剣の頂よ、幸せの道へと通じろ。   作:カサミノ

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第3話

 夜が明ける。

 この屋敷から見る最後の朝焼けは山間を篝火で照らしたような弱々しいものだったけれど、吹き抜ける風が雄大な印象をつけていた。あぁ、俺は皆とはお別れなんだな。漠然とした感覚だけが残る。瞳を閉じればこの屋敷で過ごした日々が蘇る。一言では語りきれないほどの想いが身体をグラグラと揺らす。

 父と母の部屋に向かう。父と母はもう起きている。まだ、話し合いを続けているようだ。

「父さん、断りましょう。あの子達を辛い目に合わせたくない」

「母さん、その必要はないですよ」

「銀! いつからいたの?」

「さっきからです。父さん、綾香を行かせる必要はありません。俺が行きます」

 二人とも驚いたように目を見開く。母は行く必要はないのよ、とか、死んじゃうかも知れないのよ、と俺を行かせまいと必死だ。しかし、父は対称的に一言も発さない。いつもの険しい顔で俺の顔を見つめるだけだ。

「お前は決めたんだな」

「はい」

「分かった」

「父さん!! いいんですか?!」

 母の問い掛けに父はただ、こいつは覚悟を決めたんだ、とだけ言って部屋の奥に進み、これまで開けることの無かった襖を開ける。母も父を追って奥に行き、何度も問うようだが、これ以上は不要と言わんばかりだ。

「これを持っていけ」

 父は三冊の本を持ってくる。相当古い事が紙の風化具合から見て取れるが、抜群に良い保存状態のおかげで文字を読むことは出来る。表紙には『壱、貮、参』とだけ書かれていた。

「これは一族に代々伝わっていく書物だ。きっと、お前の道標となり、未来を開く鍵になる」

「ありがとうございます」

「父さん!」

「私だって、こいつを出したくない! 可愛い、可愛い息子なんだ。行かせたくないのは当然だ…………こいつは覚悟を決めたんだ……もう…………私達が口を挟む事はない」

 父は言い終わると涙を流していた。生まれて初めて見る父の涙だ。口には出来ないし、ましてや心の中で知覚することすら難しい感情が渦を巻く。父と母に背を向け、進む。言葉はもういらない。

 兄さんが廊下から駆け寄ってくる。

「臆病な兄でごめん……。お前も鬼の怖さを知ってるのにそんな辛い事をさせて…………」

 兄もまた涙を流していた。俺の肩を掴み、体が小さく震えている。一晩中葛藤したのだろう。目の下には大きな隈ができ、いつも快活で強い兄が暗く、弱々しくみえる。

「大丈夫です。兄さん、みんなを頼みます」

「あぁ、勿論だ。お前も苦しくなったら、戻ってくるんだぞ」

 肩を掴む力がより一層強くなる。それに伴い目のうるみも増していく。今にも泣いてしまいそうだ。俺は泣かない、泣かないと言いながらも涙はどんどん溜まっていき、遂に溢れてしまったようだ。

「お前は強いよ。銀。誰よりも」

「ありがとうございます。兄さん」

 家族への報告を終え、部屋に戻り、荷物の支度をしようとすると綾香がもう既に少しやっていてくれたようだ。朝、すぐに起きて床を抜け出し、挨拶に回っていたので気がつかなかったが、綾香は目を酷く泣きはらしている。本当にひでぇ兄だな。俺。

「兄さん、お願いがあります」

「なんだい?」

「絶対に生きて帰ってきてください」

「当然、帰ってくるよ」

「手紙もください。週一ぐらいで」

「うん」

「毎日三食食べてください。無理して夜遅くまで起きていたらだめですよ。後他にも…………」

 綾香が母さんになったみたいだ。ずっと、綾香のお願いは続く。次第に綾香は涙声になっていく。

「ごめんなさい。…………兄さん…………最後は……笑顔で送ろうと…………思っていたんです。でも、出来そうにありません」

「いいんだ。むしろ、初めての綾香の表情を泣き顔にしてしまって、申し訳ないよ」

「ひどい兄さんです。本当に、本当に」

「俺からも一つお願いがあるんだ」

「なんですか?」

「次、会う時にはとびっきりの笑顔を頼んでいい?」

 綾香は驚いたような表情を浮かべる。これも初めての表情だな。真顔でも可愛いけど、表情があると段違いにいい。

「勿論です」

 そう言った彼女は大輪の笑顔を見せてくれた。

 

