インフィニット・ストラトス~彼から主人公補正が消えた話~ 作:カイナ
「ふんっふふんふふ~んっ♪」
ある連休の一日。シャルロットは上機嫌に鼻歌を歌いながら、白色のノースリーブポロシャツと青色のショートパンツに身を通し、髪の一本一本が金糸のように美しいロングヘアを後ろで一本にまとめると部屋に備え付けている姿見を使って、クルクルと回転しながら服や髪型に変なところはないかと念入りに確認を行っていた。
「ラウラ、大丈夫かな? 変なとこない?」
「ああ、大丈夫だ……」
シャルロットの問いにラウラがため息交じりに答える。さっきから数分おきに姿見で服装や髪形等の確認をしては大丈夫かと聞かれ、ラウラもいい加減辟易していた。
「それはそうとシャルロット、そろそろ出かける時間じゃないか?」
「あ、そうだね。ありがとラウラ」
ラウラの時計を見ながらの言葉にシャルロットも時計を確認して頷き、お出かけ用のカバンを手に取ると「行ってきまーす」と言葉を残して部屋を出て行く。その時彼女の右手中指に付けられている指輪がキラリと光った。
シャルロットが出て行って少しタイミングを置き、間違いなく行ったと確認してから、ラウラは己のISのプライベートチャネルを開く。
(もういいぞ)
送るのはたったそれだけ、だがそれだけで充分。数分とかからず彼女の部屋に織斑壱花、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音が集合した。
「ねえねえラウラ!」
集合早々壱花が目を輝かせる。普段ラウラを着せ替え人形にさせる時にワクワクしている目と同種の輝きに、ラウラは反射的に身構えそうになるも、今回はそれとは違う意図の言葉を彼女は発する。
「早くシャルロットを追いかけなきゃ!」
時は数日遡る。ある日の放課後、暇だからと壱花の部屋で集まってカードゲームやお喋りなどに興じている中、突然シャルロットの電話に着信。着信相手を見て頬をほころばせたシャルロットは「ちょっとごめんね」と言い残してその場を離れ、会話を聞かれたくないのかシャワールームに繋がる洗面所に入っていく。
「何かしら?」
「多分ミシェルさんですわ。あ、鈴さん。私ツーペアです」
「うげ、ワンペア……」
ベッドに寝そべってポーカーをしている鈴は首を傾げながらシャルロットが入っていった洗面所を見て首を傾げ、彼女と同じベッドにぺたりと座っているセシリアが事情を知っているのか事もなげに言いながら、ツーペアが成立している手札を見せる。鈴はうげっと声を漏らして、ぽいっと自身のワンペアが成立している手札を放り投げた。
「ってか、ミシェルって誰?」
「デュノア社はご存知ですわよね?」
「とーぜんよ、フランスの大手IS開発メーカー。シャルロットの実家が経営してる会社じゃない」
セシリアの促しに鈴はふんと鼻を鳴らす。トランプに飽きたのか続きをする様子もなくベッドの上でゴロゴロを開始した。どこか退屈そうな彼女の姿を見たセシリアはくすくすと、これから口にする言葉の結果を思って笑う。
「ミシェルさんは、シャルロットさんの恋人ですわ」
「「「はぁ!!??」」」
その言葉に反応するのは鈴だけではなく、近くのテーブルに陣取って剣術談議という花の女子高生がするには少しばかりずれた話題に花を咲かせていた壱花と箒もだった。
なおラウラは事情を知っているのか無視しながら、もう一つのベッドで寝転がってIS装備カタログというやっぱり花の女子高生が見るには少しばかりずれた雑誌を真剣な目で見つめていた。その脳内では己の専用機シュヴァルツェア・レーゲンがそれを装備したISと戦った場合のシミュレーションが行われている事だろう。
「なになにセシリア!? シャルロットって恋人いたの!?」
途端に目をキラキラさせて食いつく壱花。彼女もやはり恋に興味のある花の女子高生なのだろう。予想通りの展開にセシリアはくすくすと笑った。
「ええ。ミシェル・デュノア。デュノア社現社長、アルベール・デュノアの長子です」
「……ん? それはおかしくないか?」
セシリアの言葉に箒が首を傾げる。ミシェルはデュノア家の息子、シャルロットもデュノア家の娘、つまり二人は兄妹ということだ。それが恋人というのは彼女の価値観では些か繋がらず、彼女の中で「もしやフランスでは兄妹が恋人になるのもおかしくないのか?」とずれた答えが出されようとしていた。
「えーと、これ以上はシャルロットさんのプライバシーにも関わるのですが……」
