詩希が視線を向けた時、すでに怪獣は熱線を放つ準備に入っていた。
ブルは先ほどの攻撃の嵐によって未だ立ち上がれていない。その視線の先には有咲と沙綾がいるのが遠目でも確認できた。
周囲を確認している暇などなかった。
だが幸い、避難誘導をしていたおかげで周囲に人はいない。
詩希はすぐさまジャイロを構えた。炎がその体を包み込み、ウルトラマンロッソへと姿を変える。
足に炎を纏わせ、全力で蹴り抜く。
轟音と共に怪獣の頭部を蹴り、熱線を阻止することに成功。吹き飛んでいく怪獣を見送りながら、ブルの方へと視線を向けた。
「兄貴、俺……」
ブルは未だに立ち上がってはいなかった。ブルのインナースペースにいる律希は、自分がどれほど酷い戦い方をしていたのか、また自分の悪癖でやらかしてしまったことに気づいたのか青い顔で震えている。
「…………」
正直なことを言えば、「おれ言ったよな?」と叱りたい。忠告をしてから然程時間が経っていないうちに今の状況だ。
だが、すでにブルの胸のタイマーは赤に点滅している。残された時間が少ない中で叱るのは、下手をすればタイムロスにつながる。
「……言いたいことは山ほどあるけど、おれも遅れた身だ。時間もないし、さっさと逆転するぞ」
そう言って、ロッソはブルに手を差し伸べた。
少し驚いた表情を見せる律希。
そこへ、詩希は喝を入れるかのように叫ぶ。
「言っただろ。時間がない。お前の突拍子もない提案が逆転につながるかもしれないんだ。いつまでも落ち込んでないで、シャキッとしろ!!」
「はい!!」
反射的に勢いよく立ち上がるブル。その背を叩いて、ロッソは怪獣に意識を向ける。
蹴飛ばされた怪獣は、新たな乱入者──ウルトラマンロッソに殺気をぶつけてきた。
ぞわり、と詩希の産毛が逆立つ。
これが『殺気』。相手を『殺す気持ち』だ。先日は突然のことで頭がいっぱいで気づかなかったが、こうして改めて感じることでわかる。
これから始まるのは、文字通り命をかけた戦い。どちらかが倒れることでしか勝敗がつかない戦いだ。
勝てるのか……と、つい思ってしまう。
戦い方なんて知らない。
この怪獣にどうやって立ち向かえばいいのかなんてわからない。
でも、
「……律希」
「何?」
「行くぞ」
「……オーケーッ!」
やるしかない。
己を奮い立たせ、駆け出すロッソとブル。
ロッソのパンチが、ブルのキックが、怪獣の腹部を叩く。
よろめく怪獣。ふたりして突進し、肩を組んで押し込む。
「あっつ!? 何こいつの体めちゃくちゃ熱いぞ!!」
「そう言えば避難誘導してる時、こいつの周囲に陽炎できてたな!」
「嘘!? じゃあこいつの体温何度だよ!?」
初めて怪獣に触れたことで感じた熱に声をあげるブル。じりじりと熱せられる掌だが、ここで怯んでは押し負けてしまうため根性で耐える。
しかし、ここで怪獣が熱線を放つさいに見られる背中の発光をおこなった。何の意味が、と疑問を感じるロッソだったが、それに伴って掌に感じる熱が急激に上昇した。
「あっつ!? 無理!!」
そのせいでブルが力を弱めてしまい、振り解かれてしまう。
反撃に振るわれた怪獣の右手を膝を使ってガードするロッソだったが、すぐに逆手が振られ背中から攻撃を受けてしまう。地へと倒れるロッソの腹を蹴り上げる怪獣。
転がるロッソと入れ替わるようにブルが飛び込み前転で距離を詰めるが、接近しすぎたせいで攻撃につなぐことができず頭部を掴まれてしまう。もがいているうちに強烈なフックを受けてよろめく。
再び放たれる熱線。
ブルはバク転、ロッソは側転で回避する。
「律希! お前の攻撃でどうにかできないか!?」
「やってみる!」
ブルは右手からアクアジェットブラストを放つ。しかし、充分な威力が威力がないのか先ほどまでとは違ってダメージすら受けていないように見える。
「だめだ、威力がでねえ……」
「もしかして、胸の点滅が関係してるのか?」
「多分、なんかさっきから体に力が入んねえんだよ。こう……MPが足りない感じ?」
「時間だけじゃなくて、力を使いすぎても点滅するのか」
となると、今後は戦い方も気をつけなくてはいけなくなる。最初のブルみたいに遠距離攻撃だけで攻めていては、エネルギー切れで負ける可能性が出てくるのだ。
これが判明したのはもしかしたら大きな収穫かもしれない。
しかし、今は目の前の的に集中だ。接近戦をするにしても、あの体温をどうにかしなければ、接近戦すら怪しい。
(律希の方エネルギーが残ってれば……ん? エネルギー? そうか!)
