人修羅、7才学生です。
アホか。初めて自分の名前を認識したときは愕然としたわ。当時自分の親は所謂キラキラネームをつけるようなゆるふわ価値観なのかと絶望したものだ。
しかし、保育園に行き始めると、俺の予想は大きく覆された。そう、かつての俺が過ごしていたであろう日本とここは似て非なる世界なのだ。
俺の周りには火之矢やら剛拳姫やら、ロックでアナーキーな名前だらけだった。そしてこの世界では異能を持つことが当たり前であり、どうもそれぞれの名前はその姿や能力と密接な関係にある事が分かってきた。
もっと言えば世界はMAGで覆われており、いつ低級悪魔が現れても可笑しくない環境にも関わらず、そういった話は聞いたことがない。つまり、この世界では悪魔の替わりに人がMAGに強い影響を受けており、異界化しても可笑しくないほどの濃密なMAGはそのまま人に〈悪魔〉としての側面も与えたようだ。
更に踏み込むなら、この世界の人は〈名〉に存在を縛られると言うことだ。
火の異能を発現させる者は火に関連した名を、肉体強化の異能を発現する者はそれに関連した名を付けられる、といった具合だ。もちろん名が先か、そのような異能ゆえ、相応しい名を自然と与えられるのかまでは分からないが。
そして驚いたことに、悪魔の姿をした異形の人間が多数存在しており、それらが(表面上とは言え)社会的に受け入れられているのだ。これらは通常の異能者と比べ肉体的に優れており、より強く悪魔としての側面を感じる。悪魔と人間が〈悪魔合体〉した〈悪魔人〉が近いだろうか?
思考が逸れてしまったが、何が言いたいかと言うと、遺憾なことに俺の名は必然だったということになる。
ああ、クソだ。名字もふざけている。何だ、阿久間って。まんま悪魔じゃないか。悪魔人修羅、コンゴトモヨロシクってか?
俺の両親は二人とも変化型の異能、いや、この世界に合わせて言うなら<個性>か、を持っている。
真・女神転生IIIでは主人公の友人でありながら最終的に敵対してしまう新田勇と橘千晶……に似た二人だ。
阿久間夫妻は容姿もゲームの二人に似ており、個性を発動するとゲーム中の神と一体化する前の段階の姿となる。
つまり、父勇は全身に蠢く白い顔が現れ、それぞれに意思があるかのごとく声のようなものを発する個性。キモイが特別な能力は特に無い。そして母千晶はより人から逸脱している姿となる。髪は白くなり、右腕は不定のモノと成り、時に鋭い剣のような姿をとれるようになり、首から口元にかけてマスクのような黒い布のようなものに覆われる。
そんな二人だからこそ、俺の人修羅としての姿を受け入れてくれたのだろう。俺の見た目だが、全身に黒の直線のような文様がタトゥーのように広がっており、それらを深緑の線が縁取っている。この緑の線は暗闇だと発光する性質を持っており、更に俺の感情に呼応するように光を強める。寝るとき邪魔でしょうがない。いや、その程度で寝れないほど柔な精神はしていないが、気分的に暗闇で寝たいものなのだ。
更に俺の首の後ろには棘のような黒い突起が存在する。赤子の時は小さく、更に軟骨のように柔らかかったらしいが、成長するにつれて硬くなり、原作の人修羅のように一目で分かりやすい大きさまで成長した。
さて、話は変わるが、俺が認識したこの世界についての情報を整理しよう。
まず、異界化してもおかしくない程度には世界にMAGが満ちており、世界には悪魔の変わりに人が異能<個性>を発現し、適応している。人々は無意識に空気中のMAGを吸収しており、適性のあるものは魂の器<レベル>を拡張していくようだ。
また、特異な才能を持つものは、手段は分からないが、強大なMAGを保有している。俺が調べた限り、この世界で最大の<レベル>を持つ存在は<オールマイト>というヒーローだ。
ああ、そうだ、ヒーロー。この世界で俺が直面したもう一つのギャップだ。この世界ではヒーローとヴィランが当たり前のように存在し、日々アメリカンコミックの如く争い合っている。恐ろしい事に社会的にこれらは常識として受け入れられており、<プロヒーロー>なる冗談のような制度まで存在する。
