獣人族の国外交官である 犬獣人のモルト、水路を通り難民キャンプ地へと訪れていた。
「ここが、キャンプ地か」
半島内に造られた難民キャンプ地には仮設住居だが家が建てられ、集落と言う形だら村が出来上がっている。
「私が難民団の長 ルファスだ」
「フルーダン王国 外交官のモルトです。 それで確認となりますが、ニホン国から迫害や強制などされていないでしょうか」
「特に害されてはいない。 衣食住、そして病気の者は治療を受けている」
ルファスは個人的な感情を捨て、事実だけを述べる。
「労働も強制されておらず、我々が自活を求め農業と畜産をしている。 少ないが我々が織った服や工芸品をニホンは買っている。 その金を元に我々も道具を購入している」
まだ少数ではあるが、工芸品は珍しさから自衛隊員が購入し、少なくない金銭が渡されていた。
「そう、ですか。 できれば見て回りたいのですが」
「案内しよう」
ルファスに案内され、外交官モルトは難民キャンプの状況を確認、強制労働されている者はおらず、暗い表情の者を確認する事は出来なかった。
それどころか何人かは失った手足の代わりに義手義足を装着し、簡単な作業をしている。
外交官のモルトは数日間留まり、状況を書き留め国への報告書を纏めていく。
外交官モルトが難民キャンプ地を訪れた頃、獣人の国フルーダンでは、阿部一等陸尉が交易品として持ち込んだものを紹介していた。
「不思議な筒ね。 回すと中の宝石が光って形を変えるわ」
「この包丁、よく切れるな。 これほどならナイフの代わりにもなるのでは」
「美しく良い手触りの生地だ」
特に人気なのは生地と日本刀であった。亜鉛合金製刀の居合刀といっても、その鋭さは十分にある。
「これほど鋭い傾斜曲剣は見たことがない」
「装飾性はないが、拵えはこちらで変えればいい。 一本欲しいものだ」
「剣もこれなのだ。 槍や斧も次の交流時に輸送してもらうのも良いかもしれないな」
そんな中、美術品である玉鋼作りの真刀の美しさには違う反応をしていた。
「これは……刃を見ていると斬りたい衝動が湧いてくる。 妖しく……美しい剣だ」
鞘から抜いていた犬獣人は、光に複雑に反射する波紋に心をかき乱され、息を荒くしながらじっとみていた。
「交易の品は他にも多くありますが、まずは家庭用品などから始めたいと考えております」
声を掛けられた犬獣人ははっとして鞘に刀を収め、物品を並べられているテーブルの上に置く。
「大変すばらしい品物ですね。 我が国ではこのような道具は見たことがありません」
「正式な取り決めは今後となりますが、本日運んできたものは、外交判断を出来る方に届けて判断してもらってくださいますようお願いいたします」