インフィニット・ストラトス~彼から主人公補正が消えた話~ 作:カイナ
「な、なんだこれ……どうなってんだ……」
なんやかんやと神様転生によってインフィニット・ストラトスの世界に転生した青年──須藤成志。
クラス分けの通りに一年一組に行った彼はそんな言葉を呟いていた。
一番前の列のど真ん中、一番目立つと言ってもいい席で居心地悪そうに頭を抱えている黒髪の青年――インフィニット・ストラトスの主人公である織斑一夏。それはいい、こいつを叩きのめしてIS学園を自らのハーレムにするというのが須藤成志の最大の目的だからだ。
だがもう一人
(あのモブ、俺のシャルロットに話しかけやがって……)
この学園の女は全部俺のもの。特に全員美少女の原作ヒロインは俺の愛人にすると勝手に決めている成志は、その一人であるシャルロットが笑顔を向けている青年に対する怒りを覚えて、席を立とうとする。
「全員揃ってますねー。それじゃあ
だがそこにそんな声が聞こえ、ホームルームの開始が宣言される。
いきなり変な悪目立ちをするのは問題だ、と流石に分かるため成志は心の中で「運がよかったな覚えとけよ間男」とぼやきながら席を立つのを諦める。
それから入学最初のお約束とばかりにこのクラスの副担任――山田真耶の自己紹介から生徒達の自己紹介が開始され、出席番号一番の相川清香からスタート。やがて織斑一夏の順番になり、彼はのろのろと立ち上がって振り向くと女子の視線に圧されたのかぎょっとのけ反った後、口を開いた。
「お、織斑一夏です……」
ひとまず名前を名乗るがそこで沈黙。しかし「そこで終わるはずがないよね?」といわんばかりのクラス中の期待の視線が彼に突き刺さっていく。
「…………い、以上ですっ!」
その視線から逃げるように一夏が声を張り上げた。クラスの女子が数名がたたっと机の上からずっこけるがその反応を取ったのは主に日本人。外人女子はその日本人女子の反応を不思議そうに見ていたり、日本の芸人文化を知っているらしい子は「ノリがいいなぁ」とか「なるほど、こういうとこで臆せずリアクションを取る……」とか「これがジャパニーズコメディアンソウル……」とか呟いていた。
それから用事があって遅れたというこのクラスの担任――織斑千冬が到着してまともな自己紹介が出来なかった一夏を叱責したり自分も自己紹介をしたら女子がミーハーに盛り上がり始めて呆れたりしつつ、「静まれ」とクラス内に呼び掛ける。
その呼びかけでぴたりと教室内が静まったのを見計らって、千冬は改めて口を開いた。
「知っての通りだが、このクラスには
千冬からの呼びかけを受け、成志はけだるそうに席を立ち、クラス中をじろりとした目で見まわす。
「須藤成志だ」
まずは名前を名乗り、沈黙。そこまででは一夏と同じ、だが俺はあいつとは違うというように言葉を続けた。
「趣味は格闘技と銃火器(エアガン)や刃物のコレクション。言っておくが、俺は雑魚と馴れ合う気はない、俺に話しかけるならそれなりの覚悟を持つんだな。女尊男卑なんてくだらないものに従う気もねえし、あまり調子に乗るようなら容赦はしねえ。覚えておけ」
自己紹介を終えて再びけだるそうに席につく。しかし内心では、素手だけではなく銃や刃物にも精通しているという強い男の印象を与える。まさしく孤高、敵には容赦なく牙剥くロンリーウルフ。そんなかっこいい自己紹介を終え、きっと黄色い声が上がるだろうと己の自己紹介を自画自賛。成志はそんな確信の元でニヤニヤとほくそ笑んでいる。
しかしそれに対する返答は完全な無言、むしろ引いているような様子すらうかがった成志が「え?」と呆けた声を小さく漏らす。
「あ、え、えーっと……で、では男子は最後に、デュノア君、お願いしてもいいですか?」
「はい」
あまりの静けさに真耶があわあわと大慌てで最後の男性IS操縦者に振った。
振られた銀髪の青年が立ちあがり、涼やかな流し目をしながら教室内を一瞥。にこりと微笑んだ。
