Next Road   作:九条ヤヤ

3 / 3
気合入れたら長くなっちゃいました。
時間とお足元にご注意しながら閲覧なさってください。




Wの侵食
Cの元凶/世界の仕組み


…どこだここは?

 

汐留ヒロはとても広い空間に立っていた。

 

彼のはるか足元や頭上の先には巨大な球体がいくつも浮いている。

なんだか不思議な場所だ。

そして、その球体は誰もが知るモノだった。

あれは…

 

「地球…?」

 

 

『その通りだ。』

 

 

ヒロは一瞬ビクッと驚き振り返る。

そこには一人のロングコートを着込んだ人間が立っていた。

日系人と欧米人のハーフみたいな顔立ちをした、少し褐色が入った肌を持つ男性だ。

 

『時間がないので率直に伝えよう。仮面ライダーの力を捨てた方がいい。』

 

「…は?」

 

『君たちの世界には仮面ライダーという架空の存在はあっても“仮面ライダー自体”の存在はなかった。

だから君がその”力“を手に入れた事により他の“仮面ライダー”の世界が侵食を始めている。』

 

「?」

 

『仮面ライダーという物語は”脅威“があってこそ成立する。そして、その脅威はすぐそこまで来ている。』

 

「???」

頭の回転が鈍いのはヒロの悪い所だ。

でもこの男が話している内容にそういうのは関係ない気がする。

 

『その脅威に巻き込まれたくなかったら仮面ライダーの力を放棄するんだ。無理やり奪い取るなどと悪いことはしない。私達はただ君たちに迷惑をかけたくないだけなのだ。』

 

「いや、そもそもアンタ誰だよ」

 

『そうだったな、紹介が遅れた。私はー  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタン!

 

ベッドから転げ落ちたヒロはそこで意識が覚醒した。

それと同時にセットしていた目覚まし時計が大音量で鳴り始める。

 

 

…なんだ、夢か。

 

 

朝の7時ちょうど。

自室の床で掛け布団と一緒に横になっているヒロに窓から朝の眩しい光が差し込む。

 

「変な夢だったな…」

 

目覚ましを止めるために上半身を起こし、地面から立ち上がる。

 

 

その時、世界が一瞬黒に染まった。

 

何て表現すれば良いだろう…立ちくらみで視界が真っ暗になる感覚…だろうか。

 

 

「おいおい、朝から貧血かぁ…?」

 

溜息を吐きながら自分に言い聞かせ、部屋をぐるっと見渡す。

 

そこである事に気付いた。

 

部屋の窓際に本棚を置いているのだが、無いのだ。

 

仮面ライダーカブトのヒーローショーで貰ったサイン色紙が。

 

ヒロの場所は一戸建ての二階の部屋だ。

階段を駆け下りリビングに顔を出す。

 

キッチンでは母親が朝食の準備をしていた。

 

「お母さん!俺の部屋にあったカブトの色紙しらない?!」

 

仮面ライダーカブトが放送されたのは約14年前、当時のグッズは中々手に入らないので結構貴重なのだ。

何より自分がそれを宝物にしているのが大きい。

 

「カブト?」

 

「仮面ライダーだよ!俺が小さい時にサイン色紙貰っただろ」

 

「仮面ライダー?何よそれ。」

 

…は?

 

「いや、昔一緒に観てたじゃん。仮面ライダーだって。」

 

「だから何よそれ。ほらさっさと着替えて、ご飯食べなさい。」

 

どういう事だ…?

疑問に思いながら学校の制服に着替え朝食を掻きこむ。

 

「いってきます」

 

通学鞄を持ち、急いで玄関を出た俺の全身に風が吹き付ける。

 

「なんだか今日は風が強いな…」

 

学校に向けて走る。

そんな彼の傍らで風車はカラカラと回り続ける。

 

 

 

「ねぇねぇ、空を飛べる箱って知ってる?」

 

そんな会話が聞こえたのはお昼休み、ヒロが昼食を食べた後だった。

ヒロの席の横には休み時間ごとに女子が集まり、どこから仕入れてきたか分からない噂をしょっちゅう話す。

 

もともと彼女たちは話し声が大きいので会話は嫌でも耳に入ってくる。

 

「何それ〜?」

 

「なんかね、手に乗るサイズの小さな長方形の箱みたいなんだって。それを手に入れた人は鳥みたいに自由に空を飛べるらしいよ。」

 

「へー!何それ面白そう!」

 

「汐留くんは空飛びたいと思う?」

 

突然話を振ってくるのも日常茶飯事だ。

 

「…そうだね、飛んでみたいな」

 

「飛んでみたいなって、子供かよ(笑)」

 

……理不尽だ。

 

「おーい、汐留くーん」

 

そんな俺に話しかけてくる作業着姿の男子が一名。

彼の名前は倉橋勉(くらはしつとむ)

 

ヒロがクラスで所属する美化委員会の友達だ。

 

「何だい勉。」

 

「明日、委員会の集まりがあるから忘れない様にね。先に伝えとくよ。」

 

「あぁ、分かった。ありがとう。」

 

「どういたしまして。じゃあね〜」

 

勉が作業着を着ている理由は単純、彼が美術部だからだ。

最近美術展に応募するため頑張っているらしい。

彼の作品の完成が楽しみだ。

 

ところで

「(今日みたあの夢…)」

 

ロングコートを着た男が言っていた世界の侵食とやら。

いつもだったら夢はすぐに忘れるのに、今回はやけに鮮明に覚えてる。

 

