「──宇宙人との交信の仕方だ」
「は?」
「はい?」
「はあ?」
「ええ!?」
キメ顔で言い放った律希に向けて、詩希、鈴音、有咲、香澄はそれぞれ反応を示した。多数が困惑と呆れるを示す中、ひとりから驚きの声を上げさせることができたのは、律希にとって満足のいくことだったのだろう。その表情は非常に満足そうである。
「律希さん宇宙人と交信できるんですか!?」
そんな中、唯一食いついた香澄が身を乗り出して律希に迫った。
「宇宙人って本当にいるんですか!?」
連続して問われる律希だったが、満足そうな表情のまま動かない。
「答えてください律希さん!」
何も言ってくれない律希に痺れを切らしたのか、ジャケットの袖をつかんで揺する香澄。
そんな香澄に向けて、有咲が呆れた声を上げる。
「香澄、普通に考えてありえないだろ」
「リツ兄、頭打ったの? 病院行く?」
「ちょっとちょっと、お兄ちゃんに向かってその言いようはひどくない? かすみんを見習って食いつこうよ」
「その食いついた香澄ちゃんをスルーしているのはお前だろ」
「おう。言ってみたはいいけど、どう続けていいかわからなくなって黙ってることにした」
詩希からの指摘に、律希は誤魔化すことなく正直に応える。
「お前な……言ったからには最後まで貫けよ」
「だって嘘だし」
「嘘なの!?」
「気づけよ!!」
有咲のツッコミが響く中、律希は再びサンドウィッチを手に取る。
「だって、実際やってたのって気候調べたり、昼間に出てる月を観察したりだぞ? そんなの正直に話してもつまんないじゃんかよ」
「だから、宇宙人と交信ですか……」
若干呆れてる有咲の問いに、サンドウィッチをひと口かじった律希は「うん」と頷きながら、
「まあ、かすみん以外食いつてこないだろうなとは思ってたけど」
と、言った。
自分でも食いつく人と食いつかない人の判断はできていたようだ。そうであるなら、食いついた人の対応も考えておくべきなのではと、詩希は思った。
もぐもぐ、とサンドウィッチを咀嚼する中、ふと思い出したように香澄が律希に訊く。
「そういえば、律希さんは大学で宇宙に関することを学んでるんですよね?」
「宇宙っていうか……まあ、大きな括りで言えばそうか。宇宙考古学や宇宙に関すること、あとは星に関することとかその他いろいろと学んでいるから、ある程度正解かな」
「そ、そんなに学んでるんですか……」
「リツ兄は昔から、気になったらとにかく調べてたり行動に移してたもんね〜。自分が納得するまで絶対にやめないの。もう好奇心の塊って感じ」
鈴音がニヤニヤと言ってくると、律希は即座に言葉を返す。
「いやいや、俺より兄貴の方が好奇心の塊だったぞ。ガキの頃なんて、メジャーなスポーツ大半に手出してたじゃん」
「そうなんですか?」
香澄に問われ、詩希は思い出すように視線を上に向ける。
「まあ、野球、サッカー、テニス、水泳、バスケ……こうして振り返ってみると、割とやってるな」
この他にも、親戚などの縁でバレーボールやバドミントンも経験している。そう考えてみると、本当にいろいろやっているんだなと改めて思った。
どのスポーツも『やってみたい』という好奇心から始めたものばかりであり、その理由だけでこれだけのスポーツを経験しているとなると、好奇心の塊と言われても仕方ない。
「高校のときは、弓道部に入ろうとしてたんだぜ? 結局入らなかったけど」
「弓道部ですか……詩希さんも香澄に負けずアグレッシブじゃないですか」
「まあ、そう言われればそうなんだけど……でも、おれはどれも途中で諦めてるから。それに今はもう“挑戦”なんてやめちゃったし、ずっと挑戦し続けてる律希には敵わないよ」
と、素直なことを言葉にした途端、律希がギョッとした表情でこちらを見てきた。
「……え? 何? 兄貴がそんなこと言うなんて……明日は雨でも降るのかよ……」
「おい、なんでそうなるんだよ。おれは普通に褒めただけだぞ」
「冗談冗談。その真面目な返し、兄貴らしいわ」
弟に微笑ましいものを見る目を向けられる兄。
なんとなくむすっときた詩希だったが、自分が冗談に対して真面目に返してしまうことはよくあることなので、ここで言い返しても残念ながら無駄である。
