インフィニット・ストラトス~彼から主人公補正が消えた話~ 作:カイナ
これは三話連続投稿の中編です。
もしも前編を読んでいないまま間違えてここに飛んできた方は前編への移動をよろしくお願いいたします。
女神に選ばれて転生した少年──
「ふ、くくく……ついにこの時が来た……」
成志は笑みを我慢できないというように零れ笑いを漏らす。今彼はある学園の校門前に立っており、彼の目の前には数えきれないくらいに多くの生徒が校門を潜り、新たな学園生活に、そして進む学園生活に思いを馳せている。そしてその生徒は彼以外全てが女子である。
そう、ここはIS学園。女性にしか使えない兵器インフィニット・ストラトス、通称ISの扱い方を学ぶ学校であり、ライトノベル『インフィニット・ストラトス』の主な舞台となる場所である。
この世界に転生した彼は女神に願った通り、男でありながらISを使う事が出来るということで特別にIS学園への入学を認められた……
「まさか織斑一夏もいないとは思わなかったが……ま、主人公補正もなければ所詮その程度か」
一夏の通っていた中学の名前は原作には出ておらず、とりあえず愛越学園の受験を志望して会場を探したが一夏の姿は見当たらなかった。
おかげで原作での一夏のように自分からISを動かさなくてはならず、そのためにIS学園の入学試験の会場を探す必要があり、余計な手間をかけさせた一夏に舌打ちを叩きそうになるが、そのおかげで余計な男なしでIS学園の美少女相手にハーレムを堪能出来るのだからまあいいかと思い直した。
「今、世界中が大慌てで男性適性者を探すテストの準備をしてるけどな……」
どうせ何かの間違いで一夏はIS学園の入試会場に行かずに愛越学園の受験に成功したのだろう。主人公補正がないせいでストーリーに絡む事すら出来ず憐れなことだ、と成志は嘲笑う。
男性適合者を探すテストについては女性権利団体の妨害で進捗は伸び悩んでおり、今は任意にテストを受けられる程度で万一の希望を期待する者や興味本位や冷やかしでやっていっては失敗して帰っていくばかりらしく、特にISに興味もないはずの一夏が自分からテストを受けに行く事は無い。男性への強制テストとなれば話は別だろうが、そんな大規模なものになるには時間がかかる。
それで
一応確認しておいたが女神が言っていた通り、たしかに一年一組になっている。織斑一夏がいないのは分かり切っているからいちいち探すまでもないが、一応篠ノ之箒やセシリア・オルコット、布仏本音など一組にいる描写がある原作ヒロインが揃っている事もきちんと確認。
そしてその間成志は周りからの熱い視線を受け続け、気分が高揚するのを感じる。女神に頼んだ通り、今の自分は絶世のイケメンとなっている。幼稚園の頃から女子にモテ続け、小学生、中学生と周りから女子が消えない事はなく、既に何人もの女子と関係を持っている。
(男からは嫌われたけど、まあ男なんてどうでもいいからな……)
逆に男はおこぼれに預かろうと自分にへりくだる取り巻きか気に入らないからと逆らうものばかり。しかし自分の所有物である女子を取り巻きに渡すわけもなく、その気に入らない男が好きだった女子や恋人をそいつの目の前で奪ってやった時の彼らの羨望や絶望を見ての快感を思い出してくつくつと笑みを零した。
だがこれからは今までの女子とは比べ物にならない国際色豊かな美少女が自分のものになるのだ、もういらなくなった今までのハーレムは既に全て捨てている。そしてIS学園という一つの学校全てを使った新たなハーレムを作り出す、成志はそんな逸る気持ちを抑えきれずに一年一組の教室へと向かう。
その道中の廊下でも熱い視線を感じ、僅かなり黄色い声を聞きながら成志は悠々と廊下の真ん中を歩き、一年一組の教室へと到着。何故か開いているドアや窓から教室を覗くと、このクラスに世界唯一の男性IS操縦者が入ってくるという事はクラス分けの名簿で分かっているためか、既に気づいた数名の女子がやはり熱視線を向けてきていた。
(ククク……ここが今日から俺のハーレムの拠点になるのか)
成志はついに自分の夢がスタートする。と心の中に歪んだ願望を抱えながら、その夢の第一歩というように一年一組の教室へと足を踏み入れる。
(?)