「ミシェル・デュノアです。IS学園に入学した方なら弊社の名はご存知だと思いますが、フランスのデュノア社の社長子息なんてものをやってます。ISを動かしたのはムッシュ織斑の後でまだ数ヶ月程度ですが、知識に関してなら自信はありますので。もし勉強で分からない事があれば、相談していただければ出来る限り力になります。よろしくお願いします」
青年――ミシェル・デュノアは柔らかな声で挨拶し、最後にぺこりと一礼。すると教室内から拍手が響き、少しばかり「きゃー!」という歓声も上がった。
「かっこいい……」
「物腰柔らかで紳士的……」
「しかもデュノア社の御曹司……」
「私、ちょっと本気で狙っちゃおうかな……」
ざわざわと辺りが騒がしくなり、千冬が面倒くさそうにため息を吐く。ちなみに成志は「俺が静かだったくせになんでこいつは……」とか小さな声で呟いていた。
「織斑先生。次、私から自己紹介してもいいでしょうか?」
「ん? ……ああ、好きにしろ」
「好きにします」
千冬から自己紹介の許可を取り、ミシェルの隣の席に座っていた金髪の少女――シャルロットが立ち上がる。
「シャルロット・デュノアです。フランス代表候補生、そしてデュノア社のテストパイロットをしています。趣味は料理かな? あ、それとこれが一番大切なことなんだけど――」
シャルロットはそう言って左手をクラスメイトに見えるように掲げる。その
「ミシェルさんは私の
どこか圧を感じさせる笑顔を浮かべながらの言葉に教室内が沈黙に包まれる。特に成志はまさかの展開に真っ白になっている。
『えええええぇぇぇぇぇぇっ!!??』
そして一年一組内部が、先ほどの千冬登場の時に勝らずとも劣らないような絶叫に包まれるのであった。
一時間目のIS基礎理論授業が終わった休み時間。シャルロットは友人に話しかけられたものの、先ほどの爆弾発言で騒然としている教室内では話も出来ないため人気のない廊下の隅に移動、ちなみに何故か彼女はドヤ顔になっている。
「それにしても、いきなり攻めましたわね。シャルロットさん」
苦笑しながらどこか呆れた様子でシャルロットに話しかける金髪縦ロールのお嬢様――イギリス代表候補生にしてシャルロットの友人、セシリア・オルコット。それにシャルロットはドヤ顔のまま「当然だよ」と返した。
「私はミシェルさんの奥さんとして、ミシェルさんを不埒な手から守らなきゃいけないんだからね」
「とはいえ、フランス政府もとんでもない手を使いましたわよね……
呆れ顔でため息を吐くセシリア。
そう、ミシェルとシャルロットの夫婦関係。これはシャルロットが自称しているわけではなく、フランス政府が認めたガチ。既にフランスの正式な戸籍上でもこの二人は夫婦ということになっている。
だがフランスでは婚姻可能年齢は男女ともに18歳以上であり、二人は高校にあたるIS学園に入学したばかりというところから分かるが未だ15歳、婚姻可能年齢を3歳も下回っている。だがそれを政府が捻じ曲げ、特例という形で認めさせているわけだ。
「
シャルロットが答える。ちなみにこの辺の交渉をしたのはデュノア社社長でミシェルの父――アルバート・デュノアだ。
「まあ既成事実さえ作っちゃえばこっちのもんだし……」
なおシャルロットが黒い笑顔でそんな事を呟いていたが、幸か不幸かセシリアには聞こえていない様子だった。
というか彼女はさらに呆れ顔になっている。
「かと言って……これはどうかと思うのですが?」
「……そこは私もそう思うよ」
そう言って左手の薬指を見せるセシリア。そこには指輪が嵌められており、シャルロットも呆れ顔になって同意する。
見れば分かる通り婚約指輪、そしてその婚約指輪の対象となっているのはミシェル。つまりミシェル・デュノアとセシリア・オルコットは婚約している。ということだ。
「お義父様が交渉押し切れなかったらしくて……フランス政府はミシェルさんと私の婚姻を特例で認める代わりに
「欧州連合内部だけというのが不幸中の幸いですわよね……」
