では、22話どうぞ!
「それでは、始め!」
藤兄の声に重なり、勝負の始まりを告げるホイッスルが鳴った。
「はっ!」
すぐさま短い掛け声と共に氷魔法が展開され、俺に向かって氷の槍が迫る。
「(ここまで高度な魔法を無詠唱で展開させるとは、相当の手練れだな)」
通常、魔法の展開にはスペルの詠唱が必須なのだが、熟練者は詠唱をせず、体内の魔力を操ることのみで魔法を展開させることができる。
「っ!」
こちらも無詠唱で氷魔法を展開し、巨大な盾を作り出す。
次の瞬間、槍と盾が衝突し、それらが無数の氷塊となって飛び散る。
「ふっ!」
俺はすぐさま風魔法を使い、氷塊を前方へ強く押し出し、月夜さんの方へと一直線に向かっていく。
「くっ!」
すんでのところで氷を避け、そのまま空へと逃げる。俺は追いかけるように急上昇し、隙だらけの背中に回り込んだ。
「せあっ!」
獲物を襲う獅子のように、展開させた風魔法が月夜さんを捉える。
「うあぁっ!」
10メートル程吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し、距離を保ったまま、無数の氷弾を投射する。
しかし、どれも俺に的中することなく後ろへと過ぎていく。
「(あいつ、かなり焦ってるな。このままいけば、勝てる)」
俺は向かってくる氷を避け、反撃の準備をする。
そして、俺の手に魔力が集中したのを感じ、俺は突っ込んだ。
月夜さんは一瞬狼狽するが、すぐに大規模な炎魔法を展開させ、俺の目の前に燃え盛る火の玉が出現する。
誰もが月夜さんの勝利を確信した、その瞬間。
「うおぉぉぉっ!」
俺は即座に氷魔法を展開し、俺を中心に全方向を囲んだ厚い氷の鎧を作り出した。
俺は鎧を見に纏い、炎の中へと突撃した。
鎧が凄まじい速さで形を崩していくが、俺は更に加速し、炎の檻を破った。
「ば…、馬鹿な!?」
俺は風と一つになり、月夜さんへと迫る。
「ここだっ!」
月夜さんの目前で両手をかざし、風魔法を大規模に展開させる。
瞬間、鮮やかな緑色の球体が月夜さんを包み、閉じ込めた。
「!? こ、これは!」
これは昔、俺が得意としていた技の一つで、元々は如月先生の技だったのだが、無理言って教わったものだ。
風の球体が相手を捕らえ、拘束する技。
━━━〈魂の牢獄〉ソウル・プリズム━━━
俺は後ろに飛んで距離をとり、追い打ちの準備をする。
左手をかざした瞬間、そこに緑色の光が集まり、野球ボール程の大きさに形を変える。
これは風魔法と光魔法を融合させたことにより、魔法そのものの威力を増大させるだけでなく、お互いの弱点を補い合うことが出来る、という技術だ。
そして、これは俺が一から編み出した唯一無二の技。
━━━〈翡翠の弾丸〉エメラルド・マグナム━━━
「行けえぇぇぇ!!」
俺の叫びに応じるように、弾丸は一際輝きを増す。
左手を前へ突き出した瞬間、銃弾の如く打ち出された光は真っ直ぐに突き進み、一筋の長い軌跡を描いている。
弾丸は、20メートル程の距離を瞬時に駆け抜け、そのまま檻の中心まで侵入した。
やがて、檻の中から光が溢れ、轟音と共に内側から爆裂した。
「これが君の…、流川湊の力か……」
爆裂の直前、微かに聞こえた月夜さんの声には、驚きと尊敬、そして喜びの感情が込められていた。
「そこまで!勝者、流川湊!」
長い沈黙を破った藤兄の声が大きく響き渡った。
どよめいていたギャラリーから、次々に歓声が上がる。
俺が着地すると、目立った外傷はないが大分疲弊した様子の月夜さんがこちらへ歩いてくる。
「いやぁ、参ったよ。聞いた通り、いや、それ以上の強さだった。こっちは手も足も出なかったよ」
負けたというのにも関わらず、満面の笑みを浮かべ、握手を求めてくる。試合前とは違い、口調が柔らかくなっている。
「こちらこそ、最初の氷魔法には驚きました」
言いながら、差し出された手を握り返す。
「本当に良い経験になったよ。凍哉にも見せてやりたいくらいだ」
俺はその名前を聞いて思い出した。
「そうだ!その凍哉さんはどこに?」