「律希! クリスタルチェンジだ! おれの方ならまだエネルギーがある!」
「! そうか、その手があったか!」
ウルトラマンの力を手にする時に見たビジョンの中に、それぞれの纏う属性の力をチェンジするシーンがあった。ブルにエネルギーが足りないことで存分に力を発揮できないのであれば、まだ時間もそう経過しておらず、エネルギーも消耗していないロッソならば存分に発揮できるはずだ。
ふたりはすぐに行動にでた。
詩希、律希のそれぞれのインナースペースの天より一筋の光が降りてくる。二人はその光を掴み取り、
「「セレクト! クリスタル!」」
詩希はクリスタルの角を二本、律希は一本展開。
構えたルーブジャイロへセットする。
『ウルトラマンギンガ!』
『ウルトラマンタロウ!』
詩希の背後にクリスタルが特徴の戦士が浮かび上がり、その姿が『水』へと変わる。
律希の背後に大きな角『ウルトラホーン』が特徴の戦士が浮かび上がり、その姿が『火』へと変わる。
「纏うは水! 紺碧の海!」
「纏うは火! 紅蓮の炎!」
ジャイロのレバーを引き、その力を開放する。
『ウルトラマンロッソ・アクア!』
『ウルトラマンブル・フレイム!』
纏うエレメントをチェンジしたことで、プロテクターのカラーが入れ替わった。
同時に、詩希と律希は湧き上がってくる力の感じ方が変わったことに声をあげる。
「ん? なんかー、すげえ燃えてきた。気分的に」
「逆におれは、なんか落ち着くな」
「いや、落ち着くって、この状況でどうやって落ち着けるわけ?」
「水だから澄んだ心……みたいな?」
「意味わかんねー」
「いいから! もうこ以上時間かけることできないから、決めるぞ!」
ロッソは両腕を上げ、巨大な水の球体を作り出す。
その姿を見て、怪獣はまずいと判断したのだろう。すぐに阻止しようと熱戦を放つ準備に入るが、
「させるか!!」
ブルが両手から無数の火球を放つ。ロッソがフレイムの時に放つそれより数も多く、さらに一発一発の威力にムラがあるが、それでも着弾時には爆煙を上げる。元々が水に比べて威力のある火のおかげか、エネルギーが少ない今の状態でも怯ませるには充分な威力があった。
「うおー、なんか兄貴より火力あるかも」
「ナイス! これでも、食らえ!」
巨大な水の球体を叩きつけるように放つロッソ。
ざぶん! という音共に怪獣が水に飲み込まれる。
「決めるぞ!」
「ああ!」
水に飲まれた今がチャンス。そう判断した詩希の声に促され、律希も必殺の一撃の準備に入る。
ロッソは水のエネルギーを球体状に集中させ、ブルは両腕を回し炎のエネルギーを集中させる。
「“スプラッシュボム”!!」
「“フレイムエクリクス”!!」
アンダースローで放たれる水球と、突き出した両腕から放たれる炎のエネルギー光線。
巨大な水球にやられた怪獣に、回避する暇などなかった。
二つのエネルギーは真っ直ぐに怪獣へと突き進み、怪獣の巨体を捉え、赤と青のエネルギーに飲み込まれていき爆散。煙が空へと昇っていく中、必殺技を放ち終えたウルトラマンはゆっくりと息を吐いた。
「はあー、何とか勝てたな」
「……だね」
「帰るか」
「あ、ちょっとその前に」
怪獣を倒したことで自分たちの役目は終わった。だから帰ることを促すロッソだったが、ブルはその前にやることがあるらしくあたりに視線を向ける。
「おい、点滅が高速なってるんだから早く帰らないとまた倒れるぞ」
「すぐに終わるから……あ、いた」
ブルのカラータイマーの点滅はすでに高速になっておりいつ消えてもおかしくない。そんな中、ブルは目的のものを見つけたのか、体ごとそちらに振り返る。
気になってロッソも同じ方を見てみると、そこにいたのは有咲たちPoppin’Partyのメンバーたちだ。
戦いが終わったというのに、急にこちらを向いてきたことに有咲は驚いた表情を見せる。
そんな有咲に向け、ブルは背筋を伸ばすと、頭を下げた。再び驚き、そして困惑する有咲。