セシリアとしてもちょっとびっくりさせたかっただけでシャルロットのプライバシーに関わるものをおいそれと明かすわけにもいかないと困り出す。するとちょうどいいタイミングでシャルロットが洗面所から出てきた。そのほわほわとした幸せそうな顔は周りに花をまき散らしているような幻覚さえ見せそうなほどだ。
「あ、シャルロットさん。お相手はミシェルさんでしたか?」
「え~うん~そうだよ~」
「えっと、ミシェルさんとシャルロットさんの関係を壱花さん達にお話したいのですが……」
「別にいいよ~。ミシェルさんとの関係知られたら大体話すことだし~。セシリアに任せるね~」
夢心地の顔でにへへぇと笑うシャルロット。ラウラが寝転がっているベッドに転がり込んで――ちなみに元は壱花のベッドらしい――枕を抱いてゴロゴロ転がり始め、止めても無駄と悟っているのかラウラはめんどくさそうにそのベッドから脱出すると隣のベッドに座って再びカタログを眺め始めた。
「話を戻しましょう。まず、ミシェルさんとシャルロットさんはご兄妹ではあるんですが、実の兄妹ではないんです」
「義理の兄妹ってこと?」
「ええ。シャルロットさんの実のお母様が、Mr.アルベールの伴侶であるMrs.ロゼンダの古いご友人で、その方が亡くなられたのを知ったMrs.ロゼンダがシャルロットさんを引き取ったそうですわ。シャルロットさんの実のお父様はシャルロットさんが生まれる前に既に亡くなっていて身寄りがなかったそうなので」
セシリアが話すのは若干真実ではない表向きの話。実際はシャルロットの実の父親はそのアルベールなのだから。
「最初はミシェルさんともただの兄妹という関係だったそうですが。いつしか二人は愛し合って恋人になり、今は正式に婚約もしているようですわ」
「ロマンチックな話だね~」
セシリアの説明に壱花は羨ましそうに頷く。
「でもさ、義理の兄妹って結婚できるの?」
「……そこは気にしない事にいたしましょう」
そこに鈴がぶっ込むが、セシリアは真顔で首を横に振るのだった。
「それにしても……あのシャルロットがこうまでなるとはな……」
「そのミシェルってやつ、そこまでなの?」
箒が、ベッドに寝転がって枕を抱きしめ、幸せそうな笑顔で花を舞い散らせながらゴロゴロと転がっているシャルロットを見てぽつりと呟く。
クラスこそ違うが、真面目で気立てがよく誰にも分け隔てなく接する優しい女子。というのが同学年の女子共通してのシャルロット・デュノアへの評価である。なにせ世界唯一の男性IS操縦者であり、現在様々な女子に言い寄ってはセクハラ染みた行為を行っている問題児――須藤成志にも、その本性が知られる前とはいえコーチを買って出た事さえあるほどだ。ちなみに現在はセクハラを理由にコーチを辞任、懲りずに言い寄ってくる成志を完全に無視している形になっている。
そんな彼女のいつもなら絶対に見ない姿に驚いている驚く箒や鈴の姿にセシリアはふふっと微笑んだ。
「ええ。私も欧州連合の集まりで何度か顔を合わせた程度ですが、彼に会うまでは見た事がないと言ってもいい、女性に対して礼儀正しく、かつ卑屈というわけではない男性。前時代の紳士というのはまさしく彼の事を言うのでしょう」
セシリアもそう、自らの知るミシェル・デュノアという男性を評価していた。
「セシリア」
そこにそんな、まるで地の底から怨霊が生者を呼び込もうとしているかのようなおどろおどろしい声が聞こえてきた。その声にビクリと怯えたように反応して声の方――シャルロットが寝転がっていたベッド――を見る壱花達。
そこには普段はキラキラとしたアメジストを思わせる美しい瞳から光を消し、むしろどす黒い何かを発していそうな気さえする目を見開いたシャルロットがベッドから起き上がり、一切の感情が消えた顔でこちらを見ている不気味な光景があった。
「ミシェルさんは私の婚約者なんだよ? それを奪おうって言うのなら……セシリアでも容赦しないよ?」
「とっ、ととと当然ですわ! このセシリア・オルコット、心の底からシャルロットさんとミシェルさんの恋を応援しておりますわ!!」
「そ、そんな事よりシャルロット! そのミシェル……さんからの電話ってなんだったのよ?」
シャルロットの声に震えだしたセシリアは慌てて別にミシェルを奪うつもりなんてないと公言してシャルロットを落ち着かせ始め、鈴も声を震わせながら話を逸らそうと試みる。
その話題選びは正解だったか、シャルロットの瞳に光が戻り、彼女はへにゃ、と頬を緩ませた。
「それがね。今度の日本での日曜日、ミシェルさん……お義兄様が日本に来ることになったからデートしようってお誘いがあったの」