シャルロットが頭を抱え、セシリアが嘆息。フランス政府からすればミシェルをフランスに縛り付けるための足枷とするためのシャルロットとの婚姻(本人達はミシェルの不利益にならない限りはフランスを出ていく気ないし婚姻相手をシャルロットに指定して強引に押し通したように婚姻自体は望むところなのだが)。
だがフランス政府はさらに「
なおアルベールが頑張って交渉した結果、「シャルロット以外との正式な婚姻はフランスの法律に則り、ミシェルが18歳になってからとする」「ミシェルの婚約相手は欧州連合加盟国の国民に限る」「婚約者は一国家につき一人まで」「一度婚約した場合は婚約破棄に値する事が起きるか双方の了承を得ない限り婚約破棄は不可能なものとする」という条件を辛うじて付け加えることに成功している。
とはいえこれを聞いた時のデュノア家は修羅場と化し、アルベールはジャポネーゼ土下座をして必死に
するとシャルロットが心配そうな顔でセシリアを見た。
「でもセシリア、ホントによかったの? 自分からミシェルさんの婚約者に立候補したそうだけど……」
「この時代碌な男はおりませんもの。それならミシェルさんと婚約するのが一番マシですわ」
言い方は悪いがこれはフランスからすれば
セシリアにとって男とは「女に媚びる情けない存在」。今は亡き父親の記憶が今もなお焼き付いているイメージだがミシェルはそれとは違う、女に媚びる事はない、かと言って横暴というわけでもなく女性に対して礼儀正しく、かつ卑屈というわけではない男性。セシリアの中の男性に対するイメージを破壊した紳士、それがミシェル・デュノアという男だ。
「それに、これならデュノア社とのパイプも出来ますからね。将来的には上手く経営陣に潜り込んでデュノア社の経営を裏からコントロールしてみせますわ」
「あはは、頼もしいね」
冗談めかしてデュノア社を乗っ取ると言い出して笑うセシリアにシャルロットも苦笑。
「あとはまあ、私も代表候補生ですからね……シャルロットさんも、そして残る婚約者さんもですし。これなら明文化されていなくとも“ミシェルさんの婚約者は代表候補生レベルでなければならない”というハードルが作られるはず。それなら少しは選定もマシになるでしょう?」
「……うん。そこのところは本当にありがとう」
ミシェルの一夫多妻制が特例で決められてから、デュノア家には欧州連合加盟国からひっきりなしに所謂お見合い写真が届きまくっていた。
フランス政府に一次選定を
が、それを友人として見かねたセシリアが直接婚約者候補に立候補、さらに別国のある代表候補生の友人も彼女の口車に乗せられて婚約者候補に立候補し、受諾。結果としてシャルロットと合わせて三名の代表候補生が嫁及び婚約者となってからは「ミシェル・デュノアの婚約者は代表候補生レベル、もしくはそれと同等以上の実績を持つ者でなければならない」という暗黙の了解が出来たのかお見合い写真の量は激減したのだ。もっともそのレベルの相手を出してくる国もおり、さらに何名か婚約者は増えたわけなのだが。
「まあ、私のことはこの騒ぎが落ちつくまでの盾としてでもご使用くださいな。嫌になれば婚約破棄すればよろしいですし。その程度はミシェルさんにも協力していただきますわよ?」
「うん、言っておくし、もちろん私も協力するけど……本当にさらりと言っちゃうよね……?」
「双方の了承がなければ婚約破棄は不可能」。本来は政府が己の利益を優先して勝手に婚約者候補を婚約破棄させて新しい婚約者をあてがうとかでミシェルと婚約者候補が振り回されるのを防ぐためのルールだが、逆に言えばミシェルと婚約者候補の間で了解が取れれば婚約破棄は容易。
あくまでミシェルとシャルロットの新婚生活を守るための盾と開き直っている様子のセシリアにミシェルがツッコミを入れると彼女はぺろりと舌を出した。
「しかしまあ、可能ならミシェルさんとそのまま結婚といきたいですわね。男性として彼は魅力的な方ですし」
「それはどうも。妻として夫が褒められるのは嬉しいよ」
