人修羅のヒーローアカデミア   作:ストラディバリウス

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思った以上の反響に驚いております。
そして皆様の作品への評価、応援やコメント、感謝します。








実戦と実践

実技試験の説明が行われる場所は大学の教室を思い起こさせた。受験生達がゾロゾロとそれぞれの受験番号が記された席へと捌けていく。自分の受験番号を確認したところ、結構後ろの席が記されていた。 この場所は高い位置から周囲を見渡せる為、都合がいい。

 

 片っ端から〈アナライズ〉を行っていく。先程遭遇した少女も目に入るが、彼女の解析はすでに終えている。受験生の弱点を把握したところでバトルロイヤルをさせられるとは思えないので、意味はないかもしれないが、情報はあって困ることはない……と思いたい。

 この<アナライズ>で得られる情報だが、相手の保有MAGを基に推定レベルを割り出し、属性耐性や弱点を看破し、<名>を暴く。ゲームではあまり意味の無かった最後の効果だが、個性と名前が密接なこの世界では大きなアドバンテージとなる。先ほどの少女の名前も<蛙吹梅雨>であると判明している。何と読むかは分からないが、蛙の文字から察するに彼女はカエルの妖怪か神の権能を<個性>として持っていると推測できる。或いは雨や水に関する<個性>か。

まあ、〈個性〉そのものが判明する訳ではないので、得られる情報を過信できない訳だが、連携の助けくらいにはなってくれると信じている。俺が他人と連携が取れるかはこの際考慮しないものとする。

 

 周囲の受験生達の<アナライズ>情報を吟味していると、非常に煩いファンキーな見た目の男性が教室に入ってきた。周りの反応を見るに、どうやら彼はプロヒーローであり、この高校の教師のようだ。情報を提供してくれたオタクっぽい少年に感謝。件の少年の<魂の器>と彼の保有MAG量がチグハグなのが気になったが、試験の説明が始まってしまった為、そちらに集中する事にする。

 

 このファンキー教師が「Yeahhh!」等と叫んでいたが、周りは冷え冷えの反応しか返していない。そして俺はそもそもこう言ったノリは付いていけないタイプだ。残念そうに「ノリが悪い」とか言われても、その何だ、困る。

 肝心の実技試験の説明だが、内容は至ってシンプル。用意された市外を模した会場に居る仮想ヴィランであるロボットを倒し、ポイントを競うそうだ。所謂、力なき正義は何とやらと言う事だろう。ヴィランに負けているようではヒーローなど勤まらないとも言う。ここで実力を示せなかったヒーロー志望の人達は別の形で人を助ける道を見付けてくれる事を切に願う。まあ、俺は負けないがな、ふふふ。

 

 ああ、分かりやすい暴力が課題で本当に良かった。しかも内容が個人の能力を測るものだ。俺のために拵えられたのかと疑ってしまう程だ。これが防衛や護衛、又は連携を中心とした内容の試験であった場合、苦戦は免れなかっただろう。人修羅の力は<守る>事に向いていない。当然だ。混沌王へと至る器である人修羅の力は周りを屈服させる為のものだ。暴力に限らず、圧倒的なカリスマ性、抗い辛い言葉の魔力、正に王の力だ。つまり、人修羅は守るのではなく、本来仲魔に守られる側の存在なのだ。

 

 今の俺の実力はゲームで言う所の序盤が終わる頃相当であり、人修羅が自らの力に慣れ始めた辺りだと推測する。つまり、力任せの戦い方から抜け出そうとしている段階だ。この試験のように周りがライバルである場合、同じターゲットを狙えば、攻撃時に他の受験生を巻き込む可能性が高い。

 手加減や精密攻撃を行うのならせめて単体攻撃の<破魔の雷光>……いや、自身の技量を大きく向上させる<心眼>や<会心>のスキルが欲しい所だ。しかし無いものを強請っても仕様がない。自分が鍛えた技と人修羅の持つ身体能力を信じよう。何せ実力に自信はあるが、これは俺にとって初の実戦なのだから。

 

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 実際の試験会場に来てみると、俺含め全員その規模に驚愕していた。小さな街一つ再現しているのではないだろうか?何らかの個性を利用してはいるのだろうが、どれほどの予算が割かれたのか想像も付かない。雄英高校の本気度が窺い知れる。次の世代の育成に余念が無いと言う事か?心なしか何かを急いているような気がする、まったくの勘だが、俺を待つ碌でも無い運命を思えば、どんな厄ネタが潜んでいるのか分かったものではない。早急に次の世代を育成する必要が生じている可能性も……?

