オーバーロード in Infinite Dendrogram   作:(◕(エ)◕)クマネーサン

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第4話

―――??? アリス―――

 

 

「うふふ、こんなに上手く事が進むなんて、幸先がいいわね」

 

 管理AI1号アリスは自身のサーバーからモモンガの動向を観察していた。そこでモモンガに最近巷で問題になっているPKマスターが近付いていることに気付いた。

 ちょうどいいタイミングでモモンガが覚醒する機会を得て、急遽ハンプティダンプティに連絡を取りエンブリオに干渉するよう依頼した。それだけでも十分と思ったが、早く自分達が望む■■になってもらうべく、管理AI総出でもう一つ追加でプレゼントを贈った。

 

「彼、喜んでくれるかしら?過去を振り返らないみたいなことを言ってたけど、一番過去に囚われている歪で可哀想な子…。これからどんな物語を紡いでいくのか楽しみだわ…」

 

 アリスの視線の先では、今まさに殺されそうなところでモモンガが逆転の力をその身に宿すところだった。モモンガの手には、彼が心の奥から望んでいた力が具現化されていた。

 

「うふふ…干渉したとはいえ、やっぱりエンブリオはその人の深層意識から読み取られるものなのね…。さぁ鈴木悟君、存分にこの世界に混沌を齎しなさい」

 

 


 

 

―――アルター王国郊外 【魔術師】モモンガ―――

 

 

「なんだ…それ?エンブリオなのか…?」

 

「これは…ククッ、俺にとってこれ以上の皮肉は無いな…」

 

 モモンガが敵マスターに殺される寸前、左手のエンブリオが孵化を果たした。それは黄金に輝く魔杖、宝玉を喰らう七匹の蛇が絡み合うようにして構成されたそれは、恐怖を感じるほどに美しく、そして荘厳であった。

 

<エンブリオ>TYPE:アームズ【魔導杖 アインズ・ウール・ゴウン】

 

 これは嘗て、ユグドラシルで仲間と共に心血を注いで作り上げた結晶、ギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と遜色ない姿をしていた。これがモモンガに発現したエンブリオ。過去と断ち切るべくこの世界に飛び込んだにも関わらず、己の深層意識は過去に囚われている証明なのだろう。

 

「テメェ、まだエンブリオが覚醒してなかったのか。だが俺のエンブリオは第二形態、職業だって一つだがカンストさせてる!覚醒したばかりのエンブリオには負けねぇ!!」

 

 敵マスターのエンブリオ【積土成山 サイガワラ】のスキル<石積刑>は『攻撃回数分任意のステータスを0.25%上乗せ』という効果である。つまり攻撃を延々としているだけでステータス、今回はSTRを上げることが出来るのだ。ただし相手からの攻撃を受けたり一定時間内に攻撃しない場合、スキルは解除されステータスも元に戻ってしまう。

 そのスキルを用いてわざと弱い攻撃を繰り返し、最後に会心の一撃を繰り出すというのが敵マスターの必勝PK方法だ。予測のつかない攻撃を繰り出すモンスターや自分より上位のマスター相手では発揮しづらいが、格下のティアンやマスター相手には絶大な威力を誇る。

 しかし、攻撃することが出来ればの話である。先程エンブリオの孵化に伴う光の発生に驚いた敵マスターはモモンガから距離を取ってしまった。魔術師であるモモンガにとってそれは得意な距離であり、何より嘗て得た力の一端を取り戻したモモンガには通用しない。本来なら使えない魔法、しかし何故か使えるという確信があった。

 

「<心臓掌握(グラスプ・ハート)>」

 

「ゴっ…!?グェアァ…!?」

 

 モモンガが手の平で何かを握り潰す動作をした瞬間、敵マスターは胸を押さえ崩れるようにその場に倒れ込んでしまった。暫く痙攣していたが、すぐに動かなくなりその場から光の粒子となり消えていく。デスペナルティになったのだ。

 モモンガのエンブリオ【魔導杖 アインズ・ウール・ゴウン】の特性は『即死・死霊系魔法特化』。発現したスキルに<死を統べる者(ノーライフ・ロード)>の効果『即死魔法消費MP量を1/100に減量』がある。

 モモンガが今放った<心臓掌握>の本来の消費MP量は約5,000、現在ついている【魔術師】はMP補正が高い職業とはいえ、始めたばかりのモモンガでは到底賄えない。しかしスキルの恩恵で消費MP量は50にまで減らすことが出来るのだ。

 

「ユグドラシルと同じ魔法が使える…。チェシャが俺の記憶から読み取って実装させたのか?若しくは他にもいる管理AIの仕業か…」

 

 手に収まるエンブリオを見つめながら考えるモモンガ。このゲームの運営側にとって自分は特殊な存在なのは間違いないだろう。だからと言って過去にやっていたゲームシステムの再現など、自分に有利になるような贔屓を受ける理由が思いつかない。

 

