お待たせしました。
第三章スタートです。
今章のメインはポピパ!
第15話 私たちにできること 1/まりなさんのお誘い
ふと、
目の前に広がるのは、学校からCiRCLEに続く道のり。高いビルから小さなお店まで、ここを通るたびに目にする日常の風景がそこには広がっている。
つい先日も通った道。見た風景。
だけど、その時と今では雰囲気が異なっていた。
「おたえ? どうかしたの?」
歩みを止めたたえに、
たえは、少しだけ間を空けてから答えた。
「なんだか、空気が暗いね」
「それを言うなら『空気が重い』だろ」
すぐに訂正の言葉が飛んできた。
しかし、たえが言いたいことは、その言葉では意味が違ってしまう。
「違うよ有咲。重いんじゃなくて、暗いんだよ」
「……ああ、なるほど」
「え? 有咲おたえの言いたいことわかったの?」
「誰だってあんなの見たらショック受けるだろ? 私とお前みたいに」
ヒョイっと前屈みになった
「うぅ〜、せっかく忘れてたのに思い出しちゃったじゃん! 有咲のバカ!!」
「なんで私が罵倒されんの!?」
「また有咲の家でお祓いしてもらおうよ〜」
「ウチはお寺じゃねえ!」
有咲に縋り付く香澄と、それを引っ剥がそうとする有咲。
それは彼女たちの日常を象徴するかのような光景。それが戻ってきたことに、香澄と有咲以外のメンバーは安堵し、笑顔を浮かべた。
二人はつい最近まで、一番最初の巨大生物出現の事件に巻き込まれてしまい、元気がなかったのだ。どこか上の空、纏っている雰囲気がとても暗く、気がつくと授業中なのに窓の外を眺めている様。一日に何度もため息をこぼし、特にあのいつも元気な香澄がそうなっているのは誰もがギョッとするほどだった。
そしてそれは、今この街全体に流れている空気に通づるものがある。先ほどたえが『街の空気が暗い』と言ったが、それは先日この街の中に巨大生物──怪獣が出現したからだ。最初の出現場所は紅葉公園だったため、そこに足を運んでいた人だけが目撃し巻き込まれた。
しかし今回は街の中ということで、紅葉公園の時よりも多くの人の目に触れたのだ。公園とは違い、人々が暮らす生活圏内での出現は、より多くの人にショックと不安を与えた。
数日経った今ではある程度立ち直ったようにも見えるが、それでもたえが『暗い』と感じるほどの爪痕が確かに残っている。
「まったく、いつまでも落ち込んでんじゃねえよ。香澄らしくもない」
「心配してくれてるの?」
「なっ! そんなんじゃねえ!!」
「でも、有咲が一番心配してたよね?」
「おたえは何言ってんだ!? 私は別に……」
「有咲ちゃんは友達思いだね」
「りみまで!」
「ふふふっ」
「やめろ沙綾!! そんな顔で私を見るなあああああああああああぁぁぁ!!」
有咲の絶叫が響く。
それは間違いなく、彼女たちの日常の風景だった。きっと街もしばらくすれば元の雰囲気に戻るだろう。
そう願う彼女たちだが、
「……怪獣は、また現れるのかな?」
りみがつい心の中に生まれてしまった不安を口にしてしまう。
だが、すぐにハッとなって、
「ご、ごめんなさい。私──」
「──大丈夫だよ!」
そんなりみの不安を消し飛ばすかのように、香澄が声をあげた。
「また現れても、きっと『ウルトラマン』がなんとかしてくれるって!」
「ウルトラマン……?」
自信満々に宣言する香澄だったが、りみの方は初めて聞く単語に首を傾げた。
その反応を見た香澄もまた、首を横に傾げる。
「あれ? りみりんは知らないの?」
うん、と頷くりみ。
「その呼称知ってるの、私と香澄だけだろ」
「ふたりはあの巨人の名前を知ってるの?」
このメンバー内であれば、一番情報を持っていそうな有咲と香澄に沙綾が問いかける。
「まあな。とは言っても、私たちより詩希さんの方が知ってそうだけど」
「詩希さんが言ってたんだ。赤い方が『ウルトラマンロッソ』で青い方が『ウルトラマンブル』!」
「でもこの前色が入れ替わったよ?」
たえの言う通り、先日の戦いで最後ウルトラマンのプロテクターの色が入れ替わった。もし詩希の説明通りならば、赤い方がロッソで青い方がブルである。つまり、同時に名称も入れ替わるということになってしまう。