 いや、今考えるべきことではない。試験の開始は目前だ。自己鍛錬と瞑想による戦闘のシミュレーションしか行ってこなかった俺が実際の所、どれほど戦えるのか確認するいい機会でもある。俺の妄想上での実力は果たして、実践された場合どこまで通用のか、自分に証明する時が来た。

 

 周りは浮き足立っている。多くの受験生を出し抜き、早めに市街地の奥に配備されたロボットに辿り着ければ、乱戦の危険性はグッと減る。

 人修羅の優れた五感で開始の合図を待っていると、唐突に「ハイッ、スタァァーットッ!」とファンキーなDJヒーローの宣言が会場に響いた。何の前置きも無く行われた開始の合図に唖然とする他の受験生と尻目に路地裏へと飛び出す。大通りを爆走して目立つつもりは無い。下手に目を付けられても面倒にしかならないし、目的である単独行動に支障が出かねない。

 

 俺にとっての<敵>に近付く程に、<マガタマ>の反応が強くなっていく。ゲームで言う所のエネミー・アピアランスインジケーターが赤くなっていく状態だろうか。体感的に敵がどこに居るのか分かるのは非常に便利だ。更に成長した五感を意図的に鋭くし、敵の居るポイントを割り出していく。戦いの時が近い。ああ、とうとう俺は闘争の世界に片足を踏み込むのだ。

 

 居た。数三。<アナライズ>……種族マシン。五レベル相当が二体、十レベル相当が一体。物理・氷結耐性、雷弱点。

 気分が高揚する。思えば、産まれてこの方、自己鍛錬を除いて本気を出した記憶が無い。初めて自分の限界を試す事ができる。レベル的には格下であっても、あっさり死ぬのが女神転生だ。油断をするつもり等、微塵も無い。思考が戦闘用に切り替わって行くのを感じる。

 

 必要な情報のみが最適化され、思考を加速させる。

 

 まだ敵の索敵能力の射程外。奇襲は可能。敵の大きさを考慮すると、一回の行動で巻き込めるのは最大で二体。数を減らす事を最優先事項に設定する。敵の耐性から逆算、最善手は<ファイアブレス>による目眩ましを兼ねた先制攻撃か、錯乱を兼ねた<竜巻>による強襲。

 視覚・熱感知以外のセンサー類が装備されている場合目眩まし効果が期待できないため、後者で攻撃を決定。

 

 口が大きく釣り上がるのを自覚する。ああ……闘争の始まりだ。

 

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 全身を支配していた熱は何時の間にか引いていた。自分を今支配している感情は失望。そう、失望だ。初めて全力が出せると喜び勇んで、全てを出し切るつもりでぶつかったが、蓋を開けてみれば最初の奇襲で二体が沈黙してしまい、続いてこちらを認識した十レベルが攻撃後の隙を付いて反撃を行って来ると思いきや、「ターゲット発見」等と暢気な反応を返してくる始末。

 

 怒りに支配されそうな感情を抑え、油断無く確実に相手の破壊を遂行する。<突撃>で敵の背後に回り込み、<スクンダ>を二回発動。敵マシンの反応が目に見えて鈍くなるのを確認し、反撃を許さぬ立ち回りで<ファイアブレス>を放った。<火炎高揚>によって強化され、物理的圧力を伴った業火の吐息を防ぐ手段がある筈も無く、仮想ヴィランは融解しながら崩れ去った。

 

 何だコレは。いや、理屈では分かる。そう、受験生は皆先ほどまで中学生だった者達だ。子供相手に大人気ない相手をぶつけても試験に等なりはしない。それでも感情は納得してくれない。

 初めてだったんだ。産まれて、ずっと未来に怯えて。ただ、ただ己を苛め抜くように鍛えて。生き残れるように、自分と言う人格を、心を失わないように頑張って。そしてやっと自分の努力の成果が見られると思ったのだ。どこまで出来るようになったのか測れるかと思ったのだ。ああ、見当違いの考えだった。

 

 俺は<人修羅>なのだ。木っ端悪魔の権能を持つ他の受験生向けに作られた試験内容で何を計ろうと言うのか。言いようの無い虚しさが心に去来する。嫌な<特別>だ。他の皆が必死に戦っている中、俺は全力を出さず、悠々と試験を受けるのだろう。そこに達成感などあろう筈も無い。

