インフィニット・ストラトス~彼から主人公補正が消えた話~   作:カイナ

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ウェルカム・イン・ザ・サマー:前編

「皆さん。突然ですが次の日曜日、ご予定はいかがでしょうか?」

 

 夏の暑さが猛威を振るうある日、いつものように暇を持て余して壱花の部屋に集合して駄弁っていた壱花達いつものメンバーに突然セシリアが問いかけ、皆がきょとんとした顔を向けると、セシリアはふふっと笑って数枚のチケットを取り出した。

 

「実はオルコット家と付き合いのある会社が今月オープンさせるウォーターワールドの招待券をいただきまして。偶然にも人数分あるので、皆でどうかと思いまして」

 

 たしかにチケットは招待を受けた当人であるセシリアだけではなく、壱花、箒、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、本音の計八人分ある。

 

「私は空いてるよ、皆はどう?」

 

「そうだな。せっかくの招待だ、受けるとしよう」

 

「あたしもいいわよ」

 

「私もオッケー」

 

「無論、私もだ」

 

 壱花が一番に頷いて皆に促すと、箒、鈴、シャルロット、ラウラも順々に参加を決める。しかしその隣に座る簪と本音は気まずそうに苦笑を漏らしていた。

 

「あ、簪さんと本音さんはご予定が?」

 

「えーと、なんていうか……」

「私達~、同じ日にそこに遊びに行くんだ~……」

 

 困ったように苦笑して話す簪と本音。曰く「たまたまそのウォーターワールドの入場前売り券が手に入ったのでクラスメイトの相川清香や谷本癒子と今度の日曜日遊びに行く事になった」ということらしく、予定が被っていた。

 

(困りましたわね。自腹を切ったチケットが二枚余ってしまいました……キサラさんでも誘いましょうか? でもそうなるとあと一枚……)

 

 実は招待で貰ったチケットは一枚だけだったのだが、一人で行ってもつまらないからと残る人数分のチケットは自腹で購入していたセシリアなのだった。

 しかしその内二枚が予想外に余ってしまい、セシリアはルームメイトを誘おうかと思い始める。

 

「ねえセシリア、二枚チケットが余ったなら貰っていいかな? 誘いたい子がいるんだけど……」

 

「え? ええ、はい。もちろん」

 

 すると壱花が挙手してそう尋ね、セシリアもそれならと頷いてチケットを譲渡する。壱花は「ありがと」と笑顔でお礼を返した後おもむろにスマホを取り出して電話をかけ始めた。

 

「あ、もしもし~? 久しぶり~。ね、次の日曜日って暇?」

 

 電話の相手ときゃっきゃっと言いたげな嬉しそうな声で話し始め、「うん、じゃあね~」と言って電話を切る。そして「オッケーだって」と何故か鈴に話し、鈴も苦笑しながら頷いていた。

 それから話題はウォーターワールドということでどんな水着を着ていこうか、いつ買いにいこうかというものにシフト。きゃいきゃいと姦しい声が部屋の中に響くのだった。

 

 それから日付は日曜日へと移り、一行はいつものメンバーに加えて簪と同行する相川と谷本を加えたメンバーである施設の入り口に集合していた。

 

「ヨーロッパの本格リゾートを思わせる、ゆったりとした空間が魅力的!」

「水温は体温に近い温度に保たれ、一年を通じて楽しめる。全天候型屋内ウォーターレジャーランド!」

「来たわよぉ! わくわくざぶーん!」

 

 そして興奮が押さえきれないのか、パンフレットを読みながら相川と谷本と鈴が「イエーイ!」とテンション高く声を上げていた。

 

「壱花さーん!」

 

 壱花に声をかけながら、たたたっと駆け寄ってくるのは赤髪を伸ばしてバンダナを巻いている少女。その姿を見た壱花もにこっと笑みを向けた。

 

「蘭ちゃん、久しぶり!」

 

 声をかけ、イエーイとハイタッチを行う。その後ろから二人分の荷物を抱えた、蘭と呼ばれた少女と同じ赤髪とバンダナ姿の少年が二人分の荷物を担いでひいひい言いながら追いついてきた。

 

「ら、蘭、俺お前の分の、荷物まで、持ってやってんだから、ちょっと加減を……ふおおおおお!?

