人修羅のヒーローアカデミア   作:ストラディバリウス

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早速誤字報告を頂きました、ありがとうございます。
非常に助かります。



権能の範囲

 巨大なモニターを真剣に見つめる複数の瞳。名門雄英高校の教師陣は本日行われた入試試験の様子を見て、意見を交わしていた。

 

 

「しかし、まさかゼロポイントヴィランが破壊されるとはな。数年ぶりか?」

 

「そんなに経つのか……あれ?今年は二体破壊されたって聞いたけど、違った?」

 

「ああ、もう一体は一時的に行動不能になっただけのようだ。入学前の学生が成したにしては十分な戦果だがな。」

 

 

 今話題に上がっていたのは緑谷出久と言う受験生が成した偉業だ。敵の撃破によって得られるヴィランポイントは零点にも関わらず、試験最後に他の受験生を助けるために巨大ロボットを撃破すると言う勇気ある行動によって、隠れ評価ポイントである<救助活動ポイント>を大幅に獲得し、彼は見事合格を勝ち取った。

 

 

「忘れないうちに伝えておくけど。そのロボットを停止させた受験生、ポイント評価で意見が分かれたから、ここで再度話し合えって通達来てたぞ。」

 

「オッケーイ、で誰だっけ?ゼロポイントに攻撃した生徒自体は複数人居たYO。」

 

 

 全ての受験生を記憶出来る筈も無く、教師の一人が詳しい説明を求める。

 

 

「えーっと、資料、資料っと。名前は阿久間人修羅。<個性>は悪魔。悪魔っぽい事ができる……具体的には火を吹いたり、呪いをかけたり出来る、とあるな。」

 

「あら、悪魔と言ったら言葉巧みに契約を迫って魂を頂くものだと思っていたわ。それ、どちらかと言うと妖怪の方が近くない?」

 

「話の腰を折るな、それは最初に彼を診断した医者に言ってやれ。で、彼はヴィランポイントだけじゃ合格点に届いていなくて、最後のゼロポイントの停止が救助目的だったのかってのが議題に挙がっている。」

 

 

 情報を掲示すると、正面の巨大液晶に件の少年の映像が映し出される。

 

 

「最初の距離的に他の受験生を認識できるとは思えない訳だが、どうにも攻撃方法が怪我人を庇ってるようにしか見えなくてな。」

 

「攻撃前に他の受験生達のピンチに気付いたとか?」

 

「いや、ここを見てくれ一切行動に躊躇が無い。予想外な現場に出くわして路線を変更した風じゃない。」

 

「じゃあ、事前に察知したんじゃないか?」

 

「この<個性>でか?じゃあ、ここに書かれていない特性があると言う事だ。」

 

 

 流石にヒーロー育成の名門高校に<個性>の申請漏れは洒落にならない。教師が生徒の<個性>を把握していない場合、本人だけでなく、他の生徒も危険に晒される事になる。

 

 

「あ、待って。注釈でこの子の<個性>、発展途上の可能性ありって書かれてるわ。」

 

「なんだそりゃ。この年齢でか?珍しいな。」

 

 基本的に<個性>は発現してから数年である程度安定する。それ以降の成長は応用や威力の強化が中心となり、新たな特性が生まれるのは非常に稀だ。

 

 

「この叫びの後に光りの剣?みたいなのを作っているし、衝撃波も出しているし、特性の応用にしては多彩すぎるわ。」

 

「つまり、<個性>の初期診断結果の間違いだと?稀にあるとは聞くが……」

 

「少し待ってくれ。この<個性>、思ったより難儀かもしれないぞ。」

 

 

 後方で議論を見守っていた教師が意見を出す。

 

「俺の<個性>の関係上、若い頃は悪魔とかそう言った伝承とかを調べていた時期がある。そこ、茶化すな、話が進まない。

 で、だ。悪魔と一言に言っても、言い伝えの内容は様々だ。火を吹く者も居れば、空を飛ぶ者も、世界を滅ぼすようなやつだっている。どの悪魔を指しているのか分からないと、特性なんて把握できない。悪魔っぽい事と今回試験で好成績を残した<個性>蛙の少女の蛙っぽい事では訳が違うぞ。」

 

 

 皆この意見に納得したのか、彼の<個性>に関する資料に引っ張られずにその行動を見直す事に賛成する。

 

 

「受験生一人にあまり時間をあまりかけ過ぎたくないな。さっさと検証を進めよう。最初から彼の行動を地図と連動させて進めてみよう。何か分かるか?」

 

