オーバーロード in Infinite Dendrogram   作:(◕(エ)◕)クマネーサン

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第3話

―――王都アルテア郊外<上空> モモンガ―――

 

 

「やりやがったなあのクソ猫がぁー!!!」

 

 モモンガは王都アルテア郊外にある草原の上空1万メートルから、現在進行形で落下中であった。チェシャから何の説明もなくこのような仕打ちを受ければ誰だって言葉が汚くなるだろう

 

「くっそ、<飛行(フライ)>!<飛行>!ってまだ魔法使えないのか!?これ本当に大丈夫なんだよな!?」

 

 落下する際の皮膚(無いが)を切り裂く空気の流れを感じ、恐怖から咄嗟にユグドラシル時代の魔法を唱えるが、当然効果は発揮されない。ぐんぐんと近づいてくる地面に成すすべなく、物言わぬ死体になるまで秒読みを切った(そもそも既に死体)。

 地上まで残り10mを切り漸く減速し、ふんわりと着地することが出来た。しかし恐怖心から脚が震えてしまいその場で尻餅をついて仰向けに倒れてしまった。

 

「あのクソ猫…次に会ったらただじゃおかねぇ…皮を剥いで三味線の材料にしてやる…。今からログアウトすればすぐに会えるか?そもそも俺はログアウトしたらどこに行くんだ…?」

 

 ブツブツとチェシャに対して文句を呟くモモンガだが、仰向けになっていることにより青空を望むことが出来た。嘗ての世界ではもう見ることの出来ない、美しい青空だった。

 青空だけではない、その身に感じる風、鼻孔を擽る新緑と土の匂い、さんさんと降り注ぐ日光の温かさ…全てが初めての経験であった。この時代の現実世界の人々は日常的にこの感覚を味わえているのだと思うと羨ましく思った。

 

「これが自然の中にいるってことなのか…ブルー・プラネットさんがこの場に居たら狂気狂乱してたろうなぁ…」

 

 暫くその身に降りかかる自然の恵みを楽しみ、数分してから立ち上がり服に着いた汚れを払い行動を開始した。見渡してみると、城壁に囲まれた街を見つけた。恐らくあそこがモモンガが選んだアルター王国の街なのだろう。今いる位置が街までの一本道から少し外れた所だったので、早速街に向かって歩き出した。

 城門までもうすぐというところで、モモンガは『熊』と遭遇した。しかしそれは昔ギルメンから見せてもらった図鑑に載っていた熊とは似つかない、ヨレヨレの皮膚をした熊であった。よく見ると、ナマモノの熊ではなくガワだけ模倣した熊の着ぐるみであることに気が付いた。

 着ぐるみという事は、中に人が入っているという事だ。熊の着ぐるみを着込んだそいつと対峙し、そして思う。

 

((な、何だこの不審者…!?))

 

 モモンガと着ぐるみの中の人の思考がシンクロした。今のモモンガの姿は魔法使いロールのマスターの姿だが、それにしてもつけている泣いている様な、起こっている様な表情を浮かべる仮面は誰から見ても悪趣味すぎる。それに加えてローブで身体を一切隠しているのだから不審者にしか見えない。現実世界なら通報待ったなしである。

 

「…一応聞くが、マスターでいいんだよな?」

 

『…そう言うお前も、マスターだよな?』

 

「『…マスターなら大丈夫か』」

 

 何が大丈夫か分からないが、モモンガも着ぐるみの中の人も出身は日本、世界に誇るHENTAIの国出身である。それは時代が移り変わろうと、世界線が異なっていようと変わらない事実であった。

 そういった意味で二人の感性は似通っている物があるのだろう、すぐに警戒を解き道端によって話に花を咲かせていた。

 

『へー、今日始めたばかりなのか。俺は『シュウ・スターリング』、俺もついこの間始めたんだ。よろしくクマー』

 

「何だその語尾…?俺はモモンガだ。初めて見た時から気になってたんだが、その着ぐるみは何だ?」

 

『その身なりでモモンガとか名前負けしすぎクマー。キャラメイクでミスっちまってな、リアルの姿のまま始めちまったんだクマ…。この着ぐるみ買うのに最初にもらった所持金殆ど注ぎ込んじまって、今まで素手で戦ってたんだクマ』

 