続いてセシリアがそう漏らすとシャルロットは妙に牽制するような事を言い出し、セシリアはくすくすと笑っていた。
「あの間男……シャルロットだけじゃなくてセシリアまで毒牙に……」
そんな二人の会話を、
「ところでミシェルさんは……」
「他の男の子と話すってさ。三人しかいないんだし、コミュニケーションしくじったらまずいからね。手は早いうちに打っとかないと」
そんな成志の姿に気づかずセシリアとシャルロットは会話を続けている。
そして場面は教室へと移る。たった三人の男性IS操縦者。対立するよりは仲良くしておく方が色々な意味で得なのは間違いなく、ミシェルは休み時間早々その男子の一人に接触していた。
「ムッシュ織斑」
「む……あ、俺か?」
ミシェルの言葉に一夏は日本人として呼ばれ慣れない呼ばれ方に一瞬困惑しつつも答えてミシェルの方を向き、首を傾げた。
「えーと、デュノアだっけ?」
「ミシェルで構わない」
「んじゃ俺の事も一夏でいいぜ、ミシェル」
「ああ、一夏」
お互いにファーストコミュニケーションとしては上場。なお二人ともかっこいい顔の男子であり、その二人が微笑み合う姿に教室内や廊下の女子がきゃあきゃあと色めき立っていた。ちなみにごく一部が「一夏×ミシェル……」「いえ、ミシェル×一夏……」とか言っていたが気にしない事にしよう。
「ところで何か用か?」
「いや、ちょっと挨拶にと思っただけだ。同じクラスだし、なにせ俺達、同じ立場は三人しかいないからな」
「そりゃそうだ」
ミシェルの言葉に一夏は苦笑し、このクラスにいる最後の男性IS操縦者を思い出す。
「んじゃこの後はあいつ、須藤だっけ? あいつとも話すのか?」
「正直迷っているところだ……ああいうタイプは下手に話しかけるとややこしくなる」
一夏の問いかけに肩をすくめるミシェル。なにせクラス内の自己紹介からいきなり「雑魚と馴れ合う気はない」だの「俺に話しかけるなら覚悟しろ」だの言ってきた相手だ。コミュニケーションをきちんと取れるかどうかという点に問題を感じる。
「ん~まあ、孤立とかしたら放っとけないかもだけどさ……今のところは放っとけっていうんなら放っといた方がいいんじゃないか?」
一夏は頭をかきながら、本人が放っとけと言ってるんだから放っといた方がいいんじゃないかと助言。
この後鈴と喧嘩した時も同じ考えで放っといたせいで余計に溝が深まる事になるのだが、それはここで語る事ではない。
「……は、話しているところに悪いが……ちょっといいか?」
そこに何者かが話に割り込むように声をかける。辺りの女子がざわめき、ミシェルがその相手を見る。
それは黒い髪をポニーテールに結った吊り目の美少女。髪や肌の色、そして顔立ちからして恐らく一夏と同じ
「……箒?」
一夏が呆けた声を出す。それだけでミシェルはどうやら一夏の知り合いのようだと推測、彼女がチラチラとミシェルの方を見て妙に居心地悪そうにしているのを見て、ミシェルも一夏を見る。
「一夏、こちらの
「お、おう。そうだな。こっちは篠ノ之箒、俺の幼馴染だ」
と言っても会うのは六年ぶりくらいだけどな。と頬をかいて苦笑しながら一夏は少女――篠ノ之箒のことをミシェルに紹介、続いて箒の方を向いた。
「で、箒。こっちはミシェル・デュノア……えーと……」
だがミシェルの名を教えた辺りで言葉が止まる。というのも当然だ、二人とも互いに自己紹介したことといえば名前を名乗った程度である。
つまり一夏が箒にミシェルについて教えられることはこれで全部であり、一夏が困っているのを察したミシェルが箒に微笑みかけた。
「初めまして、マドモアゼル篠ノ之。入学初日から貴女のように美しい方とお近づきになれて光栄です」
「な、なななっ!?」
「ミシェル、お前、結婚してるのに……」
微笑みかけてさらりとたらし始めるミシェルに箒が顔を真っ赤にして怯み、一夏もシャルロットが言っていた事を思い出して呆然とする。しかし一夏の言葉を聞いたミシェルはきょとんとした顔を見せていた。
「?
