高まる焦燥感を押さえられず、私はただひたすらに走った。
「はぁ……はぁ……、このままじゃ…、間に合わないよぉ……。」
今日は、私が「冷泉学園」に転校して初めての登校……のはずが、盛大に寝坊するという大失態を犯し、遅刻してしまいそうだ。
「ちゃんと……目覚まし時計……セットしておけば……よかったぁ……。」
今更後悔してもどうにもならないことはわかっていたが、そう思わずに居られなかった。もっと速く走って学校へ向かおうとしたその瞬間。
「大丈夫か?」
「…え?」
不意に頭上から声が聞こえ、咄嗟に声の方へ顔を向けた。
何で俺は、こんな柄でもないことをしているんだ……。
そう思った時にはもう遅く、俺は考えるよりも先に体が動いていた。
放っておけなかった、というのが一番の理由だった。
何でそう思ったのかは分からない。ひょっとしたら俺は、相当なお節介なのかもしれない。
まぁ、今はそんなことはどうでもいい。
「君、うちの生徒だよな?このままだと間に合わないぞ。『エアリアル・スペル』は使えないのか?」
『エアリアル・スペル』
この世界に数多く存在する魔法のうち、風を操る魔法の総称としてそう呼ばれている。比較的簡単な魔法で、使える人も多い。
因みに俺も現在、魔法によって空を飛ぶことが出来ている。
「えっと……その……。」
喉から絞り出したように女子生徒が声を出すが、まだ状況を飲み込めていない様子だ。
「自己紹介がまだだったな。俺は流川湊、冷泉学園の2年生だ。君は?」
そこでようやく、彼女ははっと我に帰り、自己紹介を始めた。
「は、はいっ!私は、花宮遥といいます!今日から冷泉学園に転校することになりました。私も同じく2年生です。よろしくお願いします!」
ぺこりと可愛らしいお辞儀をひとつしながら彼女は自己紹介を終えた。
「こちらこそ、よろしく。ところで花宮さんは魔法、使えるの?」
彼女は少し得意気な顔になり、答えた。
「はい!私はこう見えても治癒魔法が得意なんです!それ以外は少し苦手ですけど…。」
なるほど、どうやら魔法が使えない訳ではないようだ。
「なら、エアリアル・スペルで空を飛ぶことは出来る?」
「いえ…、エアリアル・スペルは使えるんですが、コントロールすることは出来なくて…。」
「そうか、じゃあ…。」
俺は一拍置いて、
「俺がサポートするから、一緒に飛んで行こう。今から飛べば、まだ学校に間に合う。」
「で、でも…。」
躊躇う彼女に俺は手を差し伸べる。
「時間がない!早く!」
「は、はいっ!」
俺の腕にしっかりと掴まり、魔法の発動を確認し、俺は
「飛ばすからしっかり掴まってて!」
「えっ?……きゃあっ!」
制限速度ギリギリまで加速し、学校の方へ一直線に飛ぶ。風を受けて、花宮さんの桃色の髪が綺麗になびいている。
「花宮さん、目を開けてごらん!」
俺の腕に両手でしがみつき、ぎゅっと目を瞑っている花宮さんは
ぶんぶんと首を振り、
「無理ですぅ!怖いですぅ!」
泣きそうな声で叫んだ。
俺は少しだけスピードを落として
「大丈夫!怖いのはほんの一瞬だけだよ!」
「うぅ……。」
やがて花宮さんはゆっくりと目を開けた。
「あ……」
そこに広がる、鮮やかな蒼に染まった海と空は、花宮さんの初めての飛行を祝福しているようだった。
「綺麗…です。」
その景色に魅了された者が必ず口にする言葉を、花宮さんは言った。
「この景色は、飛んだ人にしか分からないんだ。俺も、初めて飛んだ時は怖かったし、緊張した。でも、一度飛ぶことの楽しさを知ってしまったら、止められなくなっちゃうんだ。」
「…私も、飛べるように、なれるでしょうか?」
昔、俺が同じようなことを考えたことがあった。俺でも飛べるようになるのか、そう思っていたときに言われた言葉を、そのまま花宮さんに伝える。
「なれるさ、花宮さんなら。」
本来、俺はこんな偉そうなことを言える立場ではない。なぜなら、俺は一度、飛ぶことを拒絶していたのだから。
「……流川さん。」
「ん?」
不意に呼ばれ、俺は花宮さんの方へ顔を向ける。
花宮さんは真剣な眼差しで俺を見て、
「私に、飛び方を教えて下さいっ!」
「…………へ?」
俺の間の抜けた声は、波の音と、周りを飛ぶウミネコの声ですぐに掻き消された。
頭の中でストーリーを考えながら作ってるので、雑な部分がとても多いです。キャラの名前も、適当に作ったので、ご了承下さい。これからキャラはもっと登場させる予定です。