インフィニット・ストラトス~彼から主人公補正が消えた話~ 作:カイナ
シャルロット・デュノアの憂鬱
早朝から一人の金髪美少女が部屋に備え付けられていたテーブルに小型のプロジェクターを設置。自分の顔が映る位置にカメラを準備して撮影の準備を行った後、こほんこほんすーはーすーはーと咳払いと深呼吸を行っていた。
「や……やめろ……頼む、それだけは……やめてくれ……」
すぐ近くのベッドで銀髪ロングの美少女が苦しそうな声を漏らしているが気にすることなく、少女は手元の電話をタップ。僅かな呼び出し音の後、目の前のプロジェクターが点灯。その先に一人の青年が映ったのを見た少女はそのプロジェクター、そして自分の顔をこの青年に届けるカメラに向けて満面の笑顔を浮かべた。
「おはようございます、お義兄様」
「こっちは今は夜だよ、シャルロット」
シャルと呼ばれた美少女の朝の挨拶にお義兄様と呼ばれた青年は時差による昼夜逆転のツッコミを入れた後、右手の人差し指をシャルに見えるようにチッチッと振った。
「ところで、二人っきりの時はなんて呼ぶんだったかな、シャルロット?」
ちらりと手の甲側に向けた右手の中指に指輪が光り、それを見たシャルロットも普段は失くさないように大事にしまっているがこの電話の時だけは自分の右手中指につけている指輪を見てあっと声を漏らした後、頬を赤らめてもじもじとした仕草を見せ、口を可愛らしく小さく開く。
「ご、ごめんなさい……ミ、ミシェル……さん……」
「……ふふふ。今度帰ってくるまでには呼び捨てにしてほしいね。僕の未来のお嫁さん」
「が、頑張ります……私の、未来の旦那様……」
二人きりの時だけの特別な名前呼び(相手側からは普段から名前呼びのため愛称呼び)だが呼び捨てでは恥ずかしさが勝ったか小さくさん付けするシャルロットに、青年──デュノア社社長子息にしてシャルロットの義兄であり婚約者、ミシェル・デュノアは楽しそうに笑って答えた後、冗談めかして続ける。その言葉が自分達の関係を改めて強調し、シャルロットも顔を真っ赤にしながらぼそぼそと答えた。
「あらあら、二人とも仲が良くって何よりね?」
「!!??」
そこに突然入ってくる女性の声。その正体はシャルロットもよく知っており、びくんっと大きく飛び跳ねる。
「お、おおおお義母様!?」
「あら、ミシェルがミシェルって呼ばれるんなら私だってロゼンダって呼ばれたいわね?」
カメラに入ってくる妙齢の女性。それはカメラの向こうのミシェルの実の母親であり、シャルロットにとっては義理の母親であるロゼンダ。彼女は悪戯っぽく笑いながらそんな事を言っており、シャルロットはあわわわわと唇を震わせていた。
「ミ、ミシェルさん、なんで、二人っきりって……」
「あれ? 俺は二人っきりの時ってお互いなんて呼ぶんだったか確認しただけなんだけど? どうしたんだい、シャルロット?」
「っーーー!!!」
ニシシと悪戯っぽい笑みを浮かべるミシェルを見てからかわれたと気づいたシャルロットの顔が湯気が出そうなくらいに真っ赤に染まりあがる。
今すぐ電話を切ってベッドにダイブしてバタバタと暴れたい衝動に駆られるが、こっちは早朝相手は夜中の数少ない通信のタイミングを不意にしたくもなく、彼女ははぁふぅと荒い深呼吸を行って必死で平静を保つ。
「と、ところで、昨日は色々ありましたけど……今日からターゲットに接触する予定です」
「頑張ってくれ。ああ、父上は忙しくて来れなかったけど、シャルロットを心配してる事だけは伝えてくれってさ」
シャルロットの言葉にミシェルがそう父親からの伝言を伝え、次に頬をかいて照れくさそうに笑った。
「それに、我儘を言うなら俺だって心配っていうか……相手は男なんだろ? シャルロットが一人で大丈夫かどうか……」
