俺が常中を習得して一月が経った。最初は戦闘訓練には全くと言っていいほど持続不可だったが徐々に戦闘訓練時にも持続が出来るようになった。それに伴い空の呼吸も操れるようになってきた。しかし、俺はいつまで経っても空の呼吸が誇る奥義を習得できなかった。何故なら父がくれた型についての書物に一切の記述がなかったのだ。いや、一応奥義のページがあったのだが『道は己の中にあり』とだけ書かれていた。型名すらなしで。この奥義について父に聞いてみると『失われてしまった』との回答が返ってきた。失われた奥義とは厨二心と右手が疼きそうだが、ヒントがないんじゃわからない。
___炎の呼吸 壱ノ型 不知火
___空の呼吸 奥義………………
ガキッ!! 木刀同士がぶつかり合い、激しい音と共に俺は押し負けて弾き飛ばされる。杏寿郎もこの一月でめちゃくちゃ強くなった。最初は俺の壱ノ型にも競り負けていたのに、今じゃ未完成の奥義では吹き飛ばされてしまう。
「やはり、奥義は出来ないか!」
「ああ。難しいみたいだよ」
「銀の父上ですら継承出来なかったのだろう! それに手掛かりもないときた! のんびりやるしかあるまい!」
「そうだな」
俺達は順当に行けば数ヶ月後には最終選別だ。そこには怪物が住んでいる。俺はソイツと遭遇した時の事が不安だった。奥義が受け継げればいざというときに頼りになったのだが……。
「暗いな! しかし、型は奥義だけではないだろう! 他の型を極めれば良い!」
まぁ、出来ない事を追い求めても仕方ない。気長に他の型の鍛錬をするしかないだろう。木刀を握り直し、杏寿郎と向き合う。今日の鍛錬もまだまだ始まったばっかりだ。
ようやく、一日の鍛錬が終わる。杏寿郎との打ち合い。槇寿郎さんに太刀筋を二人とも矯正してもらって、また打ち合い。その無限ループが最近の訓練なのだが、最近は俺も体力が増してきて、最後までしっかりと木刀を振る事が出来るようになっていた。成長をしみじみと感じていた。その時だった。
バタン。
物音がする。
「瑠火! 瑠火!」
「母上! しっかりしてください!」
そんな鍛錬の日々は永遠ではなかった。忘れていた。これは煉獄家における大きなターニングポイントだ。
「ひとまず、峠は越えましたがいつまで持つか…………」
悲痛な沈黙が俺達を包む。普段は元気一杯の千寿郎君もこの雰囲気を察し、オロオロと俺達の顔を見ている。
「危なくなればすぐに呼んでください」
そう言って医者は帰っていく。槇寿郎さんは覇気を失っていた。烈火のような髪が心なしか垂れ下がっている。杏寿郎はこんな状況でも気丈に明るく振る舞っている。そんな兄につられて徐々に千寿郎君も明るさを取り戻していた。槇寿郎さんも少しだけ明るさが戻り、元通りとは行かなくても家には明るさが戻り始めた。
でも、俺は知っている瑠夏さんが死ぬ事を。そして、これは変えようが無いという事も。
少し暗い一日が終わる。それから二週間後に瑠火さんの容態が悪化する。息も絶え絶え、滝のように汗が噴き出ている。腕のいい医者のおかげで何とか助かるが恐らく今度こそヤバい。もう持たないだろう。
「俺には力がない…………」
槇寿郎さんの火は完全に消えていた。その火の翳りが煉獄家に大きな影を落としていた。少しずつ槇寿郎さんの酒量が増えていく。毎日。毎日。
俺は瑠火さんの病気に干渉できなかった。一つだけ最終手段があったのだが。一杯世話になったが、彼女は原作では死んでいた。もし、彼女を救えば原作が崩壊してしまうかもしれない。その恐怖が最終手段を切る事を躊躇わせた。
そこから更に二週間。遂にその日がやってきた。
「瑠火! 瑠火! 頼む!」
「母上!」
どうやら、限界が来てしまったようだ。もう長くはないだろう。
俺は原作をいじらないつもりだ。もし、いじったしまえば原作が崩れ、鬼舞辻無惨を打ち倒せなくなってしまうかもしれない。だから、原作をいじらないつもりだ。そうだったのだが、彼女を見捨てようとすると今までの日々。悲しそうな杏寿郎、千寿郎君、槇寿郎さんの顔が頭をよぎってしょうがない。
俺は覚悟を決めた。原作を超えればいい。必死で努力して。原作を気にせず生きたいように生きよう。
「俺は日ノ本一の医者を知っています。その人の元へ連れて行かせてください」
「銀!? 本当か!」
「ああ、その人なら瑠火さんを救ってくれるはずだ」
「なら、頼むぞ!」
「やめろ! 杏寿郎! 瑠火を救う事は誰にも出来ない…………。無駄に…………なるだけだ」
そう言った槇寿郎さんはよく分からない顔をしていた。怒っているのかもしれなかったし、悲しかったのかもしれない。死に際を看取るという覚悟があったのかもしれない。でも、俺はその言葉が許せなかった。
「貴方が瑠火さんの命を諦めてどうする!!」
「っ!?」
「少しでも助けられる選択肢があるならそれを選ぶべきだ!」
そう言い放って瑠夏さんを背負って駆け出す。なかなかな強硬手段だが一刻を争うのだ。仕方ない。
「…………頼んだ」
炎屋敷の門を過ぎた時に弱々しい一言が背中にかけられる。頷いて、先程よりも加速し浅草を目指す。
時系列を詳しく知らないから推測でしか物を喋れないけど多分浅草に珠世さんがいる。彼女の医療技術はオーバーテクノロジーだ。間違いなくこの病を治し切れるだろう。
浅草までは凄まじい距離があるが走り切るしか無い。全集中の呼吸で身体能力にブーストをかけ、走る。走る。走る。森の中を突っ切って。走る。走る。いいペースだ。この調子なら…………。間に合う、と思ったのだが目の前に人影が躍り出る。
「旨そうだなぁ」
人じゃない、鬼だ。人食い鬼だ。こんな時に…………。俺では瑠夏さんを護りながら進む事はできない。万事休す、そう思われた時。聴き慣れた炎の音が聞こえる。その後に鬼の頸は刎られ、俺の目の前には頼れる親友がいた。
「危なかったな!」
「済まない、杏寿郎」
杏寿郎と合流し、二人で浅草を目指す。走り、走り、走り続け、ようやく、着いた。しかし、珠世さんは見つからない。浅草に着いてからを全く考えていなかった。彼女は鬼だ。日が昇る前に見つけなければ、また日が沈んだ時に探す事になってしまう。背中の瑠火さんは随分苦しそうだ。この夜がラストチャンスだろう。
探す。探す。探す。見つからない。まだまだ。探す。探す。見つからない。一晩中走り続け、二人とも身体はボロボロだ。足が棒のようになり、役に立たない。倒れて楽になりたい。しかし、休む間はない。探す。探す。駄目だ。空が白み始めた。俺には助けられないのか? 暗い思いが俺の胸の内を溢れて埋め尽くす。
まだだ。まだ夜は終わってない。探す事だけに集中する。徐々に頭の中がすっきりとしていく。景色もどんどん透けていく。全てが『透明な世界』へと俺は進んでいく。その中で明らかに普通の人とは違う人がいた。間違いない。
「貴方が珠世さんですか?」
「はい」
安堵で気が緩み、意識を手放してしまった。
ヒロインは誰がいい?
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綾香
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胡蝶しのぶ
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胡蝶カナエ
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真菰