人修羅のヒーローアカデミア   作:ストラディバリウス

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矜持と誇り

 いいかい、修羅坊。お前さんは強い。他の子と競争でもしようものなら、ウサギと亀より酷い実力差が出ちまうだろうさ。で、お前さんは頭が良くて良い子だから、何も言われなくても運動会で見学に回ったり、手加減して走ったりしてる。

 ああ、そうだな。異形型だから全力が出せないのは「仕方ない」のかもな。でもさ、修羅坊。出てもいい競技でまで手加減するのは違うぜ?相手が可哀想なんてのは侮辱もいいところだ。

 競争相手を見下すな。例えお前より弱くても、格下でも、相手は誇りをかけてお前さんに勝負を挑んでいるんだ。

 修羅坊。人の誇りを侮辱しちゃいけない。忘れるなよ。お前さんは良い子だけど、人に気を使いすぎるからな。優しくするだけが気遣いじゃないんだ。

 

 

・・・

・・

 

 

 遠方で大きな振動が響く。超人的な聴力が四方からの悲鳴を捉える。

 しまった。お邪魔ロボットが一体などとは言われていなかったか。四方に展開しているらしく、距離的に試験終了までに全てを回ることは不可能だろう。他の場所の怪我人は……流石に学園の人間が救助するか。いや、そうでなければ不祥事として社会からバッシングの嵐だろう。

 素直に当初目的としていたポイントへ向かう。悲鳴だけではなく、無念の声も聞こえる。

 

 

「畜生、ちくしょおお……ここまで頑張ったのに、三年間この日の為に費やしたのに……」

 

「俺が馬鹿だった。何でアレに立ち向かおうとしたんだ……いてえよ、いてえ……」

 

 

 ……何が辻ヒールだ、クソ。少しだけ回復していたテンションが目に見えて下がっていく。彼らは遊びでやっているんじゃない。今人に関わりたくないから、適当に助ける?随分な物言いだ。ゲームならそれも良かったのかもしれない。あの声が聞こえたか?そうだ、皆誇りを賭けてこの試験に挑んでいる。俺はまた侮辱しようとしていた。また、同じ事を繰り返そうとしていたのだ。

 

 ダメだ、切り替えろ。こんなメンタルで現場に到着して何が出来る。悩むのは、後悔するのは終わった後でいい。

 

 アレか。結構な距離がある筈なのに、すでにその姿が見えている。巨大だ。ビルより大きいとは何事だ。<アナライズ>……種族マシン。推定二十四レベル。物理・氷結耐性、雷弱点。え、いや、二十四レベル!?

 敵のレベル、まさかの自分越え。三ポイントのロボットが十三レベルだったのに対して、零ポイントロボットが強すぎる。この強さならば、本当に倒される事を想定していないのだろう。

 

 強化された視力がロボットの足元の瓦礫に巻き込まれている受験生を数人捉える。接敵まで数秒。優先順位は救助か、危険地帯から脅威の排除か。救助活動を行っている他受験生多数確認……危険地帯から脅威の排除を最優先事項に設定。勝利条件、人が居ないポイントへの誘導。撃破の必要性は無し。

 

 意識が、思考回路が鋭敏化していく。他の事に回していたリソースを全てこの場の判断と戦闘に集中させる。

 

 体が熱を帯びる。安全に立ち回る事など考えない。あの巨体を動かすならば、多少のリスクは犯さなければならないだろう。これまでと違って、事前準備に時間をあまりかけられない。<挑発>による防御力弱体化と突進力に優れた<突撃>が最適解か。だが足元を先に攻撃してバランスを崩さなければ、あの質量をまともに動かせないだろう。

 

 あの大きさに通じる崩し技は現在<ヒートウェイブ>しかないが、威力が心許無い。先に<挑発>を使わなければ効果は薄いだろう。そうなると、先にこちらの存在を明かす事になるため、先制攻撃を確実に行えない。敵の攻撃力は<挑発>の影響で倍増し、反撃のリスクも相応に上がる。 自分よりレベルが高い敵を単独で倒せると考えない方がいい。そこまで自惚れていない。時間稼ぎに徹するのが望ましいが、正直に言うと<人修羅>の持つ序盤のスキル群は遅延行動に向かない。自分より強い敵に勝つ構成でもない。優秀だが、突出したものが無いのだ。

 

「他に手は無い……」

 

 受験生が危なくなったら、もしかしたら学校関係者が止めてくれるかもしれない。救助に来てくれるかもしれない。でも、そうならないかもしれない。

 

 受験生が可哀想だから介入するのか。それが正しいから介入するのか。見捨てられないから介入するのか。何故助ける?同情か?正義故か?博愛か?

