背後からいきなり攻撃されたのだから。
無視したそっちが悪いんだろ、と思いながらブルはファイティングポーズをとる。構えをとったことで、怪獣は認識を改めたようだ。先ほどよりも低く、唸り声を上げ、威嚇をしてくる。
両者の間に緊張が走り、同時に、駆け出した。
その一歩一歩が大きな音を立てる中、両者の距離が縮まり、突然ブルがその掌を前に突き出した。再び放たれるアクアジェットブラスト。放たれた水の攻撃は怪獣の顔面を濡らし、怯ませる。
その隙に、二段構えで放たれた水流が腹部を撃ち抜く。大きくダメージを与えることに成功しながら、律希は確かな手応えに歓喜していた。
「なるほどー、この姿の攻撃は水が主になるわけか。水圧も調整可能……おもしれー」
手から水が出る、なんてありえないことができテンションが上がる律希。
再び怪獣に向けて、全力でアクアジェットブラストを放つ。
「だけどさすがに一刀両断できるほどの威力はないか」
全力で放った一撃は、しかし怪獣を一刀両断することはなかった。よく超高圧水流で物を切断するのを見たことがあったため、自分も同じことができないかと思ったがどうやらそこまでの威力は持っていないようだ。正確にはかなり細くする必要があるのだが、掌から放つ関係は強弱をつけることができても、太さの調節はできないようだ。
「待てよ……なら指先からなら」
掌から放つせいで太さの調節ができないなら、撃ち方を変えてみればいけるかもしれない。そう考え、早速開いていた手の形を変えてみる。
人差し指と中指だけを伸ばし、指先を揃える。そこから発射される水流は今までのに比べて確かに細い。しかし、怪獣を一刀両断できるほどの威力にはならなかった。
「もしかして……こいつ相当硬いんじゃ……」
威力は申し分ないのであれば、怪獣の皮膚が固すぎるのだろう。
(なら、わざわざ近づいて殴るのは意味ないんじゃ……このまま遠距離で押し切るか!)
そもそもの話、喧嘩の仕方もろくに知らない律希が肉弾戦で勝てるわけないだろう。なら、水流という遠距離攻撃で攻めればなんの問題もない。自ら進んで危険性の高い戦法を取る必要はないのだ。
迫りくる怪獣に向け、水流を繰り出すウルトラマンブル。威力や太さを調整し、できるだけ距離を保てるように立ち回る。威力を弱くしすぎて突進されそうになったときは、その場から大きく飛んで回避。そのままいったん姿を隠すため、ビルの影に隠れる。
そうして、ビルの影から水流を放ち翻弄。この繰り返しで勝てるだろうと律希は思っていた。
しかし、現実とはそうはいかないと言うことを、こと時はすっかり忘れていたのだ。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「落ち着いて! 慌てないでください!!」
律希が戦っている時、詩希は避難誘導をしていた。
突然現れた巨大生物によって町は半ば混乱状態に陥っている。迫りくる恐怖に悲鳴を上げ、我先にと逃げ惑う人々。こんな状況を目にしたら、ウルトラマンに変身するよりこっちをどうにかしないと、と思ってしまったのだ。それにウルトラマンと巨大生物の戦いからなるべく遠ざけた方がいいだろうと、詩希なりの考えもあった。
ズドン!! と芯を揺らすような地響きが聞こえた。視線を向けてみればブルが水流攻撃で巨大生物と戦っている。
しかし、その戦い方を見て、
(律希のバカ! 被害を考えろよ!)
と、危うく言葉に出かけたことを飲み込んだ。
ウルトラマンの視線は巨大生物にしか向いていない。そのためこちらの様子が見えてないと考えていい。
元々律希は興味が湧いたものにはとことん没頭し、周りが見えなくなる悪癖がある。おそらく今、律希の興味が『ウルトラマンの力』に向いていることから、朝練ではできない能力の使用に興味が注がれ周りが見えなくなっているのだろう。さっきから熱線を回避するにしても、背後や周辺にあるビルを気にする素振りなく躱してしまっている。
周囲を確認し、避難がある程度済んだことを確認すると、自分もウルトラマンに変身するべく駆け出そうとした所で、
「あれ……?」
あることに気づく。
ウルトラマンブルの胸部、そこにある青い輝きが赤い点滅へと変わったのだ。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「はあ!? なんで……まだ一分も経ってないだろ!?」
突然点滅を始めた胸のタイマーを見ながら、律希は声を上げた。
朝練の中でウルトラマンへの変身には制限時間があり、その時間が概ね三分だということが判明した。残り時間が少なくなると、胸のタイマーが青から赤色の点滅に変わり、時間切れになるとその輝きは失われ元の姿に戻ってしまう。
だから、戦える三分間で決着をつけなくてはいけない。
もちろんそのことは律希の頭の中にもあった。
だが、今は変身してからまだ一分も経っていない。それなのに赤の点滅を始めた。判明した情報と全く違うことが起きたのだ。
(どういうことだよ、赤の点滅は残り時間が少なくなったらだろ? まだそんなに時間経ってないのに、なんで……!?)
