正面に多くの仮装した人物がいる。その姿は変化に富んでおり、老若男女に留まらず、異形の者や人型とは形容できない者まで含まれる。衣装も様々で、機械的な物から戦場には場違いな扇情的な物まである。
彼らに共通点はあまり見られない、ある一点を除いては。皆一様にこちらに敵意を向けている。
ああ。
思わず口の端が吊り上がるのを自覚する。あまりにも無知で愚かなその様に内から溢れる高揚を隠せない。こちらと敵対する理由は様々だろう。明らかに思想も価値観も違う者たちが一時的に休戦してこちらを標的として認定している。ある意味で正しい評価であり、ある意味で無知の極みだ。
互いにいがみ合っていては決してこちらに勝てないという判断は妥当ではある。
だが。
まともに連携も取れない者同士で、数だけ揃えれば勝てるなどと思われるとはあまりにも楽観的に過ぎる。その証拠にあちらは一種の膠着状態だ。こちらの様子を伺っているのもあるだろうが、同時に隣に居る、普段敵対している勢力を信じ切れていないのだ。真っ先に飛び出した矢先に後ろから撃たれる事でも警戒しているのだろう。
この期に及んで目の前の敵に注力できないとは……危機感が不足しているこいつらに歓迎のあいさつをしよう。目の覚めるような挨拶を。
「……<地母の晩餐>」
胸の前で腕を交差し、頭上に掲げて腕を広げるのと同時に内から湧き上がる破壊の波動を大地を通して開放する。空に向かって咆哮を放った瞬間、自分を中心に足元から放射状に巨大な地割れが広がり、広範囲に壊滅的な衝撃が噴出する。
こちらの動きを察知して先制攻撃すべく動いた少数の人物は最も破壊力の大きな衝撃派の中心部に自ら突入し自滅した。遠距離から超反応で攻撃した者は無効化された自らの攻撃を目撃することなく衝撃波に飲まれた。助かったのは後方に居て比較的被害の少なかった者達、全力で後方に回避した者達、そして<個性>によって防御を試みて尚且つ成功した少数の者達だ。
確かに最前線に居たのは血気盛んな割に経験の乏しい者が大半だった。だが、あいさつ程度でここまで数が減るのは想定外だ。少し失望したと言ってもいい。
若干の苛立ちを隠せず、腕を薙ぎ払うと視界に映るの全ての者が打撃音と共に吹き飛ばされた。この<全体攻撃>はあくまでこの戦場に立つにふさわしい実力者を選別するためのふるいだ。先程の攻撃で実力不足や経験不足の者までこの戦いに参加しているのは明白となった。弱者を庇う為に強者がやられては興覚めもいい所だ。実力が伴わない彼らには大人しく眠っていてもらおう。
数名が連携をしながら複数方向から同時に攻めてきている。しかしこの攻撃そのものは囮であり、本命は此方の隙を突くべく集中している者達だろう。
炎が
雷が
氷雪が
鉄塊が
銃弾が
斬撃が
蹴りが
拳が
有りと有らゆる攻撃が俺を襲う。そして残念な事にその一切が<マガタマ>の耐性により無効化される。結果的に隙をさらしたのは攻撃した彼らであり、それを逃すほどこちらも甘くはない。足元にMAGを集中すると紫電を纏い始める。そのまま横回転しながら飛び上がり、蹴りを放つと同時に無数の光芒が放たれる。
「<ジャベリンレイン>」
無残にも光芒に貫かれた者達の多くは傍目にも致命傷だ。運よく軽傷で済んだ者も無視していい。この<スキル>の副次的な効果は強力だ。発動型の<個性>を封じる。彼らは無力化されたも同然だ。
こちらの攻撃に合わせて機を伺っていた者たちが一斉に奥の手と思わしき攻撃を仕掛けてくる。<心眼>により真っ当なそれではない、理不尽な<権能>による手段だというのが感じ取れる。空間を削る攻撃、亜空間へと飛ばす攻撃、存在を抹消する攻撃、物質をエネルギーに変換する攻撃、総じて無効化ができないものだ。
勝利を確信した彼らの表情を冷めた目で捉える。彼らは見当違いの方向に攻撃しているのだ。戦闘が始まってから俺の動きの一挙手一投足に全力で集中していた彼らはこちらの術中にあっさりと嵌ってくれた。俺の足運びは<原色の舞踏>を発動させていた。この<スキル>は距離感や方向感覚を狂わせ、深く術中に嵌れば発狂し、狂人の如く振舞い始める。彼らは精神耐性が高くて軽傷で済んだようだが、自分の不調を自覚できなかったのが運の尽きだ。
連中のあまりの不甲斐なさに怒りや呆れ以上に興味の損失を感じる。これ以上彼らに時間を取られるのが煩わしくなってくる。
先程からうるさく囀る彼らの言葉にもうんざりしてきた。MAGを乗せ、言葉を発する。
「≪黙って跪け≫」
