「「「「レン少尉、IS学園行おめでとー!!」」」」
クラッカーの音とともに、拍手が巻き起こる。
ここは、新国連IS運用宇宙ステーション『鳩ノ巣』
俺たち『ピース・キーパーズ』の帰る家だ。
全長217m、居住空間は702㎥の軌道上に浮かぶ城はもともと、国連が人類の宇宙開発を飛躍させるために建てられた。
しかし、ISの登場により国家間の裂け目は大きくなり多くの国は国連を脱退。同時にこの宇宙ステーションも放棄された。
様々な国が脱退を表明する中で脱退に反対する議員たちもいた。彼らはこの世界に新たな秩序を取り戻すため、非政府組織『新国連』を樹立。
『新国連』という名前なのに非政府組織というのは矛盾している気がするが、新たな秩序ある世界を願っての事だろう。
新国連は現在、放棄された宇宙ステーションを改造し拠点として利用している。それが『鳩ノ巣』というわけだ。
一部のマスコミは新国連はテロリストだと評することもあるが。どうも世論はそうは思っていないらしい。
ISの登場によりピリピリしている世の中はよほど耐えがたいのだろうか。
実際、うちの活動資金のほとんどが個人や企業からの募金だ、新たな秩序を取り戻す日もそう遠くはないだろう。
それにしても・・・
「イェーーイ!!早くシャンパン開けろ!!」
「おいこっち、酒たりねぇぞ!早くもってこい!!」
「うるせぇ!黙ってお前はチキンでも食ってな!」
なんだ、このドンチャン騒ぎは。
これは一応レンのIS学園行おめでとうパーティーのはずだ。
なんだこれ?誰もレンを祝う気などない。水のように酒を飲みまくっている。
「ん~おいし。やっぱりフランさんのアップルパイは最高だな~」
当の本人は隣で皿に山積みされたアップルパイをおいしそうに頬張っている。
・・・まあ、本人が楽しんでいるなら別にいいか。
「あ、隊長さんも食べます?おいしいですよ?」
ズイッと俺の顔の前にアップルパイを差し出してきた。
「あ、ああ、ありがとう。それよりもお前、酒飲んでないよな?四時間後出発だぞ?」
レンは15歳。まだ飲酒禁止な年齢だ。
「大丈夫ですよ。その子、さっきからアップルパイしか食べていませんから」
テーブルを挟んで反対側に座っているフランが突然口を挟んできた。
「フラン・・・お前までか。」
フランの手にはワイングラスがあり、頬はほんのり朱色に染まっていた。
「いいじゃないですか、今日ぐらい。普段は飲酒禁止なんですから」
何が起こるかわからない宇宙では、即座に対応しなくてはならないため飲酒は厳禁だ。
今もじゃんけんで負けた人たちは通常通り仕事をしている。
「はぁ~いいですよね、隊長は地上に降りれて。お酒飲み放題じゃないですか!ほんっとうらやまけしからんですよ!」
「フラン!?酔いすぎじゃないか?」
今日のフランはいつもの冷静でクールなフランではなかった。
「私だって一応ピース・キーパーズの2番機なんですよ!?なんですか?鳩ノ巣待機って!!意味わかりませんよ!!」
「いや、お前と俺の連携はもう強化のしようがないし・・・鳩ノ巣を空にするわけにもいかないし・・・今はレンの強化に全力を注ぐべきだと思うし・・・」
「あ゛ぁン?今なんつった?」
「いえ、何も!」
酒癖が悪すぎるぞフラン。レンがアップルパイを落としそうなぐらいビクビクしてるじゃないか。
「だいたい、あのクソジジイがヘタレなのがいけねぇんだよ。ちょっと文句言ってきます」
フランが勢いよく席を立ったその時。
「何かご不満かね?フラン少尉」
「こ、香月司令!?」
「お父さん?」
新国連の最高司令官兼、レンの父親のコウズキ司令がパーティ会場に現れた。
普段ならここにいる全員が敬礼をするのだが、今はほとんどの人が酔いつぶれており、敬礼しているのは俺一人だ。
「おい、お前らも敬礼しろ!」
「ああ、別にかまわんよ。ご一緒してもいいかね?」
「もちろんです。」
そういうと、コウズキ司令はレンの前に腰かけた。
「すまないね、フランチェスカ君。IS学園側では2人までしか受け入れられないそうなんだよ。こちらも頼んでは見たのだが、取り入ってもらえなかったよ。」
「そうですか。娘を安全なところにやりたかっただけじゃないんですね。」
一瞬背中に悪寒が走った。
「ハハハ 否定しきれんな。」
「数々の部下の無礼、お詫びいたします。」
「なぁに、かまわんよ。酒がはいって普段でない愚痴がこぼれたのだろう。その程度聞いてあげられないのでは、私の司令官としての器が問われてしまうよ。」