一瞬身体に違和感を感じた。身体が少し重くなったような、自分の中から何かがすり抜けたような、そんな訳の分からない感覚に成志は眉をひそめて、それからまあ気のせいだろうと結論付けて教室内を見回す。
女子は自分の方を物珍しそうにチラチラと見ながら、友達とのお喋りに夢中になっている。しかし多分照れているだけだろう、成志はそう思ってクラスの席順を確認し自分の席についた。
「全員揃ってますねー。それじゃあ
緑色の髪をショートカットにし、胸元を開けたような服装のせいで小柄な身体とは対照的な巨乳を見せつけるような格好になっている穏やかそうな雰囲気の女性──山田麻耶の声が教室内に通っていく。
「山田先生、一人遅れています」
黒髪ポニーテールの凛とした雰囲気の少女──篠ノ之箒が手を挙げて発言。たしかに教壇の目の前、教室のど真ん中&最前列の席だけが空いていた。
「え、あ、えっと……その席は確か……」
「いえ。少し用件が長引いて遅れそうだという事で、それを伝えるように頼まれました」
「あ、そうなんですか? ありがとうございます。じゃあまずは出席番号順で自己紹介をお願いしますね?」
麻耶が慌ててクラス名簿から席順を確認しようとすると箒がそう伝えて右手を下ろす。伝えたいことは伝えたという様子に麻耶は彼女にお礼を言うと本来のSHRの流れなのだろう自己紹介へとテキパキ進め、出席番号一番の相川清香が「はい!」と返事をして立ち上がった。
それから自己紹介が続いていき、“え”の子が終わった辺りで突然教室の前の扉がガラリと開き、そこから黒スーツとタイトスカートが良く似合う、長身の美麗な女性が入ってきた。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ。副担任ですので、これくらいはしないと」
その美女──織斑千冬は麻耶に職員会議を理由にクラスへの挨拶を押し付けた事を謝罪、対する麻耶はむしろ気合充分というように拳を握ってそう答えた。
そして千冬が教壇に立ち、教室内の生徒を見据えた。その時だった。
「いっけなーい、ちこくちこくー」
なんか教室の外からそんな女の子の声が聞こえ、成志含めた教室内全員の顔が教室の外に向く。同時に教壇に立つ千冬がうつむいて小さなため息を漏らした時、教室の後ろの扉がガラリと開いた。
「すみません、遅れました!」
扉を開けると共に飛び込んできた少女に成志は目を奪われる。
箒よりもボリュームの少ない短めのポニーテールが揺れ、何故か食パンを銜えているがそれで隠しきれない整った小顔は愛くるしさを残しつつも凛々しく引き締まっている。少し目線を下ろせば高校一年生としては充分過ぎるくらいにボンと実ったバストと対してキュッと引き締まったウエスト、そしてボンと膨らんだヒップが服の上からでも分かり、さらにミニスカートから覗くカモシカのように細長い足にもむっちりとした肉付けがされている。
総じて相当レベルの高い美少女だと言っていいだろう。原作で見なかったという事はモブだろうが、そんなモブでさえもこれから自分の虜になるのだ。と成志は脳内で彼女の身体を好きにする妄想を逞しく行いながら内心でじゅるりと獲物を見定めた獣のように舌なめずりを行った。
千冬がその美少女を腕を組んで厳しい目で見据え、口を開く。
「……遅刻の理由を聞いてやる」
「シミュレーターが長引いちゃって……」
「さっきの寝言とその食パンはなんだ?」
「ヒカルノさんが“女子高生はこれやっときゃ遅刻しない! ”って……」
「あの馬鹿は……」
美少女と千冬はそう会話を行い、その結果千冬は頭を抱えて苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるようにぼやいた。
「ああ、もういい。ついでだ、とっとと席に移動して自己紹介を始めろ」
そう言って指で彼女の席を指し示す千冬に美少女は「はい」と答えて銜えていた食パンをもぐもぐごっきゅんとすぐさま飲み込んで、彼女に指差された
