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朝が来る。場所は変わったが、いつも通りの時間帯に起床する。布団を畳んで部屋から出ると槇寿郎さんと千寿郎君以外はもう起床していたようだ。
「銀は早起きだな!」
杏寿郎さんが話しかけてくる。声の大きさと眼力からするに朝っぱらから元気なようだ。
「いや、皆さんほどじゃないですよ」
「まだまだ固いな!」
「杏寿郎、まだ銀は来てすぐだ。ゆっくり慣れれば良いだろう」
杏寿郎は少し俺と距離を感じているようでそれを埋めたいらしい。俺も頑張って早く馴染もう。
「銀、お前の実力を見せて欲しい。来てもらっても良いか?」
「分かりました」
槇寿郎さんが部屋から出るのを追って修練場に向かう。にしてもこの炎屋敷は本当に立派だ。広い屋敷と庭だけじゃなく、屋敷の中に修練場まで完備されている。鬼殺隊士にとっては最高の環境だろう。修練場も大分広く、壁には大量の木刀が掛けてある。そのうちの二本を取り、一本を杏寿郎さんへ、もう一本を俺に渡してくれた。
「これで打ち合って欲しい。杏寿郎、本気でやるんだ」
「分かりました!」
元気な杏寿郎さんの返事が死刑宣告にしか聞こえない。ヤバイだろ。原作を読んでいれば分かるが彼は柱の中でも上位クラスの実力を持つ男だ。才能と精神と身体のバランスが高い次元でとれている。そんな奴と俺が打ち合い稽古出来るはずがない。第一、俺は一族の呼吸を使えない。正確には使う事が出来るのだが、全く役に立たない。杏寿郎さんは恐らく型を使用できるだろう。そうであれば、打ち合い稽古ではなく人型サンドバッグを杏寿郎さんが打っているだけになってしまう。
「銀! 本気で大丈夫だ!」
杏寿郎さんはやる気満々。
「銀、君の力を見せてくれ」
槇寿郎さんは興味津々。
あぁ、どうしようもないな。やるしか無いと覚悟を決め、木刀を握りしめる。俺は型の使用に置いて圧倒的に不利だが、一度だけなら勝ち目はある。
「構え! 始め!」
掛け声と共に杏寿郎さんが凄まじい速度で飛び込んでくる。初撃を弾く。後ろに引いた杏寿郎さんの呼吸音が聞こえる。燃え盛る炎のような音。来る!!
______炎の呼吸 壱ノ型 不知火
強い踏み込み音の後、飛び出る杏寿郎さん。燃え盛る刀を防ぐ。剣は再び、俺を狙って振り下ろされる。右、上、左、斜め右、上、斜め左………………。弾く、弾く、弾く。何度弾いても紅蓮の炎は俺を襲う。弾く度に熱量は加速度的に増していく。弾く、弾く、弾く。たまらず、後ろへ飛び退く。
___炎の呼吸 伍ノ型 炎虎
体勢を整える隙すら、与えてはくれない。炎の虎を退けようとするが型を使用していない俺は紙切れのように吹き飛ばされてしまう。何とか勢いを殺すも、殺しきった時には炎が眼前に。
杏寿郎さんは疲れ知らずなのか。もうこちらは手が痺れ、息が上がり始めているというのに。
仕方がない。俺も『切り札』を切るしか無い。
腹を括り、炎を弾く。そして、杏寿郎さんに剣を振り下ろす。弾かれる、弾かれる。何度も、何度も斬りつける。反撃の隙をなるべく与えないように。斬る、斬る、斬る。杏寿郎さんは苦しそうな顔一つせず、弾き続ける。
まだだ。まだ斬り続けろ。杏寿郎さんが最大の攻撃を放ってくる一瞬。それこそが最も隙がなく、無防備な瞬間。
_____炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
俺は剣を大きく弾かれ、仰反る。それと同時に杏寿郎さんは素早く下がり、両脚を止め、刀を構える。間違いない。来る。俺も体勢を整え、呼吸を整える。見せてやろう。これが一条家の剣術____空の呼吸だ。
___炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄
___空の呼吸 壱ノ型 蒼穹
俺の刀が通った空間に青空が敷き詰められていく。杏寿郎さんの刀は空間を焼き尽くしていく。刀がぶつかり合う。炎は青空を焼き尽くそうとするがそれは叶わない。逆に炎は青空に飲み込まれ、存在が消失していく。俺の木刀が杏寿郎さんの渾身の斬撃を弾き返し、その勢いで杏寿郎さんは勢いよく吹っ飛ぶ。
「止め!」
槇寿郎さんの声がかかる。
やっと、終わったという安堵感と共に疲労が全身を苛み、立っている事すら出来なくなる。
「凄い剣術だった。呼吸に愛されているようだ」
俺が呼吸に愛されている? 単純な戦闘ならば、出来たのだが兄や父のように呼吸を持続して戦闘ができなかった。だから、俺には空の呼吸の才能はないと思っていた。
「それに加え、基礎身体能力、型に頼らない剣術は類を見ないほどだ。きっと、柱に至るだろう」
「ありがとうございます」
ここまで褒められるとは予想していなかったので、凄く嬉しい。
「しかし、お前には体力が足りていないようだ。常に呼吸を続けるんだ。そうすれば、いずれその呼吸を完全に使いこなせるだろう」
恐らく、今の俺は竈門炭治郎と同じ状況にあるのだろう。彼は作中でヒノカミ神楽が身体に合っていたのにも関わらず、使用することができなかった。それは型の力を本人のスペック以上に引き出したが故に消耗に耐えきれなかったと考えられる。