この人柄の良さがあったから新国連はここまで成長できたのかもしれない。
「私は自室に戻ります。それでは」
そういうとフランはふらふらと歩きながらパーティー会場を出ていった。
「本ミッションについて一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「君から質問とはめずらしい・・・何かね?」
「私が男性初のIS操縦者であることが世間にバレてもよろしいのですか?」
俺が男性初のIS操縦者であることは、世間には伏せられている。女尊男卑の風潮が見られる今の世の中で、男性のIS操縦者が現れることは新たな波紋を生んでしまう。新国連は公表しない方針を選んだのだ。
「ああ、君達は知らないのか。まあここは宇宙だからな、しらないのも無理はない」
「約一か月前、日本にて男性IS操縦者が見つかった。」
「「!?」」
レンはアップルパイをもごもごさせながら目をぱちくりさせた。おそらく俺もそんな顔をしているのだろう。
「お父さん、それ本当!?」
「ああ、名前は織斑一夏。年齢は15歳、顔写真まで公開されているぞ。」
コウズキ司令は懐から履歴書のようなものを取り出した。
内容は織斑一夏のデータ。
これでもかというほどの詳細なデータが記されており、それは逆に不自然さを覚えた。
「日本政府はこれを公表したのですか!?」
「ああ、それも大々的にだ。IS先進国としての実力を示したかったのだろう。また同時に彼専用機も確認されている。機体名は『白式』。装備はロングブレード一本しか確認されておらず、おそらく近接格闘型と思われるが、詳しい性能値は未知数だ」
テーブルに置かれた紙面ディスプレイには『白式』と思われるISが青いレーザーから逃げ回る映像が映し出されている。
「白式・・・」
「まっしろだね・・・」
「・・・君たちが地球に降下すると同時にバジル・アズナヴェール大尉。君のことをマスコミに公表しようと思う。世界で2番目の男性IS操縦者としてね・・・不服かね?」
「・・・いいえ。」
「日本時間でこんな夜遅くに降下してもらうのにもその事が絡んでいるのだよ。すまないね、無理ばかりかけて。」
「・・・いえ」
「今回のミッションでは白式のデータ収集も頼みたい。情報が圧倒的に少ないからね。」
「了解しました。」
「それでは私は失礼するよ。ミッション開始時刻まであと3時間ほどだ。ゆっくり休みたまえ」
コウズキ司令が椅子から立ち上がろうとした時。
「ああ、あともう一つ質問が・・・」
「何かね?」
「私はIS学園でいったい何をすればいいのですか?生徒という年齢じゃないと思いますが・・・」
「ああ、そういえば伝えてなかったね。君はISの教官として赴いてもらうよ。つまり君は明日からバジル先生だ。ハッハッハッ」
俺が先生か・・・うまく勤まるだろうか。
「バジル先生・・・バジル先生・・・いいかも///」
ああ、俺が先生ということはレンは生徒になるのか。
「・・・花婿候補か・・・・・」
「? 何か言いましたか?司令」
「いいや、私は何もいっとらんよ。」
「エアロック解除。カタパルト展開します。」
グオングオンという大きな音共にハッチが開き、手前から奥の方にカタパルトが伸びていくのがわかる。
普通の人間ならエアロックを開けた時点で吹き飛ばされ死んでいるのだが、ISをつけている場合は例外だ。
「オリーブ1。カタパルトへ」
オペレーターの指示で足を動かすと、ガシャンという音と共に足が固定された。
「あの・・・」
フランが突然プライベートチャンネルを開いてきた。
「なんだ?」
「あの・・・さっきはスミマセンでした。酔いが回っていて・・・」
「ああ、俺は気にしてないから。そのかわり、香月司令には謝っておけよ?」
「・・・了解」
チャンネルが切れた。それなりに反省はしているようなので深く追及することはないだろう。
「第一リニアカタパルト電力チャージ終了。射出タイミングをバジル大尉に譲渡します。」
「了解。バジル・アズナヴェール大尉。ウェスタナー・ピジョン出撃する!」
急に視界が移動し、気が付いたら宙に足が浮いていた。
「続いて第二リニアカタパルト電力チャージ終了。射出タイミングをレン少尉に譲渡します。」
「譲渡確認。レン・コウズキ少尉。ウェスタナー・ピジョン行きます!」
レンが出撃したのが見えた。あんなに高速で射出されても操縦者にGがまったくかからないのもISのすごい所だと常々思う。