あれれ? と首を傾げる香澄。そんな香澄の代わりに、有咲が推測を述べる。
「たぶん名前は変わらないだろ。色が変わるなら、あの角にみたいに見えるやつで区別できるんじゃね? 二本の方が『ロッソ』、一本の方が『ブル』って感じで」
「おー、なるほど。さすが有咲!」
「略して『さすあり』だね」
「う、うるせー!」
ひゃー! 有咲が怒ったー! と香澄とたえがはしゃぐ横では、沙綾とりみが何やら考え込む様な素振りをしている。
「それにしても、何者なんだろうね。ウルトラマンって」
「私たちを守ってくれたから、味方、なのかな……?」
それにいち早く答えたのは香澄だ。
「味方だよ! だって私たちを守ってくれたんだよ?」
しかし、そんな香澄とは反対に有咲は難色を示す。
「……どうだかな。味方って考えるには頼りなさすぎるだろ。特にブルって方は」
「むぅ、なんでそんなこと言うの」
「香澄も見ただろ? あのふざけた戦い方を。周りのことなんか見ていない、ただ自分の好奇心の赴くままのような戦い方。あんなの、こっちからしたらいい迷惑だ」
思い返すだけでも、むかっとしかたものが湧き上がってくる。怪獣映画とかで考えるならば、きっとあの『ウルトラマン』と呼ばれる巨人は『ヒーローの役割』を担っているはずだ。それなのに、あの戦い方は、振る舞いは、とてもヒーローとは言えない拙いものだった。
溢れ出る好奇心を満足させるような、そんな子供のような拙い戦い方をされては、今後もしまた怪獣が現れるような時に安心できない。
「でも、最後には謝ってたよ?」
「…………」
香澄に言われて、戦いが終わった後こっちに向けて頭を下げるウルトラマンブルの姿が思い浮かぶ。
あれは、きっと謝罪だったのだろう。雰囲気からそうだと感じ取れる。
「わかってるけどよ……」
わかってはいるが、それでも安心できる、できないでは心の持ちようが違う。味方にしろ、実は敵だったにしろ、破壊行動をする巨大生物に対抗できるのは『ウルトラマン』しかいない。
自分たちには何もできないのだ。安心くらいは求めていいだろう。
そんな風に物思いにふけったせいか、沈黙した空気が漂い始めた。すぐに気づいた有咲は何か空気を変えなきゃとしようとしたところで、
「はいはい、その話はここまで。それより、まりなさんが私たちに用ってなんだろうね」
先に沙綾が動いた。
ならば、有咲はそれに乗っかればいい。
「……そういえば、詳しいことは何も説明されてないんだっけ?」
「うん。都合がつく日を聞かれて、その日にCiRCLEに来て欲しいとしか説明されてないんんだ」
香澄が顎に手を添えて答える。
CiRCLEのスタッフである月島まりなから連絡が来たのは、今から一週間前。都合のつく日程を聞かれ、返答したその日にCiRCLEに来て欲しいと頼まれた。詳しいことはその日に話すと言われたため、自分たちがなぜ呼ばれたのか理由がわからない。心当たりがあるはずもなく、今日の昼休みもみんなで首を傾げていたところだ。
「香澄、本当に何も聞いてねえのか? 実は忘れてたオチとかじゃないだろうな?」
「ひどいよ有咲! 私がそんなことすると思う!?」
「……自分の胸に手を当ててよーく聞いてみろ」
「…………」
「…………」
「……すみませんでした」
謝罪を述べる香澄に対して、有咲はただうなずくのだった。
☆★☆★☆★
しばらくして、CiRCLEに到着したPoppin’Party。
「こんにちわー!」
入店と同時、香澄が元気よく挨拶をする。相変わらずな香澄におい、と声をかける有咲と見守る他のメンバー。いつもだったらここでまりなから声が返ってくるのだが、今日は返ってこない。「あれ?」と首を傾げる一同だが、というのも、まりなは今受付でとある男性を対談中だったのだ。
その男性はとても目を引く人物だった。180センチを超える高身長と、黒のタートルネックの上から羽織っている赤いコートが視線を集める。誰だろ……? と思いながら視線を動かしてみると、アッシュグレーに染められた髪が視界に入った。それを見て、その人物に心当たりがある香澄が名前を口にする。
「詩希さん……?」
「ん? 香澄ちゃんか」