本当はこの真意が伝わるようにしたいブルだったが、胸の点滅がもう時間の限界を伝えてくる。
頭をあげたブルは、空に向けて飛び去る。ロッソもあとを追うように飛び去り、戦いは終わりを告げるのだった。
☆★☆★☆★
空へ飛び去っていくウルトラマンを見送る少女たち。
「……なあ、沙綾。なんで最後頭下げられたんだ?」
「もしかして、有咲に怒られたから謝ったのかもね」
「……まさか」
とある場所ではひとりの少女がスマートフォンを片手にてんやわんやしている。その姿を見つめる、四人の幼なじみ。
「……夢、じゃないよね。え? 今私たちの目の前ですごいこと起きてたよね!?」
「ひーちゃん、落ち着きなよ」
「なんでモカは落ち着いていられるのー!?」
また別の場所では、とある少女が目を爛々と輝かせながら、
「ねえ美咲! あの巨人さんとライブをしたら、すごく楽しいと思うわ!」
「……うーんそうだね、けど無理だと思うよ」
そのまた別の場所では、ひとりの少女が主にロッソの方を注目して見ていた。
「友希那? どうかしたの?」
「……いえ、なんでもないわ」
そして、とあるレッスンスタジオでは、
「なんだかすごいことが始まりそうだねー。るんっ♪ としちゃうかも」
「ちょっと日菜さん!? 何言ってるんですか!?」
「あははは、冗談だよ麻弥ちゃん」
この日、少女たちとウルトラマンは密かに邂逅していたのだった。
☆★☆★☆★
「……兄貴」
「ん?」
戦いを終え、帰宅した兄の背中に向けて弟は声をかけた。
振り返った兄が見たのは、真剣な表情の弟。
「ごめん。兄貴が忠告してくれたのに、俺……やちまった」
「…………」
「兄貴の言うとおり、この力は生半可な気持ちで使っちゃダメだ。もっとしっかり、深く考えるべきだったんだ」
「……だな、それに気づいたんだ。今度はもう大丈夫──」
「──だからさ、アクアになってどうだった?」
「……え?」
ふと、なんだか感じる空気が変わっている気がした。
「だから、水のクリスタルを使ったらどんな感じだった? 俺は火を纏うと多分火力ばかになると思う。アクアの時ほど火力調整ができなかったんだ」
「……もしもし律希さん? なんだか話が変わってないかい? 今回で懲りたんじゃないの!?」
「懲りたよ。ああ懲りたさ。だから、もう失敗しないために今持ってる力をしっかり理解しなきゃいけない。兄貴が水を纏えばどうなるのか、それがわかれば作戦が広がるだろ?」
「…………」
詩希は天を見上げた。
弟の言っていることはわかる。わかるが、
「なんかこうもう、本当にもう……あああああああああ!!」
自分が思っていたのと違う結果に行きつきそうなことに、詩希は声を上げるしかなかった。
第二章:チカラの意味─完─
登場怪獣:熔鉄怪獣 デマーガ
あとがき
以上を持ちまして、第二章終了です。
ウルトラシリーズでは、ウルトラマンの力を過信してしまい変身できなかったりする話があるのですが、今回はそれを元に変身はできるけどその後にやらかしてしまう、と言うお話にしてみました。
それもあってか、第一章と第二章はウルトラマン寄りの話になってしまい、バンドリのキャラクターがあまり登場していないのがちょっと気になるところです。
とは言え、ひとまずウルトラマンに関する葵兄弟の始まりはこれで一区切りになるので、次回以降はバンドリのキャラクターたちをバンバン出せていけそうです。
それに次回からは各バンドをメインにした、いわゆるお当番回を予定しおりますので、各バンドがどう関わっていくのかお楽しみください。
次章予告
ウルトラマンと怪獣の出現により、街は重い空気が流れ始めていた。
そんな空気を換えたいと思った戸山香澄は、ガールズバンドによる地域活性ライブが計画されていることを知り、絶対に成功させようと意気込む。
次回、第三章「私たちにできること」。お楽しみに。