「それはよかったですわね。ですがミシェルさん、学校はよろしいのですか?」
「ほら、もうすぐ学年別タッグトーナメントが始まるでしょう? デュノア社からはお義父様とお義母様……もとい、社長と副社長が直々に視察に来ることになってて。その間日本で宿泊するホテルやその周辺の下見をお義兄様がする事になったの」
「ほえ~……さっすがデュノア社。そんな事まですんのね……」
学年別タッグトーナメント。三年生は将来のスカウト、二年生は一年間の成長の確認、一年生は将来有望な掘り出し物を探す。と各国政府や企業、研究者、そして生徒にとっても重大なイベント。
より実戦的な戦闘経験を詰むためという名目により急遽タッグを組む事を通達されているが、彼女らは既に壱花と箒、鈴とセシリア、シャルロットとラウラでタッグを組むことになっている。
ちなみに成志は普段のセクハラ癖や傲慢な言動がたたってか女子は誰もタッグを組もうとせず、むしろ言い寄られないためや誰ともタッグを組めなかったせいで最終的に抽選に持ち込まれて強制的に彼とタッグを組まされるのを嫌ってか、普段関わりのない女子同士でも積極的に会話、タッグを組み始めている結果になっている。
そんなタッグトーナメントにある意味で関わる件についてのシャルロットの説明曰く、IS開発においては大手と言っていいデュノア社の社長と副社長という要人の安全を確保するための現地の下見ということらしい。それに鈴が大企業ともなると違うわね~とぽかんと口を開いた。
「あはは、やだなぁ鈴。そんな素直に受け止めちゃって」
しかしその反応にシャルロットはけらけらと笑って返した。
「そんなのお義兄様が日本に来るための口実に決まってるじゃない」
「「「……は?」」」
その言葉に呆けた声で返すのは鈴、箒、壱花の三人。するとセシリアがくすくすと笑った。
「その通りですわね。本当に安全確認のための下見でしたらミシェルさんが行うわけがありませんわ」
セシリア曰く、ミシェルは立場上はただの高校生。ホテルや周辺の下見で安全確認を行うなんて出来る知識や実力はないし、むしろデュノア家社長子息と考えれば彼も要人の一人。そんな任務を行うには誤った人選であると言えるだろう。
「下見ならデュノア社の警備部門が行う予定になってて、お義兄様はそれに同行するって建前で日本に来ることになってるだけだよ。日本に来たら実際は別行動」
「……それ、いいのか?」
シャルロットの説明に箒が頬を引きつかせながら聞き返すと彼女は無言で首肯。むしろ「坊ちゃまお嬢様頑張ってください」と、デュノア社社長子息と社長令嬢の恋は社員一同からめっちゃ応援されているらしい。
「そういうわけで私準備しなきゃ。皆またねー」
そう言ってふんふん鼻歌を歌って部屋を出て行くシャルロットを、壱花達は興味深そうな目で見送ったのだった。
そして話は冒頭に戻る。
「ふんっふふんふふ~んっ♪」
鼻歌を歌ってルンルン気分で街中を歩くシャルロットの後ろをサササッと、シャルロットのデートを見たいと一致団結した壱花達が追いかける。
もちろん彼女らも全員私服姿で、壱花は白色のシャツに青色のどこかジャージを思わせるデザインの上着を羽織って黒色のブルマにも似たショートパンツを履き、スポーツキャップを被っている。箒はノースリーブのブラウスに青いショートパンツにニーソックスで絶対領域を演出、加えて変装といえばという事かベレー帽に伊達眼鏡をかけている。セシリアは薄紫色のワンピースに白い上着を羽織った令嬢風。鈴はへそ出しキャミソールという露出の激しい格好に上着を羽織っている。ラウラは黒色のミニスカート系ワンピースに黒色のミュールという可愛らしい格好だ。
上機嫌な美少女を国際色豊かな美少女達が後をつけるという光景は目立つのか周りがヒソヒソ言っているが、シャルロットのデートを尾行するのに夢中になっているのか彼女らは誰も気にしていなかった。いや唯一ラウラだけは度々呆れたようにため息をついている辺り、彼女だけは気づいているが目をキラキラさせたり口元がニヤニヤしている面々を相手にツッコミを入れられない感じである。
そんなこんなの追跡劇の末、シャルロットは待ち合わせ場所である駅前へとやってきて、きょろきょろと辺りを見回すとすぐにぱっと顔を輝かせた。
「ミシェルさん!」
「ああ、シャル」
彼女の呼び声に答えて静かに手を振るのは銀色の髪をショートカットにした鋭い目つきの青年。
白色のシャツに黒色のカジュアルなノースリーブスーツとそれに合わせた黒色のズボンはシンプルながらお洒落な雰囲気を見せており、鋭い目つきの中にキラリと光る黄色の瞳はトパーズの宝石を思わせる輝きを秘めている。