「ターゲットと同い年でIS学園に入学できたのは私しかいないでしょ? 私だって皆の力になりたいんだから」
ミシェルは
時は数ヶ月ほど遡り、それはフランスにあるデュノア社の社長室にデュノア家が全員集合しての事だった。
「──というわけだ。日本で男性のIS操縦者が発見され、IS学園に行く事になったらしい」
「上手くその者とコンタクトを取り、生体データを入手できれば男でも使えるISを開発できるかもしれない、というわけですか? お義父様」
デュノア社社長──アルベールの言葉にシャルロットが尋ねると、アルベールは「もちろんそれが最善だ」と頷いた。
「とはいえ、我がデュノア社の関係者で今年IS学園に合格したのはシャルロット一人」
「あはは……私もフランス代表候補生としてのフランス政府からの推薦とデュノア社の立場の後押しみたいなものですが……」
「無論、二年生や三年生にもデュノア社関係者はいなくもないが、学年が違えばコンタクトは難しいだろう……そこでシャルロットにはその男、須藤成志にコンタクトを取ってもらいたい」
アルベールの言葉にロゼンダが「お待ちなさい」と待ったをかける。
「アルベール、目的を先に述べなさい……もしもシャルロットが望まぬことを強要するのなら……そうですね。
「いや落ち着いてくれロゼンダ。何もシャルロットにその男への色仕掛けをしろなどと命じる気はないないったらないんだミシェル頼むから拳を下ろしてくれ」
ロゼンダの言葉にアルベールが返すが、その内容を聞いた途端シャルロットが顔を赤くし、ミシェルが感情の消えた顔になって拳を構える。それを見たアルベールが真っ青になって首を横に振り始めた。心なしか涙目になっている。
そしてロゼンダがミシェルに目配せし、彼がこくりと頷いて拳を下ろしてから、アルベールはごほんごほんと咳払いをして改めて話し始めた。
「もちろん生体データが入手できればそれに越したことはない。が、これは無理をして手に入れるほどの物でもない。コンタクトを取った結果、我がデュノア社への協力を約束させる。あるいはデュノア社で開発した装備のモニターにでもなってくれれば上々だ」
世界唯一の男性IS操縦者という放っといても目立つような者が使用する装備となれば広告効果は抜群だろう。逆にそんな相手に下手をして、世界中が欲しがっている彼の生体データを抜け駆けして奪おうとしたなんて知られればデュノア社の看板に傷がつく可能性がある。
加えて世界初にして唯一の男性IS操縦者となれば専用機が貰えるのはほぼ確実、装備の支給がどうなるかは賭けになるが、それでもデュノア社の最新装備となれば使用してもらえる可能性は高いしこちらなら交渉に失敗してもそこまで痛手ではないと彼は踏んでいた。
危険な橋は渡らず確実に利を取りに行くという社長としての冷静な判断にロゼンダがふむと頷き、ミシェルも興味深そうに耳を傾けていた。
そんなデュノア社家族会議兼自身のIS学園での目的の一つを思い返しながら、シャルロットはぐっと拳を握る。
「このためにリヴァイヴには私が普段使用する用の装備以外にデュノア社の最新装備をたくさん搭載してきたんです。なんとかモニターを引き受けてもらいます」
「頑張ってくれ。だけど無理はするなよ?」
「ありがとうございます。お義兄様」
「気をつけてくれ。世界で唯一の男性IS操縦者だかなんだか知らないが、もしもお前が傷つけられたら俺はそいつを殺さない自信が無い」
「お義兄様、冗談に聞こえないです」
ミシェルがこちらを案じてくれているのを察したシャルロットがえへへと笑って返すが、その次の言葉には初めて会った日が父親を(男として)殺そうとしていた時だったのを思い出して真顔で答える。次に見えたミシェルやロゼンダの含み笑いに「冗談ですよね!?」と必死で続けていた。