「開始直後から真っ直ぐに仮想ヴィランの所に行ったね。これは、何らかの探知系の特性を持っていると見ていいと思う。」

 

「で、初期の敵を撃破後、次のポイントに向かうかと思いきや、ウロウロしているな。」

 

「他のカメラと連動すると分かりやすい。周囲の受験生から離れようとしているんですよ。だから最終的にポイントが足りなくなった。」

 

「そりゃコイツの落ち度だ。がむしゃらに本気じゃないヤツは落としても問題ないんじゃないか?」

 

 

 教師の中の一人が、やろうと思えば自力で敵ポイントを合格ラインまで稼げた可能性が高いと知り、憤慨する。他の生徒は皆真剣に挑んでいるのだから、その怒りは正当だ。

 

 

「まあ分からなくはないけど、議論点はそこじゃないから抑えて。もしかすると他の生徒と会う事が大きなデメリットに成る特性を持っているかも知れない訳だし。」

 

「……戦闘が雑だな。自身の放っている技の制御に精一杯と言った印象を受ける。他の生徒が居ると戦い辛かったとかか?」

 

 

 隈が目立つ教師が戦闘場面を注意深く観察して発言する。確かに、少年から放たれる技は範囲を絞らず、ある程度ランダムな破壊を周囲に及ぼしている。

 

 

「うーん、さっきの緑谷君もそうだけど、この年で<個性>の制御が完全じゃないって珍しいわね。あっちは制御どころか暴走に近いかもだけど。」

 

「また話を飛ばすんじゃない。結論出すぞ。こいつは何らかの方法で他受験生の危機を事前に察知。救助のためゼロポイントヴィランへ吶喊し、彼らの脱出の時間を稼いだ。救助活動ポイントの対象だ。反対意見は?」

 

「ない。」

 

「ありません。」

 

「ないな。」

 

「そうなると順位は……」

 

「あ、その話、ちょっと待ってくれるかな。」

 

 

 まとめに入ろうとすると、待ったが入る。発言元はぬいぐるみと見紛う人型をしたネズミのような人物。彼こそ、この雄英高校の校長その人だ。

 

 

「恐らく病院か役所での更新のし忘れだと思うけど、<個性>の特性をしっかり記入できていないのは試験内容とは別にマイナス査定が入るから、順位は合格者としては最下位かな。」

 

「……分かりました。しかし、どうします。さっきまでA組、B組の枠共に全部埋まっていましたけど、阿久間が合格するとなると、どちらかの組の最下位だった人物を不合格にする事になりますが。」

 

 

 ランキングの変動より合格枠の変更の方が処理的には面倒くさい。今日中に終わらせるなら、このあたりはハッキリとさせたい。

 

 

「いや、それには及ばないよ。何、普通科からヒーロー科に転入もあれば、去年のようなイレギュラーで一クラス無くなることだってある。彼はA組に特別枠として組み込んでおいて。」

 

 

 常の校長らしくない言動。政治的能力が高い彼だが、それ故敵も多い。受験生一人を優遇するような措置は大きな隙となりえる。驚く教師陣に校長は静かに告げる。

 

「無自覚なら兎も角、普通なら自覚のある<個性>の新しい特性を記入漏れしている生徒なんて受け入れないよ。彼を合格にするのは、ある意味僕の我侭。だからそれで繰り下げの不合格者を出すのはフェアじゃない。」

 

 

 流石に皆顔を見合わせる。そもそも合格者の自覚のある<個性>関連の記入漏れなんて今回が初めてのケースなため、困惑も激しい。

 

 

「彼は危うい。ヒーローとしての素質も勿論感じるけど、同時にこちらから関わらなかったら、とんでもない事をしてしまいそうな危うさを感じる。僕が言うのもなんだけど、理屈抜きで彼を手放してはならない気がするのさ。頭痛を覚えるレベルでね。」

 

「校長の頭脳がそう訴えているのなら、否やはありません。あの制御で精一杯だった炎や衝撃波を見るに、私のクラスが適切と考えても?」

 

「うん、そうなるね。個性の制御に失敗した時に一手遅れるだけで惨事に繋がりかねない。君の個性が頼りさ。」

 

 

 話題は出尽くし最終的な結論も出たため、全員が退出の準備を始めると、教師の一人がふと疑問を口にした。

 

 

「あら?そうなるとA組は二十一人で奇数にならない?ペアが条件の授業、結構あったような……」

 

「ああ、それは大丈夫。僕ら教師にはそんな時に対応できる素晴らしい言葉があるから。」

 