 否。

 

 父さん。俺はまた人の誇りを侮辱しそうになった。でも、ギリギリで踏み止めた。

 そうだ、真剣に勝負を挑む者には敬意を示さなければならない。相手が例え敗北者であろうと、それは変わらない。俺は自分の矜持を見失っていた。

 アレを止めるのは他の受験生のためじゃない。俺の矜持を守るためだ。一人で落ち込んで、父から学んだ事を忘れるような失態は拭わなければならない。正面から向き合って。

 

 

 目立つように叫びながら走り出す。確実に注目をされる為、派手に周囲を<暴れまくり>で破壊しながら移動する。巨大エネミーは程なくしてこちらに気付き、脅威だと認識したのか、向きを変えてくれた。好機。

 接近し、叫ぶ。<挑発>は意味のある言葉でなくとも効果が発揮される。言葉の内容ではなく、声と共に相手に叩きつけられるMAGが逆上を誘い、防御を薄くするのだ。

 

 完全にターゲットにされたのを自覚する。相手は既に攻撃の予備動作を開始している。猶予は無い。すかさず右手にMAGで生成した光剣を実体化。そのまま相手の足元のキャタピラに熱風を伴う衝撃波、<ヒートウェイブ>を放つ……ほぼ不動。効果は想像以上に薄いか!?くそっ、物理耐性の上からだと<挑発>込みでも威力が足りなかったか!

 だが俺にバランスを崩す範囲攻撃は他にない。<竜巻>ではいくら威力があっても、範囲が小さすぎて話に成らない。<暴れまくり>は乱打技だ。一撃が弱い連続攻撃では尚更効果が期待できない。

 

 既に自家用車より大きな拳が迫っている。こちらは技を発動した反動による硬直がまだ解けていない。無理やり<マガタマ>の特性をいつもの<マロガレ>から<カムド>へと変更すると、その直後に全身が圧倒的な衝撃に見舞われる。正直痛みを感じる暇も無かった。吹き飛ばされたと気付いたのは、ビルにめり込んだ自分の身体を自覚した時だ。

 痛みは後からやってきた。痛くない箇所が無い。当然だ、<挑発>で二段階強化された、レベルが上の敵からの攻撃。しかも見た所、アレは物理特化型だ。生きているのが不思議なくらいだ。

 

 ギリギリだったが、<マガタマ>の特性を変えられて良かった。実戦では初めて使ったが、これの問題は再度特性を変えるまで数分待たなければならない所だ。普段使っている<マロガレ>は特に弱点も耐性も持たない汎用的なものだ。それに対して、今回変更した<カムド>の特性は<物理耐性>を得る代わりに<状態異常>にかかりやすくなると言うもの。

 

 女神転生視点で致命的な弱点なので使いたくは無かったが、今回は止むを得なかった。全身ボロボロだが、<ディア>で動けない事も無い。相手はすでにこちらを脅威と見做してない。狙うなら移動の瞬間だ。キャタピラであっても、周りには大量の瓦礫がある。重心が確実に崩れやすくなる。

 

 痛い。<ディア>。痛い。<ディア><ディア><ディア>。痛い。だが、身体は動く。スキルを使うリソースが尽きかけている。傷は多少癒えたが、体力も、魔力も一回分捻り出せるかと言った所だ。他の受験生を回復する所の話ではなくなったな。

 

 だが、まだだ。あの巨体を止めて、初めて俺は胸を張って他の受験生と顔を合わせられる。

 

 重心が傾いたな。こっちを向け、デカブツ……<挑発>。

 

「!!ターゲット確認」

 

 