『おーいモモンガ、ただいまクマー。リアルで家族から連絡来てて、なかなか抜け出せ…お前…モモンガだよな?』

 

「…シュウか…っと、この姿だと警戒されても仕方ないか…。あぁ、確かに俺はモモンガだ」

 

『お前その姿…まさか本当に…』

 

「…気味が悪いよな、やっぱり…。すまないな、色々教えてもらったのにろくな礼も出来ずに。俺はもう一人で…」

 

『魔王ロールやってたって本当なんだな!その時のアバターと同じ奴か?それなら確かに悪逆非道の魔王にしか見えないクマー』

 

「違うわ!!いや、昔やってたゲームのアバターを転用してるけど、魔王ではない!!って、この姿を見て何とも思わないのか…?」

 

『確かにビックリはしたが、お前がこの世界で求めた姿がそれなんだろ?なら俺にどうこう言う資格は無いな。楽しみ方は人それぞれだし、そのアバターにも意味があっての事なんだろ?』

 

「…フフフ、そんな事言ってくれるなんて、昔の友人みたいだ…」

 

 モモンガはかつてユグドラシル時代で出会った友人の事を思い出していた。彼らも自分と同じ異業種の姿をしていたからこそ通じ合う何かがあった。しかしこの世界ではすぐに理解してくれる友に出会うことが出来た。もっとも、その当人もある意味では人非ざる姿をしているのだが…。

 少し落ち着いてきたので、モモンガはシュウがログアウトしてから今までの出来事を話した。その時に発現したエンブリオと、使った魔法の話になった。

 

『即死魔法?そんなの実装されてるのか?当たれば確実に殺せるとかチート過ぎクマー』

 

「いや、前やっていたゲームだと100%成功することは稀だった。レベル差や自分の魔法攻撃力と相手の耐久値に差があると効かなかったり、効いても抵抗(レジスト)されて朦朧状態になる程度だったんだが…。さっきの奴ともレベル差があったから本当は効かない筈なんだが…デンドロではクリティカルヒットとかあるのか?」

 

『そんな話聞いたことないクマ。そもそも職業に就いたばかりで即死魔法みたいな強力な魔法使えるとかどういう事クマ?エンブリオの性能か?』

 

「そういえばまだちゃんと確認してなかったな。…うーん、見た感じMP消費量を減らす程度のスキルしか発現してないな。それ以外だとステータスに何かしらのタネが…ああぁぁぁ!!?」

 

『どっ、どうした!?』

 

「…になってる…」

 

『はぁ?』

 

「だから、いつの間にかメインジョブが超級職になってるんだよ!!!」

 

『な、何だってぇー!!?』

 

 慌てて二人でモモンガのステータス画面を確認する。

 

 

□□□

超越者(オーバーロード)】(死霊系統派生超級職)

あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)》:【超越者】奥義スキル

即死魔法に『対象に必ず死を与える』という効果を付与する

対象が人間でも、大地でも、気体でも、世界までにも死を与える

ただし、百時間に一度しか使用不可

不死者ノ王(チョーセン・オブ・アンデッド)》:アクティブスキル

□□□

 

 

『…何このぶっ壊れ性能…即死魔法が必ず決まるとか、チートにも程があるだろう…』

 

「始めたばっかりなのに即死魔法使えるのはこいつのせいか…」

 

 超級職の性能に唖然としているシュウだが、モモンガはスキル名がユグドラシル時代で自分と所縁のある名称であることに気が付いた。

 

(これはもう運営側で何かしらの干渉があったのは確実だな。これはいくらなんでも作為的過ぎだ。思惑が何なのか分からんが、俺に何を求めているんだ?)

 

「すまんなシュウ、俺も一度落ちさせて貰ってもいいか?ちょっと確認したいことが出来たんでな」

 

『おー、それなら俺も今日は落ちるクマ。また明日、噴水前で落ち合おうぜ』

 

 また明日会おう。その何気ない言葉をモモンガはかつて渇望していた。一人、また一人とギルメンがユグドラシルから去っていき、最後には誰も戻ってこなくなった。もう独りは嫌だ、誰か戻ってきてくれ、思い出の詰まったこの場所を残しておくから。

 結果的にはモモンガもユグドラシルには戻れなくなったが、独りぼっちだったあの頃の記憶は鮮明に残っている。だからこそ、シュウの何気ないこの一言がとてつもなく嬉しく感じるのだ。

 一足先にログアウトしたシュウを見送ったモモンガは、ログアウト先がどうなっているのか分からず不安になってきた。自分は通常のマスター達とは違う扱いになるのだから、最悪何もない真っ暗な空間になることもあり得るのだ。

 

「フーッ!さて、腹を括るか!」

 

 深い溜息を吐き、覚悟を決めステータス画面のログアウトボタンをタッチする。瞬間、視界が暗転した。

 

 


 

 

―――??? 鈴木悟―――

 

 

「ログアウトしたん…だよな?ここはもしかして…」

 