それから少しばかり雑談に興じた後、ちらりと時計を見る。
「あ、もうそろそろ時間だ。ごめんなさいお義兄様、お義母様。通信切りますね?」
「ええ。また次の定期連絡、楽しみにしてるわ」
シャルロットの方も時間のない朝、あまり話を長引かせる事は出来ず、ロゼンダは頷くと含み笑いをしながら先にその場を離れていく。ミシェルはそれを見て曖昧な微笑を浮かべた後、シャルロットの方を向いた。
「あー……それとだな、シャル」
「……どうしたんですか、ミシェルさん?」
今度こそ二人っきり、ミシェルが呼ぶ彼女の愛称にシャルロットもそれを察してさっきは騙されてロゼンダの前で言わされた彼の名を呼ぶ。ミシェルは照れたように頬をかいた。
「今度、学校が休みの頃合いに仕事を休んで日本に旅行に行こうと思ってるんだ……それで、シャルに日本を案内してもらえれば嬉しいと思ってな」
「! はい! いいところ探しておきます!」
つまりデートの誘いだ。シャルロットの瞳が輝き、早朝にも関わらずつい大声を出してしまう。近くのベッドから「うぅっ」と呻き声が聞こえた。
「じゃあ頑張ってくれ。身体には気をつけてな……愛してるよ、シャル」
「っ!」
最後に不意打ちでくらった置き土産にシャルロットは顔を真っ赤にして硬直、ミシェルがしてやったり顔をしながら通信を切るのを見ながら、彼女はうぅ~と呻き声を漏らす。
「メイド服も……ナース服も着てやる……だから、写真に……記録に残すのだけは、やめてくれ……壱花……」
彼女の近くにあるベッドでは銀髪ロングの美少女──ラウラ・ボーデヴィッヒが相変わらずうなされていた。
「俺は主人公なんだ、成功が約束された真の主人公だ……主人公補正がないなんて信じるものか……」
少し時間が過ぎて登校時間。この世界線において唯一の男性IS操縦者である少年──須藤成志は小声で何かをぶつぶつと呟きながら歩いており、その雰囲気に他の女子達は近寄りたくなさそうにさっと道を譲っている。
「あ、あの、おはよう」
「ん?」
そんな成志の異様な雰囲気にシャルロットも押されるが、これも仕事だと自分を勇気づけると意を決して彼に声をかける。しかし笑顔を作っているつもりの頬は引きつっており、いつでも逃げられるよう構えている辺りやはり怯えていた。
「須藤成志さん、ですよね? 私、三組のシャルロット・デュノアです。初めまして」
「シャルロット……なんでこの時期に?」
「え?」
シャルロットの挨拶を受けた成志が呆然と呟き、彼女が首を傾げるのを見ると彼はいやいやと首を横に振った。
「な、なんでもない。それより一体何の用事なんだ?」
「いえ、噂で一組のクラス代表を決めるために試合をするって聞いたんですが、須藤さんってISの初心者でしょう? 私でよければコーチをさせてもらえないかなって……あ、それと」
成志の疑問にシャルロットはすらすらと答えつつ、続けて準備していた用紙を彼に手渡す。
「こちら、現在
コーチの申し出とデュノア社から最新装備の支援。協力をお願いしたデュノア社関係者の先輩からの情報によると成志は打鉄を専用機として受領しているが装備は通常の近接ブレードとマシンガン程度とのこと。デュノア社の最新装備とは比べるべくもない。
そのカタログを見ていた成志もニヤリと笑みを見せた後、人当たりのいい笑顔になってシャルロットを見た。
「もちろん、喜んでお願いするよ」
「ありがとうございます。では続きはまた放課後にでも。アリーナは私が取っておきますね」
そう言ってシャルロットは三組に戻っていく。
(ヒヒヒ……なんでシャルロットが今の段階でIS学園にいるか知らないが、やっぱり主人公補正が消えたなんて嘘じゃねえか。シャルロットを俺のものにして、それからまたハーレム作りを再開だ!)