結局言葉を返すことができないので、詩希は大人しくおにぎりをひとつ手に取ることにした。
「宇宙に関することを学んでるってことは、やっぱり将来は宇宙飛行士とかになりたいんですか?」
これだけ宇宙に関することを学んでいるのだから、香澄が投げかけた質問は気になって当然のことだろう。
しかし律希は、
「いや、目指してねえな」
と、言った。
「ええ!? 目指してないんですか?」
律希の返答に反応を示したのは有咲だった。
「一回は考えたことあったけど、今はとにかく宇宙についていろいろ知りたい気持ちが勝ってるかな。ま、それにほら、いつ他のに興味持つかわかんないから、広く浅くにとどめてるの」
「まあ確かに、宇宙飛行士目指している途中で別のものに興味出たら、絶対そっちに移るよな、お前は」
「さすが兄貴、弟のことわかってるねぇ〜」
そう言って、兄の肩を叩く律希。
そんな律希に向けて、ポツリと有咲が呟く。
「……律希さんって、結構自由に生きてますね」
「あったりまえよ。たった一度の人生、自由に生きなくてどうするんだって話だ。だから若きふたりも、自由に生きるのじゃぞ」
「はい! 戸山香澄、人生自由に生きます!」
「お前はもう自由に生きてるだろ」
「律希は自由すぎな」
有咲と詩希からツッコまれたふたりは、互いに見合って笑うのだった。
♢ ♢ ♢
賑やかな昼休憩を終えた詩希たちは、紅葉狩りの続きをすることにした。振り返れば、先ほどは催し物ばかりを楽しんでいて、肝心の
燃える様な赤と黄金のように輝く黄色。その光景に詩希たちは目を奪われていた。
「すげ〜、マジで綺麗に色づいてんじゃん」
有咲が目の前に広がる紅葉に感想を述べる。
すると、その隣にやってきた律希が同意の言葉を続けた。
「アリッサの言う通りだわ……こんな綺麗な紅葉、初めて見たぞ」
「だから、アリッサはやめてください!」
律希の口から放たれた自身のあだ名に、即座に反応を返す有咲。
「ええ〜、まだ不服なの?」
「かわいいのにね、アリッサ……ふふふ」
「香澄! 笑ってんじゃねえ!!」
「ごめんってば〜!」
「アリッサが吠えたー!」
ピューっと脱兎のごとく逃げていく香澄と律希。その背中を追おうとする有咲だったが、ふたりに足では勝てないと瞬時に判断すると、踏み出そうとした足を止めた。
そこへ、入れ替わる形で詩希が申し訳なさそうな顔をしてやってくる。
「ごめんね、有咲ちゃん。律希が変なあだ名で呼んじゃって」
「あ、いえ。詩希さんが謝るようなことじゃ……」
「お詫びにこれ、おひとついかが?」
そう言って詩希が差し出してきたのは、透明なパックに入った三本の三色団子。
「さっき買ったんだ。美味しそうだったからつい」
あははは、と少し恥ずかしそうに笑みをこぼす詩希。
「……いただきます」
差し出されては断るわけにもいかず、一本いただく有咲。ふと、自分だけもらうなんて、と思ったが、香澄の方を見てみれば鈴音が詩希と同じ三色団子のパックを持っており、律希と一緒に一本ずつもらっているところだった。
「うん、美味しい」
隣では、先にひと口食べた詩希が感想を述べている。
有咲もひと口食べてみると、もちもちとした食感が口いっぱいに広がった。視線を少し移動させれば、綺麗に色づいたもみじが広がっており、赤と黄色に囲まれた中食べる三色団子はいつもと違うように感じる。
「それにしても、本当、香澄ちゃんって元気だよね。いつもあんな感じなの?」
詩希がそんなことを訊いてきた。詩希の方を見てみれば、視線は香澄たちの方に向かっており、有咲もつられて視線を向けてみると、団子を手に和気藹々としている香澄の姿があった。
「ええ……まあ。大体香澄はあんな感じですよ。いつも突発的に物事を思いついて、深く考えずに初めて、無鉄砲で、こっちの都合なんてお構いなし。振り回される身にもなってほしいですよ」
「あははは、苦労してるんだね」
「してますよ。バンドだって巻き込まれて始めたんですから」
「そうなんだ。そう言えば、初めてステージに立ったのは、りみちゃんのお姉さんが来るまでの時間稼ぎだっけ?」
