人修羅のヒーローアカデミア   作:ストラディバリウス

3 / 13
英雄願望

 小学校、中学校と過ごして来た訳だが、結論から言うと八百万以外の親しい友人を作る事は叶わなかった。いや、努力はしたのだ。実際、声をかければ周りの人たちは対応してくれるし、業務連絡なら相手側から話しかけてくれる事もある。しかし、終ぞ彼らとは友人と呼べるような間柄には成れなかった。

 

 原因は分かっている。一つは俺のコミュニケーション能力の不足だ。女神転生の主人公達の例に漏れず、俺も割かし無口な傾向にある。閣下が俺を選んだ基準がこれなら泣けてくるが、兎に角この風貌、保有MAGの上昇による威圧感の増加、そして無愛想が合わさり、自分から関わりたくない人へと俺を進化させた。いや、実際は確実に退化なのだが。

 

 もう一つの要因は何を隠そう、俺の唯一の友人である八百万百の存在だ。彼女はフレンドリーで、世間知らずではあるが、基本的に人との関わりに飢えている印象を受ける。お嬢様として育てられているであろうことは想像に難しくなく、俺と会話している時意外は基本、模範的なお嬢様の態度を貫いている。

 

 家の方針に従っているのは確実なのだが、俺が相手だと幼少のやり取りを引っ張っているのか、素の自分が出てしまうようだ。当然、周りの人は面白くない。何故なら彼女はこの数年で美しく成長したからだ。

 

 俺は彼女の成長を微笑ましく見守っているし、知り合いの娘さんが大きくなった時のように感慨深く感じているのだが、周囲からしたら皆の憧れの令嬢に一人だけ特別扱いされる馬の骨となるわけだ。いや、俺も坊ちゃんには代わらないが、周りからすればうちは祖父の代で会社が大きくなっただけの歴史の無い成金だ。

 

 流石に露骨な虐めは発生しなかったが、そんな俺に態々接触しようと言う奇特な人は現れることは無かった。

 

 ああ、俺の相棒枠はどこだ。女神転生やペルソナでは居るものだろう?まさか八百万が人修羅の相棒、<ピクシー>枠だとでも言うのではあるまいな。彼女を閣下の計画に巻き込むのは断固反対だ。彼女はこのまま純粋さを失わず、順調にお嬢様として生きていき、俺との思い出は時間と共に色あせて行って、最終的に素敵な男性と結婚するのがお似合いだ。闘争など持っての外だ。

 

 さて、俺は生まれてからずっと来るべき戦いに備え、鍛え続けてきた。そして<混沌王>へと至る道を必死に排除しようと躍起になってきた。では、俺は何故ここまで<混沌王>を禁忌するのか。それは人修羅が<混沌王>へと至る過程で人間性とも呼べるものをそぎ落としていくからだ。戦いに次ぐ戦いの果てに人修羅の心は完全に悪魔と成り果て、その圧倒的能力とカリスマで悪魔の軍勢を率いてメシアの神に最終決戦を挑みに行くというのが真・女神転生IIIにおける<混沌王>の結末である。所謂アマラエンドとも呼ばれる結末だ。

 

 俺は自分の心を失うつもりも、悪魔の軍勢を率いるつもりも、ましてやメシアの神に喧嘩を売るつもりも毛頭ない。故に<混沌王>に至るような可能性がある行動は極力避けてきたし、今後も避けていく所存だ。

 

 ここで問題になるのが俺の運命だ。恐らく闘争は避けて通れないだろう。当然、この闘争を生き残るためには力が要る。力を得るためにはMAGが必要であり、その為には他者から奪い取るのが手っ取り早い。しかし、その行いの結果、<混沌王>ルートが不可避になると言う事実が立ちはだかる。では、どうするか。

 俺とて、この数年をただ無為に時間を過ごしていたわけではない。身に付けたスキルをより効率的に扱う訓練をしている時に気付いたのだ。自分の保有MAGが日常の吸収量を明らかに上回っている事を。