 

 少年は蘭に追いついてぜえぜえ息を切らしながら文句を言うが、顔を上げて壱花初め女性陣を見ると奇声を上げた。

 

「あ、皆紹介するわ。こいつは五反田弾とその妹の五反田蘭。弾はあたしの中学時代の同級生なのよ」

 

「あら? 鈴さんって中学校は男女共学のところでしたの?」

 

 奇声を上げている少年──弾を横に鈴が弾と蘭を紹介、それにセシリアが首を傾げた。IS学園に入る者は遅くても中学の頃から事前学習を受けられる学校──当然女子校だ──に通っている。そうでないとIS学園に入ってからの授業や訓練についていけないからだ。鈴も中国代表候補生となるほどの実力の持ち主なのだからそうなのだろうと思っていた彼女に鈴は苦笑を漏らした。

 

「あーほら、あたしって小五から中二まで日本暮らしじゃない? それに、あたし中国人だし……」

 

「あ……」

 

 苦笑して頬をかく鈴を見たセシリアが事情を察したように沈黙し、僅かにうつむく。

 ISについて学ぶ専門教育機関であるIS学園は日本だけだが、そこに入る前に事前学習を行える学校は世界中にある。それらは普通の学校と同じように国や家庭などの事情の区別なく受け入れるはずなのだが、他国の人間に対しては厳しい部分があるのが実情。中国人である鈴もその例に漏れず、日本のその手の学校には入学できなかったのだろう。

 

「辛い事を思い出させてしまって、申し訳ありませんわ……」

 

「あーいいっていいって。別に気にしてる事じゃないし。ま、それは置いといてっと」

 

 しゅんとなるセシリアに鈴はけらけらと笑いながら返し、それは置いといてと締めて、未だに初めて見るIS学園の美少女軍団に目を奪われている弾を見て、セシリアにさっと手を向けた。

 

「弾、このセシリア様がチケットを融通してくれたおかげであんたは今ここにいられるのよ。伏して崇めなさい」

 

「は、ははーっ!」

 

 鈴のニヤニヤ笑いでの言葉を聞いた弾が荷物を横に置いてセシリア向けて伏して崇め始め、いきなり崇められたセシリア初め、それをやらせた鈴と慣れてるように苦笑する蘭と壱花以外の女性陣がポカンとすると弾はがばりと立ち上がった。

 

「って何やらせんだよ鈴!? 見ろ、お前と蘭と壱花さん以外引いてんじゃねーか!」

 

「じょーだんよじょーだん。あんたって相変わらずノリいいわねー」

 

「ったく。ノッてやったんだから後で何か奢れよな」

 

 弾がノリツッコミを行うのに対してけらけらと快活に笑う鈴と、呆れたようなため息交じりに悪態をつく弾。

 男に向けて理不尽な命令をする女とそれに逆らえない男。この女尊男卑の世の中では珍しくない光景だが、この二人の間にはそんな女が上、男が下という歪んだ上下関係などない。対等な友人同士の無邪気なじゃれ合いという雰囲気が漂っていた。

 そして即興のショートコントも終わり、鈴と壱花が弾と蘭とIS学園組をお互いに紹介し合いながら、彼女らはわくわくざぶーんへと入っていった。

 

 それから待ち合わせ場所をなんとなく決めてから更衣室に男女別で入る。そして弾は赤色のシンプルなトランクスタイプの水着にさっさと着替えて待ち合わせ場所で座っていた。

 

「弾くーん、お待たせー」

 

「あ、はい……ふおおおおっ!!!