「遅刻しちゃってごめんなさい。初めまして、
「……え?」
明るく元気いっぱいに自己紹介をする美少女──織斑壱花に、教室内から自然と拍手が生まれる。そんな中、成志だけは小さくそんな声を絞り出していた。
(オリムライチカ、だと……あいつが? なんで女になってるんだ……)
織斑一夏、このインフィニット・ストラトスの主人公。男であるはずのあいつが女、それもとびきりの美少女になっている。そんなあり得ない事に成志の頭はパニックになっていた。
「……くん? 須藤成志くんっ」
「ふひゃいっ!?」
パニックになっていてしばし時間を忘れて硬直していた成志は突然目の前から声をかけられ、そもそも目の前に人が来ていたこと自体気づいていなかったせいで驚いたように声を裏返す。周りからクスクス笑いが聞こえ、成志はそれらにむかついたようにギリッと歯ぎしりを行った。
「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。で、でもね、あのね、自己紹介、次は須藤くんの番なんだよね……だ、だからその、ごめんね、自己紹介を……」
声をかけてきた女性──この教室の副担任である山田麻耶はぺこぺこと頭を下げて謝りながら、成志に自己紹介をお願い。成志はいきなり声をかけてきて自分に恥をかかせた相手にむかつきながらもここで怒ったら周りの好感度が下がるかもしれないという打算で、山田にニコリと微笑みかけた。
「い、いやいや、こっちこそすみません。今からやりますね」
怒りが堪えきれずやや引きつった笑みになるが、麻耶は気づかずに「本当ですか! ありがとうございます!」と何故かお礼を言って教卓に戻っていく。
それを見届けながら、正確にはさっきまで目の前にあった規格外の巨乳を目に焼き付けながら、成志は席を立って教室内を向き直した。
それから自己紹介が終わり、次いで一時間目のIS基礎理論授業が終わっての休み時間。成志は春休みに遊びほうけていたせいで全く目を通していなかった必読の教科書を睨みつけながら頭をガリガリと掻いていた。
(なんだよ、どうなってんだ……さっぱり意味が分からねえ!!!)
今までこんな事はなかった。転生してからほとんど覚えてなかった小学生、中学生時代でも教科書を見れば答えがなんとなく分かってしまう。テストも同じく問題を見れば大体答えが分かるし、なんなら記号問題は問題すら見ずに適当に埋めてもそれが正解になる。
しかし今の教科書を見ても全く意味が分からないし答えが出てこない。前世で触れた事のない分野だから、という問題ではないような気がする。
成志は教科書から目を背け、教室内に目を向ける。そこには吊り目をした巨乳でポニーテールの女子が壱花とニコニコと微笑みながら会話している様子があった。
「久しぶりだな、壱花。直接会ったのは去年の剣道全国大会の決勝以来だったか?」
「うん。あれから私も鍛錬したし、今度は負けないよ、箒!」
「望むところだ。私とてまだ遅れを取るつもりはないぞ」
席を立って巨乳ポニーテール女子──箒の机の前に立ちながら話す壱花と、彼女の挑戦を受けて不敵に笑う箒。すると彼女らに一人の金髪を縦ロールにした少女が歩き寄る。
「ちょっと、よろしくて?」
その相手──セシリアの高々とした自信に溢れたような声かけに箒が警戒を向けるが、対して壱花はまたも嬉しそうに微笑んだ。
「セシリア。久しぶり!」
壱花の知り合いに向けるような挨拶に箒が驚いたように彼女の顔を見ると、セシリアも人懐こい笑みを浮かべてロングドレスのように伸ばしたスカートの縁を手に取ってぺこりと頭を下げる、どこかのお姫様やお嬢様がやるようなお辞儀のポーズを見せた。
「お久しぶりですわ、壱花さん。直接会うのは一年前の各国代表候補生交流会以来ですわね」