「レン、俺の手を握れ。」
「ふぇっ?」
「今から大気圏に突入する。お前はまだ経験したことないだろう。今回は俺が引っ張ってってやる。よく見て学べよ」
「は、はい。」
弱弱しく握ってきたレンの手を強く握り返す。
「オリーブ1より鳩ノ巣。これより大気圏に突入する。30秒間通信がブラックアウトする」
「了解。グッドラック、オリーブ1、2!」
「レン!行くぞ!」
今も昔も、大気圏突入というのは非常に危険な行為だ。
突入角度が深すぎれば機体は燃え尽き、逆に浅すぎれば地球の大気にはじかれて地球から離れて行ってしまう。
ISの場合でも突入角度が深すぎれば絶対防御の展開は免れない。その場合約8km/sで地上に叩きつけられるのだ、操縦者の生死など考える意味もない。
「再突入角度良好。レン、お前はほとんどのエネルギーをシールドエネルギーに回せ。」
「了解!」
機体のシールドの外面が赤く染まってきた。
ゴオォという音が聞こえる。大気圏に入った証拠だ。
シールドはどんどん赤みを増し、今では360度どこを見ても赤色に染まっている。
この状態では自分がどこを向いているのかすらわからない。少しずつ大きくなってくる重力の感覚とバランサーだけが頼りだ。
「レン、怖いか?」
「だ、大丈夫です。」
繋がれた手に力が入る。
「そうか、あと数分の辛抱だ。我慢してくれ。」
「は、はい。」
視界全てが真っ赤なのだ、初めての人が怖くないわけがない。俺も初めは怖かっただけにレンが心配だ。俺もあのときは教官に『ピーッ!ピーッ!ピーッ!』
突然目の前に狙われていることを表す画面が出た。
「ロックオン警報!?砲撃! 避けろレン!!」
「え?」
ガァアアアアアン
鉄を思いっきり叩くような音と共にレンの手が離れた。
「レェエエエエエエン!!!」
「おい、レン!!聞こえるか?レン!!!」
応答がない。耳に響くのはザザザッというノイズだけ。
3番機が絶対防御を展開したことをしめす画面。バイタルデータが危険域にあることを示す画面。見たくもない事ばかりの画面が映し出される。
「こちら鳩ノ巣、通信が回復しました。そちらの状況はどうですか?」
空気を読まない明るい声が頭に来る。
「現在、オリーブ3が攻撃を受け絶対防御を展開中!レンは意識がないようだ!ミッションプラン変更、レンの救出を最優先とする!」
ざわざわという声が聞こえる。あちらもパニックに陥っているのだろう。
「ま、まってくださいオリーブ1。まだ安全圏まで達していません!今無理に救出すれば、貴方も危険です!!」
回線を強制切断する。あれこれ考えている暇はない。
早くしなければレンは重力の井戸の底に叩きつけられてしまう。それだけは避けなければ。
幸い、最大加熱域は過ぎた。ISで飛行する際のイメージをこれまでの角錐から、より先の尖った角錐へと変える。これだけで速度を変えられるのは楽だ。
地上までは約97km レンとの距離は約1.2km
自由落下速度プラスISの最大ブーストでもギリギリ追いつけるかどうかの距離だ。
「間に合えぇえええええええええ!!!!」
頭の中のイメージをより尖らせた。
あと少し
あと少し、あと少し
あと少しで手が届く。
「よし!!」
今度こそ離れぬようにしっかり抱きとめた。
地上まであと24km
地上接触まで約3秒
「リバースブースター点火!!くっそおおおおおおおお!!」
緊急用リバースブースターを点火した。しかしタイミングが遅すぎた。
地面は冷酷無比にグングンと近づいてくる。
「IS学園!こちらは今日着任予定のバジルと生徒1名だ!アリーナらしきところへ墜落する!至急救援を――――」
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン
登場キャラの名前、性別、年齢、コールサイン 搭乗機(主な換装ユニット) 隊での主な役割
・バジル・アズナヴェール
性別 男
年齢 22歳
コールサイン オリーブ1
搭乗機 ウェスタナー・ピジョン(スナイプパッケージ)
隊での主な役割 中、遠距離支援狙撃
・フランチェスカ・ドゥール
性別 女
年齢 21歳
コールサイン オリーブ1
搭乗機 ウェスタナー・ピジョン(ストライカーパッケージ)
隊での主な役割 強襲掃討前衛
・香月 恋
性別 女
年齢 15歳
コールサイン オリーブ3
搭乗機 ウェスタナー・ピジョン(インファイトパッケージ)
隊での主な役割 突撃格闘前衛