振り返ってこちらを見た人物は、香澄の友人の兄であり、よく行くセレクトショップの店員である
整った顔立ちと、印象的なタレ目がいつもみる笑みにより柔らかさをプラスしている。加えて、お店の時とは違いメガネをかけていないのが、なんとなく新鮮に感じた。
「どうして詩希さんがここにいるんですか?」
詩希がライブハウスにいるなんて普段であればありえないことだ。働いている、という理由もあるが、バンドをやっていない詩希がここを訪れるのは、ライブを観にくるという理由以外に心当たりがない。そして詩希がPoppin'Partyのライブを観にくるまで、ライブハウスに行ったことがないと言っていたことから、こうしてばったり遭遇することについ驚いてしまう。
疑問を受けた詩希は、柔和な笑みを浮かべつつ、
「お仕事でね」
と答えた。
「お仕事?」
「そ。詳しくはまりなさんから」
と言って、横にずれていく詩希。そうすると、ちょうど香澄たち側からだと詩希の影に隠れるかたちとなっていたまりなが現れる。
「こんにちわ。今日は来てくれてありがとうね」
「いいえ。それでまりなさん、私たちに用って何ですか?」
「実はね、今度商店街と合同でライブイベントをやることになったの。ポピパにはそのイベントでライブをして欲しいんだ」
「ライブイベント……?」
首を傾げる香澄に、まりなは説明を続ける。
「うん。ほら、今街の空気ってなんだか暗いじゃん? だから、そんな空気を変えて、また前の明るい街の雰囲気を取り戻すためにイベントを計画したんだ」
「そのイベントで、私たちがライブをするんですか?」
「そうだよ。ポピパの音楽にはみんなを明るくする力があるって、詩希くんに熱弁されちゃってね」
「え? 詩希さんが?」
驚いた香澄たちの視線が詩希に向けられる。詩希は、自分に集まった視線にちょっとだけ恥ずかしさを感じながら、
「香澄ちゃんたち、前に商店街でライブしたことあるだろ? その時、結構商店街の雰囲気が明るくなってさ。ライブでみんなの曲を聞いた時も自然と心が踊って、楽しくなって、気がついたらポピパの曲に夢中になってたんだ」
詩希は、その時の感情を思い出すように続ける。
「実はその日、仕事でミスしちゃって、結構落ち込んでたんだよね。でも、みんなの曲を聞いたら立ち直れてさ。ライブハウスっていう時別な場所だったことを抜きにしても、みんなの曲にはそういう力があるんだって思ったんだ。だから、今回まりなさんからイベントの話を聞いた時、みんなの歌なら街の雰囲気を明るくできるんじゃないかって、提案させてもらったわけ」
「すごかったんだよ、詩希くんの熱弁」
「やめてください、まりなさん。なんかこう……ちょっと背中が痒くなるんで」
「えー、でもここは、詩希くんがどれだけ香澄ちゃんたちのファンか伝えるべきなんじゃない?」
「いや、その、さすがに面と向かってだと恥ずかしいというか、なんというか……」
「ふふっ、わかった。それじゃあ詩希くんの勇姿はまた別の機会に伝えておくよ」
「いや、伝えなくていいですって……」
本当に恥ずかしいのか、ほんのり赤く染まった頬。
そんなふたりのやりとりを見ているポピパのメンバーは、次第にゆっくりと思考を回転させていき、自分たちが何を言われて何をお願いされているのかまとめていく。
「…………」
まさか、知っている人からこうも正直に自分たちの音楽を褒められるとは思っていなかった。その点に関しては、香澄たちも嬉しさ半分こそばゆい気持ち半分といったところだ。
でも、そこまで期待されているなら、応えるべきだろう。
「それで、ポピパのみんな、どう? イベントでライブ披露してくれる?」
改めてまりなに問われた。
正直なところ、自分たちの音楽にそれほどの力があるとは思えない。
でも、今の暗い街の雰囲気を少しでも変えることができるのなら、そのための力になりたい。
「でます!」
力強く、香澄は答えた。
香澄だけではない。たえも、りみも、有咲も、沙綾も、Poppin’Party全員がその瞳に力強い意志を込めている。
「私たちの音楽で、必ず街の明るさを取り戻します!」
「うん。それじゃあ、みんなお願いね!」
『はい!』
まりなの声に、力強い声が返って来た。