「名前については突っ込まないでくれ。だからといって着ぐるみは無いだろ…。俺の仮面みたいに顔を隠す装備を買えばよかったんじゃないか?」

 

『仮面とか覆面とかそんな怪しい恰好したくないクマー』

 

「鏡見てみろ、目の前に怪しい恰好した熊がいるぞ」

 

 シュウはモモンガとは別の理由で姿を晒せなくなったようだ。リアルで何をしているのか知らないが、シュウの口振りから何かしら有名人らしい。そうでなくてもデンドロは世界中でサービスを提供しているので、素顔プレイは危険すぎるだろう。

 全身覆い隠す同盟(シュウ命名、モモンガは参加表明しておらず)を結成した二人は、取り敢えずモモンガが職業について本格的にゲームを始めるために街に入ろうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「なっ、何だお前達!?怪しい奴め!!」 

 

「『…やっぱそうなるよなぁ…』」

 

 シュウは先に始めていたおかげである程度デンドロ世界の住人『ティアン』達に認知されているが、始めたばかりのモモンガの格好は最先端を行き過ぎるどころか、訪れることはまず無い流行の恰好をしているのだ。初見では城門の警備をする衛兵から職務質問を受けるレベルで怪しいのだ。

 

「俺の恰好って怪しいのか?一応初期装備だから俺より先に始めたプレイヤーで見慣れてると思うんだが?」

 

『その仮面のせいだと思うクマー。どっからどう見ても不審者クマー」

 

「お前にだけは言われたくない!!」

 

「そっちの熊?はマスターなのは知ってるが、お前もマスターなんだよな?【魔術師(メイジ)】か?にしても邪悪そうな仮面だな」

 

 何とかマスターであるという事を信じて貰え王都へと入る二人。そこでも二人に向けられる視線は不審者に向けられる物と遜色無い。既に慣れ切っているシュウは兎も角、初心者のモモンガも意外と気にしている様子はない。

 他にオンラインゲームの経験でもあると先程の会話で聞いていたシュウだが、それもそのはずだろう。モモンガは別世界とはいえ一つのオンラインゲームに12年間も続けていたのだから、ベテランを通り越して廃人だったのだから。しかもそこでは魔王ロールをしており、しかも悪を掲げるギルドの長を務めていたのだから、衆人観衆の前に姿を出すと今と似たような視線を向けられていたのだ。慣れていて当然だろう。

 

『それじゃあ早速職業に就いてレベルを上げるクマ。モモンガは何の職業に就きたいんだ?』

 

「おいおい、この恰好を見れば分かるだろ?」

 

『う~ん…分かった!!悪逆非道な魔王クマね?』

 

「違うわ!!魔法職だ!!確かに昔やってたゲームでは魔王ロールしてたけどさ!!」

 

『えぇ~、魔王ロールをしてたとかドン引きクマー』

 

 デンドロのサービス開始と同時に始めた先行組と呼ばれるシュウの先導で、魔術師ギルドで手続きを果たし漸く【魔術師】に就いたモモンガ。これで名実ともに魔法使いになったが、レベルは依然として1だしスキルもまだ戦闘向けの物は修得していない。

 ユグドラシルのサービス末期ではソロプレイしていたが、それはスキルや職業構成が完成されていたからこそできたことだ。まだ初心者と言っても過言ではないこの状況では自殺しに行くようなものだ。

 

『それなら暫く俺とパーティ組むか?俺のエンブリオはもう孵化してるんだが、スキルが金喰い虫だからソロでやってるとなかなか装備買う資金が溜まらないんだクマ。前衛は俺がやるから、後衛を頼めるか?』

 

「それは構わないが、言っちゃなんだが始めたばかりの俺を信用して大丈夫か?パーティ組んでても後ろからPKするかもしれないんだぞ?」

 

『ほんの少しの付き合いだけど、モモンガがそんな奴じゃないって分かったからな。仮に俺の事をPKしようとしてもレベル差で余裕で返り討ちにできるクマ』

 

「…なら、お言葉に甘えようかな」

 

 若干物騒なことを言うシュウだが、デンドロのサービス開始と同時に始めたシュウと今日始めたモモンガではレベル差もそうだがシステムの理解度、スキル構成などで先を行く。モモンガの事など圧倒出来て当然だろう。

