人修羅のヒーローアカデミア   作:ストラディバリウス

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前話は色々描写が不足気味だったので、少しずつ修正中。

今話は閑話なので短めです。






閑話 傲慢と矛盾

 薄暗い空間。時間が意味を成さないここは何処でもない舞台裏。赤い幕は未だ開けられる気配を見せず、観客は入場すらしていない。

 そんな奇妙な場で、子供と老婆が何も無い空間を見つめていた。

 

「坊ちゃま、何故<彼>を選ばれたのですか?」

 

「不思議かい?器じゃないと、そう言いたそうだね。」

 

 金髪の少年は分かっていると言わんばかりに老婆に言葉を返した。

 

「アレは矛盾の塊だ。しかも、あれ程傲慢で不遜な魂はそうそう見掛けはしない。当初は行き詰っていた混沌王への道が開くのなら、ああ言った変り種が良いかと選んだのだが……今ではその選択は正しかったと思っている。」

 

「傲慢?彼がですか?」

 

 少年の言葉に老婆は共感を示せない。今話題に上がっている人物、<彼>は人修羅である自らの実力に関しても、結構謙虚な姿勢を取っていると彼女は記憶していた。

 

「謙虚?彼がかい?冗談じゃない。

 君も知っているだろう。僕はこれでもアマラ宇宙の無数の可能性を見てきた。幾多の人修羅達の運命と結末を見守ってきた。介入する時もあれば、傍観者に徹する時もあった。しかし、しかしだ。ただの一度も混沌王に至る者は現れなかった。」

 

「はい、存じております」

 

 

 そう、そもそもの話、今回は戯れに近い試みであった筈だ。混沌王誕生の前提条件である<東京受胎>が起きていない世界に居る<人修羅>に何の価値があると言うのか。

 

「彼は常にこう思っているんだ。「絶対混沌王に成らない」とね。ねえ、それって言い換えればさ。<自分は混沌王に成りうる器だ>と確信しているって事じゃないのかな?」

 

「そ、それは……」

 

 老婆は言葉に言い淀む。老婆も数多の人修羅の終わり、死を見てきた。その無数の死の運命の先に混沌王が存在すると言うのなら、可能性がゼロではないだけで、それは実質到達し得ない存在だ。そう思える程度には、あまりにも過酷な道だった。

 それを、東京受胎すら起こっていない世界で、悪魔との交戦経験すらなく、自己鍛錬しかした事のない木っ端存在が「自分は王の器だ」等と嘯くのなら。

 

「高慢で不遜……その通りでございますね。」

 

「そう、無自覚かもしれないけど、彼は条件さえ揃えば自分が混沌王へと至ると確信している。ピアノの上に猫を乗せると、踏まれた鍵盤が偶然モーツァルトの曲に<確実>になると言っている様なものだ。条件を揃えれば至ってくれるのなら、僕は苦労等しない」

 

 少年はその整った顔立ちを僅かに歪め、どこか疲れた表情を見せる。

 

「しかし、ああ。だからこそ面白い。彼は非常に人間らしい。人間らしく傲慢であり、矛盾している。思考と行動がこんなにもチグハグなのも珍しい。」

 

 その表情は愛おしい何かを見詰める様で、しかし獲物をいたぶって楽しんでいる様にも見える。

 

「友人が欲しいと言うくせに、クラスメートに話しかけない。無口だから?まさか。心の底では分かっているからだ。人修羅の言葉にはMAGが宿る。本来悪魔を勧誘できるんだ。人間相手ならば誑し込むなど造作もない。」

 

 少年は嬉しそうに、目を輝かせながら語る。その語調に少しずつ熱が入り始める。

 

「相棒が欲しいと言うくせに、唯一の友人は遠ざけようとする。いや、それ所か、心中では今後起こるであろう全ての運命に一人で立ち向かう心算だ。ああ、何と言う傲慢の極みだろう!」

 

 それでこそ人間だとでも言わんばかりだ。

 

「彼は本質的に他者を必要としない。していない。だから目標を完遂する上で、<贅肉>になりそうなものは削ぎ落としている。巻き込まない為に。関わらせない為に。」

 

 その言葉はまたしても老婆に衝撃を与えた。

 

「彼と家族の仲は良好だったと記憶しておりますが……もちろん唯一の友人の少女とも。」

 

 他者を必要としない程情の無い人物には見えなかったが、あれは表面上のものなのだろうか。

 

「ああ、勘違いしているようだね。必要である事と他者に情を持つ事はイコールではない。

 人は<必要>だから人生のパートナーを作るのか?友人は?必要だから世話を焼くのか?

 そうではない筈だ。必要性と愛情はキッチリと分かれた概念だ。」

 

 少年の言葉に僅かに沈黙し、思考する。そう、その通りだ。必要とは不可欠を意味する。もちろん友人や恋人を<必要>だと言う人は多く居るだろうが、重要なのはそこではない。

 

「そう、世の中には居るんだ。情が無いわけでないけれど、一人で完結している人間が。前世では社会と言う枷に縛られて広い人間関係を築いていたみたいだけど、幸か不幸か、ここでの彼は<人修羅>だ。」

 

「……生きる為に社会に守られる必要が無い。」

 

 

 邪悪な笑みが少年から零れる。

 

 

「無自覚、全ては無自覚故だ。彼は人間関係を希薄にするのが自分の目的に沿っていると思っている。ふ、ふふふ。

 今までの人修羅達は全て何らかの形で他者を頼っていた。仲魔、恩師、嘗ての友人達。僕も彼と同じように確信している。新しい可能性が生まれようとしていると。より傲慢な、人間らしい魂の答え……

 彼は確実にこちらに向かって来ている。一歩、また一歩とね」

 

 

 幕は未だ上がらず、しかし役者達は傲慢な観客を待つ。至る筈の無い者が新しい可能性を示す事を期待して。

 

 

 

 

 





主人公の居ない所で閣下が好き放題言っているだけの話。
あくまで閣下視点の意見。
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