インフィニット・ストラトス~彼から主人公補正が消えた話~ 作:カイナ
これは三話連続投稿の後編です。
もしも前編、中編を読んでいないまま間違えてここに飛んできた方は前編あるいは中編への移動をよろしくお願いいたします。
真っ白な何もない空間。転生する前に連れてこられ、転生してからも度々やってくる女神との面会の空間とでもいうべき場所。そこにやって来た成志は憤怒の形相で何もないそこを睨みつけていた。
「女神! 一体何が起こってるのか説明しやがれ!!」
「何が、とは? どういう事でしょうか?」
「ふざけんな!! 一夏が女になってるし、俺はクラス代表に推薦されすらしないし、俺のチート専用機をどうした!?」
空間が揺らいだと思えばひょこっと姿を現す水着&パンクファッションの小麦色肌女神のきょとんとした言葉に、成志は今にも彼女に掴みかからんばかりの形相で怒鳴りつけていた。
「あー、その件ですか……では一つずつお話しますね?」
女神はにこやかに笑って虚空に座り、足を組む。手を華麗に振るうとモニターのようなものが出現した。
「まず、転生の際に言いましたよね? 世界に影響を及ぼすような願いを叶える場合、少々世界に不具合が起きる可能性がありますし、その願いが少々ずれる可能性があります、と。その辺はそちらにもご了承いただいたと思うんですが?」
「あ、ああ。だけど願いはちゃんと叶えられるって……」
女神の言葉に成志は何故かどうしても忘れられない当時の一部始終を思い出しながら答え、女神は「お分かりいただけているようで何よりです」と微笑む。
「まず、女神の力では特定の個人に向けて主人公補正という全ての人間が共通して持つスキルのようなものの一方的な剥奪というのは不可能でした。なので、ある条件付けを行って、間接的にそれを行おうと思ったんです」
個人を意図的に狙い撃ちするのは不可能。だが曖昧な条件付けを利用して実質その一人を狙う事は可能だった、と女神は裏技を語る。
そして原作における織斑一夏たった一人を、個人を特定する以外に彼だけを狙うための条件付けは簡単。女神はどす黒い笑みをもはや隠さずにその条件を口にした。
「その条件は、“IS学園一年一組に入学した男子からの主人公補正の剥奪”」
「……ま、待て!! それってつまり――」
女神のどす黒い笑みでの言葉を聞いた成志が何かに気づいたように顔を青く染め上げる。と、女神はそこで初めて気が付いた、というように大きく開けた口を右手で覆うように隠す。
「あ、いっけな~い。原作ラノベだけ読んでその方法を考えたから、あなたも一年一組に入学するっていうの忘れちゃってました~。てへ、女神ちゃんたらドジっ娘さん♪」
驚きのジェスチャーの後、握った左手をこつんと頭に当ててぺろっと舌を出す、所謂てへぺろと呼ばれるジェスチャーを行う女神だが、顔を青ざめさせた成志は固まっていて反応なし。
「しかも、そのせいか分かりませんが世界に不具合が発生。どうやらその織斑一夏なる少年は織斑壱花っていう女の子になっちゃってたみたいですねー。ふむ、これでは主人公補正の剥奪は叶いません、ご愁傷様でした」
「な、う、お、俺の、しゅ、ほせ……ま、待て! それでも俺がいただくチート機体は――」
「え? いただく?」
「――え?」
成志の言葉にきょとんとする女神に思わず成志もクールダウン。女神は腕を組んでかくんと首を傾げた。
「はて、私……
「と、とぼけるな! 俺は確かにチート専用機をよこせって言ったぞ!!」
「え、でも最終確認した時のこと。思い出してくださいよ」
成志の必死の形相での怒号に対し、女神は飄々とそう答える。再び成志の脳内にどうやっても忘れられない、その光景の一部始終、会話の一字一句が鮮明に思い出せるその時の記憶が蘇る。
――はい。ではご注文を繰り返しますね。まずはあなたのイケメン化、そしてチート専用機の制作、織斑一夏なる男からの主人公補正の剥奪、そしてあなたのIS学園一年一組への入学。以上よろしいですか?