 そこから、少し経つと昨日と同じようにあまねさんがいらっしゃった。

 日は上り、影を短くし、景色に鮮やかな色彩を振り入れた。朝焼けといい、今日は太陽が美しい。そんな太陽に照らされ、より白樺の精と言う印象が強まっていた。

「どなたが鬼殺隊に助力していただけるのでしょう?」

「はい。私が行きます」

 俺は手を挙げる。すると、あまね様は少しにこりと微笑んで、それでは行きましょう、と言って護衛の人にも声を掛けて進む。俺もそれを追いかける。父が、兄が、母が、妹が手を振る。俺も手を振り返す。

「また、来ます!!」

 

 数分歩くと『隠』の人と落ち合った。彼らが産屋敷邸まで運んでくれるらしい。彼らの足は鬼殺隊士を目指していたのだから当然と言うべきか物凄い速いのだ。人を背負っているにしては余りにも速い。日が傾き始める前までに俺は産屋敷邸へと辿り着く。

「君が一条家から来た子かい?」

 優しい声が聞こえる。その先には原作でもお馴染みのお館様__産屋敷輝也様がいらっしゃった。まだ、無惨の呪いが進行していないのだろう。顔には痛々しい跡が左目の端にだけしか無かった。

「はい。一条銀と申します」

「いい名前だね」

 落ち着く声だ。いや、声だけではない。行動全てが俺の心を掴んでいる。前世を含めてここまでのカリスマを持った人を見た事がない。あの柱を纏めていたというのも納得がいく。

「銀。君はまだ正式な鬼殺隊士じゃないんだ。君は最終選抜を突破する必要がある。その為に必要な訓練をしてもらいたんだ」

「分かりました」

 誰が稽古をつけてくれるんだろうか? お館様の跡を見る限り、原作からだいぶ離れているようだけれど。そう思っていると炎を思わせる髪色の男性がやってきた。あの髪色、双眸を見開いた眼力があるという事はまさか! 

「彼は煉獄槇寿郎。鬼殺隊最強の一人だよ。彼ならきっと君の実力を大きく伸ばしてくれるよ」

 やっぱり! 原作キャラクターに関われるのは嬉しいけど、嬉しいけど死地が近づいたことを意味していて嫌だぜ! 

 それにしても槇寿郎さんは原作では妻を亡くし、柱としての自信を喪失し、自暴自棄になっていたはず。原作からよほど遠く離れているのだろう。

「それじゃあ、銀、頑張るんだよ」

「わ、分かりました」

 そう言うと、お館様は屋敷に戻ってられた。俺は槇寿郎さんに連れられ、煉獄邸へと移動する。なんだか、今日は移動しっぱなしだな。

 

 煉獄邸に着くと、ミニ槇寿郎さん____恐らく、原作の煉獄杏寿郎だろう___が俺を迎えてくれた。一緒にさらに小さい槇寿郎さんと一緒につり目が印象的な大和撫子と言った感じの女性___煉獄瑠夏さんだろうも迎えてくれた。

「一条銀と言います。よろしくお願いします」

「よろしくお願いする!」

 杏寿郎さんは本当に声が大きいらしい。挨拶をしたらびっくりするくらいの声量で返された。やっぱ、原作通りだなぁと思っていたら、その日の夕食にサツマイモが出た時にもわっしょい、わっしょい言っててびっくりした。そして、家族は瑠夏さん以外みんな大食いだった。一体何処に食物は消えているのだろうか? 疑問は尽きない。

 鬼殺隊に入る時は少し不安もあったけれど、煉獄家の皆さんは良い人でこれから上手くやっていけそうだ。

「わっしょい! わっしょい!」

「やっぱ、無理かも…………」

 杏寿郎さんのテンションに合わせるのは少し厳しいです…………。

ヒロインは誰がいい?

  • 綾香
  • 胡蝶しのぶ
  • 胡蝶カナエ
  • 真菰
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