剣の頂よ、幸せの道へと通じろ。   作:カサミノ

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今回は少し難産でした。


第2話

ある日の事だった。

訓練の途中に父へ手紙が届いた。その時からどうも父と母の雰囲気がピリピリしている。遊廓の女の子からの手紙だったのかな、と冗談混じりに言えるようなものではなく、厳しい父が訓練に身が入っていないようだったし、母も物事が手につかないようだ。相当重大な手紙だったのだろう。

「お前達、明日は早く起きなさい。お客人が来る」

「「「はい」」」

一日の終わりに一層顔を険しくした父がそう言った。顔は険しかったが、心なしか不安そうだった。母も顔こそ険しくないが、父よりも明らかに不安な気持ちが現れているようだ。

相当ヤバいお客なのか? 全く想像がつかない。人斬りとか来ないよなぁ。人斬って一家から勘当されましたみたいな感じで。

一家全員______と言っても、綾香はいつも通り無表情だったが何となくソワソワと落ち着かないようだった______不安な気持ちで床についた。

「兄さん、兄さん」

「んぁ?」

綾香が俺を起こしたようだ。まさか、鬼が出たのか?!

飛び起きようとするが綾香に止められる。どうやら鬼では無いようだ。

「びっくりさせてごめんなさい」

「いや、いいよ。俺の早とちりだった。でも、どうしたんだ怖い夢でも見たのか?」

「そういう訳じゃ無いよ。ただ………兄さんが居なくなってしまう気がするんだよ」

綾香がこんなに不安そうなのは初めてだった。

「そんな事ないさ、俺はいつもそばに居るよ」

「うん、絶対にそばにいてよ。兄さんが居なくなると思うと気が狂ってしまいそうなんだよ」

ぎゅっと綾香に抱き締められる。綾香を優しく抱き締めながら頭を撫でて、落ち着ける。そうして数分すると綾香は規則正しい息を立て始める。どうやら眠ったみたいだ。綾香を剥がそうとするけど、しっかりと抱きついたままで離れそうにない。このまま眠るしかなさそうだ。こんな事は綾香がもっと小さい頃に一度あったきりだ。

綾香は俺に依存していると言ってもいいかもしれない。綾香が家族になってもう数年が経つが心を完全に開いているのは俺に対してだけだ。兄にも父にも母にもある程度は心を開いているが完全ではない。いくつか、俺しか知らない綾香の秘密もある。兄として何とか自立させてあげたいものだが、どうしたものかなと思案しながら眠りにつく。

 

「起きなさい」

父の声が聞こえる。少しだけ朝日が差し込んで綾香の黒紅の髪に反射する。父は相変わらず不安そうだ。綾香を起こして居間に向かう。もう食事の準備ができているようだ。気温は程よく空気はジメジメとしておらず爽やかなのになんとなく重苦しいのは一家に走る緊張のせいだろうか。

「ごめんください」

食事と片付けが終わると綺麗げな女性の声が門の方から聞こえる。お客人がいらっしゃったみたいだ。想像していたような人斬りでは無さそうだ。

父が門を開けると白樺の精と間違えてしまいそうな白髪の美しい女性が…………………彼女は産屋敷あまね様ではないでしょうかね。

父は片膝を立て、砂利の上に跪く。

「御足労感謝します。産屋敷あまね様」

やっぱり、そうかよ! くそう、鬼殺隊には関わらずにのんびり生きると決めたのによぉ!

「いいえ、私は皆様にお願いしに参っているのです。そうかしずいていただかなくても結構です」

「お気遣い感謝します。ですが、我ら一族は産屋敷家に多大な恩があります。さぁ、どうぞ中へ」

「いえ、今日はお話だけですのでここで大丈夫です。さて、本題を申させていただきます。もし、よろしければ鬼殺隊に入隊していただきたいと考えております」

「鬼殺隊とはなんでしょう?」

兄が問うが、予想していたのだろうすらすらと答える。

「人を喰らう鬼を人知れず狩る数百人規模の政府非公認の組織です。他に質問は無いでしょうか?」

そう言ってあまね様は一人一人の様子を確認し、質問がない事を知ると頭を下げ、結論はまた明日に聞きに来ると言い帰った。

家族には重苦しい沈黙が残る。父は立ち上がり、俺と金兄さんと綾香を呼び集めた。

「お前達の中から一人、鬼殺隊に行かなければならない」

父は辛そうだった。涙を堪えているのかはよくわからなかったが複雑な感情が顔に現れている。母は涙を瞳に蓄え、今にも涙を零してしまいそうだ。金兄さんも父の声にもうわの空で戸惑っているのが見て取れる。