「「えー……」」
フランス人ってすげー。一夏と箒は唖然としながら心の中で異口同音にそう思うのだった。
そんな辺りで最初の休み時間が終わり、続けて二時間目を終えてその休み時間に時間が過ぎる。
「ミシェルさん」
「ああ、セシリア。どうしたんだ?」
「いえ。シャルロットさんから先程の休み時間にミシェルさんが男子の一人とお話すると伺っていたので、その方に私をご紹介願おうかと」
「成程」
世界に三人しかいない男性IS操縦者との繋がりを得るのは、その国の将来を背負って立つ国家代表の候補生たる彼女達にとっては一つの武器となる。そして何も知らない相手と友好的な関係を作るなら、その相手を知っている自分の知り合いに仲介に立ってもらうのは基本中の基本である。いうなればミシェルが他の男子に挨拶に行ったのを利用して自分もその相手と友好的な関係を作ろうという作戦だ。
ミシェルのコミュ力ならまさかいきなり険悪な関係からスタートするはずもないだろう、なるなら相手の人格の方に問題があるに違いないと信用している様子のセシリアにミシェルも苦笑。「いきなり何人も挨拶に行ったら相手も緊張しちゃうかもだし、私は後でいいよ」と断ったシャルロットを置いてセシリアを伴い一夏の方に歩いて行った。
「一夏」
「おう、ミシェル。どうした?」
「友人を紹介しようと思って」
ミシェルに声をかけられた一夏はニッと笑って答え、ミシェルはそう促してセシリアを示すようにジェスチャー。それに合わせてセシリアもぺこりとお辞儀を行った。
「初めまして、ミスター織斑。母国イギリスでは代表候補生をしています、セシリア・オルコットと申します。ミシェルさんとは友人の
「ご丁寧にどうも。織斑一夏だ、よろしくな……ところで悪い。俺ISに関して疎くてさ、代表候補生ってなんなんだ?」
「あら? そのくらいは知っておりませんと。では僭越ながらお教えいたしますわね?」
友人というのは言うまでもなくシャルロットの事だ。そして本来ミシェルとの関係は国が決めた婚約者なのだが、そこを説明していたらまた話がややこしくなりそうだからと省略して丁寧に挨拶するセシリアに対して一夏もぺこりと会釈で返す。さらに一夏がセシリアが説明した己の身分の意味をよく分かっていないのか申し訳なさそうに苦笑しながら尋ねると、セシリアもうふふと笑って説明を開始する。
上手い具合に話題が出来たようで二人の顔合わせは問題なく完了、後は次の休み時間か、あるいは放課後辺りにでもシャルロットの顔合わせもさせておこうかなとミシェルは段取りを考えていた時だった
「ちょっと何するの!? やめてよ!!」
突然響くシャルロットの悲鳴。思わずミシェル、セシリア、一夏がそっちを向くと、シャルロットが成志に絡まれている光景が映っていた。いや、成志はやけにシャルロットの左手、それも薬指に注意を向けている。
「俺は全て分かってるんだぞシャルロット! お前はデュノア社の人形になって辛い日々を送ってるんだろ? あんなモブと無理矢理結婚までさせられてなぁ、俺がお前を解放してやる!」
「何訳分かんないこと言ってんのさ!? ミシェルさんとお義母様、あとお義父様を侮辱するなら許さないよ!」
シャルロットから結婚指輪を奪おうとしているようにしか見えない成志と、彼の言葉に憤るシャルロット。そのあまりの状況に誰もが固まっていたが、ミシェルは大股に二人に近づくと成志の手を押さえてシャルロットを庇うように彼の前に立ちはだかった。
「そこまでだ」
「ミシェルさん!」
「テメエ、何しやがんだモブの間男が! シャルロットから離れやがれ!」
「……それはこっちのセリフだ。シャルに近寄るな、無礼者」
いきなり現れたミシェルにシャルロットが頭からハートマークを出して喜び、対照的に成志が怒りに満ちた顔でミシェルを睨みつけるとミシェルも睨み返す。だがその時、次の授業が始まる合図のチャイムが鳴り始めた。
「チッ、ここは見逃してやるよモブ野郎。だが覚えとけ、俺はお前の秘密を握ってんだからな!」
そう言い捨てて自分の席に戻る成志。ミシェルも彼の言葉の一部が気になりつつも席に戻っていった。
「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