疑問が律希の頭を埋め尽くす。
その隙を見逃す怪獣ではなかった。
熱戦を吐き、ブルを吹き飛ばす。倒れ込むブルに向けて駆け出す怪獣。今まで散々濡らされた恨みを晴らすかのように、暴力の嵐がブルを襲う。
蹴り上げられ、地を転がるブル。体に走る痛みに声を上げながら、ブルはなんとかして起き上がろうとするが、それを怪獣は許さない。ブルの背中を思いっきり踏みつける。
「ぐあっ!」
踏み潰され、蹴飛ばされ、転がった先でブルは仰向けになったまま空を見た。
(……つってぇ)
体が重い。体のあちらこちらが痛い。暴力の嵐に見舞われたブルはすぐに起き上がれそうになかった。
体にじんわりと広がっていく痛み。それを堪えるようにして、起き上がろうとうつ伏せになったところで視界にあるものが映り込んできた。
それは、人々の避難を誘導するPoppin’Partyの姿だった。
え、と律希の思考に空白が生まれる。ここでようやく、周囲に意識が回った。そして気づく。
自分が周りを見ずに戦っていたこと。
自分が『ウルトラマンの力』を発揮できることに興奮してしまい、他のことを気にしていなかったこと。
前回は怪獣出現からウルトラマンの出現まで時間があった。だから律希が気にする前に周囲の人々は避難をしウルトラマンが現れる頃には誰もいなくなっていた。
だが今回は違う。怪獣出現からウルトラマンの出現までそう時間は開いていない。だから周囲に人がいるのだ。
周囲にビルがあるのだ。
それが無残にも破壊されている。もちろん怪獣が破壊したものもあるだろう。だが、その中には本当であれば破壊されずにすんだものもあるはずだ。例えば、ブルが攻撃を避けなければ守れたもの。怪獣の視界から消えるため、ビルの影に隠れたこと。そのせいで破壊されたもの。
自分の力がどこまで使えて何ができるのかを調べるため、遠距離で戦った結果怪獣も熱線で応戦することになり、そのせいで破壊されたもの。
ふと、避難を終えて一息ついた有咲とウルトラマンブルの視線が合う。ウルトラマンに見られていたことに気づいた有咲は最初驚いた様子を見せたが、やがてその表情が怒りに染まっていく。
そして、息を吸い、叫ぶ。
「馬鹿野郎! もっと周りを見ろよ! 周りを見て戦ってくれよ! 街があるんだ! 私たちがいるんだ! あるんだよいろいろなものが!」
それは怒りの叫びだった。
周りを見ず、自分の力ばかりに気を取られていた律希は急激に頭が冷えていくをの感じていた。
「お前は何者なんだ!? 私たちの味方なのか!? 敵なのか!? どっちなんだ!? あの時なんで私たちを守った? なんで戦う? なんのために出てきたんだ! まるで子供みたいにはしゃいじゃって……それでこんなことになるなんてふざけんなよ!!」
「有咲……」と近くにいた沙綾が有咲を宥めようと肩に手を置いたところで、ハッとした様子で有咲は落ち着きを取り戻す。
「ごめん……」
「謝ることないよ」
と、沙綾は首を横に振る。
そして、沙綾も何か言いたそうな視線をブルに向ける。
ドクン、と律希の心臓が鼓動を打つ。
取り返しのつかないことをやってしまったかもしれない。つい数分前、兄に言われたばかりなのに。
と、そこへ怪獣の雄叫びが聞こえてきた。
振り返ると、喉と背中の皮膚が赤く発光している。それは熱線を放つ時に見られる光景。
熱線が来る、まずい! と律希が思った時、炎を纏ったキックがそれを阻止した。
その場にいる誰もがハッとする。
怪獣の熱線を阻止したのは、もうひとりのウルトラマン。
炎を纏いし紅蓮の戦士、ウルトラマンロッソ ・フレイム。
避難誘導を終えた詩希が、ウルトラマンとなって戦場にやって来たのだった。
当初はもっと大きなやらかしをしようかなと考えていたんですが、それはどうだろう……と書いていて思ったので急遽変更。
それに伴い有咲ちゃんに「バカヤロー」系なセリフを叫んでもらうことになりました。
そろそろ二章も終盤。後は怪獣倒して終わりなので、第一章と比べるとめちゃくちゃ短いっす。