成志はそんな妄想を働かせながら一組へと向かい、教室内で既に来ていた壱花とセシリアに目線を向けた後、フンと鼻を鳴らして席についた。
「あー……なんか変な感じの人だったなぁ……」
一方三組に戻ったシャルロットは、成志を思い出しながらそんな事をぼやく。
「どうだった、シャルロット?」
そこに声をかけてくるのはルームメイトでありクラスメイトでもあるラウラ。ちなみに三組のクラス代表も彼女だが、シャルロットはやや人見知り気味の彼女の補佐を行っている。
事情を知っている彼女に、シャルロットは苦笑を見せた。
「なんだか一人でぶつぶつ呟いてて変な人だったって感じかな? でもいきなり右も左も分からないとこに放り込まれて不安なのかもしれないし」
「お人好しめ。ま、頑張ってみるといい。私に協力できる事なら協力するぞ……なんなら早速今日の放課後、練習に付き合ってやらんでもないぞ?……協力するぞ、するから……」
最初こそ胸を張ってフフンという様子だったが、続けて涙目になってどこか縋るような顔になる。
「ま、まあ……今日は基本動作の確認とちょっとした訓練程度の予定だから、協力してもらうまでもないっていうか……」
「シャルロットォ……」
「……頑張って、ラウラ」
ラウラの目が涙ぐみ、見た目通り小動物のような可愛さを醸し出す。そんな彼女が送る未来を考えたシャルロットはしかし慈愛の目を向けるのが精一杯だった。
それから時間が過ぎて放課後。シャルロットは一組の前で成志を待ち、余裕綽々で出てきた成志を見てにこりと微笑んだ。
「今日はよろしくね、須藤さん」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。シャルロット」
偉そうにふんぞり返る様子の成志にシャルロットは苦笑。
「ラウラちゃんどこ行くの? ラウラちゃん用の新しい衣装、家からたっくさん持ってきたからね!」
「くそう逃げられなかった! 待て壱花落ち着け! お前はクラス代表決定戦があるのではないのか!?」
「今日はアリーナが取れなかったから、明日から今日の分までバシバシ練習するよ! だから今日はその分ラウラちゃんを可愛くしてあげるね!」
「セシリア! 鈴! 簪! 助けてくれ!!」
「……私達が言った程度で壱花さんが止まるのならば苦労はしませんわ」
「ええ。そんなの無駄だってあんたもよく知ってるでしょ?」
「安心して……せめて法に触れないようにはさせるから」
「ラウラちゃんは本当にちっちゃくて可愛いから服の着せ甲斐があるよ! さあ私の部屋に行こう! 撮影の準備も出来てるからね!」
「頼むから撮影だけは勘弁してくれー!!」
三組の前でそんなドタバタが起きながら親友が連行されていくのを背中越しに感じ、シャルロットは遠い目をしながら成志に目線を向ける。
「じゃ、じゃあ、行きましょうか?」
「ああ」
シャルロットが促し、成志は彼女を侍らすように歩き出す。
それから彼女らがやってきたのは第一アリーナ。同じアリーナで訓練している生徒達は「あ、あれってデュノアさん……」「デュノア社のお嬢様なんだって……流石、気品が分かるなぁ」とシャルロットに見惚れており、しかしそんな視線を何か勘違いしているのか成志は自分が注目されているかのようににやついていた。
「じゃあとりあえず、まずは装着と起動からやってみましょう。その後は歩行とかの基本動作に移ってみましょうか」
「ああ」
シャルロットの言葉を聞いた成志がにやつきながら、右腕につけた鉄のような光沢を見せる腕輪──打鉄の待機形態を手で撫でる。シャルロットも苦笑しながら、首に下げたオレンジ色のペンダントトップ──ラファール・リヴァイヴの待機形態を見下ろす。
彼女が微動だにせずに心の中で「展開」と念じるだけで彼女のオレンジ色の身体を光の粒子が覆う、そして一秒すら経たずに彼女の身体を橙色の
「ふふふ……はー、おりゃーっ!!」