授業開始のチャイムが鳴ると同時に教壇に千冬が立つ。余程重要な事なのだろう。真耶もノート片手に真剣な様子を見せていた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないな」
だがふと思い出したようにそう続けた。クラス代表者、一言で言えばクラスの学級委員長のようなもの。先ほど言ったクラス対抗戦への出場の他、会議や委員会への出席などの雑務を行うと千冬は説明した。
「自薦他薦は問わん。立候補、推薦はないか?」
「はいっ! 織斑くんを推薦します!」
「えっ!?」
千冬がそう促すと同時にクラスの女子の一人が一夏を推薦する。
「じゃあ私はデュノア君を推薦します!」
さらに別の女子はミシェルを推薦してくる。
「やっぱうちのクラスには男子がいるもんね!」
「それも千冬様の弟とあのデュノア社の御曹司!」
「これは持ち上げない手はない!」
そしてその他の女子達も一斉に大盛り上がりし始めた。
「ふむ……ならば候補は織斑とデュノアの両名という事でいいな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ千冬姉ぇ! 俺達の意見は!?」
「俺は別に構いませんが……ああ、補佐にシャルをつけてくれれば」
「ミシェルさんの補佐なら喜んで!」
あっさりと一夏とミシェルを候補として決定する千冬に一夏が悲鳴交じりに抗議を入れるがミシェルは別に構わないと乗り気、だが条件としてクラス代表補佐という役職でも作ってシャルロットをつけるよう要求、それを聞いたシャルロットが嬉しそうにミシェルの意見に同意した。
「ふむ、まあいいだろう。では他にいないか? いないようなら――」
「ちょっと待ったぁっ!!!」
千冬が最終採決に向かおうとしたその瞬間、教室内に声が響く。その声の主、それはこのクラスにいる最後の男子――須藤成志。
「皆考え直せ! こいつは、ミシェル・デュノアはとんでもない悪党なんだ!」
「はぁ?」
成志はミシェルをビシッと指さしながらそんな事を主張。もちろん悪党など呼ばれる筋合いのないミシェルは濡れ衣を着せられたとでもいうような鋭い目で成志を睨んでいる。それに対し成志はあくどい嘲るような笑みを見せた。
「はっ。俺は知ってるんだぜ、ミシェル・デュノア! お前は自分が男性IS操縦者だっていうのを良いことにシャルロット・デュノアやセシリア・オルコットを婚約者として侍らせてるんだってな!!」
その言葉に教室内が鎮まり、僅かにざわつきだす。成志が「ざまあみろ、お前の本性暴いてやったぞ」とでも言いたげな自慢気な顔をミシェルに向け、教室内が困惑に包まれる中で欧州出身なのだろうヨーロッパ系の顔立ちの女子達が「あー聞いたことあるわ」的な表情で頷く。そしてミシェルは呆れ顔を浮かべていた。
「……」
「ほれ見ろ、何も言えねえじゃねぇか!」
呆れ顔をなんと受け取ったのか成志が勝ち誇る。だがミシェルは馬鹿らしくて何も言えないという表情を見せており、セシリアが耐えきれないという様子で手を上げた。
「あー。それに関して説明、よろしいでしょうか?」
「オルコット、発言を許可する」
千冬から発言の許可を得てセシリアが立ち上がり、左手薬指に着けている婚約指輪を見せながら口を開いた。
「先ほど須藤さんが言った通り。ミシェルさんとシャルロットさんは既に婚姻しておりますが、私も彼の婚約者となっております。欧州連合加盟国出身の方ならば多少なり話には聞いていると思いますが。ミシェルさんは欧州連合から正式に、欧州連合加盟国の国民限定での一夫多妻制を特例として認められております。IS学園に在籍していない、もしくはこのクラス以外の生徒にもミシェルさんの婚約者がいらっしゃる可能性もございますわ」
セシリアの説明を受け、女子達がふんふんと納得したように頷く。つまりミシェルが自分の立場を利用してハーレムを強要しているというわけではなさそうだと判断しているようだった。そしてセシリアは腕組みをしながら成志を睨みつける。
「それで、貴方の言う『とんでもない悪党』というのはどういう意味ですか?」
「そ、それは……!」
「どうせこれを勘違いしたような下らない事なのでしょう。言ってごらんなさい」
「う、うるさい! とにかく俺はこいつが信用ならないって言ってるんだ! 女を侍らせるなんて碌な奴じゃないに決まってんだからな!」