「よし、それでは朝飯だ」
俺は呼吸で消耗して立つ事すら出来ない。熱くなりすぎて切り札を切った事を激しく後悔する。何度も何度も立ち上がろうとするも、立ち上がらない。全身が鉛になってしまったみたいだ。必死にもがいていると杏寿郎さんが肩を貸してくれた。
「いやぁ、凄い型だな!」
結構強めに吹っ飛ばしたというのにまだピンピンしていらっしゃるよ。やっぱり、将来の炎柱は違うぜ。
「ありがとうございます」
「飯を食べたら【常中】、呼吸を常に行う訓練だ! 俺もこれを習得するのには苦労した!」
彼は既に常中を身につけているらしい。原作では習得が非常に困難だと言われていたが、やってみると原作の描写以上に難敵だった。実家で一度チャレンジしたけど三十分足らずで投げ出した。マジで耳から内臓がポロリするかと思った。それを飯食ってするのか。
「あれには肺活量もいるからな! 厳しい走り込みを覚悟しておいた方がいいぞ!」
あっ、ハイ。やっぱり、肺活量には走り込みですもんね! 僕知ってます。知ってますよ……………………。
箸すら持つのが厳しい疲労の中で美味しいご飯を食べるという傲慢なのか、ご褒美なのか分かりづらい事をした。食べるのに苦労するのを見た杏寿郎さんは邪気のない笑顔であーんしてくれた。………………断った。
飯が終わるとすぐさま鍛錬。心臓が全身を揺らしているのではないかと錯覚するくらいに走り込まされ、延々と水に顔をつけ息止め。肺をこれでもかというほどいじめられ今日の訓練は終わった。
手が震えて仕方ない食事を終え、ようやく、風呂だぜ。煉獄邸の風呂はめちゃくちゃデカい。温泉かと見間違った。そこを一人で使えるのは大富豪になったみたいな気分だ。
「入るぞ!」
勢いよく杏寿郎君も入ってくる。風呂の順番は俺が一番最後のはずだったのだが、ずらしたらしい。
「お前は凄いな銀」
「どうしたんですか?」
何故か、凄く弱々しい。声に張りがないだけじゃなく、眼力すらも数分の一に弱っている気がする。
「俺は不安なんだ。父のように立派な炎柱になれるか」
杏寿郎さんは作中では不屈の剣士として描かれる。しかし、本当は不安だったのだろう。悩んだのだろう。一族が代々守ってきた炎柱をいずれ自分が受け継ぐに値する男になれるかどうか。
「君はどうしてそんなに強いんだ?」
彼の瞳には炎が宿っていた。全てを焼き尽くしてしまうほど熱く輝いていたんだ。でも、今は炎は翳り、風が吹けば消えてしまいそうだ。
俺がそんな彼に返せる言葉は一つしかなかった。
「何の為に剣を握るんですか?」
「何の為に…………」
「俺は妹に剣を握らせたくなかった。兄に辛い思いをさせたくなかった。母に笑っていてほしかった。父の想いを繋ぎたかった。それだけのことです」
「…………」
瞳に緩やかに炎が灯ってゆく。消え入りそうな火は悪鬼を焼き、人を守る炎へと変わっていく。
「そうだな! 俺は父上の、母上の、弟の為に刀を握る! 弱き人を助ける為に刀を握る! それだけだ!」
「そうですよ!」
「ありがとう、銀!! おかげで大切な事を思い出せた!」
瞳の炎は前よりも激しく燃えていた。きっと、もう挫ける事はないだろう。
「そうだ! 君の常中の訓練を手伝おう!」
「本当ですか!」
「ああ! まずは部屋に戻ろう!」
風呂から上がり、さっさと部屋に二人戻ると杏寿郎もついて来た。
「さぁ、訓練開始だ!」
そう言って、布団を二枚サッと引く。えっ。訓練って何するんですかねぇ?
「疲れただろうゆっくり眠るといい! ただし、全集中の呼吸をしながらだ!」
「もしかして、読書中もですか?」
「もちろん!」
あぁ、さよなら寝る前の楽しみ…………。父さんがくれた一族代々の書が結構面白かったのだ。型への理解を深める事もできたし、読み物としても結構イケてたのだが。全集中をしながらなら楽しめないだろう。杏寿郎さんは布団叩きを手にして、ブンブン降ってた。少し可愛いけど、速度が尋常じゃないから恐ろしい。
「途切れているぞ!」
「痛ぁ! 友よ、勘弁してくれ!」
情に訴えてみる。少し、卑怯だが仕方あるまい。
「俺の事を友と思ってくれているのか嬉しいな! しかし、それとこれとは別だぞ!」
あぁ、やっぱりダメだった。寝る時でさえ鍛錬なのかブラック企業ですら、びっくり、いや、白目ひん剥いて倒れるまであるぞ。
しかし、そのブラック鍛錬の成果で俺は一週間で常中を習得した。濃密な日々で杏寿郎とも距離が縮まった。今や、今世最大の友人と言っても過言では無かった。
「また、途切れたぞ!」
「へぶ!」
やっぱり、友人じゃないかも…………。
ヒロインは誰がいい?
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綾香
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胡蝶しのぶ
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胡蝶カナエ
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真菰