 

 壱花の呼び声に反応して彼女らのいる方を向いた弾が再び奇声を上げる。彼の目に映るのは国際色豊かな美少女集団。

 最初に目に入るのは見慣れた妹の蘭、赤色のシンプルなワンピースタイプの水着を着ているが、壱花にここに誘われて水着を買いに行った時はビキニを着たいと主張していたのを兄として止めてこっちを買わせたのを彼は思い出していた。

 そして彼女の手を引くように手を繋いで歩いて、こっちに控えめに手を振っている壱花はまるでバニラアイスのような純白の布地をブルースカイのように明るい水色のリボンで飾っているビキニ姿。しかも蘭と比べれば雲泥の差という言葉すら生ぬるいほどに膨らんだ胸部と、それに相反するようにシュッと引き締まったウエスト、そしてこちらも膨らんだヒップやむっちりとした肉付けのされている太ももが惜しげもなく晒されている。

 さらにその他にも国際色豊かな美少女が彼の視界に移ってしかも近づいてきている。

 

「……ありがとうございます」

 

 気づけば弾は座ったまま頭を下げ、平伏のポーズを取っていた。

 

「?」

 

「あー、馬鹿兄がすみません」

 

 きょとんとする壱花に蘭が呆れたようなため息と共に謝罪の言葉を漏らして彼女から手を離し、平伏状態の弾に近づくと足を振り上げてその頭を思い切り踏んづけた。

 

「ふぎゃ!?」

 

「恥ずかしい真似やめてよねおにい!」

 

 ぐりぐりと踏みつける蘭とじたばたする弾。何が起きているのだろうと頭の上でハテナマークを踊らせながら首を傾げる壱花に、鈴が「気にしなくていいわよ」とどこか呆れたような声色で声をかけた。

 ちなみにそんな鈴はスポーティな雰囲気を漂わせる、オレンジ色を基調にしたビキニを着用している。

 

「いっちー、はやく遊びにいこ~」

 

 黄色のキツネの顔を模したブラと同色のパンツ、総じてキツネ風ビキニとでもいうような水着を着用して小柄な体格やほわほわした雰囲気からは想像出来ないナイスバディを晒す本音がひらひらと手を振って促す。その隣では彼女の内向的な性格からすれば大胆な水色のビキニを着た簪が恥ずかしそうに、羽織った黒色の着物風水着用上着でビキニを隠そうとしていた。

 

「蘭と弾はあたしが見とくから、壱花達は遊びに行きなさいよ。後で追いつくから」

 

「あ、うん。ありがとね、鈴ちゃん」

 

「慣れてるからね」

 

 にししと笑って子守を引き受ける鈴に壱花もぺこりと頭を下げる。その二人の視線の先には踏みつけが終わった後説教に入った蘭と、さっきの平伏とは違う土下座をしながら妹の怒りを鎮めようとする弾の姿があった。

 

 それから壱花は簪、本音、箒と共に四人乗りの丸太を思わせるボートに乗っていた。流れるプールを使った川下りのアトラクションで、左右にはジャングルを思わせる木々や安全や衛生のことを考えれば流石に音声だけだろうが鳥や獣の鳴き声がそこらから聞こえてくる本格派だった。

 

「木々の匂いも本物のように感じる。なかなか本格的だな……」

 

 先頭でオールを漕ぐ箒が呟く。なお基本的には流れるプールなので勝手に順路に沿って流れるのみ、オールで漕ぐのは上手く流れに乗れなかった時の微調整やバランスを取るためだ。

 ちなみに箒は露出の多い白ビキニを着用、縁に黒いラインの入ったセクシーなそれは意外と内弁慶なところがある箒は普段なら絶対に着ないようなものだが壱花に「絶対似合うよ!」とごり押しされて買わされたという経緯があったりする。なお簪のビキニも似たような経緯だ。

 

 そんな感じで流れに沿って進んでいると、突然ピーという音が聞こえてくる。ここから波が出るゾーンに入ってボートが揺れるから気をつけるようにというサインである。実際に波が出始めてボートが揺れ始める。最初は小刻みに揺れる程度だが進んでいくごとに波が強くなっていき、やがて揺れが大きくなっていく。

 

「む、激しくなってきたな……」

 