――ああ
その中の一部が強く思い出される。
――チート専用機の制作
「な、あ……」
気づいた成志の顔がまたも青ざめる。より強く、その記憶が思い出される。
――チート専用機の
女神が言ったのはチート専用機の制作。それを成志にあげるなど一言も言っていない。成志がそれに気づいたと気づいた女神はニヤァ、と笑みを零した。
「ふ、ふざけるな!! こんなの詐欺だ!!」
「とは言っても、こっちはちゃんと確認取りましたしそっちも了承してるじゃないですか? ま、主人公補正が残ってればそのチート専用機を貰うという未来を引き寄せられたかもしれませんが……残念でした♪」
ニタァと、まるでここまで全てが計算通りだというあくどい笑みで語る女神を見た瞬間、成志の理性がブチリと音を立てて切れた。
「ふ、ふざけんなああああぁぁぁぁぁっ!!!」
顔を真っ赤にして殴りかかる成志に対してクスクスと笑う女神、その余裕がさらに彼を苛立たせる。殴り倒して気が済むまでボコボコにした後、その立派な身体を思う存分蹂躙してやる。そう怒りの中でも性欲を隠さずに決めて女神に突進する成志だが
「え」
その途中、自分の足が何かに沈むのを感じる。足が泥にまとわりつかれたように前に進まず、さらに沼に沈んでいくように自分の身体が沈んでいくのを感じる。
「クスクスクス」
それを女神は冷たい笑みで見守り、彼を見下すような視線で貫く。
「まさかここまで計画通りなんて、所詮は子豚さん未満でしたか」
ぞう、と彼女の身体を闇が覆う。そしてその闇が弾けた時、彼女の服装が一変していた。
小麦色の肌によく映える真っ白なハイレグもしくはレオタードに、その白とは対照的な真っ黒いマントのような黒コート。彼を見下す瞳も血のような紅色に染まっており、どこか邪悪さを感じるその姿に成志は恐怖から沈黙してしまう。
「まあ、退屈しのぎにはなりそうですね……では、もう会うこともありませんがお元気で。あなたという蟻さんが主人公補正のない世界であがく様を楽しみにしていますよ」
少しずつ、少しずつ成志の身体が沼に、黒い真っ暗闇で作られた沼に沈んでいく。あがこうとする成志だが指一本動かせず、抵抗出来ずに沈んでいく彼への選別のように、女神はにぱっと形だけ明るく微笑んだ。
「ではではこれにて
女神――ニャルラトホテプの別れの挨拶が終わるのと同時、成志の意識はまるでパソコンが急遽シャットダウンさせられたかのように唐突に、ブチリと消失するのだった。
「はっ!」
目を覚まし、起き上がる成志。誰もいない部屋の中、まだ初日で荷解きも面倒だから明日適当な女子を見繕ってやらせればいいやと思って放っといた段ボールが部屋の隅に置かれている以外は入室当時のままの部屋。
「あ、あ、あ……」
成志は顔を押さえる。自分が今まで好き勝手出来ていた源らしい主人公補正は奪われ、織斑一夏は織斑壱花という女になっていたせいでノーダメージ。自分が貰うはずだったチート専用機も貰えず、手元にあるのは量産型の打鉄オンリー。残ったのはこのイケメン顔だけ、それ以外には何もない。
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!」
それが脳内に刻み込まれた瞬間、彼は邪神からの贈り物であるイケメン顔を押さえて発狂したように絶叫し、ベッドの上をのたうち回るのであった。
初めましての方は初めまして、こんにちはの方はこんにちは。カイナと申します。
皆様、「
本作は思いついたというか、コンバット越前先生の「原作主人公が倒せない」にインスパイアを受けて書きたくなって、少しずつネタを考えてちまちま書いててやっと完成しました。
コンセプトは「神様(邪神)転生出来るようになったオリ主が一夏に勝つために主人公補正を無くさせようとしたが、邪神が世界を調整して主人公補正を無くされたのはオリ主の方でした」です。
邪神の正体は最後の最後で名乗った通り、ニャルラトホテプ。なお姿や性格、言動のイメージは水着BBちゃんです。(笑)
そして今回の男オリ主にしてある意味最大の被害者(笑)
さて、生まれてからIS学園に入学するまで好き勝手出来ていた主人公補正を失ってしまった彼は一体どうなるのか……正直この話自体は今回で終わりの一発ネタですのでこの続きはありません。
一応、壱花やセシリアVS成志のクラス代表決定戦も考えてはいるんですが……よっぽどハンデをつけないとこの二人圧勝しすぎて話を作りようがない……零落白夜で一刀両断するわブルー・ティアーズの乱舞でハチの巣にするわでまずまともに戦えるかすら怪しいです。(汗)
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。