「(普通は変な夢として処理するだろうけど、昨日あんな事があったし、簡単にバカにできないんだよなぁ…)」

 

もしあの話が本当だとしたら、いつその脅威が訪れるのか、どうやったら侵食を止めれるのか。

そして今、何の仮面ライダーの世界が侵食しているか。

 

ヒロにはまだ分からない。

 

 

そして放課後

 

「ここにも無いなんて…」

 

まず最初に始めたのはDVD書店巡りだ。

その訳は今朝母親が言っていた言葉が引っ掛かったからだ。

 

「仮面ライダー?何よそれ。」

 

自分が幼い頃から一緒に観てた番組だ。そんないきなり忘れるなんておかしい。

 

それでも突然記憶がなくなる、なんて事が起こる確率はゼロじゃない。

 

よってヒロは近所のレンタルDVD書店を何件か巡り、キッズコーナーやタッチパネル検索、店員に聞くなどと色々な事をしたが決まって答えは「そのようなコンテンツはありません」だった。

 

 

そして彼は、最終的に一つの結論を出した。

 

 

世界から“仮面ライダー”という”作品“が存在してない事になっている。

 

 

これも全部、上を旋回しているダークカブトゼクターを手に入れた影響なのか…?

 

………んぁ?!

 

ビックリした。思わず声を出す所だった…

当たり前の様に飛んでいたから今まで気づかなかった…

 

にしても、呼んでもないのに何で出てきているんだ?

 

先ほどからダークカブトゼクターはしばらく進むと止まり、また進んで止まりを繰り返してる。

まるで誘導するかのように。

 

「…行ってみるか」

 

ダークカブトゼクターの後を追う。

やがて近所の商店街に辿り着いた俺はゼクターが裏路地に入っていくのを視認する。

 

「よくアイツ他の人にバレないな…」

 

俺も後に続き裏路地に足を踏み入れた。

その時だ

 

「ぅぁぁぁぁぁぁ…」

 

確かに聞こえた。男の悲鳴が。

 

「っっ!」

 

声が聞こえた方へ一気に駆け出す。

 

やがて六畳ぐらいの小さなスペースにたどり着く。

そこにヤツはいた。

 

白いボディにテカテカと光沢のある羽。

そして頭には二本の触角と数本の足。

 

 

コックローチドーパント。

 

 

それが男に悲鳴を上げさせた元凶の名前である。

 

当の本人はコックローチドーパントの足元で口元を青い粘液らしき物で覆われ倒れている。

 

早く救出しなければ…!

 

俺はここまで誘導してくれたダークカブトゼクターを掴み、ベルトへ嵌める。

 

「変身!」

 

『Henshin』

 

電子音と共に全身をヒヒイロノカネの装甲が覆う。

 

ヒロが逃げる側から戦う側へと変わった瞬間である。

 

俺の声で相手も存在に気づいたようだ。

こちらをゆっくり振り返る。

 

「っ…!」

 

俺は右手に持つカブト専用の武器“カブトクナイガン”をガンモードにして3点式標準機をヤツに向ける。

 

次の瞬間、コックローチドーパントの姿が消え、それと同時にヒロの身体が真後ろへと吹き飛んだ。

 

裏路地に隣接するビルの外壁を破り転がるヒロ。

幸い所有者が居ないビルだったらしく中はもぬけの殻だった。

 

「(速い…!全然動きが見えなかった…!)」

 

転がる勢いで立ち上がり周りを確認する。

ヤツは壁に張り付きカサカサと羽音をたててこちらを観察していた。

 

まるでゴキブリみたいだ。

 

…いや、ゴキブリか。

 

カブトクナイガンの引き金を引く。

しかしその見た目からは想像できない速度で攻撃を避けあっという間に距離を詰められる。

 

「ぐっ…!」

 

変身して立ち向かったはいいが、ヒロはこれが初戦闘である。

当然、戦闘に関しては殆ど素人だ。

 

ただでさえ攻撃が速すぎるコックローチドーパント翻弄され、地面に押さえつけられた後粘液を出す右手で顔面を掴まれる。

 

顔を仮面が包んでるから窒息する心配は無いが…

 

「(うぇ、くっっさ!)」

 

とんでもない臭いだ。

上に乗ってるコイツを引き剥がせれば解放されるのだが、重厚なこの形態では思うように動きが取れない。

 

「このやろっ!」

 

ガッッ!

 

俺はカブトクナイガンをアックスモードに変え、逆手でドーパントの腹を何度も何度も殴打する。

 

『ぎゃっ!』

 

一番パワーがある形態と武器だ。

ヤツは悲鳴と共に俺から離れると左脇腹をさすりながら高速で何処かへと逃げていった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

変身を解除して倒れている男に駆け寄る。

顔面蒼白だが、なんとか意識はあるみたいだ。

 

携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。

 

向こうにはすぐ繋がった。

警察の方にも連絡するという。

有難い。

 

携帯を切り、男の顔に纏っている粘液を剥がしながら、ヒロは考える。

 

 

突然現れたコックローチドーパント。

 

そして

 

今日の昼休みに女子達が話していた噂の箱。

 

…おそらくガイアメモリの事だろう。

 

間違いない。

いま侵食しているのは。

 

 

仮面ライダーWの世界だ。

 

 

 

 

 




物語本編の始まりです。
マイペースで投稿していくのでよろしくお願いいたします。
感想等お待ちしております

ロングコートの人物とは

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。