鈴音から聞いた話であるため詳細までは知らないが、有咲が初めてライブハウスのステージに立ったのは、Poppin’Partyのメンバーである牛込りみの姉が所属するバンド『Glitter*Green』がライブハウスに来るまでの時間稼ぎとしてらしい。なんでも、トラブルで時間に間に合わなくなってしまったGlitter*Greenをなんとしてもステージに立たせるべく、香澄が突然ステージに立ったと聞いている。
「あー、そうですねー」
当時のことを思い出したのか、有咲の表情が曇る。
しかし、完全に嫌な思い出ではないらしく、複雑な表情へと変わった。
そして、懐かしむ様に、どこか嬉しそうに、次第に有咲の表情が変わっていく。
「……でも、今思えばあれがあったからこそ、今の私があるっつーか……あれがきっかけで、いろいろと私の世界が広がった気がするんです。あれがあったから、香澄がいたから、今の私がいる」
そう語る有咲の表情は、とても活き活きとしている。
「そうみたいだね」
「え?」
「有咲ちゃん、今すごくいい表情してる。バンド、本当に楽しいんだね」
「……」
「振り回されてみて、初めて見えたりするものがあるんだよ。おれも律希に振り回されることがあるけど、そのおかげで、いろいろと見えたものがあってさ。不思議だよね。あのふたりには、そういう力があるのかな?」
「……かも、しれないです」
振り回されるのは、本当なら避けたいことだろう。
しかし、戸山香澄という少女に振り回される場合に関しては、逆のことが言えるのかもしれない。なぜなら、振り回されて、巻き込まれたからこそ見えた景色がある。それは普通だったらみる機会のない光景。バンドを初めて、ステージに立って、たくさんの歓声を受けて、人付き合いが苦手で不登校になった自分が、今では普通に学校に通っている。
全部、香澄と出会って変わった。
香澄と出会ったから、今の自分がいる。
そう思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。
「本当、香澄は不思議なやつです」
「そっか……ところで、さ。その香澄ちゃんなんだけど……どこいったかわかる?」
「え?」
「律希と鈴音も、三人合わせてどっか行っちゃったみたい……」
有咲は慌ててさっきまで三人がいた方角に視線を向ける。
しかしそこに、三人の姿はなかった。
そこにあるのは、香澄たち以外の紅葉狩りを楽しむ人々だけ。
「……」
「……」
「……はあ」
「……なんか、ごめんね」
「謝らないでください。香澄が目を離したすきにいなくなるのは、考えれば予想できたことなので」
そう言って、有咲はポケットからスマートフォンを取り出す。
「とりあえず、連絡してみます。この人混みだから気づかないかもしれませんけど……」
「うん、お願い。おれも鈴音に電話を……」
「? どうかしたんですか?」
語尾が小さくなっていった詩希に、疑問を感じた有咲は視線を向ける。
詩希は何やら辺りを見回していた。
「いや、また、声がして……え」
そして、空を見上げた瞳が大きく開かれた。
まるで、信じられないものを見ているかのように。
「詩希さん?」
「……なんだ、あれ」
その声は震えていた。一体何を見れば声が震えるのか気になった有咲は、詩希と同じ方角に視線を向けてみる。
そして、同じように驚きで目を見開いた。
青が広がる空に、一点、暗い青色をした雲が広がっている。
「……え?」
有咲の思考が一瞬、フリーズした。
なんだあれは?
何かのドッキリ?
何かのマジック?
超常現象?
様々な単語が有咲の脳を次第に駆け巡る。
暗い青色をした雲なんて聞いたことがない。しかも、その雲は徐々にその大きさを肥大化させていく。
今のこの場にいる誰もが、空の雲を見ている。
得体の知れない雲に、次第に恐怖を感じる有咲。
そんな有咲の手を、詩希が握ってきた。
驚きと、異性に手を握られたと言うことにドキッと心臓が大きく跳ねる有咲だったが、詩希の険しい表情を見て、そんなピンク色の思考は吹き飛んだ。
「有咲ちゃん、逃げ────」
──るよ、とは続かなかった。
それを遮るかのように、激しい雷鳴と轟音を立てて
そして、世界の終わりがやってきた。