 もっともモモンガは自分と一緒にパーティを組んでくれると言ってくれたシュウに感謝こそすれ敵意を抱くことなどない。チョロいとか言われるかもしれないが、今まで孤独だったモモンガにとってシュウの言葉はとてもありがたく、温かいものだったのだ。

 

『じゃあ初っ端だけど中級者向けの狩場に行こうか?』

 

「いいのか?まだプレイヤースキルはからっきしだから、完全に寄生プレイになっちまうかもだが?」

 

『初めてのオンラインゲームじゃないんだろ?自分の動き方とかは何となく分かってるならそれで充分クマ。それなら中級者向けの狩場なら自分の仕事を早く覚えられるクマ。俺が前衛でしっかり守ってやるから安心するクマー』

 

「じゃあその狩場に行こうか。暫くは使い物にならんかもしれんが、そこは許してくれ」

 

『よ~し、出発クマー』

 

 中級者向けの狩場に行くことになった二人は、早速シュウの案内で狩場に向かった。余談だが、二人が去った後その場にいたティアンやマスター達は怪しい二人組に対して様々な憶測をしていた。犯罪者、貴い身分、実はマスターの振りをするティアン、等々。

 全て的外れなのだが、実際にはリアルの有名人がそのままの姿をしているのと異形の姿をしているためなのだが、今は誰もそのことを知らない。

 

 


 

 

―――王都アルテア郊外 【魔術師】モモンガ―――

 

 

『今だクマ!』

 

「任せろ!『穿て必中の矢』!<魔法の矢(マジックアロー)>!!」

 

『PUGOOOO!!!』

 

 王都から少し離れた狩場では怪しい熊と怪しい仮面がパーティを組んでレベル上げに勤しんでいた。ゴリゴリの前衛職のシュウと経験豊富の後衛職のモモンガの組み合わせは上手く嵌り、効率よくモンスター狩りが出来た。

 狩りをして二時間ほどだが、シュウの手伝いもありモモンガはレベルを着実に上げていた。ドロップアイテムもなかなか豊富で、流石は中級者向けといったところだろう。

 

『ふいー、少し休憩しようぜ。流石に武器無しの狩りは辛いクマー』

 

「なら早く装備買えるだけの資金を貯めなきゃな。チュートリアルで選んだ武器はどうしたんだ?」

 

『んなもんとっくの昔にぶっ壊れたクマ。エンブリオのスキルのせいでなかなか金が溜まらんから仕方なく素手で戦ってるクマ』

 

 二人は見晴らしの良い場所で休憩しながら戦利品の整理をしていた。モモンガはメニュー画面を開いてレベルやステータスを確認し、着実に上がったレベルや入手したスキルを見て喜んでいた。

 暫く二人でのんびりしていると、シュウはリアルで少し用事が出来たと言ってログアウトしてしまった。

 

「普通だと『尿意』や『着信』みたいにリアルで起こった事が通知されるのか、なかなか便利だな。俺の場合はそういう事が無いから、時々わざとログアウトする必要があるな。ログアウト先がどこか分からんが…」

 

 シュウから貸してもらったデンドロ先行組の有志が作った攻略本を読みながら、今後の職業やスキル構成を考えていると、後ろから気配を感じた。シュウが返ってきたのかと思いそちらを見ると、そこにいたのは武器を振り上げる敵の姿があった。

 

「んなっ!?」

 

 咄嗟に飛び出すように逃げるが、今の職業は魔術師でMP補正のステータスなのでAGIはそれほど高くないし、リアルを追求したこのゲームでは現実世界と同様の運動神経がベースとなるので、運動不足のモモンガは無様な動きしか出来ないのだ。

 それでもギリギリ躱すことは出来たが、咄嗟の事で追撃してくるマスターに対して成す術も無くゴロゴロと無様に転がって避ける事しかできなかった。

 

「クハハ、何だその無様な姿は!?やっぱ始めたてのマスターはいい的だな!!しかしお前、初心者のくせに中級者向けの狩場に来るとは生意気だな」

 

「クソッ、PKか…」

 

「その通り!!さっきまで見てたがお前魔術師だろ?前衛もいない状況じゃ恰好のエサだな。大人しくPKされてくれやぁ!!」

 

「チィッ!!」

 