その顔立ちもイケメンと評価できるレベルであり、物陰に隠れながら彼の姿を見た壱花や箒、鈴は「ほぉ~」と口からため息を漏らしていた。
「お待たせしました、ミシェルさん」
「そんな事ないよ。久しぶり、シャル。ちょっと見ない間に綺麗になったね」
「も、もう! からかわないでください! 昨日テレビ通話したばっかりじゃないですか!」
ニコッと微笑んで開口一番たらしこんでくるミシェルにシャルロットは恥ずかしそうに顔を赤くしながら両腕をパタパタと上下させる。
「ところでシャル」
そこでミシェルが困ったように、彼女の背後に、その先にいる者には気づかれない程度に視線を向ける。
「あれはお友達? セシリアさんとラウラさんは見た事あるんだけど」
「……あ、はい」
ミシェルはシャルロットの背後でこちらを伺っている壱花達を、壱花達に視線を気づかれないように見ながらシャルロットに尋ね、シャルロットもこくんと頷く。
実はシャルロットもこの視線に気づかないわけはなく、既に気づいていたのだが無視する事にしていただけである。
「ごめんなさい。多分ミシェルさんを見てみたかったんだと思います」
「ははは、そうか。また後で挨拶でもしようかな……まあ、それはそれとして――」
申し訳なさそうに頭を下げるシャルロットに対してミシェルは穏やかに笑い、シャルロットの隣に自然に立って彼女の腰に手をやった。
「――デート、楽しもうね。シャル」
「あ、は、はい……」
まさか友達に見られていると分かった上で大胆に接してくるとは思わなかったのか、シャルロットはかぁっと顔を赤くしながらなんとか頷くのが精一杯だった。
それから二人がやってくるのは市内にある水族館。水槽の中を見やすくするためか薄暗い通路を仲睦まじく歩く美男美女は目立つのか周りの客は水槽の魚よりも彼らに注目しており、シャルロットは注目されるのが恥ずかしいのか顔を赤くしてうつむく。そんな彼女の姿がどこか楽しいのかミシェルはふっと微笑みながら彼女の手を取ってエスコートする。なおそんな二人の姿を後を追う壱花達は目をキラキラさせながら見守り、ラウラはやっぱり自分達も二人ほどではないがまあまあ注目されている事にため息をついていた。
「シャル、イルカショーがあるらしい。行ってみようか」
「は、はい!」
ミシェルのエスコートにシャルロットはガチガチになりながら頷いて、通路の案内に従ってイルカショーの会場へと歩いていく。壱花達も後を追った。
「皆さーん! イルカショーに来ていただきありがとうございまーす!」
イルカショーの会場。円形のプールとトレーナーが立つ舞台というオーソドックスな形のそこで、トレーナーらしい女性――金色の髪をポニーテールに結い、知的な眼鏡をかけ、白色の競泳水着を着たスタイル抜群の美少女――が手を振りながら笑顔をお届け、さらにショーに出演する四頭のイルカがキュイッと鳴いて挨拶する。主な客は子連れの家族だが、トレーナーのファンなのか男性一人の客もちらほらと見えていた。
それから前の席の方はイルカがジャンプした時に水がかかるかもしれませんから注意してくださいなどの注意などから始まってショーの幕が上がる。
「せーの!」
まずはウォーミングアップにビーチボールを投げるとイルカがそれを受け取り、ポンポンとヘディングしてトレーナーに返すキャッチボールからイルカショーは始まり、トレーナーの合図に合わせてイルカ達が整列し上体を起こした状態で泳ぐパフォーマンスなどが続く。
「そーれ!」
次にトレーナーがどこからともなくフラフープのような巨大な輪を取り出すとイルカの一頭に乗ってプールの真ん中へと移動し輪を掲げる。
「エカヒ、エルア、エコル! みんなー! いきますよー!」
トレーナーの指示を受けてイルカ達が順番にジャンプし、輪くぐりを開始。輪くぐりをするイルカはもちろん浮かんだ状態で体勢を維持するイルカとその不安定なはずのイルカの上に立つトレーナーの信頼関係もあって初めて成立するパフォーマンスに客から拍手が届く。
「えへへ……って、うわわっ!?」
嬉しそうに手を振って拍手に応えるトレーナーだが、その時彼女が足場にしているイルカが不自然に揺れ、トレーナーがバランスを崩してプールへと落下。しかしすぐに水上に上がってぷはっと息を吐いた。
「あはは。リースもお客さんからの拍手にはしゃいじゃったみたいですね」
