the blue   作:N ignite

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8話 守りたいものの為に

俺は花宮さんとペアを組み、飛び方を教えていた。

「最初は両手を広げてバランスをとりながら上昇してみようか」

初心者はバランスを崩しがちな為、両手を使ってバランスをとるのが一般的なやり方だ。

「えっと、こうですか?」

楽花宮さんが両手を真横に広げた。

「そんなに硬くならなくていいよ。狭い足場に乗ったとき、つい両手を広げちゃうよね。そんな感じかな」

何とも下手くそな説明だ。どうやら俺にコーチは向いてないらしい。

「じゃあ、このくらいでしょうか?」

肩の力を抜き、さっきよりも両手を少し下げて広げた。

「うん、そんな感じ。次はそのままエアリアル・スペルを展開してみようか」

「はい!」

花宮さんはその場でエアリアル・スペルを展開し、花宮さんを中心に風が吹いた。

「その調子で5メートルほど上昇してみてくれ」

花宮さんは俺の顔を見て頷き、少しずつ上昇していく。

「よし、じゃあそこで一旦止まって……わっ!」

俺は咄嗟に顔を背けた。花宮さんの周りに吹いている風の影響でスカートの中が見えそうだったのだ。

「流川さん?どうしたんですか?」

「い、いや!何でもない!」

そんなことを本人に言えるはずもなく、俺は顔を背けたまま、花宮さんと同じ高さまで上昇する。

「よ、よし。じゃあ次は……」

俺は気を取り直して説明を続けた。

 

 

 

 

「流川さん。今日はありがとうございました!」

学校も終わり、今は花宮さんと一緒に下校している。

「気にしなくていいよ。空を飛びたいっていう気持ち、俺にはよく分かるから」

花宮さんは筋が良く、言ったことをすぐに理解し、覚えてくれる。俺なんてすぐに追い抜かれそうだ。

「それにしても流川さんってとても速く飛べるんですね。今日、凄かったですよ!」

辺りは夕陽を受けて真っ赤に染まり、俺達は人気の無い道路を並んで歩いていた。

「全力で飛んだのは5年ぶりくらいかな?ずいぶんと体が鈍ってしまった」

「じゃあ、全盛期はもっと凄かったんですか?」

「あぁ、あの時の100メートルの自己ベストは4.7秒だったよ」

「なんかもう、めちゃくちゃですね……」

などと会話を繰り広げながら歩いていると、不意に花宮さんが立ち止まった。

「あ、私の家はこっちなので、ここで失礼します」

「あぁ、じゃあまた明日」

花宮さんは軽く一例し、とてとてと帰路を辿っていった。俺はその小さな背中を見送り、

「さて、俺も帰るか」

俺はそう言って一歩を踏み出した。

その時

「は、離して下さい!」

「ッ!」

この声は、花宮さんの!

俺は花宮さんがさっき進んでいった方向に目を向けた。

俺は絶句した。

花宮さんは二人のチャラい男に挟まれ、更に片方の男に腕を掴まれていたのだ。二人の男はにやにやと頬をつり上げ、花宮さんに向かって何かを話している。

一方、花宮さんは恐怖で肩が震え、目には涙が溜まっていた。

「…………」

俺は無意識に走り出した。その後の事はよく覚えていない。

 

 

 

 

私は流川さんと別れたあと、真っ直ぐ家に向かって歩きだした。

「今日の流川さん、かっこよかったなぁ」

本人の前では恥ずかしくて言えないことを呟く。今日のことを思い出しただけで自然と笑みが零れた。

「明日も、楽しみだなぁ」

私が何気なくそう言った直後、

「ねぇねぇそこの君、ちょっといい?」

目の前から歩いてきた二人の男性のうちの一人に声をかけられ、私は咄嗟に返事をした。

「は、はい!何でしょう?」

するともう一人の男性が私の背後に回った。

「え?」

私が疑問に思った、その直後。

「はい、捕まえたー」

正面に立つ男性が私の腕を掴んできた。

「へぇー、結構かわいいコじゃーん。ねぇ、俺達と遊ばない?」

私はようやく非常事態であることを察した。正面の男性に腕を掴まれ、背後にも男性が一人。どう考えても女子高生一人の力ではどうにも出来ない。

でも、抵抗しなきゃ……!

「や、止めて下さい!離して下さい!」

捕まえた手を振りほどこうとするが、男性の力に敵うはずもなく、

「暴れんなって、どうせこんな人気の無い場所なんだから叫んだって誰も来ねーよ」

「大人しく俺達と遊ぼーぜぇ、へへへ」

二人の男性が舐め回すように私の体を見る。

「っ!」

とてつもない恐怖と屈辱で、上手く声が出せない。

「うっ、うぅ……」

嗚咽と共に涙が瞼に溜まるのが分かる。

二人は頬をつり上げ、私の体にゆっくりと手を伸ばした。

(助けて……流川…さん)

私はぎゅっと目を瞑り、心の中で彼に助けを求めた。彼とはさっき別れ、来るはずが無いことは分かっていた。

しかし、いつまで経っても手は私の体に届かない。

「ぐはっ!」

その代わりに聞こえてきた、男の声。

「な、なんだてめぇ!」

ゆっくり目を開けると、正面の男は焦ったような表情を浮かべていた。どさっと大きな音をたて、男の足元にもう一人の男が転がってきた。その男は気を失っているようで、口から泡を吹いている。

「………え」

一体誰が。そう思った直後、私の腕を掴んでいた手が引き剥がされた。男が数歩後ろに下がり、私との間に入った人物を見て、私は目を見開いた。

「流川……さん……?」

こちらに背中を向けているため、表情は確認できないが、間違いなくさっき別れたはずの流川さんがそこに立っていた。私を守るように右腕を広げ、左手で拳を強く握っていて、さっきとはまるで別人のように怖い雰囲気を漂わせている。

「はっ!正義のヒーロー気取りか!?ムカつくんだよ、そーゆーのは!」

男が鬼のような形相で流川さんを睨み付け、叫んだ。

「………ない」

「はぁ!?聞こえねぇよ!」

苛立った男が再び叫ぶ。

「ゆるさない、絶対に」

流川さんは鋭く刺さるような声で言った。

「この…クソガキィ!」

逆上した男が流川さんに殴りかかろうと走ってきた。

しかし、流川さんはその場から全く動かない。

「死ねぇぇぇ!」

流川さんに向かって男の拳が飛んできた。

「流川さん!」

私はたまらず声をあげた。

しかし、男の拳は流川さんに当たることなく、空を切った。

流川さんが体を左にずらして避けたのだ。そのまま流川さんは男のがら空きな脇腹へ右拳をめり込ませた。

「が…あっ!」

鈍い音と共に男が声をあげ、その場に倒れた。

「この……クズ野郎……」

そこでようやく、流川さんの表情が確認できた。

怒りと憎しみに溢れた顔で足元に倒れている男を睨み付けている。

「流川さん!」

彼の名前を呼び、私は彼に思い切り抱きついた。

 

 

 

 

俺は……一体、何を……

「はっ!」

俺はようやく自我を取り戻した。視線を落とすと、何故か花宮さんが俺に抱きつき、胸に顔を埋めている。

「花宮……さん……?」

よく見ると肩を震わせ、すすり泣いている様だ。

俺は彼女の背中に腕を回し、彼女が落ち着くまで抱き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少し長めにしました。
ヒロインのピンチを助けるという王道的展開になりました。これからこの二人の関係はどうなるんでしょうかねw
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