「そんなものだっけ? よくメールとかしてたからなんかそんな気がしないね……あ、箒。こっちはセシリア、イギリスの代表候補生で、まあ私の世界規模のライバルって感じかな?」
セシリアの挨拶に壱花は微笑みながら返し、それから箒にセシリアを紹介。彼女も箒の方に身体を向けてぺこっと優雅に一礼した。
「イギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ。お見知りおきを」
「篠ノ之箒、壱花の幼馴染だ。こちらこそよろしく頼む」
相手が名乗ったのならばこちらも名乗らなければ失礼、と箒も自分の名前を名乗って手を差し出し、二人は軽く握手を行う。それからセシリアは壱花の方を向き直した。
「壱花さん。ここで同じクラスになれたのも何かの縁、共に高みを目指して頑張りましょう」
「うん。いつか決着をつけようね」
二人がそこまで言った瞬間、彼女らの間に流れる空気が変貌する。先ほどまでの和気あいあいとした空気から、一触即発といわんばかりの、まるで敵同士が邂逅したような重い空気へと。
「私の剣で貴女を斬る」
「ならば私も、貴女を撃ち抜いてみせますわ」
壱花がまるで剣を握り、その切っ先をセシリアに向けているかのように握り拳を彼女に向け、セシリアも右手の親指と人差し指を立てて銃に見立てたような形にして壱花に向ける。
その時、休み時間が終了して二時間目の授業の開始を告げるチャイムが鳴り始め、同時にその空気が霧散。二人はフッと微笑むと握っていた右手を開いて互いの右手で打ち鳴らした。
「「これからよろしく(お願いいたしますわ)!」」
パンッと軽快なハイタッチを行いながら敵意のない友人に向ける綺麗な笑顔で挨拶し、二人はそれぞれの席へと戻っていく。
(な……なんなんだよ……今の時点で織斑一夏とセシリア・オルコットが知り合い? ……そんなのあり得ないだろ……)
それらをずっと眺めていた、というよりも目が離せなかった成志は、自分の知識と今目の前の光景の差異についていけず、硬直するしか出来ていなかった。
それから二時間目、二時間目の休み時間を経て三時間目へと時間が進む。
ちなみにセシリアは二時間目の休み時間も壱花や箒、そして仲良くなったらしいクラスメイトと談笑していて成志に声をかける事は無かった。
「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
教壇に立つのは世界最強と呼ばれる女性──織斑千冬。麻耶もノートを手に持っていた。が、そこで千冬が思い出したというように話を変える。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないな」
(来た!)
クラス代表者とはそのままの意味で、対抗戦だけではなく生徒会の開く会議や委員会にも出席するクラス長のようなものだ。と千冬が説明している中で成志がニヤリと微笑む。
原作では一夏が男子だからという理由でクラス代表に推薦され、それに怒ったセシリアとの決闘になる。だが今この教室にいる男子は成志一人、即ち一夏の代わりに推薦されるのは決まっている。
「はーい! 織斑壱花、立候補しまーす!」
だがすぐさま壱花が挙手をして立候補、クラス内が「おぉ」と声を上げてざわめいた。
「壱花さんがやるというのならば、私が手を挙げないわけにはいきませんわね。イギリス代表候補生、セシリア・オルコット。立候補いたしますわ」
続けてセシリアが右手をピシッと上げて立候補。ピシリと背筋を伸ばし、腕はもちろん指先まできちんと揃えて伸ばしているという気合いの入りようだった。
「ふむ。自薦、織斑壱花にセシリア・オルコット……他にいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
千冬は黒板に二人の名前を記載、さらに他にいないかと問うが日本とイギリスという二国の代表候補生が立候補している状況でさらに手を挙げようという者がいない。
(……あれ?)