 敵マスターは<剣士(ソードマン)>等の前衛職に就いているのか、その鋭い攻撃を躱す事は容易ではなかった。しかしモモンガは辛うじて躱している。それを何度か繰り返しているうちに気付いたが、この敵マスターはモモンガの様に初めて間もないマスターをいたぶって楽しんでいる。わざとギリギリ躱せる範囲に攻撃して、逃げ惑う姿を見て優越感に浸り、そして最後にトドメを刺すのだろう。

 モモンガはその姿を、かつてユグドラシルを始めたばかりの頃に遭ったPKプレイヤーと重ねる。そして感じるのは焦燥でも恐怖でもない、ただ純粋な怒りだけが身の内でフツフツと湧き上がるのだ。

 

「何でこんな事するんだよ…こんな事して楽しいのかよ!?」

 

「楽しいねぇ!!こんなリアルと遜色無い感覚がある世界で、殺人を合法的に犯せるんだからな!!それだけじゃなくて経験値やアイテムなんかも貰えるっていうんだから、こんなボロイ商売無いだろうな!!」

 

 徐々にモモンガの身体を捉える攻撃が増えてきてHPも削れていく。しかし敵マスターはあることに気が付いた。致命傷は与えていないとはいえ、モモンガにはそれなりに攻撃を加えており、実際着ているローブはボロボロになっている。それなのに一向に出血する気配がないのだ。

 

「何だてめぇ、ローブの下に鎧でも着込んでるのか?初心者のくせにそんな物も買えたのか?余計に生意気な奴だな」

 

「やめろぉっ!!」

 

 敵マスターが一向に血を流さないモモンガを訝しがり無理矢理ローブを剥いだ。そして晒されるのは骨格の身体、一見するとモンスターのスケルトンのモモンガを見た敵マスターは、思わず後ずさりしてモモンガから距離を取った。

 

「キモッ!!何だお前、マスターだろ!?モンスターみたいな姿しやがって!!モンスターロールとか意味わかんねぇ、何かしでかす前に俺が駆除してやるよ!」

 

「がッ…!!!」

 

「ちっ、しぶといな。さっさと死ねよ、異形種が」

 

 モモンガの姿を嘲笑い、敵マスターは武器を大きく振りかぶり懇親の一撃をモモンガにお見舞いした。大振りであったがために何とか杖で防ぐことが出来たが、あまりの威力に杖は真っ二つに折れモモンガは勢いを殺し切れずに吹き飛んだ。

 これで完全にモモンガは丸腰になり、吹き飛ばされた結果HPも1割を切った。絶望的なこの状況で思い出すのは、過去にPKに遭った時の出来事だ。

 

あの時は白銀の聖騎士が助けてくれ仲間に誘ってくれた

闘い方に憧れて悪魔と契約し彼を師事した

鳥人と話をするといつも下らない漫談で盛り上がった

女性に免疫がないことをピンクの肉棒がいつも弄ってきた

智将が立てた計画のおかげでギルドの規模が大きくなった

 

 これらは全て過去、今モモンガを助けてくれる者は誰もいない。

 

(ふざけるな…!!力さえあれば…!!今ここで、かつて得た力があれば!!こんな奴になんか!!!)

 

 刻一刻と死が近づいてくる最中、左手の<エンブリオ>が目につく。これには『無限の可能性が広がっている』とチェシャは言っていた。それならば…。

 

「無限の可能性なら…今ここで発揮しろ…!!今も、過去も未来をも覆せられる力を…今ここで!!!!」

 

 瞬間、左手の<エンブリオ>が輝き出す。目も眩むようなその光の激流に敵マスターは思わず仰け反ってしまう。光の中心点では卵型だった<エンブリオ>が無くなり、モモンガの手に残ったのは怪しく揺らめく黒い紋章が刻まれる。

 モモンガは光の激流の中に、自身が望んだ力を感じ取った。その正体が何なのかは分からない。それでも今は、その力の可能性に縋るしかない。光の激流が収まりかけた頃、モモンガはそれを掴み取った。

 

 




(●..●)<やっぱり引き伸ばすんだな…俺の活躍ー!!

(◕(エ)◕)<演出は大事…と言いたいけど、切りいい所がちょうどこの辺りなのよねクマー

(◕(エ)◕)<次回、モモンガのエンブリオが明らかに!?そして新たなる力が!?
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