セシリアの問いに答えられず、成志は逆ギレ気味に怒鳴り返した後にセシリアを指さした。
「だ、大体お前だって男の事は情けないだのなんだの思ってただろうが! それがこんなの納得できてるわけがねえ!」
「どこで知ったのか知りませんが……たしかに大多数の男の事は女に媚びる情けない存在だと思っています……ですが、ミシェルさんは例外です。彼のような紳士の婚約者となれたことを光栄に思っておりますわ」
「うぐ……」
成志の言いがかりにも近い指摘にセシリアは毅然と言い返す。その大胆な告白に女子達が「おぉ~」と声を上げていた。
「それにミシェルさんは確かに多くの女性を婚約者という立場にしておりますが、決して彼女たちを自分の物にしようとはせず、常に一人一人を大切に扱っていると私は思います。もしそのような方が悪党であるはずがありません」
「う、うるせえ! 騙されんなよ皆! きっとシャルロットやセシリアだけじゃ飽き足らず、他の女だってモノにするつもりに決まってるんだ!」
セシリアの言葉に押されつつも反撃する成志。だが周りの女子は冷たい目で成志を見ており、彼の形勢不利は明らかだ。
「大体お前もお前だミシェル・デュノア! 男ならもっとシャキッとしろ! 言い返すのも女任せなんて恥ずかしくねえのか!」
「……」
成志は標的を変えてミシェルを指さしながらそう叫ぶ。すると今まで黙っていたミシェルが成志を睨んで口を開く。
「なら聞くけど、お前は一体なんなんだ? シャルは俺の大事な愛する人だ。それにあんな暴挙を振るった挙句こうまで喚き散らすなんて、失礼だとは思わないのか?」
「何!? それはお前がシャルロットやセシリアを騙して――」
「騙してなんかいない。シャルは俺がISを動かせると分かる前からの恋人だし、セシリアも自分の意志で俺の婚約者に立候補してくれた」
成志の言いがかりにこちらも毅然と言い返すミシェル。シャルロットは「当たり前だよ。ミシェルさんが男性IS操縦者にならなくても将来は結婚してたもん」と断言、セシリアも「私もミシェルさんの婚約者になった事に後悔はありませんわ」と援護した。
「そもそも、俺が誰を恋人にしようがお前には関係ないだろ」
「う、うるせえ! だいたいお前ら全員おかしいんだよ! 普通は男が女を侍らせてるなんて状況が有り得ねえだろ! だから俺はおかしいって言ってんだ!」
「そこら辺の文句は欧州連合に言ってくれ。正直その辺は俺達も被害者サイドだ」
ミシェルとしても一夫多妻制を押し付けられて欧州連合加盟国からひっきりなしに婚約者候補として見合い写真を押し付けられている立場。そういう意味では被害者だと言えるだろう。
「もっとも、一度婚約した以上は可能な限り愛すると決めているがな」
そう言ってぱちりとセシリアにウインクするとセシリアも嬉しそうな微笑で答え、次に隣に立つシャルの肩を抱くとちゅっとチークキス、シャルロットが嬉しそうに頬を綻ばせる。クラス中が「おぉー」と小さな歓声を重ね、成志が顔を真っ赤にしてぐぬぬと唸り声をあげた。ミシェルが再び成志を睨みつける。
「とにかく、これ以上俺の嫁であるシャルロット、そしてセシリアを始めとする俺の愛する婚約者の事を悪く言うようなら俺としても黙っているわけにはいかない」
「……っ! モブの癖に偉そうな事言いやがって!!!」
その言葉に成志の顔が真っ赤に染まりあがり、怒鳴りつけながらミシェルを指さした。
「決闘だ!! 俺が勝ったらおとなしくシャルロットとセシリアを解放しろ!」
「そんなもの受ける理由もないが……いいだろう。乗ってやる」
ミシェルからしたら言いがかり甚だしい決闘。だがここまで自分はともかくシャルロットとセシリアを悪く言われて我慢ならないのか決闘を受諾。二人の間に火花が走った。
「……千冬姉ぇ、これって俺蚊帳の外じゃねえの?」
「まあ、いいだろ」
「あ、織斑先生。クラス代表の件忘れられてそうですし、流石に初心者三人だとぐだぐだになりそうですから私立候補しておきますわ」
「よし。こいつらが不甲斐なかったら頼んだぞオルコット」
そんな二人をよそに、クラス代表の件では関係者のはずの一夏がすっかり蚊帳の外になっているのを千冬に愚痴ったり、セシリアが経験者も一人はいた方がいいでしょうと立候補を行うなどがあってその場は進んでいくのであった。