 悟がログアウトした先、そこはかつてリアルで居住していた部屋の次に見慣れた自分だけの部屋だった。

 ここはユグドラシル時代にギルド拠点としていた『ナザリック地下大墳墓』の第九階層、そこにあったギルメン各人に自室と遜色無い造りをしていたのだ。隣接するドレスルームには散乱する武器やアイテム、魔法詠唱者には使い道の無い全身鎧やガチャの外れ景品、果ては女性専用の装備品まで溢れている。

 

「何でこんなに再現することが出来るんだ?また俺の頭の中を覗かれたのか?ここまでくるとあまり気分は良くないな…」

 

 まさかとは思うが、誰にも知られたくない恥ずかしい記憶なども読まれているのかもしれない。魔法使い予備軍であったことなんかが知られたら、生きて行ける自信がない。

 

「まぁ仮に俺の正体を晒されても現実には存在しない人間だから構わないんだが…いや、骸骨で魔王ロールしてる奴が本当の魔法使いだったとか知られたら…」

 

 ふと、部屋の片隅にある無駄に豪奢な一度も使った事の無い書斎机を見てみると、そこには羊皮紙の様な質感の紙で書かれた手紙が置かれていた。手に取って見てみると、丁寧な文字で読む方を労わる気持ちで溢れていた。署名の欄にはチェシャの名前が書かれており、何かしらの連絡事項なのだろうと思った悟は手紙を読み進めていく。

 

 

――――――――――

 

やぁモモンガ君、いやこれを読んでいるなら悟君と呼ぶべきだね。

 

インフィニット・デンドログラムの世界はどうだったかな?ユグドラシルとは違う、それ以上の自由度を誇る世界は君を満足させることが出来ただろうか?

 

君が今いるこの空間は僕達管理用AIと同じサーバー上にあるけれど、双方の合意が無ければどちらからも干渉することの出来ない特別性の部屋だ。何か会った時は一度メールでやり取りをすることになるから少し面倒だけど覚えておいてくれ。

 

さて、君のこれからの処遇についての話をしようか。僕以外の管理用AIは満場一致で『ある一点にのみ干渉し、この世界の更なる発展を目指す。それ以外に関しては不干渉を貫く』という意見になった。無論、僕は最後まで君に対して完全な不干渉をするよう訴えたけど、このような形になってしまい申し訳ない。君に発現したエンブリオも、本来のステップを無視して超級職に就けたことも、それに関する干渉だと思ってくれ。

 

何故君に干渉するのか、不思議に思っているかもしてない。だけど僕の一存では君に説明することが出来ない。その時が来て初めて説明することが出来ると思う。それまでは申し訳ないけど追及してこないで欲しい。もし何かあった時、最悪君という存在を無かったことにするという手段を取るかもしれないからね。

 

それ以外の事柄に関しては不干渉を貫くと誓おう。その時が来るまで、インフィニット・デンドログラムの世界を謳歌してくれたまえ。勿論、僕はその時が来ない事を祈っているけどね。

 

それではまた会おう。   チェシャ

 

――――――――――

 

 

「…どの世界でも糞運営ってあるんだな…。チェシャみたいに知能の高いAIが苦労する運営とか、ブラック疑惑があるぞ。あいつ大丈夫か?」

 

 運営側の目的はよく分からないが、異世界人の自分を使って何かをしようとしていることは確実となった。しかし今は情報が少ないので深く考えることを諦め、その時が来るまで情報収集に徹することにした。

 とりあえず、ここにいて何もする事は無いのだが何かないかと部屋の中に時間をつぶせるものが無いかと探す。本棚には格好つけるために集めた無駄に小難しい本ばかりだったが、運よくユグドラシルの百科事典(エンサイクロペディア)が置かれているのを見つけた。

 この様子だと恐らく自分が発現するエンブリオのスキルなどもユグドラシル産のものになると思われるので、今のうちに確認しておくべきだと百科事典を開く。今までは繰り返しの作業だけだったが、明日からはまた未知と向き合う冒険をするのだ。そう思うだけで、悟の気分は盛り上がっていった。




(●..●)<俺のエンブリオ『アインズ・ウール・ゴウン』の特性等は機会があれば別の話で纏めるぞ

(◕(エ)◕)<今回はもう出ないと思う心臓潰された敵マスターについてちょこっと説明するクマー



マスター名:チョージュ・ハーフィル
モモンガを含めた新人マスターをカモに、チクチクと弱い攻撃で相手をいたぶり苦しむ様を楽しみながら、エンブリオのスキルでステータスを上げる方法でPKを繰り返していたマスター
リアルでは銀行員、趣味は積立貯金と以外と堅実な性格

エンブリオ:TYPE:ルール【積土成山 サイガワラ】
特性はステータス積上げで、ステータス画面で確認出来る数値や戦闘中の攻撃回数等でカウントされた数値を用いてステータスを底上げするスキルを使える

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