 箒もオールを巧みに動かしてバランスを取るも激しくなってきた揺れに翻弄され始める。

 

「わ、わ……っ」

 

 前から三番目──ちなみに前から箒、本音、簪、壱花になっている──でオールを漕ぐ簪もボートのバランスが取れずに慌て始めた。思い切り傾いたように感じたボートに対して反射的に身体を傾けてボートが倒れないようバランスを取ろうとする。

 

「わ、きゃっ!?」

 

 しかし直後には反対方向にボートが揺れる。そちらに身体を傾けていた簪は完全にバランスを崩してボートから投げ出されてしまった。

 

「簪っ!」

 

「壱花っ!?」

「かんちゃんっ!?」

 

 それを見た壱花が咄嗟にオールを投げ捨ててプールに飛び込み、それで後ろの異常に気付いた箒と本音の悲鳴が重なった。

 

「「ぷあっ!」」

 

 しかし少し置いて壱花と簪がまるで抱き合うような格好で水面から顔を出す。どうやら溺れるという最悪の事態は回避できたらしい。

 

「よかったぁ~」

 

「壱花、簪、こっちまで泳げるか? 近づいたらオールを伸ばすから掴まれ」

 

「あ、うん」

 

 一安心したというように微笑んだ箒が流れに乗りながら指示を出す。少々離れていてそのままではオールが届かず、壱花は簪と共にそっちに泳ごうとする。

 その時またもピーという音が聞こえ、ドドドドドという音が聞こえてきた。

 

「「「「……」」」」

 

 全員の頭に「ヤな予感」という言葉が浮かび、音の方を見る。するとアトラクションのクライマックスのためかボートを大きく揺らす大波が彼女らに襲い掛かってきていた。

 

「「きゃー!!!」」

 

「壱花ー!!!」

「かんちゃーん!!!」

 

 直後、波に揺られていた壱花と簪はなすすべなく大波に攫われ、箒と本音の悲鳴が再び重なるのだった。

 

 

 

 

 

「「すみません! すみません! すみません! ご迷惑をおかけしてすみません!!」」

 

「い、いえいえ。そちらこそ何事もなくてよかったです」

 

 アトラクションの出口、どうにか救助された──というか波に吹っ飛ばされたらしくプールサイドで倒れていた──壱花と簪は救助に入ってくれたスタッフに向けてぺこぺこと頭を下げて平謝り。あまりに必死に謝ってくる二人にスタッフも苦笑を漏らしながら彼女らをなだめていた。

 それから二人をなだめ終えて、万が一客がプールに落ちた時の安全確保のために、ボートに乗る時はライフジャケットの着用を行う事をルールにするという、今後事故の再発が起きないようにするという結論が出てから二人は解放された。

 

「ごめんね、壱花。私がボートから落ちちゃったせいで……」

 

「ううん、気にしてないよ。それより皆と合流しよう、フードコートにいるらしいから」

 

 謝る簪に気にしていないと笑って返し、フードコートで皆と合流して昼食にしようと手を差し出す壱花。簪も嬉しそうに微笑んでその手を取り、二人は手を繋いでフードコートへと向かった。

 

「あ、来た来た。壱花ー! こっちよー!」

 

「鈴ちゃーん」

 

 まだ十一時を過ぎたくらいで昼食には少々早いが、昼頃になるとフードコートは混雑するだろうからと敢えて早めに昼食を取る計画にしていた彼女らは、大人数だから仕方ないがフードコートにある多人数用テーブルを丸々占拠してそこに注文したのだろう食事の数々を広げていた。

 そこに壱花達がやってきた事に気づいた鈴が手を振って二人を呼び、壱花も手を振って返すとそのテーブルに移動。壱花は空いていた箒の隣の席に、簪は本音の隣の席に着席した。

 

「弾との約束もあるし、とりあえずここはあたしがまとめてお金出しといたわ。弾と蘭以外からは後で割り勘で請求するからよろしくね」

 

