剣の頂よ、幸せの道へと通じろ。   作:カサミノ

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第12話

 刀を振り続ける。伸びる手を切り払い続ける。一秒過ぎるごとに体は鉛が詰められてしまったかのように重くなっていく。

 諦めるな。どんどん鬼の再生速度は遅くなってる。本体の表情も苦しそうだ。いける。

 分身体が少しずつ減ってくる。それに伴い俺も剣速を上げて本体に向かって進んでいく。後十数体! 勝てる! そう思った時だった。十数体の鬼の体が全て塵に帰った。限界が来たんだろう。

「どうやら、限界が来たみたいだな!」

「限界が来た? 頭が足りてないんじゃないのか?」

 奴は上半身だけ服を脱いだ。様子がおかしい。奴は余力を残していたんだ。先程の血鬼術では仕留められない、そう判断したからもう一つの血鬼術を使う気なのだろう。

「俺の『増え鬼』を破ったのは褒めてやろう。しかし! 『阿修羅』はお前には破れん!」

 そういうと奴の筋肉が大きく盛り上がる。細く紳士のような体つきだったのに今は筋肉の化け物だ。そして、背中からも二対の極太の腕が生えてくる。

『増え鬼』を解除してその分のエネルギーをこの『阿修羅』にまわしたのか。となると奴は十数体分のパワーを有している事になる。不味いな。俺は傷のせいで動きが鈍ってる。十数体分の身体能力を捌き切れ……ッ!? 

 容赦ねぇ! 木の上から砲弾みたいに飛んで来やがった! 直感で察して飛んだから今生きているが、俺が先程まで立っていた位置には大きなクレーターが形成されている。

「運のいい奴。次は逃がさない」

 もう、言葉すら発する事ができない。回避と攻撃をいなす事だけに集中しなければ死ぬ! 

 ドン、という激しい衝撃音とともに奴の俺の顔よりも拳が俺の顔に迫る。型によりいなす事は不可能。ならばと、体を逸らし避ける。その俺を追撃するように拳が落とされるが奴の体勢は拳を放つのに万全ではない。速度が遅い。俺も万全とは言えない状態だが、鍛えたんだよ! 慣れっこだぜ! 

 ___空の呼吸 壱ノ型 蒼穹

 か、固ぇ!? でも、切断出来ないほどじゃない。気合の叫びと共に切断する。

「強いなお前。十二鬼月目前の俺がこんなに苦戦するなんてよ」

 ケラケラと鬼は切断された腕を生やしながら笑う。継子である杏寿郎と同等の俺がここまで追い詰められるんだ。こいつは並大抵の隊士じゃ仕留められない。まぁ、柱ならゴリ押しで多分倒せるだろうけど。俺は柱じゃ無いんだ。出来ることを出来るだけするしかない。

 奴は腕を再生しきってから攻撃を仕掛けるつもりらしい。俺も動きすぎると傷が余計に開いて窮地に追い込まれていくだけだから、攻撃を仕掛けることはできない。

 こりゃ、ジリ貧だな。刀を握りしめながら思う。俺に赫刀を発現させることのできる握力があれば窮地を脱せたかも知れないが、駄目だ。全力で握っても刀はちっとも赫くならない。俺の手の震えが伝わるくらいだ。

「さぁ、そろそろぶっ殺してやるよ」

 右三本の腕を回しながら鬼は言う。軽くシャドーボクシングをしたのちに拳を構える。さぁ、デカイの来るぞ。気を引き締めろ。

「生きてたら、感想聞かせてくれや」

 鬼はクレーターが出来上がる程強く踏み込み、飛び出す。力を最大限まで溜めて、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。拳の暴風雨が俺を襲う。負けてたまるか。

 ___空の呼吸 陸の型 虚空

 超高速で刀を振り、拳の暴風雨の中に俺一人分のスペースを生み出す。しかし、鬼の血鬼術により強化された身体能力の前には全集中の呼吸により引き出された身体能力でさえ敵わず、何発もスペースに侵入し、俺の身体に命中する。しかし、威力は削いでいる。

 耐えられる。まだまだ、耐えられる。拳は俺の身体を貫通していない。骨は折れてる。痛い。でも、みんなを悲しませる方がもっと、もっと痛いに決まってる。

 意識を飛ばすな。前を見ろ。永遠じゃない。必ず反撃の時はやってくる。身体に拳が何度も当たり骨が何本も折れていく。しかし、徐々にスペースが生まれていく。ここだ! 