失敗に照れたように笑うトレーナーに、足場になっていたリースなるイルカが彼女を乗せてプールサイドへ移動。彼女を舞台に上げる。子供達が笑顔になった笑い声が響き、大人の男達は濡れたせいで身体にぴたりと貼りついた水着から見える彼女の身体のラインに目を奪われ、周りの女性から白い目で見られ始める。
そんなこんなでイルカショーが続いていき、舞台に上がったトレーナーの下にエカヒ、エルア、エコル、リースの四頭のイルカが集合。
「では、最後にイルカさん達の大ジャンプでおしまいです。さあ皆、いきますよ!」
トレーナーの合図に合わせてイルカ達が同時に潜水。そして同時に天井まで届かん勢いで大ジャンプするとやはり同時に着水。ショー冒頭の注意のように観客席にまで水が飛び散るような豪快なパフォーマンスに観客からの拍手喝采を以てイルカショーは幕を閉じた。
イルカショーの興奮が残ってるのかはしゃぐ子供達や舞台袖に消えていくトレーナーを見送る大人の男性達を横にしながらシャルロットがほぉ、と息を吐いた。
「凄かったですね、ミシェルさん」
「あ、ああ。そうだな……」
隣に座るミシェルに笑顔で声をかけるシャルロットに対し、ミシェルは彼女から顔を逸らして返答。シャルロットが首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「シャル、胸元」
「ふえ?……!?」
きょとんとしたシャルロットにミシェルが口数少なく指摘し、その指摘通り少し視線を落としたシャルロットも顔を赤くする。さっきの着水時の水がかかっていたのか、彼女のシャツの胸元部分が少し透けていた。慌てて両腕で覆うように胸元を隠したシャルロットは焦ったようにミシェルを見る。
「み、み、み、見ました?」
「……すまん」
慌てるシャルロットにミシェルは申し訳なさそうかつ静かにそう言うと、突然自分が着ていたノースリーブのスーツを脱いで彼女に着せ、彼女の透けているシャツを隠す。
「この後は食事でもどうかと思ったが、その前に新しい服でも買おうか?」
「は……はい……」
流石に透けているというか濡れているシャツでずっといるのも居心地が悪いため、シャルロットも苦笑するミシェルの提案にこくりと頷いた。
それから二人は水族館を後にするとテキトーな服屋を見つけて入っていく。テキトーとは言ったがそこらのチェーン店や小さい店ではなく、割と入る人を選びそうな高級服屋に躊躇いなく入る辺りはミシェルの貴族オーラの賜物だった。
「あら、入りませんの?」
「え、えーと……」
「さ、流石にな」
「ちょっと気後れするわ」
後を追って躊躇いなく高級服屋に入ろうとするセシリアと何も気にする様子なくそれに続こうとするラウラだが、一般庶民の壱花、箒、鈴が気後れしているため入るのはやめて入り口周辺での待機に変更。
それからしばらく時間が経って二人は店を出てくる。ミシェルの格好は先ほどと変わっていないが、服を濡らしたシャルロットの服は黒色のミニスカートタイプのワンピースの上から紺色を基調に裏地は紅色、そして首元や袖口に黒いファーのついたコートを羽織っている。普段のシャルロットとは違う雰囲気を見せる服装になっていた。
「すまないな、シャル。オーダーメイドの服をプレゼントしてやりたかったんだが……」
「急なので仕方ないですよ」
さらりとオーダーメイドと言い出す辺りにミシェルの余裕が見え、シャルロットは苦笑交じりに仕方がないと彼を諌める。
「だが、よく似合っている」
「……あ、ありがとうございます」
しかし続けて褒められると彼女は照れたように頬を紅潮させ、それを隠すようにぺこりと頭を下げた。
それから二人は改めて昼食を取る場所でも探そうかと町中を歩き始めた。
「シャ、シャルロットじゃないか!」
「うげ……」
そこに突然男性が声をかけ、それを見たシャルロットが嫌そうな顔になった上に小声でだが「うげ」という声を漏らす。
「……彼はたしか」
「須藤成志です」
顔を合わせ、ぼそぼそとした小声で要点を纏めてその相手――須藤成志の情報を共有する。と言っても、須藤成志という個人名さえ分かれば相手がIS学園唯一の男子生徒であり、世界で唯一ISを操縦できる男性である事はすぐに分かることだった。
「こんなところで会うなんて偶然だな。これから一緒に遊びに行かないか?」
「あーごめん。私今デート中だから」
「は?」
ミシェルの事が目に入っていないのかいきなりナンパしてくる成志にシャルロットはけだるげなため息交じりに返答、その言葉を受けた成志の頬がピクリと引きつる。その成志からシャルロットを庇うようにミシェルが前に出た。
「どうも、初めまして須藤さん。シャルの婚約者のミシェル・デュノアと申します。いつぞやはシャルがお世話になったそうで」