話を戻すが、そのヒーローたちの中でも一線を画す伝説の存在が居る。それこそが<オールマイト>、ナンバーワンヒーローにして完全無欠の大英雄だ。彼の膨大なMAGをテレビ越しに見たときは冗談抜きに腰を抜かした程だ。少なく見積もっても五十レベルオーバー。女神転生シリーズで言うところの終盤の敵の強さである。バグにも程がある。世界終末案件を疑ったほどだ。
実際の所、彼は真っ当にヴィランを無数に倒す事でレベリングしていたと俺は予想している。元々強かったという話も聞くが、それではあの膨大なMAGの説明が付かない。何らかの儀式によるイレギュラーだろうか?何れにせよ、彼が唯一の例外だと考えるのは楽観視が過ぎるというものだ。確実にオールマイトに匹敵するバケモノが世界には複数存在すると認識したほうがいいだろう。欝だ。
俺は地道に周囲のMAGを吸収し続けている。目下の目標は<アナライズ>の習得だ。習得は四レベル、最序盤のスキルにして、生き残る上で最重要といっていいスキルの一つだ。相手の能力や相性を調べる事は真・女神転生において必須事項であり、怠れば高レベルプレイヤーであっても即ゲームオーバーとなるのは珍しくない。
俺は現在<突撃>を習得し、三レベル相当まで強くなった。この<突撃>、ゲームではHP,所謂生命力を消費して発動する技であるにも関わらず、威力が低く微妙な性能であった。しかし、実際に使ってみた所、体力を大幅に消耗する代わりに、軽く空中に浮き爆発的な突進力で前方に移動する技であった。初めて使ったときは盛大に転んだのは言うまでもない。かすり傷で済んだのは非常に運が良かったのはもちろんの事、レベルアップによる身体能力の上昇も決して無関係ではないだろう。
嬉しい誤算としては、この<突進>空中でも発動可能であり、受身さえ怠らなければ非常に有用な回避兼逃亡手段になるうると言う事実だ。間違っても当分は正面から誰かと戦う気はない。俺は自分を知っている。三レベルの人修羅は雑魚であり、更に俺の身体は7歳児相当の体格だ。精神は一般人の俺だし、楽観視する要素はどこにも無い。
さて、そんな〈スキル〉を習得し、確実に人間の範疇から外れつつある俺も、この世界では〈個性〉を持つただの子供だ。ではこの世界で個人の〈個性〉はどのように判別されるのか?何と病院で診断されると言うのだ。
五歳辺りで例に漏れず、病院へ行き専門の医者に診断された俺の結果は個性<悪魔>。悪魔っぽいことができる個性だそうだ。ファジーだな、おい!そのうち契約できたり火を吐いたりできるんじゃないですかねえとか適当言っていた医者はヤブなのか有能なのか判断が付かない。
ああ、ヴィランをシバキ倒して楽にMAGを手に入れたい。しかし、この方法は明らかにルシファーが意図的に作った罠だ。真・女神転生に共通して存在するものに<属性>、または<アライメント>と言われるものがある。これは主人公の行動を元にシナリオが<カオス>、<ニュートラル>、そして<ロウ>ルートに分かれると言うものだ。<カオス>は基本弱肉強食を是とする思想、<ロウ>は秩序による統治とそれに従わない者を排除する思想、そしてどちらでもない或いはそのどちらの要素も併せ持つ思想である<ニュートラル>の三つの道。
プロヒーローにならずにヴィランを退治するヴィジランテと言う道は明らかに秩序から外れた行いである。<カオス>ルートはヴィランになる事が条件だと思うので、ヴィジランテは恐らく<ニュートラル>ルートの条件なのだろう。しかし、俺が恐れている<混沌王>へと至る条件がゲームでは世界のルールから逸れ、全ての敵を倒していくと言うものであり、これは<ヴィラン>、<ヴィジランテ>両方に共通するものだ。
ルシファーに見初められた者が一般人として生きていけるはずが無い。俺は確実に面倒事に巻き込まれるだろう。ならば敵を倒しつつも秩序から逸脱しない選択肢は一つしかない。
俺は、プロヒーローになる!
