神々の尖兵   作:揚物

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20.歓待の準備 味覚調査2

 

「なんとか間に合いましたね」

 

 目の前には大きなキャンピングバスが置かれていた。

 

「元々あったものを改造してもらいましたが、納期二か月は業者に迷惑を掛けましたね」

 

 観光用バスをキャンプ用に改装されたもので、さらに運転席と客室を完全に分けるように改造してもらった。

 これならば非常時も失礼なく迎える事も出来る。

 

「道路の整備状況は?」

 

「トロン王国まで砂利道で五分の二程度でしょうか。 やはり盗賊や野生生物がやっかいでして、アスファルトはいまだ十分の一も出来ていません」

「環境施設への道路接続と防衛は出来ていますが」

「半島内の線路の敷設は出来ています」

 

 準備は順調、あとは迎えるだけなのだが、何人がどのような状態で訪ねてくるのかが不明であった。

 

「さて、それでは我々は行商に向かいましょうか。 新たな情報を得なければいけませんからね」

 

 阿部一等陸尉と共に、行商人に扮した一団は再びトロン王国へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 露店を開くとともに多くのお客が現れ、忙しく服や包丁やまな板など売っていく。

 そんな中、一人のご婦人が阿部一等陸尉に声をかけた。

 

「ここで買ったものではないのですけれど、料理用ナイフを研いでもらえないかしら?」

 

 差し出されたナイフは刃こぼれが酷く、動物をさばくのにもつかっているようだ。

 

「はい。 銅貨5枚で宜しければお受けいたしますよ」

 

 阿部一等陸尉は笑顔で答え、納得したご婦人からナイフを受け取る。

 

「それでは夕方に取りに来てください。 それまでには出来上がりますので」

「夕方? 数日かかるのでは?」

「いえいえ、私どもならば半日と掛かりませんよ」

 

 手作業でぼろぼろのナイフを治すとなると、当時の技術では日作業で即日終わるものではない。

 阿部一等陸尉は倉庫に入り隊員に渡す。

 

「2000番のグラインダーと6000番のサンダー等を持ってきていますが、それでいいんですか?」

「構いませんよ。 ただし西洋は押切が基本なので研ぎ方向は注意するように」

「わかりました」

 

 これも庶民の心をつかむための大事な作業、たとえそれが本来自衛隊員のすることではなくても。

 受け取ったナイフをグラインダーに掛け研ぎあげていく。

 最初は2000番台でナイフとして切れ味を戻し、ミニサンダーに付けた6000番手で鏡面近くまで研磨すると、最後にピカールで鏡面まで手作業で研ぎ上げる。

 

「そこまでやるのか?」

 

 見ていた他の隊員が鏡面にまで磨き上げている隊員に呆れながら声をかける。

 

「まぁ、ついでにですね」

 

 刃のかけた傷だらけの料理用ナイフは、厚みが少々薄く成った代わりに刃は鋭くなり、顔が写るほど鏡面に美しく磨き上げられた。

 夕方になり、店じまいを始めた頃に受け取りに来たご婦人に、阿部一等陸尉は丁寧にナイフを差し出す。

 

「お待たせしました。 こちらです」

 

 鏡面に輝くナイフに驚きながらご婦人は受け取る。

 

「これがあのナイフ? 別の物じゃないの?」

 

「いえいえ、お客様のナイフを当店が研ぎ上げました。 専門家ではありませんので、お恥ずかしい出来ですが」

 

 当然自衛隊員は刃物研ぎの専門家ではなく、露店で研ぎを行うために最低限の知識を本や動画で得て、それに従って丁寧に研いだに過ぎない。

 それでもご婦人は受け取った何度もナイフを見た後、大事に荷物の籠にしまう。

 

「次の機会には他の料理ナイフを頼んでもいいかしら?」

 

「えぇ、構いませんよ。 明後日は開店していますので、午前中にお渡し頂ければ、閉店して帰路に就く前までにお返しできますよ」

 

 笑顔で答える阿部一等陸尉、偽装商人として店の信頼を得るために色々手を尽くしている。

 

「私の所もお願いできないかしら」

「うちもお願いします」

「うちは剣をお願いできるだろうか」

 

 やりとりを見ていたご家族から次々と研ぎの依頼が入る。

 

「申し訳ありません。 調理用ナイフや鉈はお受けできるのですが、武器に関しては難しいのでお受けできません」

 

 殺人ほう助になりかねない事は出来ない。丁寧に謝りながら阿部一等陸尉は差し出された剣を断った。

 翌日は露店を開店せず、高貴な方に使える従者をお呼びし、食事の好みを把握するために集まってもらったのだが、再びフォリア姫が従者に扮して参加していた。

 さすがの阿部一等陸尉も驚きつつ、倉庫内のテーブルに用意された50品目の食事を薦める。

 

「それではこちらの料理を少しずつご賞味ください」

 

 王族の直接の判断、歓待するときの料理はこれで決まる。

 

「この茶色い食べ物、色は悪いけれど辛さもあって癖になる味です」

「このパン、ふわふわで食べたことがない触感です。 それにほんのり甘くて幸せな味」

「不思議な肉です。 とても柔らかいのに肉汁がたっぷりと出てきて、味わったことがありません」

 

 評価は上々、王族や貴族となると現代の調味料を使った味も理解できるようであり、

 

「小さな丸パンにみえますが、フカフカで柔らかく、薄い何かの内側には甘く黒い物が」

「お酒を使った甘味でしょうか。 凄く美味しいのですけれど、酔いが回ります」

「このケーキ、以前食べた物よりも味わい深い」

 

 どれも好評であり、食後の聞き取りではどの料理も及第点として、歓待の際に出しても問題ないとのこと。

 可能であればさらに多様な料理をとの回答を得られた。

 

 

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