「こ、婚約者だと……そんなもん原作に存在しなかったはず……」
にこりとイケメンらしく柔和な、それでいて相手を威圧する微笑に成志は一瞬圧され、ギリリと歯を鳴らす。
「何言ってんだよシャルロット、お前もデュノア姓って事はお前ら兄妹ってことじゃ――」
「私達は婚約者。そこから察してもらえれば助かるな。日本って察する文化があるっていうんでしょ?」
相手の痛いところを突いたつもりだろう成志の発言を遮って、シャルロットがミシェルの腕に抱きつく。どこから見ても仲の良い恋人といった姿で、成志はさらに怯む結果になった。
「シャルが貴方からセクハラを受けたという報告は、シャル自身のみならずデュノア社の社員関係者の生徒からも証言が上がっています。母……副社長からも学園に多少クレームが送られたと思いますが……」
成志からシャルロットへのセクハラを聞いたロゼンダが暴走してコスモスでIS学園に行くと言い出した件はどうやらクレームを送る程度で決着したらしい。そのクレームが原因できつく言われたのか、成志が「チクリどもが」とぼそりと毒づいた。
「これ以上シャルロットに不快な思いをさせるようなら、こちらも相応の手段を取らなければなりません」
どうやら
「主人公の俺に向けて偉そうなこと言ってんじゃねえぞモブがぁ!!!」
「! ミシェルさん!!」
成志が吼えると共に右手首につけていた鉄のような光沢を見せる腕輪が光りを放ち、彼をその光が包み込むと、成志は己の専用機である打鉄を装備する。さらに怒りで己のスペック以上のことを引き起こしたのか怒号を上げながら近接ブレードを展開すると躊躇いなくミシェルへと斬りかかる。
咄嗟にシャルロットがミシェルの前に出ながらラファール・リヴァイヴを展開するも、まさか専用機持ちが専用機を使って一般人に襲い掛かるなどというあり得ない事に呆気に取られて反応が遅れてしまい、武装の展開までは間に合わない――
「な……」
しかし成志は近接ブレードを振り上げた状態で動きを止める。いや、彼自身何故自分が動きを止めているのか分からないような表情を見せている辺り己の意志で止めている様子ではなく、むしろ彼はどうにか動こうと身体に力を入れている様子なのが歯を食いしばっている表情から分かる。
「無駄だ。停止結界は完全に貴様を捕らえている」
「ラウラ!」
そこにラウラが、金色に輝く左目――彼女の左目に移植された疑似ハイパーセンサーである
「動くな! って言ってももう動けないよね」
「専用機で一般人に襲い掛かるなんて馬鹿な真似してんじゃないわよ!」
「おとなしくしなさい。既にブルー・ティアーズが貴方を包囲しておりますわ」
続けてそれぞれ白式、甲龍、ブルー・ティアーズを展開した壱花、鈴、セシリアがそれぞれ剣、青龍刀、短刀を手に成志を包囲。さらに彼の頭上ではブルー・ティアーズの兵装であるBT兵器ブルー・ティアーズが彼に銃口を向けていた。さらにラファール・リヴァイヴを展開したシャルロットも物理シールドを手に包囲に参加する。
「ミシェル殿、こちらへ。皆さん、危険なので離れてください!!」
専用機を持たない箒も自分に出来ないことをしようとミシェルや周りの野次馬にこの場を離れるよう促し始めた。
「て、てめえら、よってたかって恥ずかしくねえのか!」
「あんたがいきなり町中で無許可IS展開なんてしたのが悪いんでしょうが!!」
「鈴、落ちつけ……須藤、五つ数えたら停止結界を解除する。おとなしく武装を
怒りに吼える成志に鈴も怒鳴り返す。そんな鈴をラウラが諌めて、冷静に成志に抵抗をやめることを命令。壱花達は流石代表候補生か一瞬の隙も見せず、成志はギリリと歯を噛みしめた。
「ふざけんな!! お前に命令される筋合いなんてねえ!! 大体お前らだってこんなの日常茶飯事だろうが! いつもいつも一夏を殴っといておとがめなしだっただろうが!!」
「はぁ? 何言ってんの?」
「緊急事態でもないのに無許可でのIS展開などやった覚えがありませんが……」
「私もこんな感じで殴られた事なんてないよ?」
きょとんと返す女子組に成志がぐぬぬと唸り声を上げる。抵抗をやめそうにないためラウラもAIC解除のカウントはストップさせた。
「皆、学校と連絡が取れた。山田先生と教員部隊がこっちに向かっているそうだ」
そこに周りの避難勧告を終えた後学校と連絡を取ったらしい箒が報告。自分達で成志を説得し武装解除させる事はできなかったが教師が来るなら安心だと皆頷きつつ、教師が来るまでの間成志が暴れ出し周りに被害を出させたりしないように、隙を見せずに成志を包囲し続けた。