 

 ゲームでは、人修羅はシステム的な理由で所持できるスキルに限りがあった。故に不要なスキルと残すスキルの取捨選択が必要だった。だが、俺は違う。この<マガタマ>はMAGに応じて俺に悪魔の力を与えてくれる。新たな力を得るために嘗て得た力を失う必要性は何処にも無い。俺は覚えられる全てのスキルを所持し続ける人修羅なのだ。

 そして二十レベル。たったの二十レベルだ。人修羅が本来持つ潜在能力の、ほんの片鱗程度だ。

 その一欠片でコレ。俺が想定していた以上の力。暴力。鉄の塊が吹き飛び、融解するなど、誰が想像出来ようか。来るべき運命に備えて俺は何処まで強くなればいい?強くなったとして、生き残れたとして、そこには人間としての俺の居場所はあるのだろうか?

 

 

 

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 当初のモチベーションはもう何処にも無い。他の生徒の邪魔にならないよう、必要最低限のロボットを索敵しては適当に屠っている。油断しようにも、実力差に開きがありすぎる。行動させない、攻撃させない、自分が有利になるように立ち回る。当たり前の行動、普段心がけている事をするだけで敵が崩れる。

 態と攻撃を受ける、苦戦を演出する、等と言うのは他の受験生にも、そしてこの試験そのものへの侮辱行為だ。そんな行いは俺自身の矜持に反する。

 余裕ではある。しかし手を抜くつもりも無い。しかし虚しさは募るばかりだ。

 

 周囲に感覚を伸ばす。試験開始から結構時間が過ぎている筈だ。試験も佳境に入る。ならば何らかの追加演出が入ってもおかしくは無い。そう思った瞬間、大きな揺れを感じた。地震の振動ではない。ならば他の受験生の個性か、学園側の仕業。そして先程俺の見た限り、<地震>に関連のありそうな名前の受験者は居なかったはずだ。となると……

 

 

「うわあああぁぁぁああ!?」

 

「で、でかすぎる!逃げろ!!」

 

 

 優れた聴力が他の受験生達の悲鳴を捉える。結構離れた位置で何かが出現したようだ。ああ、そう言えばあのファンキー・イエー・ヒーローが言っていたか。ポイントにならないお邪魔虫的なロボットが出現すると。仮想ヴィランとしては正しいな。雄英側は絶対に倒せない敵が現れた時、受験生がどのような立ち回りをするのかモニターするのだろう。常に敵が自分より弱い等、現実ではありえないからな。

 

 ……どうするか。悲鳴を聞く限り、逃げ遅れた者や怪我をした者も居そうだ。今人と関わる気になれないのが正直な感想だ。

そもそも俺が集めたポイントは合格ラインに届いているかは微妙なところだ。実は以前居た場所からは大分離れた位置に居る。他の受験生がポイントの独占を行う為には街の奥が狙い目だと気付いたらしく、そのうちの一人が爆音と共に近づいて来た。 接触を避ける事に気を割いてると、ロボット達からどんどん遠ざかってしまったのだ。

 

本来なら騒ぎを無視して次の敵を探すのだろうが……こんなテンションで試験を続けるのが辛くなってきた。無理矢理にでも気分を変えなくては、俺の査定に悪影響を出しかねない(在るのなら、だが)。

そうだ。俺は<ディア>を覚えた時から密かに憧れていた行いを実行できるチャンスに気付いた。

 そう、それはMMORPG黎明期で生まれた善意の行いでありながら、無遠慮で無配慮な行為。現実ではそうそう行えない類のもの。その名も「辻ヒール」。辻斬りの如く、見知らぬ赤の他人に勝手にヒールを行い、傷を癒しながら何も言わずに立ち去るクールでアホな行いだ。

 

 受験生同士で助け合ってはいけないと言うルールは無いわけだし、怪我人をそのままにするのも気が引ける。人とあまり話せていない俺でも出来そうな救助活動だし、やってみるか。いや、やろう。ああ、自分を騙せてる気がしない。でもやる。

 

 低下していたモチベーションが少し回復するのを自覚しつつ、俺は騒ぎの中心地へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ああ、やっと本格的に本編開始ですね。
現状、人修羅が無双してモテモテになってハッピーエンドする姿を微塵も想像できない件。

でも彼が混沌王になれば?
王の力で無双して、(悪魔の軍勢に)モテモテになって、(閣下にとって)ハッピーエンドになる!
皆もレッツ混沌王。

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