検証を重ねた結果、自分が見落としていた要素が判明した。悪魔は情報生命体であるため、強くなる方法が限られており、MAGを多く吸収するか、ゲームで登場する邪法<悪魔合体>以外ではほぼ成長できない。

 

 では人間はどうだ。そう、人間は悪魔と違い、肉の体を持っている。つまり、保有MAGの容量を上昇させるために肉体を鍛錬する事も有効なのだ。俺は自分が人修羅になったことで<悪魔>のような情報生命体になったと思い込んでいた。しかし、よく考えてみれば肉体を持つ両親から普通に生まれたのだ。<マガタマ>を身体に宿しているとは言え、肉の身体を持っているのだ。

 その結論に達してからは言うまでもないだろう。俺はストイックに訓練を始めた。小学生当時の周囲の反応がこれだ。

 

「おお、修羅坊がヒーロー熱に!熱血してるなあ。無理の無いようになー」

 

「ふふ、人修羅ったらあんなに真剣に何かに打ち込むのなんて初めてじゃない?

 ちょっと心配だったけど、安心したわ」

 

「お兄様、最近すぐに帰られてしまいますが、何かあったのですか?

 まあ、ヒーローになる訓練を始めた?まあ!私もお手伝いできる事があれば何でも言って下さいね」

 

 ちなみに、八百万のお兄様呼びは今も更正できていない。いや、確かに俺の方が誕生日は先だが、彼女の中では俺は色々疑問に答えてくれる知り合いのお兄さん枠にでも納まってしまったのだろう。多分だが。明らかにこれも俺が孤立している原因だ。

 

 

 そして訓練を続ける事九年。中学最後の年である現在、俺の保有MAGはついに二十レベル相当になった。使えるスキルも回復、攻撃、補助と一通り使えるようになり、<アナライズ>は習得したその瞬間から今に至るまでほぼ常時発動状態だ。知らない人物が居た場合、ほぼ無意識に<アナライズ>を行っている。攻撃スキルの要は<ファイアブレス>と<アイスブレス>だ。どちらも制圧力に優れた範囲攻撃であり、<火炎高揚>と<氷結高揚>のパッシブ効果で威力が増している。が、弱点が無いわけではない。

 

 人修羅の序盤のスキル全般に言えることだが、精密性にかけるのだ。物理攻撃の<暴れまくり>は上記の二つのブレス同様味方を巻き込みかねないし、周囲に暴風を発生させる<竜巻>や範囲に熱風の衝撃波を放つ<ヒートウェイブ>も同じだ。多対一に優れている反面、味方との連携がし辛く、一対一で使用する場合、隙が大きいため使い所を考えなければならない。いかにも悪魔としての力に振り回されている序盤の人修羅らしいスキルのラインナップだ。

 補助スキルでは<タルンダ>による敵の攻撃力の低下と<スクンダ>による敏捷性の低下が非常に大きい。これらのスキルは重ねがけも可能で、強敵であっても弱体化すれば取れる選択肢は大きく異なってくる。使い辛いスキルとしては<挑発>が挙げられる。敵を怒らせ、攻撃力を上昇させる代わりに防御力を低下させると言うもの。使い所を考えないと逆に追い詰められそうだ。

 

 一番嬉しいスキル筆頭は回復スキルの<ディア>、そして次点が敵から逃走する場合、素早さを上げてくれる<逃走加速>のスキルだ。<ディア>は部位欠損レベルの傷は治せないが、切り傷や打撲程度なら瞬時に癒してくれる。どちらも生存率を大幅に上げてくれる、切り札的な能力だ。

 これでも木っ端のヴィランには引けをとらない自信があるし、プロヒーローの名門<雄英高校>の狭き門も突破できると確信している。

 だが、あまりにも静かだ。不気味なほどにトラブルらしいトラブルはこの九年間発生しなかった。これで俺の心配事が全て杞憂だったと思うのはあまりにも平和ボケ的思考だ。女神転生シリーズ及びペルソナシリーズの主人公達が事件に巻き込まれる年齢は大体高校生の時なのだ。むしろここからが本番。そう思うと手が震えてくる。これが武者震いだと言えればどれほど良かったか。