「ふざけんな!! なんで俺がこんな目にあわなきゃならねえんだよ!?」
「街中での無許可での専用機展開及び一般人に危害を加えようとしたという証言が入っています。容疑者である須藤君の身柄を拘束し、一年一組副担任の権限を以て専用機は一時的に没収させてもらいます」
少し時間を置いて二台の大型車が到着。一年一組副担任である山田真耶と数人の教師が二台の大型車から降りてくると、さらにISを展開したという通報だからか教員IS部隊も同時に到着して成志の身柄を確保。
強制的にISを解除させるとその待機形態である腕輪は真耶に預けられ、そして成志はまるでこれから護送される犯人のように手錠をかけられて吼えていた。それに対して真耶は普段のぽややんとした雰囲気が嘘のようにキリッとしながら毅然と成志に言い返し、一緒に来た教師に「周りの方々から証言の聞き取りと事実確認をお願いします」と指示を飛ばした後、ミシェルの方を向いた。
「えっと、ミシェルさん、でしたでしょうか?……申し訳ありません。今回の事件の被害者ということで事情をお聞きしたいので、一度IS学園の方までご足労願えませんか?」
「分かりました」
「では、織斑さん達も一緒に。そちらの車に乗ってください」
事件関係者から事情聴取があるのだろう。被害者であるミシェルだけでなく巻き込まれたというか自分から巻き込まれに行った壱花達も車に乗せて一同はIS学園へと向かう。
もちろん成志だけは別の車であり、なおかつ万一にも専用機を奪い返されないように、現在それを所有している真耶もミシェル達と同じ車に乗り込んでいた。
それから一同はIS学園に到着し、ミシェル達は事情聴取を受ける。それが全て終わってから全員職員室へと集合となった。もちろん成志も一緒だが手錠をかけられたまま&武闘派の教師が見張りについている。
「事情聴取と、聞き込みに回った職員からの情報を総合して判断した。今から沙汰を下す。覚悟はいいな?」
彼女らの前に立ち、腕組みをするのは
「須藤。最初にお前の処分について伝えておく」
千冬はそう言って一つ呆れたようにため息を漏らした。
「と言っても。人命に関わる緊急事態であるだとかやむを得ない事情があったわけでもないのに無許可でISを展開し、挙句に一般人に攻撃を仕掛けようとしていたということだ。今ここで私の裁量で下せる程度の軽い処罰で終わるとは思えん。この件についてはこの後緊急会議を開く事になった」
とは言ってもここで放免というわけにはいかん。と千冬は一つタイミングを置いて鋭い視線で成志を射抜く。
「須藤、お前には学生寮での自室謹慎を命じる。後は追って沙汰を下す」
「ふざけんな!! そんな原作になかった横暴許されッ!?」
千冬の命令に反抗しようとする成志だが、頭に一撃何故か持っていた出席簿を叩き込まれると沈黙。
「以後、許可なく室外に出た場合は我々で身柄を拘束。懲罰房に入れるものとする。心しておけ」
言い捨て、千冬は次にシャルロット達を見る。
「次に織斑、オルコット、鳳、デュノア、ボーデヴィッヒの、街中での無許可IS展開についての沙汰を下す……とはいえ、お前達の場合証言によればデュノアはデュノア兄を須藤から守るためにISを展開、ボーデヴィッヒも須藤を止めるため、織斑、オルコット、鳳はISを展開した須藤が周りに被害を及ぼさないよう拘束しようとしていたと見る事が出来る。よってお前達は無罪放免とする」
ISを倒せるのはISのみ。現在この世界において常識とも言える事であり、そんな兵器であるISが街中で暴れ始めれば周囲にどれほどの被害が及ぶか分からない。壱花達はそれを未然に防ぐためにISを展開したと認められ、お咎めなしを言い渡された。
「何言ってんだ!? この俺の邪魔をしやがって、この学園から追い出すくらい――」
「元はといえばお前がISを無許可で展開したのが原因だ!! 少しは反省しろ!!……彼を部屋に連行してくれ」
「はい!」
「ふざけんな! 離せ、離しやがれ!! この俺にこんなことしてどうなるか――」
壱花達への沙汰が気に入らないのか喚く成志だが、武闘派教師が職員室から引きずり出し、そのまま学生寮に引きずっていく。
「……この後、どうなるんだろ?」
「そもそも差し迫った緊急事態でもないのに、無許可で街中のような一般の人が多い場所で専用機を展開するなど、それだけでも良くて専用機の没収ですわね」
「代表候補生ならさらに代表候補生からの除名処分も考えられるわね」
「どこかの会社に雇われてたら間違いなくクビだよね」