・・・
・・
・
「ふふふ、聞いた?人修羅ったら将来ヒーローになるんだってさ」
「ははは、初めてオールマイトをテレビで見た時、衝撃のあまり固まってたからなぁ。
やっぱり時代はヒーローなのかねえ」
部屋で寝ようとしていると、一階のリビングから両親の話し声が聞こえる。成長するにつれて悪魔としての能力が五感の強化という形でも現れ始めている。
「あの子も男の子なんだよ。思うところあったんじゃない、幼いながらにさ」
「頭いいもんなあ修羅坊。そこは千晶に似て本当に良かったよ」
「どういう意味よ、それ。性格は似なくて良かったって言いたいわけ?」
「千晶、ストップ、ストップ!こんな所で個性使わないでくれ!」
今日も両親は仲が良くて何よりだ。五感の精度も少しずつコントロールできるようになってきているし、このように意図せず聞きたくも無いものや見たくも無いものを見ることも減っていくだろう。両親が子供に隠れてすることなどに興味はないし、精神的にも疲れるので早く完璧に使いこなしたいものだ。
話は変わるが、学校で少し浮いていた俺に、最近は仲のいい子が出来たのだ。
彼女の名は八百万百、所謂お嬢様だ。実は母千晶の実家はそれなりの家であり、彼女自身もお嬢様だったりする。つまり、俺も良い所の坊ちゃんであり、通っている学校も金持ちのお子さんが多い所なのだ。
関係ないが父勇は婿養子だったりする。阿久間って母さんの苗字かよぉ!納得だよ!
まあ、兎も角、人修羅で転生者の俺にも漸く友人と呼べる存在が出来たのだ。異性なのは気になる所だが、女子と男子でグループ派閥が別れるまでは猶予があるはず。それまでに男子の友人も作ればいいのだ。
彼女は年齢のわりに聡明ではあるが、世間知らずの箱入り娘でもある。好奇心旺盛で無邪気なため、比較的無口で大人しい俺相手でもグイグイ来てくれる。
そこは非常にありがたいのだが、名前と個性は厄ネタの香りが僅かに漂っている。日本人にとって八百万と言えば当然八百万の神がまず思い浮かぶだろう。神道の神全般を指す言葉が苗字に入っている。名前もそれを補強している。そして、個性は創造系であり、目立った制限が無い。恐ろしい権能だ。神は数あれど、万能の創造能力を持つものなど、上位にしか存在しない。即ち、原初の神や主神、天地の創造神である。
彼女はそのような上位悪魔の権能を個性として持っているのだ。彼女との接触の影にルシファーが見え隠れする。
だが、それに振り回されて友好関係を諦めたり、選び直すのは何か違う気がする。切欠がどうであれ、俺は彼女の事を好ましい人物だと認識したし、彼女の友情には誠実に答えたいと思っている。これには小学生の女児の純粋な気持ちを踏みにじりたくないと言う俺の良心も多分に含まれている。
そもそも俺はこれまで見た目が怖く、無口なのもあり、あまり友好関係と言うものを築けていなかったのだ。
以前、笑顔で話しかける事を心がけてみたら、泣かれた事もある。鏡で確認したところ、邪悪でニヒルな笑みを浮かべた幼い人修羅がそこに映っていた。幼い時にこんなのに話しかけられたら俺でも泣く。
そんな訳で、希少な友人枠をこんな理由で失いたくは無い。彼女を通じて他の子達とも仲良くなれる可能性も多分にある。色んな事柄について質問しまくる八百万に答えていくという形ではあるが、いい感じに仲良く出来ていると思う。そう、俺の未来は明るいのだ。
ふふふ、友達もできたし、秩序の道を志す俺が混沌王へ至るなどありえないな!
勝ったなガハハ、風呂入ってくる!
幼馴染枠はダイスで決定した訳ですが、男の親友枠が外れてヤオモモになるのは予想外。
千晶がお嬢様設定じゃなかったら絡ませるのに大分苦労していた……