「凍哉は今、特別強化選手に選ばれて都内の強化合宿に参加していてね。明日帰ってくるらしいんだけど……」
俺は身体を微かに震わせた。所謂武者震いというやつだ。
「……凍哉と、戦ってみたいと思ってるね?」
「……えぇ、すごく」
お互いに顔を見合わせ、笑った。
「君に負けた僕が言うのもなんだけど………。強いよ、凍哉は」
目は笑っているのに、どこか言葉に強い意思を感じる。
「望むところです」
月夜さんが頷き、
「明日の練習試合では、負けないよ」
真剣な眼差しを向けた。
「こちらこそ、負けません」
俺達は再び、硬い握手を交わした。
「真っ直ぐに飛ぶだけじゃ、相手の魔法に狙われやすくなる。もっと細かい複雑な動きで相手を惑わすんだ!」
昼の休憩の後、練習を再開した俺達だったが、「湊、お前の指示で練習してみたらどうだ?」
という藤兄の提案の下、俺が全体の指揮をとって練習をすることになった。俺は反対だったのだが、賛成が圧倒的に多く、押しきられてしまった。
真良の部員達は反対すると思っていたが、先程の試合を見たからか俺に練習を委ねるといった様子を見せた。
そして現在、各ポジションに分かれて練習を始め、俺は前衛練習の指揮を任されている。
因みに練習内容というのは、二人一組のペアを作り、その内の一人がひたすら逃げ回り、もう一人が相手を狙って魔法を展開させるといったものだ。一定間隔をおいて飛ぶように指示し、お互いの飛行術と魔法技術の向上を目的としている。
「よし!じゃあ五分休憩したら攻守を交代してもう一度!」
俺の指示で皆が休憩をとる。俺はその間に一つ一つペアの所へ行き、全員にアドバイスをする。
「流石だね流川くん。的確な指示とアドバイスだよ」
俺に声をかけたのは、同じく前衛の練習に参加していた月夜さんだ。
「それにしても、こんな練習方法があったなんてね。うちは殆ど試合形式ばかりだったから、皆も楽しめてるみたいだ」
「真良は部員が多いですから、試合形式の練習が出来て羨ましいですよ。こっちは五人しか選手がいませんから、こういった練習が殆どなんです」
月夜さんはふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「うちなんかで良ければ、いつでも練習に来ると良い。藤川先生も喜ぶよ」
対し、俺は悪戯っぽく笑った。
「良いんですか?そのうち真良よりも強豪校になるかもしれませんよ?」
「そうなったら、こちらも鍛練を重ねて追い抜くだけさ」
かつての俺は、ライバルと呼べる相手がいなかった。
しかし今、俺の目の前には競い合うライバルがいる。
負けたくない、勝ちたいという思いが、これほどまでにワクワクさせるものだということを、俺は初めて知ったのかもしれない。
「それじゃあ、練習を再開しよう!」
爽やかな風に背中を押され、俺は空へと躍り出た。
それに続くように、遥が俺の隣へ飛んでくる。
俺にぴったりとついてくる遥が、純粋な笑顔を咲かせる。
その瞬間、俺の中に一つの感情が生まれた。
楽しいとも、嬉しいとも違う、謎の感情。
でも、不快感は全くない。それどころか心が安らぐような安心感がある。
この感情の、正体を、俺はまだ知らなかった。
━━都内某所━━
「……そうか。ついに現れたか」
「…はっ、如何致しましょうか」
「まだ焦る必要は無い。そのまま遊ばせておけ。いずれ向こうからのこのこ顔を出す」
「はっ、かしこまりました」
「クックック……。やっと…、やっと見つけたぞ。五年という長い時間をかけて、やっとな……」
to be continued....
如何だったでしょうか?
今回はバトルシーンが殆どだったのでちょっと短めです。(内容考えるのが難しかっただけ)
次回もバトルシーン多めでいくので、よろしくお願いします。
〈次回予告〉
圧倒的な力を見せつけた湊。
しかし、彼の前に姿を現した強敵、雪峰凍哉。
彼もまた、湊に憧れを抱いていた人間の一人であった。
彼は今、持ちうる全てを出し、少年に挑む。
次回「最強のウィザード」