 これで相手は攻撃力が最大まで強化された。もう逃げ場は無い。敵は不安定な足場からでも攻撃を繰り出そうとしている。ここしかない。嘗て、<反撃>のスキルを習得した時、どのようなものなのか今一分からなかった。ただ殴り返すだけのものとは思えなかったのだ。だが今なら理解できる。このスキルは相手の攻撃のタイミングを見切る補助をしてくれる。カウンターを狙えるように。

 

 今。相手の拳が頬の肉を裂いて行く。構わず残った最後の体力で<突撃>を発動する。巨体の重心の中心は下部。言い換えれば、最も崩しに適している攻撃箇所はそこからもっとも離れた位置…つまり上半身と繋がっている伸びきった腕だ。

 

 弾くでもなく、押し返すでもなく、俺がやったのは。伸びきったヤツの腕を更に勢いをつけて引っ張る事だ。つまり、先ほど掠っていった拳の指に、威力を逃さないよう<突撃>で全力で後ろに体当たりした。

 人間の様な関節のある腕を作った技術力はすごいが、裏返せば人体と同じ弱点が発生する言う事だ。伸びきった関節ほど壊しやすいものは無い。限界まで防御が弱体化しているなら尚の事だ。

 

 御邪魔虫ロボットは伸びきった腕に引っ張られ、倒れ込む。その衝撃で巨椀が関節毎破壊されるが、同時に俺も地面に叩きつけられる。いくら掠っただけとは言え、あの攻撃力だ。こちらももう動けないほど身体が傷ついている。

 最後の<ディア>を使う。焼け石に水感がすごいが、意識を保てるだけ御の字だ。つんのめって倒れているが、問題はアレがまだ活動するかだ。しかし<アナライズ>を見る限り、一時的に擬似的な麻痺に陥っているようだ。システム復旧までの猶予と言った所か。

 

 力を振り絞り、声を上げる。

 

「ガッ、カハッ……ゴ、コイツはまだ完全に沈黙してない!出来るだけ遠くに逃げておけ!」

 

 変な声が出てしまった。喉に血が溜まっていたらしい。恥ずかしい。

 いや、切り替えていこう。これからどうする?復旧までに俺が動けるようになるかは怪しい所だ。体力も魔力も底を尽きたし、傷も酷い事になっている。<ディア>で瞬時に癒えない所を見るに、内臓がやられている。骨折程度なら数回の<ディア>で完治するのだが、今回はビルに叩きつけられた時に無視できない傷を負ってしまった。

 

 確実合格とか余裕ぶっていた自分が滑稽で笑えてくる。だが、それ以上にいい気分だ。恐らく、特に制限無く一対一で戦ったのなら、多少の傷を負いはしても俺が確実にあのロボットに勝っていただろう。だが、今回の勝利は意味合いが違う。俺は<守る戦い>をしたんだ。人修羅の身で、それを成し遂げたのだ!

 

 

「……ヒーロー、ゲフッ、クククク」

 

 

 混沌王に成らない為とは言え、俺はヒーローを目指しているんだ。今日、俺はそれが実現可能だと自分に証明出来た。一度は人の努力や決意を侮辱しかけたが、俺は自分の心に決着を付ける事が出来た。

 そんな清清しい気持ちに浸っていると、自分に近付く気配が一人。

  

 

「き、君、大丈夫かい?うわ、怪我だらけじゃないか!ど、どうしよう。僕も個性を使いすぎてお腹が危険なのに……」

 

 何やらキラキラした顔の、ヒラヒラ服の少年だ。お腹を押さえながら青い顔でこちらを気にしている。いや、君の方こそ大丈夫そうではないぞ。

 

 

「結構体格いいから重そうだなあ……引きずる為に力を入れたら絶対に良くない事が起きてしまうね!」

 

 

 内股気味にウィンクを飛ばしてきた。どうすればいいんだ、これ。

 

 

「あ、他に救助していた人達の手が空いたみたい!おーい、こっちにも人が倒れているよー」

 

 あのヒラヒラがやたら目に付くせいで目立つな。お、気付いてくれたみたいだ。しかし、救助に向かった筈なのに、要救助者になるとは……皮肉が利いてるな。

 

 

 

 ……ああ、早く帰って父さんの手料理が食べたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




行動を開始した距離的に、教師陣視点では周りに怪我人が居るかの確認もせずに、いきなり巨大ロボットに喧嘩を売っているように見えたとか、見えてないとか。

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