 ___空の呼吸 弐ノ型 曇天・嵐気流

 鬼の胴体をなぎ払い切断するのと同時に後ろに飛び退く。

 刀を構えようとするが身体がさっきので動かない。多分次の一撃で決着にしないと死ぬ。最速かつ最強の一撃で頸を刎ねる、これが俺が勝つための絶対条件。

 呼吸を整え、刀を納める。次に使うのは空の呼吸の型の中で唯一の居合の技。先祖の残した話によると上弦の鬼ですら容易く斬り捨てるという。文字通り最強の型。最強だけあって負担は相当だ。体力がついた今でも易々と打てるものではない。それをこの状況下で打つのだ。チャンスは一回だけ。

 心を落ち着かせろ。一条銀、お前ならやれる。刀に手を当てる。雷の呼吸は攻撃を自ら仕掛けに行くがこの型はカウンターだ。集中しなきゃ、技も出せずに死ぬ。

「諦めたか? なら、他の奴みたく俺の腹に収まりな!」

 胴をくっつけた鬼が飛び出す。集中する。動きをよく見る。息を吸う。息を吐く。今だ。

 ___空の呼吸 拾ノ型 天の原一刀

 鬼が拳を振るよりも速く刀は過たず、頸を刎ねる。

「ッ?! 何故だ! 何故俺の頸が刎ねられてる?!」

 言葉を返そうと思ったが、血液を鉛に変えられてしまったかのような重みが身体にかかり返すことは出来ない。最後の力で抜いた刀を鞘に戻し、手を合わせる。

 手を握ってあげたかったけど、駄目だ。倒れないようにするので精一杯だ。

「あぁ、あああああ!」

 鬼は吠えた。初めの内は怒りによるものだったが、次第に声が小さくなっていき、涙声に変わっていく。多分、人間である時の記憶が戻ってきたのだろう。原作でも死の間際に戻る鬼が多い。

「ごめん。ごめんなぁ。俺を許してくれよ」

 最後の一瞬。全てが灰になる間際にチラリと見た鬼の顔は紛れもなく人間のものだった。

 あぁ、やばい。藤の花の家紋がある家まで行かないと。回復の呼吸をすることにより、大幅にマシになってはいるがそれでも尚危険な状況だ。

「遅イ! 遅イ! カァ!!」

 隼君はブチ切れだ。仕方ないだろう? 相手は十二鬼月目前の怪物だったんだ。

 切れながらも藤の花の家紋を掲げる家に案内してくれる。死にかけだってのにそんなに速さにこだわるのかよ。一応、俺主人なんだけど扱いひでぇな。そう苦笑しながら歩いていく。

 なんとか、門の前まで辿り着くと家の人が中まで運んでくれた。ご飯はいるかどうか聞かれたが食欲すら無かったので朝食は要らないと答えた。本当は食べないといけないけど今は眠りたかった。

 フカフカの布団はほんのり太陽の匂いがして、心地よさを堪能している内に意識は深く沈んでいった。

 額を固いものが打つ。杏寿郎か?! 

 ガバッと起き上がる。なんだ、隼か。良かった。煉獄家でやった地獄の訓練を思い出してしまったじゃないか。ん? なんか、隼君イライラしてませんかね? 

「三日! 三日!」

「三日?」

「三日デ治セ! 柱ナラ三日デ治ス!」

 そんな無茶な。いくら、回復の呼吸を常中でやってるからってそんなに速く傷が癒えるはずないだろ? 二週間ぐらいかかるに決まってんだろ。隼を無視するように布団を頭から被り無視をする。

「三日! 三日!」

「うるせぇよ! そんなに早く治らんわ!」

「治セ! 治セ!」

 馬鹿が! そんなに早く治るはずないだろ! と思っていた時期が私にもありました。本当に三日で治りました。隼君もびっくりしてました。回復力だけは隊一だと褒められました。お前に褒められても嬉しくねぇから! 

「鬼ヲ倒シニ全国ヲ回ルゾ!」

 隼君は嬉々として、俺を案内しようとしている。あぁ、もう少し寝ていたかったなぁ。しかし、来た指令は必ずこなさなければならない。

 本当に全国駆け回って鬼退治するハメになりそうだよ…………。

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