 

 恐らく、俺はこの高校で未曾有の危機に遭遇する。そしてそれは世界を巻き込みかねない規模になるだろう。傍観者に徹し、他人に解決して貰うスタンスを取ろうものなら、犠牲が多数発生するか、或いはそもそもそんなスタンス事態が不可能かであろう事が予測できる。どこまでが閣下の演出で、どこまでが俺の運命なのかは知らないが、確信に近い予感がある。

 俺の<人修羅>としての人生の本番はこれから始まるのだと。

 

・・・

・・

 

 やってきました、雄英高校。〈オールマイト〉の出身校にして最も競争率の高いヒーロー育成高校だ。

でかいな、無駄に。大学でも、もう少し控えめだと思う。金をかけている事もそうだが、この世界の<ヒーロー>の社会的信用度及びヒエラルキーが視覚化されている気がする。

 

さて、雄英高校へ入学する条件は筆記及び実技試験で合格すること。非常に分かりやすくて個人的にはいいと思う。

 周囲を見回すと、俺のように学園の大きさに圧倒されている者も居れば、まっすぐ試験会場へと吸い込まれていく者もいる。中には友達同士で受験しに来たのか、お喋りに興じている者まで居る。まあ、試験までの時間はまだ余裕があるのだから、まったく問題は無いのだが。

 

 ここで漫画とかなら八百万辺りとばったり出合って、「何でここに!?」なんて展開になるんだろうが、幸いな事に、そんな事は起きなかった。彼女はしっかりお嬢様的幸せルートを歩んでくれているようで何よりだ。

 

「ケロ……あら?そこのあなた、受験生よね?受験票が落ちていたけれど、あなたのかしら?」

 

 後ろを振り向くと、どんぐり眼の可愛らしい少女が立っていた。どことなく人間とは違う要素を感じるが、俺ほど悪魔側に容姿の影響を感じない。違和感は立ち方や仕草のせいだろうか?

 

「……すまない、俺の受験票だ。どうやらポケットから落ちていたようだ」

 

「いいのよ、気にしないで。同じ学校に入学するかもしれないんだから、仲良くしましょ?」

 

 <マガタマ>に収納していた受験票を実体化する際、どうやら落としてしまったらしい。普段は空中に出現したものを手に取るため、ポケットの中に実体化する時に不手際をしていたらしい。実は<マガタマ>はある程度の質量の物体を収納できる、所謂アイテムボックス的機能も持っている。日常で違和感をもたれない範囲でそれとなく使ってきたが、こんな失敗をするのは初めてだ。いや、手が震えているのが直接的な原因なのは分かっているのだが。

 

「君も受験生か。助かった、感謝する。

 そして……そうだな、また会ったら仲良くして欲しい」

 

「ふふふ、任されたわ。じゃあ、またね、ケロ」

 

 なんていい子なんだ。善意で俺に話しかけてきただけでなく、仲良くしようだなんて……八百万以来じゃないか?彼女が受かる事を祈るような事はしないが、うまく行って欲しいとは思う。本来、彼女のような精神の持ち主こそが<ヒーロー>の称号に相応しいのだから。

 

 「……俺も行くか」

 

 そろそろいい時間になったので、俺も試験会場へと進む事にした。この一歩が俺と世界の運命にとって決定的なものになるのは避けようが無いが、せめて小さな望みを託そう、その先に救いがあるようにと。

 

 「ここが……俺のヒーローアカデミアだ」

 

 

 

 

 




三話目にしてやっと原作突入。
危うく「原作:僕のヒーローアカデミア」が詐欺になるところだった。
主人公の脳内に限れば100%女神転生ではあるので、原作:真・女神転生IIIに変更する事も本来は間違いではない……のか?

後これは蛇足てすが、この主人公自身はよっぽどでなければ恋愛などするつもりがありません。自分を待つ未来を考えればそんな事してる暇もないし、他人を残酷な運命に巻き込むつもりもないからです。
悲しいね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。