そう。誰も手を挙げない……
「では織斑とオルコットで──」
「ま、待ってくれ!」
それに気づいた瞬間、成志は思わず立ち上がっていた。
「ん、なんだ須藤。立候補か?」
「あ、いや……み、皆!」
いきなり声を上げて立ち上がってきた成志を見た千冬が立候補かと尋ね、成志は一瞬怯みつつ教室内を向いた。
「お、俺を推薦しようとかって……思わないのか?」
その言葉に教室内が静まる。その顔には「なんでそんな事聞くの?」という困惑が見えていた。
「いや、だって……須藤君、ISに乗った経験ってあまりないでしょ?」
少しタイミングを置いて、困惑から立ち直ったのか成志の隣に座っている女子がそう答える。
「うんうん。流石にISの操縦経験浅い人を代表に出すなんて酷い真似できないよ」
「それなら代表候補生がいるんだし、そっちに任せた方が無難じゃん」
「おりむー達だってやる気だし~」
続けてその女子に同意する者、経験者がいるんだからそっちに任せようという者、さらにその経験者がやる気なんだから大丈夫だと答える者が追加。それに成志の頬が引きつった。
(な、なんなんだよこれ……どうなってんだ……)
「まあ、立候補するなら私は拒否しない。自薦、須藤成志を追加。これで三人か……」
成志がパニックになって固まっている間に千冬が話を進める。
「では一週間後の月曜。放課後、第三アリーナでクラス代表決定戦を行うこととする。織斑、オルコット、須藤による総当たり戦、もっとも勝ち数が多い者をクラス代表に任命する。織斑、オルコット、須藤はそれぞれ用意をしておくように」
「「はい!」」
「え、あ……はい」
千冬の言葉に壱花とセシリアがきびきびと、ようやくパニックから立ち直った成志が恐る恐る返事する。
「それでは授業を始める!」
そしてパンッと手を打って話を締め、授業の開始が宣言された。
それからまた時間が経ち、五時間目後の休み時間。IS学園は初日から六時間目まで授業がある、つまりこの次が最後の授業であり、今が今日最後の休み時間だ。
(一体どうなってんだ、何が起きてるんだ……)
成志は席に座り、困惑を隠しきれない様子でうつむいていた。
思えば朝からおかしかった。織斑一夏が女だったこと、箒はもちろんセシリアとも知り合いの様子だったこと、クラス代表で
「須藤、少しいいか」
「へ、あ、はい!」
そこに突然千冬に声をかけられ、成志は慌てて顔を上げて返事をする。
「日本政府からお前に専用機が用意された」
千冬が簡潔に伝え、それを聞いた成志が内心ニヤリと笑う。女神に頼んだチート専用機、それがあれば織斑一夏もセシリア・オルコットも敵ではない。そう考えながら成志は頷いた。
「分かりました。わざわざありがとうございます。それでその専用機は……」
「ああ、もう用意されている……これだ」
成志にそう言う千冬が手渡すのは鉄のような光沢を放つ綺麗な黒色をした腕輪だ。
「
「……は?」
打鉄。日本産の第二世代型ISであり、その汎用性の高さからIS学園にも訓練機として配備されている機体である。
「あ、いや、待ってください……そんな……もっと、凄い武装を持った専用機は……」
「お前は何を言っているんだ? ISの経験はない、実績もない。そんな奴にそんなものを与えられるはずがないだろう? そもそもデータ収集を目的としているのに派手な武装など必要ない。お前への用件は以上だ」
成志の質問に対して千冬は眉をひそめて答えた後成志から視線を外し、次に壱花に目を向ける。
「織斑、放課後に更識妹を連れて倉持技研に行け。倉持技研が新しい専用機の試作をしたらしい、実績としては更識妹に渡すのが相応しいだろうから、先んじてテストを行いたいそうだ」
「本当ですか!? 分かりました、すぐ伝えます!」
千冬の言葉を聞いた壱花が目を輝かせて教室を飛び出していき、それを見送った千冬は呆れたように額に手を当てた。
「放課後になってからでいいと言っただろうに……」
呆れたようにそうぼやき、まあいいと呟いて授業の準備を開始。そしてチャイムが鳴ると同時に教室に飛び込んできた壱花がチャイムが鳴り終わる前に席に着き、そのまま本日最後の授業が開始される。
(どうなってんだ……俺のチート専用機はどこに行ったんだよ……)
そんな中、成志は打鉄の待機形態である腕輪を眺めながら、愕然とした表情でそんな事を考えていた。
それから放課後に時間が移り、さらに時間が過ぎて夜。成志は特別にと用意された一人部屋──流石に年頃の男女が同じ部屋というのは風紀的に問題があると判断されたそうだ──で、寝間着に着替えてベッドに寝転んだ。
「くそ! 何がどうなってやがんだ! 絶対問い詰めてやる!」
そう一人ごち、成志は下手なホテルとは比べ物にならない豪華なベッドで眠りにつく。
──NN~チャンネルー!
彼の意識が遠のく中、思考の片隅にそんな声が聞こえてきた。