 わくわくざぶーんに入る前に弾が人前でセシリアを伏して崇めるノリツッコミコントをやった件での口約束を律儀に守る鈴に、壱花達のみならずその約束を取り付けた弾さえも苦笑。しかし後でちゃんと割り勘で請求すると言っている辺りはちゃっかりしていた。

 

 それから壱花達は昼食としてフードコートで売っていた焼きそばやらポテトやらカレーやらお好み焼きやら麻婆豆腐やらをシェア可能なものはシェアしてつつきながらこれからどうしようかと話に花を咲かせ始める。

 

「ね、やる事決まってないならさ。これに参加してみない?」

 

 そこにそう切り出すのは鈴だった。曰くフードコートでご飯買ってたらチラシを貰ったらしく、そのチラシをテーブルの上に置く。それを箒が覗き込んだ。

 

「わくわくざぶーん水上障害物レース?」

 

「優勝賞品は沖縄五泊六日ペア旅行券? 鈴ちゃん、沖縄行きたいの?」

 

「いや、面白そうだし腹ごなしにいいんじゃない?」

 

 優勝賞品に興味はなく面白そうだから参加するという、冷やかし目的ともいえるはた迷惑な客である。

 

「私は遠慮いたしますわ。特に興味ありませんし」

 

「私もいいや、優勝しちゃってもその旅行券の扱いに困るし」

 

 旅行なら自腹で充分行けるから優勝賞品に魅力を感じないし腹ごなしの運動なら普通にプールで遊べばいいと思ってる様子のセシリアや、万一優勝してしまったら優勝商品である旅行券の扱いに困るというシャルロットは不参加を表明。

 シャルロットの場合恋人であるミシェルを誘おうにも相手は外国だし五泊六日という長期ともなると、こちらは夏休みの期間中に限られる中で学生の本業としての学業以外にもデュノア社の跡継ぎとして日々勉強している彼と予定を合わせるのにも難儀しそうというのが大きいのだろう。

 

「別に金券ショップで売り払えば小金にはなると思うんだけど。ま、いいわ。で、どうする?」

 

「面白そうだし私は参加しようかな。優勝したら千冬お姉ちゃん誘ってみる」

 

「そうだな。私も参加してみよう、優勝したら商品は壱花に押し付ければいいしな」

「よし、それでいこう」

 

「えー」

 

 壱花が面白そうだから参加すると言い出せば、万一優勝しても商品の押し付け先が見つかったと悪ノリして箒とラウラも参加表明し、壱花は苦笑。

 さらに清香や癒子もこちらは「壱花達がいるなら優勝は絶対無理だろうけど記念にはなるし」と、完全に冷やかしのノリで参加表明。特に運動系でない簪と本音、そして弾と蘭も不参加を決めて彼女らはこれからの予定を決定、食事を終えて片づけるとその大会への参加申請をしにフードコートを後にするのだった。

 

 

 

 それから参加申請をして、会場である50×50メートルの大型プールへと参加者の壱花達はやってくる。

 見物を決めたセシリア、シャルロット、簪、本音、弾、蘭はちょうどいいスペースを見つけたのでそこに陣取って、蘭が弾をフードコート外でも持ち歩けるような軽食を買いにパシらせていた。

 

「女の子ばっかりだねー」

 

「まあな……」

「まあね……」

 

 壱花は会場内の参加者が女性ばかりだときょろきょろ見回して呟き、箒と鈴は受付で参加希望を出していた男性は「お前空気読めよ」的な笑顔ではねのけられていた事を思い出して、それに気づいていなかったらしい壱花に苦笑を漏らす。なおラウラは彼女らと離れないように気をつけながら軽く柔軟運動をし、清香と癒子は「もし優勝出来たら一緒に沖縄行く?」と冗談交じりに話し合っていた。

 

「あ、男子がいる……あ」

 

「どうしたのよ壱花……げっ」

「ん、どうしたんだ?……げ」

「どうしたんだ三人とも……チッ」

 

 壱花の呟きに鈴、箒、ラウラの順番で彼女の見ている先にいる、会場内唯一の男子を見て表情を歪める。

 