 

 校長先生が自信満々に発言するが、一部教師は嫌な予感を覚える。そしてその実際、その予感は正しかったと証明される。

 

 

「ペアを作れなかった人は先生と組めばいいのさ。」

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 ああ、お腹も膨れて大満足だ。何と今晩は珍しく母さんも料理を作ってくれたのだ。母さんは気が向いた時に驚くほど凝った料理を作る。でも普段は絶対に作らない。そう言えば、作りたい物以外作りたくないって以前話していたな。

 もちろん、父さんの料理もいつもより豪勢だった。まるで入学祝のようだった。落ちてたら恥ずかしいけど、まあ、流石に吹っ切れた。ヒーローへの道は雄英だけじゃないし、結果はどうあれ、自分でもヒーローに成れると自信が付いたんだから、この試験は無駄にはならない。

 

 そして元気に夕飯を食べている事から想像できる様に、実技試験の怪我は完治している。雄英の保険医、リカバリーガールと言うおばあちゃんに治療してもらったのだ。まあ、回復に特化した<個性>なら軽く<ディア>の回復量くらい超えてくれないと困る。最初に運ばれた際、体力が無いと回復はできないと言われた為、数時間睡眠した後で治療をしてもらった。寝る事で傷は治らなくても、MAGが満ちてるこの世界なら体力も魔力も十分に回復する。自力で治療するため、強力な回復スキルである<ディアラマ>が欲しい所だが、三十七レベルでの習得と来れば、それを求めるのは現実的ではない。

 

 この数年、訓練だけでは中々レベルが上がらなくなってきた。当分二十レベルで頭打ちだと思っていたが、先日の死闘が大きな経験になったのか、俺の魂の器は成長し、俺のレベルも二十一となった。これは俺にとって非常に大きな意味を持つ。何故なら重大スキル<フォッグブレス>を習得したからだ。これは周囲に煙幕のような息を吐き付けるものだが、重要なのはその破格な効果だ。

 

 なんと、煙幕の範囲内の敵全ての命中と回避を大きく下げてくれるのだ。煙に含まれたMAGが相手の認識そのものを阻害するらしく、今後の生存率を大きく高めてくれる事は疑いようの無いスキルだ。あの巨大ロボット相手にこそ使いたかった技だが、すでに過ぎてしまった事を嘆いても仕様が無い。

 

 そう、今は暗い気持ちなんかに構っていられない。あの試験で精神的に成長できた気がするし、今日はご馳走で家族と楽しく過ごせたし。これは俺に流れが来ているのでは?

 ああ、クソみたいな経緯でこの世界に生れ落ちたけど、存外幸福になる方法はあるのかもしれない。<マガタマ>の力や<混沌王>の存在に気を取られすぎていたか?なんてな、ははは。

 ふふ、今日はいい夢が見れそうだ。

 おやすみなさい。

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 夢と現実の狭間。

 人に在らざる者よ。

 悪魔に在らざる者よ。

 今こそ、本当の目覚めの時が訪れた。

 

 

 

 うるさいな、どこの誰の声だ?寝たばかりなのに無茶を言う。

 周囲を見渡すと生物的な、臓器や生肉を思わせる壁に挟まれている。或いはこれは血管の中なのだろうか。後ろにも肉色の壁が立ちふさがる。正面には通路。基本的に壁は生物的で、常に脈打っている。壁のそこ彼処に幾何学模様が散りばめられており、赤い毛細血管のようなものが周囲に無数広がっている。あまりいい気分にはなれそうにない。

 嫌な夢だ。いや、最悪な夢だ……夢であってくれ。

 

 身体が勝手に通路を進む。暫く進むと、昔テレビで見たシロアリの蟻塚を思い出させる木の幹のようなオブジェが正面に鎮座している。近付くと、覗き穴のようなものを確認できる。奥から不思議な気配を感じる……

 

 やめろ。覗くな。それだけは、やめてくれ。

 

 

 思いとは裏腹に、身体は覗き穴に接近し、意識はまるでその中に吸い込まれるように暗転した。

 

 

 

 気付くと幕が垂れた舞台の正面に居た。観客は俺一人だ。身体は相変わらず自由に動かせない。

 真っ赤な垂れ幕がきいきいと音を立てて、上り始める。

 

 舞台の上には車椅子の老紳士とそれを後ろで支える喪服の淑女。

 

 

「……いらっしゃいましたか。宿命があなたをここへ誘ってくれると承知しておりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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