得意気に笑いながらの成志が雄叫びを上げながらポーズを決め、それから数秒ほど置いてやっと彼も専用機である打鉄を装備した。
「えーと……まあ、問題なく装着出来たからいっか。じゃあ次は歩行ですね、大体は普通に歩く感じでいいと思いますけど、脚部装甲分足が長くなってたりして普段とは歩幅が違うからバランスを崩さないように気を付けてください」
そう言ってシャルロットは成志の前に立つと、後ろに人がいないかをハイパーセンサーで確認しながら後ろ歩きで歩き始める。それを追うように成志はややたどたどしく歩きながらシャルロットを見た。
(胸は装甲が邪魔でよく見えないな……ま、代わりに腹が丸出しになってるけど……)
シャルロットの胸部は、原作とは違って女性として入学しているため隠す必要のない巨乳が白い装甲で覆われている。しかし代わりに腹部は陶磁器のように美しい白色の肌が覗いており、そちらにちらりと目を向けるとわざとらしく足をもつれさせる。
「うわっと!?」
「危ない!」
前に倒れる成志を咄嗟に受け止めるシャルロット。しかし受け止めようとした手は成志の腕が払いのけ、シャルロットが「ふえ?」と妙な声を上げた時には成志の身体はシャルロットにダイブしていた。
(おーシャルロット、いい匂いだ。エネルギーシールドや絶対防御も匂いまではカットできないんだな……)
(ひっ!?)
本音を言えば胸に顔を埋めたかったが装甲で阻まれるため仕方なく首元に顔を近づけ、どさくさに紛れて匂いを嗅ぐ。その行動にシャルロットは怖気を感じたように顔を青くするとすぐさま成志の肩を掴んで自分から引き剥がすようにどかせた。
「あ、あーえっと……大丈夫? 怪我はない?」
「ああ、心配かけてすまないな」
とりあえず誤魔化すシャルロットと満足したのか上機嫌に笑う成志。その笑みに合わせるように引きつった笑みを返していた。
「そ、それじゃあ、今日はとりあえず歩行と少し浮遊訓練をやってみましょうか?」
シャルロットが提案して訓練が再開される。
しかし訓練では成志がもはやわざとではないかと思えるほどに歩行しては転んだり浮遊してはバランスを崩して落下してシャルロットの身体の感触を楽しんだりしており、訓練が終わった頃のシャルロットは心労でくたびれてしまって、部屋に戻ったらこちらも壱花の着せ替え人形にされたらしくぐったりしていたラウラでさえ心配そうな目を向けてしまうほどだった。
それから放課後、流石に毎日アリーナを借りるのは不可能なため射撃武器の練習の時は射撃場、近接武器の練習の時は体育館の一角を使わせてもらっての練習が続くのだが──
「なあシャルロット、アサルトライフルの構え方分からないからさ、もうちょっと教えてくれないか? こう後ろから手を回してさ」
射撃訓練ではわざとらしく構えを間違える成志の矯正のために、成志の後ろから抱きつくかいっそ覆いかぶさるような格好で、しかもそのせいで大きく膨らんだ胸が成志の背中に当たり、成志はまるでその感触を楽しむように身体をゆすったりにやついたりし、
「おらおらどうしたんだシャルロット! 防戦一方で手も出せないか!」
近接武器の訓練ではやたらめったらと訓練用の竹刀を振り回しながら得意気に笑う成志を前に、シャルロットは一応安全のため防具を付けているものの当たるとは到底思えないそれをひょいひょいとかわしながら、面で顔を隠しながらはぁとため息を漏らす。
しかも大振りを回避した時に僅かにでも胸が揺れると成志の目線はそっちに向くし、時々スポーツとかの試合では悪質とも思えるタックルを無理矢理に仕掛けて押し倒してきながら、さりげなく(と成志本人は思ってるだろうが)胸を触ったり酷い時は揉んでくるセクハラまで仕掛けていた。
もうわざとだとは分かっているが、
「ただいま~……」
寮室に戻り、はぁとため息をつきながら挨拶するシャルロットの顔は仕事に疲れたOLのようで、しかしそれに返す声はなく、その代わりというようにラウラが誰かと話している声が聞こえてくる。