「ん? なんだお前らかよ」

 

 そこにいた男子──須藤成志も壱花達に気づいて声をかけ、壱花は「気づくのが遅かった」と後悔の台詞を漏らす。

 

「何やってんのよあんた」

 

「これの優勝賞品の沖縄旅行券だよ。夏休み最後の思い出をこの俺と過ごせるって聞けば女は喜んで頷くだろ?」

 

「「何の罰ゲームよ……」」

 

 鈴の言葉に成志が自信満々に答えると、後ろで清香と癒子がぼそりと毒づく。

 

「とは言っても、お前らには残念だが俺が誘うのはもう決めてるんだ。気になるだろ? なるよな?」

 

「へー」

 

 成志の言葉に鈴は興味なしと言いたげに答えて壱花達に「もう離れよう」とアイコンタクト。

 

「シャルロットだよ」

 

「……は?」

 

 しかしその言葉は聞き捨てならなかった。

 

「あんたバカ? シャルロットにはミシェルっていう彼氏がいるのよ?」

 

「はっ、何も知らない奴が。シャルロットはデュノア家に引き取られて辛い日々を送ってるんだ、父親とは顔を合わせる事もなく、母親からは泥棒猫の娘と蔑まれる日々。原作にいなかったあのミシェルとかいうモブもシャルロットを脅してるに決まってんだ」

 

「……何言ってるんだコイツ?」

「むしろお母さんとは仲がいいし、お父さんも都合が合えば定期連絡で顔を合わせて話してるって本人言ってたよね?」

「妄想が酷いとは思っていたがここまでとは……」

 

 開いた口が塞がらないとばかりに唖然としている鈴を壁にしてぼそぼそと話す箒、壱花、ラウラ。

 ラウラ曰くシャルロットは週に一度程度の頻度で早朝にフランスの家族とテレビ電話を使って定期連絡を取っており、デュノア社としての社内秘が関わるような時は耳に入れないよう気を遣っているがデュノア家としての雑談くらいの時なら自分もたまに参加しているとのこと。

 そこではシャルロットは笑顔で義母であるロゼンダや兄であり恋人のミシェルと話しているそうであり、そこに辛い日々を送っている様子など考えられないとラウラは考え、妄想の一言で切り捨てていた。

 

「ともかく、俺は優勝してシャルロットと一緒に沖縄旅行。そこであいつをデュノア社の束縛から解放してやるんだ」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「じゃあな、邪魔すんなよ」

 

 酷すぎる妄想に呆れてものも言えなくなった壱花、箒、鈴、ラウラ、清香、癒子に成志はそう言い捨てて歩き去る。

 

「……皆、腹ごなし程度で別に優勝なんてする気はなかったんだけど。撤回するわ」

 

 今回のレースへの参加を促した張本人である鈴が、キリッとした表情で皆を見る。

 

「優勝するわよ! 少なくともあいつにだけは優勝させない!」

 

「そうだな。シャルロットが可哀想だ」

「うむ。シャルロットが誘いに乗るはずもないが、そうなってまたあいつが問題を起こせば余計面倒になる」

「千冬お姉ちゃんにかかる迷惑が少ないならそれに越したことないよね」

「私達も協力する!」

「うん、何でも言って!」

 

 鈴は成志に優勝されたら余計な問題を起こしかねないと直感し、それなら自分達の誰かが優勝した方がマシだと判断。その判断を全員が支持し、彼らは優勝への想いを強くするのだった。

 

「へくちっ!」

 

「シャルロットさん、風邪ですの?」

 

「う~……プールで身体冷えちゃったかな?」

 

「シャルロット、私の上着、貸してあげよっか?」

 

「ほらおにい、ぼさっとしてないであったかい飲み物とか買ってきてあげなさいよ! ついでにあたし達の分も!」

 

「は、はい!」

 

「ご、ごめんね五反田君、あとでお金払うから……」

 

「い、いえいえ。じゃあ行ってきます!」

 

 なお観客席の方ではそんなバタバタが起きていたのは別のお話。

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