「この家は一代に一人剣士を出さなければならない。これはしきたりなのだ。すまない………お前達には言うことができなかった………。俺の弟もお前達の歳くらいに入隊し、命を落とした。私はその事が恐ろしかったのだ。だから、伝えられなかった。弱い父を許してくれ…………」

どんどん言葉は弱っていき、話終わる時には父は蹲り、涙を流していた。突然の話に俺達三人の子供達は戸惑うばかりだ。

いつもの訓練をする事なく、夜まで皆それぞれの考えを纏めていた。そうして、一日の終わりに再び家族で集まり、家族会議を開いた。

父は子供達一人一人の意見をまず最初に聞きたいようだが、綾香は父が口を開くよりも遥かに早く口を開いた。

「私がやります」

一言で衝撃が走った。家族が何を聞いても、私がやるとしか返さなかった。彼女の決意は固い。金剛石ですら砕きうる決意を家族は動かす事ができず、彼女が入隊する流れになり、家族会議はお開きで皆が床につく。金兄さんは少し、ほんの少しだけれど安堵していたようだった。俺は複雑だった。本当にこれで良いのか俺にはわからなかった。綾香は確かに強い。俺なんかよりもずっと。でも、彼女は剣を握り、闘うのは好きでないし、本来ならあと数年で結婚して幸せな家庭を築くどこにでもいる村娘のはずだ。こんな道を歩ませていいのだろうか? それが気がかりで仕方なかった。

「綾香、本当にいいのか?」

「はい、兄さん」

いつも通りの無表情で返す。すると、綾香は俺に抱きついてくる。その体は震えていた。あぁ、やっぱり彼女は………

「怖いんだな」

「そんな事ないです」

「声、震えてるぞ」

「私は、私は、普通の人よりも強い………ものすごく。これはきっと兄さん達のためなんだよ」

声の震えは更に増す。それに伴い抱き締める力も強くなる。

俺達兄妹は全員一度鬼を見た事がある。だから、恐ろしさを知っている。残忍さを知っている。怖くて当然なのだ。

俺は鬼殺隊士になるのだけは死んでもごめんだ、そう思って転生してきた。神から貰った才は闘うのに向いたものだった。なんでこんな才能を貰ったんだと疑問に思った事も少なく無かった。でも、今答えを見つけた。

「俺が鬼殺隊に入るよ。きっと俺が入るべきなんだ」

「どうして?! 私は兄さんが傷つくのを見たくないの!」

「それは俺だって同じさ」

「私の命は本当だったら無いものだったんだよ! 兄さんに助けてもらったの! だから、次は私が兄さんを守る番なの!」

初めて綾香が声を荒げるのを聞いた。恐れてはいるが、決して引かないだろう。その証拠に彼女の震える声には怯えの意を感じるが強い決意も感じる。

「だめだ」

「兄さんだって怖いでしょう! あいつらと戦うのが!」

「そうだ。でも、きっと俺は鬼殺隊に入る為に生まれてきたんだ。その為に命を貰ったんだ」

「兄さん、それってどう言う事?」

俺は綾香にすら黙っていた最大の秘密を話した。俺が転生してきたという秘密を。これを今話すべきなんだ。絶対に今話さなくてはいけない。話終えると綾香は戸惑っていた。こんな状況で突然打ち明けられたのだ。どうしていいか分からないのが普通だろう。

「信じられるか?」

「うん……」

しばらく、沈黙が流れる。そして、その後に綾香は口を開く。

「兄さんは私が何を言っても行く気なんだよね」

「ああ」

「なら、分かったよ。でも、兄さん、約束をして絶対に生きて帰ってくるって」

そう言うと、小指を差し出してくる。俺は綾香の小指を握り、優しく、必ず帰ってくる、と言う。綾香は涙を流していた。妹の初めての表情を泣き顔にするなんて悪い兄だなと自分に苦笑するばかりだ。

綾香は抱き着いたまま今日も寝るようだ。俺も綾香を抱き締め、昨日と同じように頭を撫でながら眠る。もう、綾香は震えていなかった。

 




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