「あれ? ラウラ、誰か来てるの?」
その声に気づいたシャルロットもすたすたと部屋に入っていく。
「ええ。あの須藤成志という男、とんでもない俗物です……これはドイツ軍
「なるほど……ありがとう、ラウラさん。シャルロットは我慢強いから、こういう事聞き出せなくてね」
「いえ。こちらもシャルロットが会社のためにと無駄に我慢し続けるのはよくないと思ってますので」
そこにはラウラが勝手にデュノア社との通信用プロジェクターを作動させてミシェルと会話している光景があった。
「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉぉぉ!!!???」
それを見た途端シャルロットはラウラとプロジェクターの間に飛び込んでいた。
「ラウラ何やってるの!? っていうかなんでプロジェクター動かせてるの!? パスワード設定してたはずなのに……」
「フッ、特殊部隊を舐めるな。この程度軽いものだ」
「というか、なんでラウラとお義兄様は普通に話してるの!? 二人って面識ないから連絡取りようがないよね!?」
「ああ。お前が眠ってる隙にスマホからミシェルさんの連絡先を盗ませてもらって、諸々事情を説明してアポを取った。パスワードを指紋認証だけにするのはやめた方がいいぞ。あと“未来の旦那様♡”という登録名もどうかと……」
「余計なお世話だよ!!!」
ラウラのしれりとした言葉にシャルロットも次々とツッコミを入れていく。
「シャルロット」
しかしそれを遮るように、ミシェルの強い口調が聞こえてきた。
「俺は言ったはずだよな、無理はしないでくれと」
「う……いや別に、無理をしてるつもりは……」
「それならなんでセクハラを受けてるなんて言わなかったんだ? 相手がそんな男だと知っていたらこっちだってこの計画は考え直すよう父上に進言していたぞ」
女性社会であるIS社会で女性にセクハラを仕掛ける男など囲い込めば逆に女性から嫌われてこっちまで飛び火をくらう可能性がある。抜群の知名度は悪い方向に転がる事もある、と語るミシェルにシャルロットは反論できずにうつむいていた。
「ま、とはいえ。ラウラさんから聞いたがそのクラス対抗戦とやらを直前に控えていきなり支援を打ち切るのは逆にデュノア社の度量が低いと思われそうだ……とりあえずそのクラス対抗戦とやらまでは支援を続けてやってくれ。それからはこっちが適当に理由をつけて支援の終了まで持っていく」
「は、はい……」
愛する妹であり未来の嫁を穢されて怒っているのだろうかどこか刺々しい口調。しかしそんな私情をさしはさむ様子はなく、あくまでも人格的に問題がありそうだから、試用期間のみで支援を打ち切る方向に話を持っていこうとしているミシェルにシャルロットは小さく頷いた。
「まあ、話としてはそんなところか。ラウラさん、良ろしければシャルロットをよろしく頼みます」
「言われずとも」
「っていうかラウラ、なんで私がセクハラ受けてるって分かったの?」
「気づいてなかったのか? 壱花達がアリーナで訓練を受けている日は陰ながらお前を見守っていた。あの男がシャルロットに取り返しのつかないことをしようとすれば即座に殴りこむためにな」
「うそー……」
アリーナ以外での訓練時は生身での接触になるため我慢で精一杯になっていて全く気付いていなかった。とシャルロットは驚いていた。
「シャルロットの友達とも話が出来て有意義だったよ。じゃあ通信を──」
「お坊ちゃま! 大変です!!」
ミシェルが通信を切ろうとしたその時、部屋に初老の男性──デュノア家の執事だ──が飛び込んでくる。
「お、奥様が、怒り狂った顔でデュノア社に向かったそうで……メイド達からの報告によると“私の可愛い可愛いシャルロットを傷つけた男をぶっ殺してやる!”と言っていたそうで……」
「「「はああああぁぁぁぁぁ!!??」」」