「軍属ならば軍籍剥奪、もし一般人に被害でも出していれば下手をすれば処刑もあり得るな」
なんやかんや成志の今後が心配になったのか呟く壱花に、セシリアが呆れたように答え、鈴、シャルロット、ラウラが続く。
世界最強の兵器IS。現在世界中に467個しかないISコアの内一つを自分用にあてがわれているといえる専用機を使う者にはそれ相応の責任がかかるのは当然。それだけの重い処罰を考える彼女らに千冬がため息を漏らした。
「とはいえ、須藤は立場が特殊過ぎるからな……」
須藤成志は世界で唯一の男性IS操縦者。彼をIS学園に半ば強制的に入学させたのも人体実験の材料にさせないための保護という面ももちろんあるが、女性しか使えないはずのISを何故彼だけは使えるのかを調べるためでもあり、彼の専用機としてあてがっている打鉄もそのデータ収集のため。
彼自身は代表候補生でもどこかの会社の雇われでも軍属でもない、ただの一般人だ。
「専用機の没収というのもデータ収集を鑑みれば行う訳にもいかないからな……お前達の予想している処罰は与えられないだろうが……まあそれでも、ただでは終わらんさ」
ISを街中で展開して一般人に襲い掛かった。それだけでも大事件なのにその被害に会いそうになっていたのはただの一般人どころではなく、大手ISメーカーの一つであるデュノア社の社長子息である。
「マダム織斑。申し訳ありませんが、自分としても今回の件は会社に報告せざるを……」
「分かっているさ。こっちの事は気にしなくていい」
ミシェルも申し訳なさそうながら一応建前上は仕事で日本にやってきた事になっているため、危険に巻き込まれたことを会社、さらに細かく言えば
そしてそうなれば事はミシェルと成志という個人だけではない。デュノア社とIS学園、下手をすればフランスと日本の国家間の問題にまで広がりかねない。
だが千冬は気にするなと答えた後、これから成志の処罰について緊急会議があるからと解散を宣言。壱花達は学食へと移動する事にした。
「ふぅ。結局昼食も食べていないからお腹が空いたね」
「せっかくなのでミシェルさんも学食で食べて行かれてはどうでしょう? せっかく入校許可証を貰ったのですから、利用しなければ損ですわよ?」
「いいね。改めて壱花達を紹介したいし、そうしましょうよお義兄様」
「じゃあせっかくだし、簪や本音達も呼ぼっか」
くぅと控えめにお腹を鳴らすミシェルをセシリアが学食での昼食に誘い、それを聞いたシャルロットもミシェルからすれば初対面であり、このどたばたできちんと紹介出来てなかった壱花達を紹介したいとセシリアを援護。壱花もせっかくだからと自分の友達であり日本代表候補生友達の簪やその親友である本音も呼ぼうと提案。返答も聞かずに携帯を取り出すと簪と本音に食堂への招集をかけ始める。
わいわいと騒がしくなり始め、ミシェルは自分の妹であり婚約者であるシャルロットが賑やかな生活を営んでいる事を改めて目にし、嬉しそうに微笑みを浮かべた。
なんか最近インフィニット・ストラトスものばっかり書いててちょっと頭抱え始めてきた……ToLOVEるとかマイソロ3とか最近連載滞ってんのに……。
まあそれはネタの巡り合わせってことで。今回は「拝啓、お母さん。私、とても愉快な家族に引き取られたみたいです」、通称「ゆかひき」(今考えた)や本作の特別編でもあったミシェル×シャルロットのデート回。オリムライチカが女性になってしまっている今、実質唯一の恋人持ち学生としてこのデュノア義兄妹には頑張ってもらいたいと思っています。
あとR18の方で特に壱花がオルタ化して絶賛キャラ崩壊中だから、ちょっと清純派な姫騎士リリィモードも書けるようになっておかないとという危惧もあったりします。(汗)
んでふとこの作品群、R18世界観も書いてるけど年頃の男キャラは成志とミシェルしかいない上に成志は
・平常世界線:クッソ嫌われ済み
・R18世界線:ワーストルートでは人体実験の材料
・亡国機業世界線:亡国機業に捕まって人体実験の材料(クローンは性奴隷)
という詰み具合だから、まともなハーレムルートにミシェルを放り込もうかなとか画策してみたんですが……それやったらシャルロットがヤンデレ堕ちしかねないからやめる事にしました。
というかそもそも、自分の都合のみで一夏のヒロインをオリ主のハーレムにさせるなんて、本作でアンチ対象になっている転生オリ主と一体何が違わないだろうかと思いましてね……うん、弁えるの大事。
さて今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。