瞬間、周囲に沈黙が訪れる。皆一様に驚愕の表情を浮かべ震えている。ああ、しかし。こちらの威圧的な<会話>に屈するまいと懸命に膝を折らないように踏ん張る彼らに小さな慈悲の心が芽生える。これ以上辱めるのは酷か。<仲魔>を作るつもりがないのだから、本来<会話>をする意味も意義もあまりない。飽いた故のただの戯れだ。
この茶番を終わらせるべく、右手にMAGを集中させ、弓なりに後ろにのけぞる。力が臨界点まで高まった瞬間、大地を殴りつける。開放された純粋なエネルギーが紫電を放ちながら暴走するように俺を中心にドーム状に広がる。
「<メギドラオン>」
音が無くなり、周囲が白く染まる。あらゆる存在が消滅していく。どのような個性も、強靭な肉体も、小細工も圧倒的な暴力の前に消え失せる。
光が収まった時、中心部に居た俺以外何も残ってはいなかった。自分を中心に巨大なクレーターができており、人工物も人も生き物も、悉くが消滅した。
脆弱な人間が王に勝とうと驕るのは勝手だが、せめて勝機を見出してからにしてほしい。策を弄さず真正面から戦うなど愚者にも劣る無謀の極みだ。
クレーターから離れ、<メギドラオン>の余波で崩壊した建造物の瓦礫の上を進んでいく。ふと割れたガラスに反射した己の姿に意識を奪われる。赤い目をした混沌王が邪悪な笑みを浮かべてこちらを見つめている。
「いい子ぶってないで早くこっちに来いよ、弱いフリも疲れるだろ?」
・・・
・・
・
激しい動悸と共に跳ね起きる。またしても悪夢にうなされ夜中に起きてしまった。最近夢見が悪すぎる。そして夢の内容は全て似通っている。人修羅としての力を解放した俺が世界と敵対しているというものだ。
切っ掛けはほぼ確実に俺のレベルが20を超えたことだろう。人修羅の持つ潜在能力を扱えるようになってきたということは、より悪魔に近づいたということなのかもしれない。入試試験で感じた戦闘による高揚感は確実に今後も俺の精神を蝕むだろう、より強い形で。俺に埋め込まれた<マガタマ>は人修羅という悪魔を生み出す為の道具ではない。それはあくまで前提条件だ。この呪具を人間に埋め込む真の目的は悪魔の王、混沌王を生み出すことだ。
<マガタマ>が肉体面にのみ影響を与えるなど楽観的な考えをしていた訳ではないが、こうも連日似たような悪夢を見続けると、精神にも強く影響を受けていると考えた方がいい。それも、魂の器が成長すればするほど大きな影響を。
覚醒段階という概念が存在する。本来、稀ではあるが一般人が異能者に<覚醒>する可能性は一定存在し、異能者となった人間はその後戦いに身を投じて成長していく。そして覚醒した人物の魂の器が一つの限界を超えた時、<霊格>が上昇する。所謂魂の覚醒段階が変わり、能力が大きく上昇するするというものだ。
つまり、悪魔の存在を知らずに日常を送る<愚者>が何らかの切欠で秘められた自身の資質に気付き、<異能者>となり、成長し目覚めし者<覚醒者>となる。そして重要なのが、<覚醒者>となった人の霊格の成長段階が二つの可能性に分岐するということだ。純粋に人として成長していくか、自らの神性を自覚し神としての姿を取り戻すかの二択だ。
そう、後者の前世の神格を魂の器の成長と共に取り戻し、最終的には人が神に至る可能性。今の俺と非常に似通っているとは言えないだろうか。俺の前世は神などではなかったが、成長していくにつれて<混沌王>たる存在に引きずられていくのは想像に難しくない。
例えば戦神アレスの転生者が成長していけば、その勇猛な性格と戦闘能力を得るだろうが、同時にかの神の如く思慮が浅く粗野な面が顔を覗き始めるだろう。最終的に神に至るのだ。あらゆる面が影響されて然りだろう。
この悪魔人間のちゃんぽんのような世界で神格が人に与える影響なぞ調べるだけ無駄だろうが、俺だけは例外だ。明確に人修羅という悪魔の影響をモロに受けている。そして自身が成長していけば辿り着く先は<混沌王>以外にないだろう。強く精神を持ち続ければ影響を受けないなどと楽観視できるほど平和な頭をしていない。
俺の成長には明確なリスクがある。幼い頃より好戦的になっている自覚がある。この影響がレベル30を超えた時どうなるか想像もつかない。
強くなる以外に生き残る術はなく、強くなるにつれて人から外れていく。悲劇のヒーローにありがちな設定だが、当事者になると笑えない。メノラーを持っている事が更にストレスを大きくしてくる。
それでも。
死ぬ訳にはいかない。いくつある分からない世界滅亡案件を取り除きつくすまでは……
話が一ミリも進んでいない、いつもの人修羅君の考察でした。
こいついつも考察してるな。