執事からの報告を受けたミシェル、シャルロット、ラウラの叫びが重なる。どうやらラウラの報告を盗み聞きしたらしい、と推測する彼女らだが、そこにミシェルのスマホに電話が着信する。
「父上、まさか──」
「ロゼンダが、ロゼンダがコスモスに乗り込んでIS学園に行くと騒いでいるんだ! 今すぐシャルロットに連絡を取ってくれ!!」
デュノア社で鋭意実験段階の第三世代機コスモス。もちろん動かす段階に至っていないそれを使うと言い出している辺り余程冷静さを失っていると見える。
流石のミシェルも顔を青ざめさせ、彼はゆっくりとモニター越しのシャルロットを見るようにこっちを向いた。
「シャル、今から俺もデュノア社に行くから。いつでも電話をかけられるよう準備しておいてくれ」
「わ、分かりました! 急いでください!」
このままではIS学園とフランス及びデュノア社との国際問題に発展しかねない。通信を切る間も惜しんで走り去っていったミシェルを見送った執事が、モニター越しのシャルロット達に一礼して通信を切る。
「……すまん、シャルロット。軽率だった」
「ううん、ラウラは私のためにやってくれたんだもん……お義母様がそうなるなんて予想できなかったよ……」
軽率に連絡を取ったせいでロゼンダの暴走を引き起こしたかもしれないと落ち込むラウラに、シャルロットは自分の心配をしてくれたのだからとラウラを元気づけつつ、まさかIS学園に殴り込みをかけようとするほどにロゼンダが暴走するとは思いもしなかったと呆れてため息を漏らす。
本当にセクハラがまだ冗談で済む辺りで報告して、ロゼンダの怒りが小さく治まるようにしておくべきだったかなと考えるシャルロットのスマホが、着信音を奏でて震え始めた。
実はこのお話、前に私が書いた「拝啓、お母さん。私、とても愉快な家族に引き取られたみたいです」と世界線を共有しているという設定があったんですが、本編ではどうしてもミシェル達デュノア社関係者どころかシャルロットすら出すタイミングがなく、泣く泣くお蔵入りしたんですが……。
クラス代表決定戦までの間に一夏でいう箒のような成志のコーチ役に要領よく就任したシャルロットが、主人公補正を失くした成志にガチでキモがったり、成志のセクハラを聞いたロゼンダがブチギレてテスト中のコスモスに乗ってIS学園に殴りこもうとする場面を眠らせるのは勿体ないなぁと思って、今回特別編として書かせていただきました。
なおさらっと流しましたがミシェルとシャルロットは婚約者になっています。え、二人は父親が同じですって?公的にはシャルロットは父親不明のシングルマザーの娘扱いだから問題ありません!(雑)
え、養子になった義理の兄妹が婚約者になれるのかって?その場合は養子→婚約ではなく婚約した結果として養子入りしたみたいな感じに因果を捻じ曲げます!(雑)
ちなみに今回原作では転入組のラウラやモブレベルですが鈴もしれっと登場。つまり本作では原作メインヒロインは全員入学時からIS学園に在籍しており、
一組:壱花、箒、セシリア、本音
二組:鈴
三組:シャルロット、ラウラ
四組:簪
という感じに割り振られているという設定です。ちなみに三組のクラス代表は実力でラウラ、ただし本作のラウラは原作初期のドイツの冷氷状態よりはマシですがやや人見知りレベルの対人性能で、シャルロットが対人関係のフォローのためクラス代表補佐をやっているという設定があります。これ以上書く事ないから裏設定止まりですけど。
そして本当にもう終わりの予定です。少なくともこれ以上書くネタがありません。クラス代表決定戦とか成志が逆無双されるしかなくって話の膨らませようが……。
まあそんなわけでご読了ありがとうございました。また次回作などあれば、その時はまたよろしくお願いします。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。